2022年2月20日日曜日

書評『精神世界のゆくえ ー 宗教・近代・霊性(スピリチュアリティ)』(島薗進、秋山書店、2007)ー 1980年代以降の日本で「教養主義」にとって代わった「精神世界」とは

 

昨年のことだが、たまたまブックオフの店頭で見つけて購入した本。これはじつに良い本を発掘したものだと、読んでみてわかった。 

もともとこのテーマには強い関心があるから購入したわけだが、1948年生まれの宗教学者・島薗進氏の著作を読むのはこれが初めてとなる。1996年刊の初版の改訂版とのことだ。 

この本は、研究書でありながら一般書としても読める内容で、幅広い視点による目配りの効いた、よく整理された内容には、読んでいて大いに頷くものを感じる。 


■1980年代以降の日本で「教養主義」にとって代わった「精神世界」 

とくに膝を打ちたくなったのが、「第3部 精神世界と知の構造の変化」である。「第3部」を構成する3章のなかでも「第8章 教養から精神世界へー高学歴層の自己形成の変容」である。 

この流れが顕在化し始めたのが1979年前後であり、1980年代以降は主流になっていたことが跡づけられている。 

なるほど、1981年に大学に入学したわたしの世代の人間は、多かれ少なかれ、ほぼ完全にこの流れにどっぷり浸かってきたのだと、現在から振り返ってみて大いに納得させられたのだ。 

この点は、わたしより1つ年上のエッセイスト・岸本葉子氏も、『生と死をめぐる断想』(中公文庫、2020)で述べており、共感するものがある。  

1973年のオイルショックで高度成長が終焉し、ノストラダムスの大予言やコックリさんなど、小学生時代に体験している世代である。近代合理主義の破綻が顕在化してきた時代を生きてきたわけだ。 

だからこそ、「精神世界」への親和性が高いのは当然であり、「教養主義」など見向きもしなかったのも当然なわけだな、と。わたしの場合は、合気道とヨーロッパ中世史がそれを増幅したような気もする。 

もちろん、1995年の事件を招いたオウムに流れたのは、そのごく一部であるが、既存の宗教からの離脱が進み、スピリチュアルの方向に向っていたのは、時代の流れといっていい。 


■米国発のニューエイジとニューサイエンス、そして日本
 
著者は、米国のカウンターカルチャー(対抗文化)から生まれてきた「ニューエイジ」や「ニューサイエンス」を踏まえたうえで日本への影響を論じて、それぞれグローバルな状況のなかに位置づける。 

著者は、この流れを「新霊性運動」ないし「新霊性文化」と命名し、その内容と意味について幅広く、かつ深く考察している。 「集団レベルの救い」から「個人レベルの癒やし」へのシフトは、先進国では共通に見られる現象なのである。ただし、もともと既存の宗教が弱い日本の特殊事情についての指摘は重要だ。 

現代社会を理解するうえで、「精神世界」の動向に注意を向ける必要があるのは、この流れが経済やビジネスとも密接な関係をもっているからだ。島薗進氏のその他の著作を読んでみたいと思う。 


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目 次
はじめに 
第1部 グローバルな現象としての精神世界
 第1章 精神世界とは何か
 第2章 ニューエイジ運動とその周辺
 第3章 新霊性運動
第2部 新霊性運動の体験と生の形
 第4章 ニューエイジ運動の多中心性ーチャネリング流行の意味
 第5章 ニューエイジャーの癒やしと救いーS・マクレーンの「自己自身への旅」
 第6章 自己変容体験とその参与観察ーセミナーの倫理と愛
 第7章 ニューサイエンス理論のなかの心ー心=意識は何をなしとげうるか
第3部 精神世界と知の構造の変容
 第8章 教養から精神世界へ-高学歴層の自己形成の変容
 第9章 精神世界の主流文化への浸透ー霊性的知識人の台頭
 第10章 新霊性運動と代替知運動ーある農業運動の事例から
第4部 現代世界のなかの新霊性運動
 第11章 セラピー文化のゆくえ
 第12章 宗教を超えて?ー新霊性運動と「宗教」観の変容
 第13章 救済とルサンチマンを超えて?ー現代宗教における「悪」について
 第14章 救済宗教と新霊性運動ー軸の時代からポストモダンへ
あとがき
索引


著者プロフィール
島薗進(しまぞの・すすむ)
1948年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授、上智大学神学部特任教授・同大学院実践宗教学研究科教授、同グリーフケア研究所所長(2021年度まで)、大正大学客員教授。専門は宗教学、近代日本宗教史、死生学。著書多数。


PS 『精神世界のゆくえー宗教・近代・霊性(スピリチュアリティ)』は、宝蔵館から2022年11月に『精神世界のゆくえ: 宗教からスピリチュアリティへ』と改題されて文庫化された。

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