2022年5月12日木曜日

映画『アンノウン・ソルジャー』(2017年、フィンランド)-小国を支える 「SISU」(シス)という不屈の「フィンランド魂」を見よ!

 
フィンランドのマリン首相が来日、東大で講演したのち、岸田首相と首脳会談したとのこと。

マリン首相は、ほぼ完璧な英語をしゃべる。映像で見ると白人で青い目をしているが、スラブ人とはまったく異なるフィンランド人の特徴がよくでている。

フィンランドは5月15日にも政府決定として「中立政策」を放棄し、「NATO加盟」を表明することになる。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のおかげで(?)、あらためてフィンランドはロシアをはさんで日本と隣国という地政学的現実が見える化されてきた。

日露戦争時の「明石工作」で、帝国陸軍の明石元二郎大佐がフィンランドの独立運動家とタッグを組んだことを想起すべきだ。間接的ではあるが、これが「第1次ロシア革命」(1905年)へとつながったのだ。この事実は、フィンランド史にも記載されている。

フィンランドは、「第2次ロシア革命」(1917年)でロシアが動揺したチャンスを捉えて独立にこぎ着けた。革命後の混乱のなか、レーニンはフィンランド独立を認めた。米国大統領ウィルソンが唱えた「民族自決」の時代背景もあった。

いままたフィンランドは、「ロシアによるウクライナ軍事侵攻」というピンチをチャンスと捉えNATO加盟に舵を切った。独立から105年後のことだ。小国は、情勢の変化に敏感だ。日本も小回りを発揮せよ! 

フィンランドは隣国で歴史的に密接な関係にあるスウェーデンとほぼ同時にNATOに加盟申請することになる。フィンランドもスウェーデンも、ともに現在の首相が女性というのは興味深い。スウェーデンもまた、ナポレオン戦争終結以来、約200年超に及んだ中立政策を放棄することになる。もちろん、加盟が実現するまでにはクリアしなければならない事項は多いとはいえ。

(映画『アンノウン・ソルジャー』予告編より)

フィンランドといえば、スターリンのソ連との二度にわたる死闘を想起しなくてはならない。1939年から翌年にかけて3ヶ月間の「冬戦争」と、1941年から1944年にかけての3年2ヶ月におよんだ「継続戦争」のことである。いずれも侵略してきたソ連軍に対する「祖国防衛戦争」である。

フィンランドは「継続戦争」の敗戦によって国土の1割を失い、いわゆる「フィンランド化」という表現でソ連を刺激しない形で中立政策を維持してきた。ロシアとの国境は1300kmにおよび、国境線に設置された対人地雷の撤去には断固反対してきた。 ロシアの陸路の国境は総延長2万キロに及ぶ。

そのフィンランドのソ連との戦争を描いた『アンノウン・ソルジャー-英雄なき戦場』(2017年、フィンランド)は、独立100周年を記念して製作された映画 1941年から1944年にかけての「継続戦争」を描いたものだ。フィンランドで100万人以上が視聴した大ヒットになったという。英語タイトルが Unknown Soldier となっているのでそのままカタカナのタイトルになっているが、素直に日本語で表現すれば「無名戦士」である。


人口500万人の小国で100万というのは、人口の1/5に該当する。日本でいえば2500万人となる。この映画には原作があり、映画化は今回が3回目なのだという。それほど、フィンランド人にとっては、なんどもなんども、繰り返し繰り返し確認すべきテーマなのであろう。

この映画は、先々週に amazon prime video で視聴した。最初から最後まで一貫して歩兵の視点で描いた戦争映画だ。壮絶なリアルバトルが映画の大半を占める。132分。 


失われた領土を取り戻すために国境を越えた1941年、しかし約3年後の1944年にはふたたび国境線を越えて撤退することになる。そして始まったのは、ソ連(=ロシア)という軍事大国と陸上で国境を接した小国フィンランド苦難の77年。 

先にフィンランド独立前の「明石工作」に触れたが、日清戦争後に獲得した遼東半島を三国干渉によって放棄させられた明治日本は「臥薪嘗胆」というスローガンを掲げた。だが、「フィンランド化」という屈辱的な表現で耐えに耐えたフィンランドの77年こそ、まさに「臥薪嘗胆」というべきだろう。

フィンランドとはそんな国なのだ。小国を支えるのは 「SISU」(シス)という不屈の「フィンランド魂」。それがなにを意味しているのか、この映画で確認するべきだ。 




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・・歩兵の目線で体験して観察した戦争



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