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2016年6月14日火曜日

書評『反知性主義 ー アメリカが生んだ「熱病」の正体』(森本あんり、新潮選書、2015)ー アメリカを健全たらしめている精神の根幹に「反・知性主義」がある


「反知性主義」が流行語となっている。「反知性主義」とは、もちろん「反」が先頭につくから「知性主義」を否定する主義を意味していることは容易に理解できる。だが、どうやらこの日本で使用される意味と、もともと「反知性主義」の本家本元である米国では、意味合いが大きく異なるようだ。

そのことを読みやすいが内容の濃い『反知性主義-アメリカが生んだ「熱病」の正体-』(森本あんり、新潮選書、2015)でおおいに納得することができた。

わたしは本書を読んで、アメリカの反知性主義(anti-intellectualism)は大いに評価すべきものであり、個人的には共感するものが多いと感じた。すくなくとも世間のなかで長いものに巻かれるのをよしとする日本人とは対極の思想であることがわかったからだ。

日本では「反知性主義」というフレーズを語りたがる知識階級の人間が少なくないが、自分は教養人だという「うぬぼれ」(という勘違い)をもっているリベラル派のインテリに多いようだ。上から目線の決めつけであり、ステレオタイプの発想しかできない残念な人たちである。

わたしは本書を一読して、「反知性主義」とはアメリカそのものであり、アメリカに土着したキリスト教が生み出した思想であり、世界に先駆けて実現した「政教分離」の産物であり、プラグマティズムでもある。つまるところ、アメリカを健全たらしめている精神の根幹にある思想だと理解した。

パラフレーズして考えてみよう。

「アメリカそのもの」とは、少数の知的エリートを除いた圧倒的多数のアメリカ国民のよりどころという意味である。プラグマティズムと言い換えてもいいかもしれない。

「アメリカに土着したキリスト教」とは、はじめ英国、その後は欧州を脱出してきた移民たちによる、プロテスタント諸派をベースにしたキリスト教のことだ。アメリカの大地に移植されたキリスト教は、その地でローカライズされたのだが、その根幹に、神と人との「双務契約」がベースにあると著者は指摘している。ある意味で功利的であるとさえ言えようか。かなりドライな印象を受けるのだ。

「天は自ら助くる者を助く」(Heaven Helps Those Who Help Themselves)とは、ベン・フランクリンの引用で有名になった格言だが、「セルフヘルプ」(自助)が根本にある。日本語には「人事を尽くして天命を待つ」という表現があるが、著者の説明を読むとアメリカのキリスト教も似たような印象を受ける。人間側でやることはやったのだから、神はかならずそれに応えるべきだ、と。

世界に先駆けて実現した「政教分離」(Separation of church and state)の産物とは、国家(=ステート)と教会(=チャーチ)を区分するという基本姿勢である。英国国教会(=アングリカン・チャーチ)のような「公定宗教」ではないということを意味している。宗教そのものを国家から遠ざけるというフランス革命的な発想とは違う。

「政教分離」制度のもとにおいては、国民は特定の宗教に縛られることがないかわりに、国家は特定の宗教の財政の面倒も見ない。したがって、さまざまな宗教の存在が認められるが、宗教教団は自力で運営資金を調達しなければならないのである。こういう文脈において、宗教とビジネスが結びつきやすいのである。これもまた「セルフ・ヘルプ」である。

米ドルの紙幣には In God We Trust と印刷されている。基本的にその God とはキリスト教の神を中心とした一神教の神が暗黙裏に想定されている。だが、あくまでも抽象的な God であり、特定の宗派が説く God ではないことに注意しておきたい。

このような背景のこと、アメリカそのものともいってもよい、アメリカを健全たらしめている精神の根幹にある思想として「反知性主義」が存在することが理解されるのだ。


「反知性主義」は誤解を生む表現だ。その心は、「知性」そのものを否定することにはない。「知性主義」を否定するものだ。つまり、「反・知性主義」であって、「反知性・主義」ではない英語では Anti-Intellectualism だ。最初からタイトルをそうしておけば良かったものを。

「知性」が権威や権力と結びつく「知性主義」への異議申し立てなのである。それは反権力という姿勢を取ることもある。その根底には、自分のアタマで考えて自分で行動するというマインドセットがあるのだ。先般亡くなったボクシング・ヘビー級の世界チャンピオンであったモハメド・アリも、きわめてアメリカ的な「反・知性主義」の人だといえるのではないだろうか。

その意味では、出版社がつけたタイトルはミスリーディングではないかと思う。たしかに「熱病」的な要素もあるが、「反インテリ」というマインドセットにはポジティブな響きがあるからだ。しかも帯には「いま世界でもっとも危険なイデオロギーの根源」とあるが、これも誤解を生む煽りである。

