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2022年7月9日土曜日

日本はふたたび「テロルの時代」に戻ってしまうのか? ー 凶弾に斃れた安部元首相を悼む(2022年7月8日)

 
昨日(2022年7月8日)の午前11時30分頃、参議院選挙の応援演説を開始した安部元首相が狙撃され「心肺停止状態」というニュースが衝撃をもって世界中を駆け回った。

だが、残念ながら、蘇生することなくそのままお亡くなりになった。享年69。哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りします。

犯人の動機は、現時点ではかならずしも明確ではないが、これは暗殺である政治家が凶弾に斃れたのである。テロリストによって、至近距離で背後から撃たれたのである。*

*その後の報道で、使用されたのは暗殺者の手製の銃と弾丸で、1発目は背後から発射されたが、2発目は振り向いた安部氏の正面に発射され、首と左胸を貫通、心臓に達する傷が致命傷になったことがわかった。(2022年7月11日 記す) 

警察や SP はいったいなにをやっていたのか? 現役の首相ではないから警備が手薄だったのか? この国では銃器を持ち歩いている人間など普通はいないだろうという慢心か? 


(米週刊誌 TIME 2022年7月15日号に予定されているカバー)


■日本近現代史は「テロによる暗殺の歴史」でもある

マンガ家のかわぐちかいじ氏の作品に、『テロルの系譜ー日本暗殺史』という名作がある。1970年頃の作品だ。日本は、近代の夜明けから政治家の暗殺の事例には事欠かないのである。

大老の井伊直弼の暗殺(1860年)に代表される幕末から始まったテロは、明治時代になってからも活発化、昭和恐慌後の1930年代にはテロの嵐が吹き荒れたのである。

政治家の暗殺というと米国という連想がすぐにでてくるだろうが、じつは近代日本は政治家の暗殺の歴史であるといっても過言ではない。

総理大臣在任中に暗殺された原敬(1921年)、狙撃されて重傷を負ったが翌年死亡した浜口雄幸(1931年)がいる。

首相退任後に暗殺されたのは、外地でのことであるが朝鮮人のテロリストの凶弾に斃れた伊藤博文(1909年)、五一五事件では海軍の青年将校によって犬養毅(1932年)が、二二六事件のクーデタでは陸軍青年将校たちによって高橋是清(1936年)が殺害された

また、のちに首相を経験することになる大隈重信は、外相時代に爆弾テロで右足を失っている(1889年)。

さらにさかのぼれば、立憲政治の開始前だが、事実上の最高政治指導者であった大久保利通は暗殺された(1878年)

首相経験者ではないが、戦後には、社会党の浅沼書記長が演説中に17歳の右翼少年に刺殺される事件(1960年)が起こっている。


(2度目に刺す瞬間を捉えた写真 Wikipediaより)


■日本はふたたび「テロルの時代」に戻るのか? 

お亡くなりになった安部元首相のご冥福を祈るばかりだが、その功罪については、いまは語らないでおこう。

不幸中の幸いというべきは、一般人が巻き添えにならなかったことだ。誤射の可能性はあったし、もし爆弾がつかわれていたら多数の死傷者がでた非惨事になっていたことだろう。

日本はふたたび「テロルの時代」に戻るのか? テロル(terror)とは恐怖のことだ。政治家本人だけでなく、一般大衆を巻き込んだテロが発生すると、一般大衆に恐怖心が生まれてくる。

この国にはいま、どんよりとしたイヤな空気が底にたまってまま解消されていない。

ルサンチマンというべきだろうか、やり場のない怒り、鬱積する不満。点火したらいつ爆発するかわからないガスが充満している状態だ。新型コロナ感染症(COVID-19)による行動制限と経済悪化が、その鬱積感をさらに加速させたことは間違いない。
  
そう、まさに「コロナ後」の時代は、はけ口としての暴力を加速させているのである。国外ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻、日本国内では政治家の暗殺

「チカラによる現状変更」は戦争だけはない。暴力的に政治家の言論を封殺する動きもおなじだと考えるべきなのだ。

社会的弱者の捨て身の攻撃の矛先がどこに向かうか、まったくわからない恐怖。まさにハリウッド映画の『ジョーカー』に描かれた世界である。

2022年の「安部元首相暗殺事件」。この事件は、さまざまな意味で1995年のオウム真理教による「サリン事件」に匹敵するような気がする。安部元首相の名前は、近代日本の政治史における暗殺事件がらみで長く記憶されることになるだろう。

どんよりと重苦しい空気、ことばにならない感情。このトラウマは、長く尾を引きそうだ1930年代の空気感である。


■「言論封殺」は二重に行われる

言論封殺は二重に行われる。その本人の暗殺による口封じが一番目だ。これは物理的な封殺である。

さらに、日本では「死者をむち打つな」という暗黙の了解があるため、その死後に批判することも難しくなる。これが2番目の言論封殺だ。

礼賛以外の言説は、よほど慎重に行わない限りバッシングの対象となりかねない。

だからこそ、政治家の暗殺事件は、社会全体に重苦しい空気を生み出してしまうのだ。「物言えば唇寒し」状態である。

1995年に底が抜けてしまった日本社会は、今回の事件でさらに一段と底が抜けてしまったのではないか? この暗殺事件後の日本は、どういう方向に向かっていくのだろうか?




<関連サイト>

The Vivid History of Assassinations in Japanese Politics(日本政治における暗殺の歴史) (Dan McLaughlin, National Review, July 8, 2022) 


・・山上容疑者自信も映画『ジョーカー』を見ていたのか・・

(2022年7月11日、31日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

映画『ジョーカー』(2019年、米国)-まさに現在、米国だけでなく、日本でも韓国でも、世界中のどこでも進行している事態をドラマ化した作品だ ・・「なにをやってもうまくいかない。大きな挫折と耐えがたいまでの屈辱。まったく癒やされることのない非条理。超格差社会の底辺でもがくアーサーは、精神的に病んで疲弊し、不満が鬱積していく。そして、ついに閾値を超えた鬱積が・・」(引用)



 






(2023年10月13日 情報追加)


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