『安倍晋三回顧録』(安倍晋三、聞き手:橋本五郎、聞き手・構成:尾山宏、監修:北村滋、中央公論新社、2023)を読了。話題の本である。ベストセラーである。
それはそうだろう。非業の死をとげた安倍晋三氏本人にとっても、読者の大半を占めるであろう日本国民にとっても、それは遠い過去の話ではないからだ。現在進行形の歴史にそのままつながっている、つい最近の過去の話だからだ。
首相という、政治権力においては最終責任者の重圧と孤独、大局を見据えながらの日々の意思決定、そしてその背景となった事象や、かかわった内外の人物について、聞かれるままに答えている。よくここまで語っているなという印象だ。けっして声高な主張は行っていない。
もちろん、自己正当化もあるだろう。だが、聞き手の人たちは、そうとう聞きにくい質問もあえてぶつけている。それらに安倍氏がどう答えているか、それも読みどころであろう。判断は読者が自分で下すべきだ。
第1次政権が2006年、捲土重来を期して復活した2013年から2020年までについて語られている。基本的に時系列に沿って質問が行われている。語り手に記憶を想起させるためには都合がいいのだろうが、テーマが細切れに記述されているので、やや読みにくいのは正直な感想だ。
3188日という、近代日本の憲政史上最長の在職日数の記録となったが、本人も語っているように、それが目標だったわけではない。
いい意味でも、悪い意味でも、厳しい時期を乗り切った日々の積み重ねの結果である。 大記録を打ち立てたスポーツ選手の発言に通じるものがある。
まだまだ記憶のあたらしい日々であり、歴史の審判が下されたという時期ではない。政治学者による聞き書きではないが、ジャーナリストによってオーラルヒストリーとしての「回顧録」(メモワール)が残されたことは不幸中の幸いであったいうべきだろう。
安倍晋三という首相が好きであれ嫌いであれ、あるいはそのどちらではなくても、じつに興味深い内容の回顧録というべきだろう。
現時点でこの本を読む人は、おそらくリアルタイムでおなじ空気を吸っていた人たちであろう。だから、自分自身の過去をそれに重ね合わせて読むことができる。どういう時代に自分は生きていたのか、という再確認にもなる。
遠い未来にこれを読む人にとっては、「2000年代最初の20年の日本」を知るための、またとない重要な資料となることであろう。
目 次なぜ『安倍晋三回顧録』なのか ー「歴史の法廷」への 陳述書第1章 2020 コロナ蔓延 ― ダイヤモンド・プリンセスから辞任まで第2章 2003~2012 総理大臣へ!― 第1次内閣発足から退陣、再登板まで第3章 2013 第2次内閣発足 ― TPP、アベノミクス、靖国参拝第4章 2014 官邸一強 ― 集団的自衛権行使容認へ、国家安全保障局、内閣人事局発足第5章 2015 歴史認識 ― 戦後70年談話と安全保障関連法第6章 海外首脳たちのこと ― オバマ、トランプ、メルケル、習近平、プーチン第7章 2016 戦後外交の総決算 ― 北方領土交渉、天皇退位第8章 2017 ゆらぐ一強 ― トランプ大統領誕生、森友・加計問題、小池新党の脅威第9章 2018 揺れる外交 ― 米朝首脳会談、中国「一帯一路」構想、北方領土交渉第10章 2019 新元号「令和」へ ― トランプ来日、ハメネイ師との会談、韓国、GSOMIA破棄へ終章 憲政史上最長の長期政権が実現できた理由謝辞資料: 安倍政権の歩み 外国訪問先一覧 安倍内閣支持率の推移 選挙結果スピーチ: 安倍晋三 施政方針演説/安倍晋三 首相辞任会見弔辞: 岸田文雄首相/菅義偉前首相/麻生太郎本首相人名索引
著者プロフィール安倍晋三(あべ・しんぞう)1954年~2022年。第90代内閣総理大臣、第96代内閣総理大臣。聞き手橋本五郎(はしもと・ごろう)1946年生まれ。読売新聞特別編集委員。読売新聞論説委員、政治部長、編集局次長を歴任。聞き手・構成尾山宏(おやま・ひろし)1966年生まれ。読売新聞論説副委員長。政治部次長、論説委員、編集委員を歴任。監修北村滋(きたむら・しげる)1956年生まれ。読売国際経済懇話会理事長。内閣総理大臣秘書官、内閣情報官、国家安全保障局長・内閣特別顧問を歴任。
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