2022年2月7日月曜日

書評『AI監獄ウイグル』(ジェフリー・ケイン、濱野大道訳、新潮社、2022)-新疆ウイグルで進行中の「AI監獄状況」はわたしたち自身の近未来の現実か?

 (カバーに描かれているのは監視装置「パノプティコン」)

『AI監獄ウイグル』(ジェフリー・ケイン、濱野大道訳、新潮社、2022)を読了した。新疆ウイグルで進行中の「AI監獄状態」は、わたしたち自身の「近未来の現実」ではないか?  

著者は、イスタンブール在住の米国人ジャーナリストでテックライター。アジアと中東で豊富な取材経験をもつ。トルコに逃れたウイグル人の取材をつうじて、現地で進行中の状況を描き出す。 

(原題は The Perfect Police State: An Undercover Odyssey into China's Terrifying Surveillance Dystopia of the Future, 2021 日本語訳すれば『完全な警察国家:中国の驚愕すべき監視ディストピア未来への極秘調査行』となる)


中国の新疆ウイグル地区で進行中の「ディストピア状況」は、顔認証と音声認証、DNA採取、移動・購入履歴ハッキング、密告アプリ、そして「強制収容所」における思想改造にまで進んでいる。21世紀の「ジェノサイド」とは、まさにこの「状況」のことだ。

しかも、AI化によって監視装置である「パノプティコン」(Panopticon)には生身の身体をもった監視員すら存在しない技術的には人間が介在しない、AIが判断をくだす状況が可能となっているのだ。


ウイグルの「状況」を時系列で見ていくと、「AI監獄化」の進行はが、ほとんどこの数年間の出来事であったことに驚くだけではない。「状況」はすでにウイグルだけに限定された問題ではなく、中国を中心に全世界に拡散しつつあるのだ。

著者が指摘するように、もはや「もし○○になたら?」という問いはすでに意味をなさない。いま必要なのは、「○○にどう対応するか?」という問いである。 

なぜなら、中国の「監視テクノロジー」関連企業は、米国の関連企業との密接な関係のもと、ウイグルを実験場として技術を進化させてきたのであり、技術そのものにはイデオロギー性など存在しないからだ。 

技術は、それをどう使うかによって、「善」にも「悪」にもなりうる諸刃の剣である。メリットとデメリットはコインの裏表、背中合わせの存在だ。国民をコントロールしたいという点においては、中国も米国も違いはない。ロシアやイランなどの強権国家は言うまでもない。この日本もまた例外ではない。しょせん程度問題に過ぎないのだ。

技術の進歩はもはや止めようがない。ウイグルを「実験場」にした中国が、技術戯実の進歩を加速させたに過ぎない。「倫理」(エシックス)しか「制御」の手段はないのだが・・・ 

著者自身は、「○○にどう対応するか?」という問いには答えていない。この点については、わたしたち一人一人が自分で考えていくしかないのだろう。

いずれにせよ、ウイグルでの「AI監獄化」が、わずか5年程度で進行したという厳然たる事実は、アタマに入れておかねばならないのである。 




目 次 
注記 調査方法について、ウイグル族と漢族の名前について 
(年表)中国政府のウイグル政策/米中テクノロジー企業の動き/メイセム(ウイグル人女性・仮名)の日常
(地図)中国と新疆ウイグル自治区、そしてユーラシア
プロローグ その暗黒郷を "状況" と呼ぶ
第1章 中国の新たな征服地
第2章 国全体を監視装置に
第3章 ウイグル出身の賢い少女
第4章 中国テック企業の台頭
第5章 ディープ・ニューラル・ネットワーク
第6章 「中国を倒せ!」「共産党を倒せ!」
第7章 習近平主席の “非対称” の戦略
第8章 対テロ戦争のための諜報員
第9章 「政府はわたしたちを信用していない」
第10章 AIと監視装置の融合
第11章 このうえなく親切なガーさん
第12章 すべてを見通す眼
第13章 収監、強制収容所へ
第14章 強制収容者たちの日常
第15章 ビッグ・ブレイン
第16章 ここで死ぬかもしれない
第17章 心の牢獄
第18章 新しい冷戦
第19章 大いなる断絶
第20章 安全な場所など存在しない
エピローグ パノプティコンを止めろ
謝辞

 

著者プロフィール
ケイン,ジェフリー(Cain, Geoffrey)
アメリカ人の調査報道ジャーナスリト/テックライター。アジアと中東地域を取材し、エコノミスト誌、タイム誌、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など多数の雑誌・新聞に寄稿。2020年発表のデビュー作 SAMSUNG Rising: The Inside Story of the South Korean Giant That Set Out to Beat Apple and Conquer Tech(『サムスンの台頭』(未訳))はフィナンシャル・タイムズ紙とマッキンゼー社が主催するビジネス本大賞候補に選ばれた。現在はトルコ・イスタンブールに在住
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
 

訳者プロフィール
濱野大道(はまの・ひろみち) 
翻訳家。ロンドン大学・東洋アフリカ学院(SOAS)卒業、同大学院修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 




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