著者は、日本で「反知性主義」を体現している人物としては、歴史上の人物としては親鸞や日蓮などの仏教者、政治家としては田中角栄などをあげている。わたしは思うに、日本に限らずビジネス界は、アメリカ的な意味の「反知性主義」はむしろメインストリームというべきだろう。

ビジネス界では、机上の空論を語る学者や研究者に対する反発は依然としてきわめて根強い。「評論家になるな!」というのは、ビジネス界においては最大の否定表現である。実践の場に身を置いている人は、たとえ学があり深い教養の持ち主であろうと、必然的に「反・知性主義」になるのではないか? アタマでっかちを何よりも嫌うのが「実践」の世界だ。

知性そのものを否定するのでなく、知性が権威や権力と結びつくのを極端に嫌うのが「反・知性主義」。そしてそれは、アメリカ社会のメインストリームのマインドセット。ハーバード大学そのものを否定するのではない。ハーバード大学「主義」への反発なのだ。

今後は「アメリカの」という枕詞をつけたうえで「反知性主義」上等じゃないか! と言おうと思う。なんてことを考えてみたりもする。

本書は、アメリカのキリスト教史に精通した研究者による、独自の切り口によるアメリカ論でもある。ぜひ読むべきだと推奨したい。


 

目 次

はじめに
プロローグ
第1章 ハーバード大学 反知性主義の前提
 1. 極端な知性主義
 2. ピューリタンの生活ぶり
第2章 信仰復興運動 反知性主義の原点
 1. 宗教的熱狂の伝統
 2. 「神の行商人」
 3. 反知性主義の原点
第3章 反知性主義を育む平等の理念
 1. アメリカの不平等
 2. 宗教改革左派とセクト主義
 3. 宗教勢力と政治勢力の結合
第4章 アメリカ的な自然と知性の融合
 1. 釣りと宗教
 2. 「理性の詩人」と「森の賢者」
第5章 反知性主義と大衆リバイバリズム
 1. 第二次信仰復興運動
 2. 反知性主義のヒーロー
 3. リバイバルのテクニック 
第6章 反知性主義のもう一つのエンジン
 1. 巨大産業化するリバイバル
 2. 信仰とビジネスの融合
 3. 宗教の娯楽化
第7章 「ハーバード主義」をぶっとばせ
 1. 反知性主義の完成
 2. 知性の平等な国アメリカ
 3. アメリカ史を貫く成功の倫理
エピローグ
あとがき


<関連サイト>

アメリカを動かす「反知性主義」の正体 森本あんり・国際基督教大学副学長に聞く (日経ビジネスオンライン、2015年4月24日)
・・「森本 この、反知性主義(※以下、特記なき限り米国でのそれを指します)というのは、正直、日本人にはどうにも理解しにくいのではないかと思います。米国人にとっては自明のことから説明してもらわないと、我々には「なぜそうなるのか」が分からない。」

(2016年7月25日 項目新設)



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書評 『アメリカ精神の源-「神のもとにあるこの国」-』(ハロラン芙美子、中公新書、1998)-アメリカ人の精神の内部を探求したフィールドワークの記録

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・・ドラッカー晩年のメガチャーチとのかかわりが映像でわかる。これは日本では知られざるドラッカーだ

「アラブの春」を引き起こした「ソーシャル・ネットワーク革命」の原型はルターによる「宗教改革」であった!?
・・「ルターの宗教改革によってプロテスタント化したのは、じつは個人単位ではなく、領国単位であったことにも注意しておきたい。個人が自主的に選択した結果ではなく、領主がプロテスタントになったあとに、プロテスタンティズムは個人に内面化していったということだ。順番は逆ではない。」 これを「公定宗教」という。英国の国教会がそうであったし、植民地時代のヴァージニアもそうだったことが『反知性主義』に描かれている。この前提を知った上で「政教分離」の真の意味を考えるべきなのだ

資本主義のオルタナティブ (1)-集団生活を前提にしたアーミッシュの「シンプルライフ」について
・・「チューリヒの宗教改革は、神学者ツヴィングリが主導したものであったが、「スイス兄弟団」とよばれたラディカル派(急進派)は、教会と国家(=宗教と政治)の癒着を批判し、再洗礼派運動を展開したのであった。都市部で当局から激しく弾圧されたこの運動は、農村部へと拡がっていったのである。 この流れの一部が、メノナイトとなり、さらにはアーミッシュとして分派していったわけである。そして彼らは宗教的迫害を逃れて、自らの信仰をまっとうするため、ピューリタンなどと同様、新天地アメリカに集団移住し、終の棲家(すみか)をみつけることとなったわけである。」

書評 『ドアの向こうのカルト-九歳から三五歳まで過ごした、エホバの証人の記録-』(佐藤典雅、河出書房新社、2013)-閉鎖的な小集団で過ごした25年の人生とその決別の記録


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(2016年6月28日、7月25日、12月1日 情報追加)


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