2023年9月4日月曜日

映画「SHE SAID その名を暴け」(2022年、米国)を視聴 ー 「性加害」というエンターテインメント業界の「闇」が暴かれるまでのインサイドストーリー

 

じつを言うと、ジャニーズの事件がなければ、その存在すら知らなかったであろう。しかも、ことし2023年の1月に日本公開されていたことすら知らなかったのだ。

なぜ知ったかというと、ジャニー喜多川氏の「性加害」問題は、米国で発覚し大問題となったハーヴィー・ワインスティン(Harvey Weinstein・・日本ではハーヴェイ・ワインスタインと表記されているが発音が違う)による「性加害」問題とよく似ていることを思い出し、調べているうちにこの映画にたどりついたのである。




つぎからつぎへとヒット作を製作し、独立系プロデューサーとして著名な存在であったハーヴィー・ワインスティン。ミラマックス社を設立し、その後は自分の事務所を実の弟と経営していたワインスティン。名字からわかるようにユダヤ系である。

この映画は、ワインスティンその人を描いたものではない。ワインスティンによる「性加害」問題を記事にするべく困難な取材活動をつづけた、家族もちの女性記者2人のインサイドストーリーである。


■映画「SHE SAID」は実話にもとづくインサイドストーリー 

ワインスティンの事件は2017年のことであった。「ニューヨーク・タイムズ」の調査報道によって明らかになったのである。

ワインスティンの直接の被害者がつぎからつぎへと名乗り出ただけ結果、1970年代から80人以上の女性たちに対して「性加害」を行ってきたことが明らかになった。

それだけにとどまらず、「#Me-too 運動」に火がついたことで、同様の「性加害」のケースに対して、世界中で被害者たちが声上げが行われるようになったのだ。その流れのなかで韓国のエンタメ業界の問題も明らかになっている。自殺者が続出していた韓国の「闇」もまた深い。




「ニューヨーク・タイムズ」といえば「反日報道」が目立つ新聞だが、今回はその点は脇に置いておくことにしよう。ワインスティン事件は、基本的にまず米国の国内問題であり、ロンドンや香港など「英語圏」の問題であったからだ。

「USAトゥデイ」や「ウォールストリートジャーナル」などの全国紙とは違って、東海岸のニューヨークを中心とした地方紙ではあるが、カトリック教会の聖職者たちによる「性加害」問題を暴いた、おなじく地方紙の「ボストン・グローブ社」とくらべると、さすがにニューヨーク・タイムズは規模は大きい。

だからこそ、米国内とはいえ西海岸まで出張したり、しかもロンドンやコーンウォールまで海外出張することができたわけである。この調査報道にかんしては、新聞社としてもリーガルリスクを踏まえたうえで、そうとう力を入れたものであったことがわかるのだ。

調査報道チームは実働部隊は家族もちの女性記者2人。ワークライフバランスを重視する米国とはいえ、ジャーナリストとして活動することは、なかなかたいへんな仕事であることがわかる。

とはいえ、女性だからこそ、おなじく女性が被害者であるこの問題にフルコミットできたわけであり、女性も男性も入った上層部のフルサポートがあったからこそ可能となったわけだ。

映画では直接描かれないが、「ニューヨーク・タイムズ」による調査報道が「#Me-too 運動」に火をつけ、その後に集団訴訟となり、多額の賠償金支払いのためワインスティン・カンパニーは破産したという。

ジャニーズ社の場合も被害者たちは米国での訴訟も検討しているという。ジャニーズ社も多額の賠償金の支払いに耐えられるかどうか、現時点ではなんともいえない。


■エンターテインメント業界の構造と「性加害」問題

「性加害」の対象がジャニー喜多川の場合は自社に所属する少年たちであったのに対して、ワインスティンの場合は自社の映画に出演する女優や女性モデルたち、そして女性スタッフたちであったという違いはある。

とはいえ、おなじエンターテインメント業界の話であり、出演にかんして生殺与奪を握っている男性の上位者がプロデューサーとしての職権をたてに、セクシャルハラスメントを30年以上の長期にわたって行ってきた点は共通している。

ジャニー喜多川の場合は実の姉と共同経営であった。ワインスティンの場合は実の弟との共同経営であった。エンターテインメント産業における「同族経営」という点が共通している。

芸能事務所というものは、世界中どこでも属人性のつよい人材ビジネスであり、もちろん株式の公開などしていないので外部から内情を知ることはきわめてむずかしい。まずマッサージを求めるところから始めて、グルーミングしていくという点も共通している。

ジャニーズの場合と同様に、ワインスティンの場合も告発があっても証拠がないという理由で取り合ってもらえなかった。ワインスティンの場合は、口止めのためにカネを払って NDA(Non Disclosure Agreement:秘密保持契約)を結ばされるというやり口が行われていた。だから、被害者たちは泣き寝入りを強いられてきたのだ。

そして性加害の被害者たちの、長期にわたるフラッシュバック現象とPTSDも、ワインスティンのケースとジャニーズのケースも共通している。


■ハーヴィー・ワインスティンその人について

映画ではハーヴィー・ワインスティンその人は、でっぷりした大男として、その後ろ姿が登場するに過ぎない。Wikipediaの記述 などで人物にかんして情報を見ておこう。事件の真相に迫ったドキュメンタリーもある。

多額の賠償金支払いのためワインスティン・カンパニーは破産しただけでない。ハーヴィー・ワインスティンその人はワインスティン・カンパニーから追放され、逮捕されて裁判にかけられているいっさいの名誉も剥奪された。

ニューヨーク地裁でレイプ事件などについて23年の刑を宣告され、収監されることになった。それに加えてロサンゼルスの裁判所でも16年の刑期が追加されている。合計39年間の刑期である。

(ハーヴィー・ワインスティン 2014年のもの Wikipediaより) 

2017年当時は65歳だったワインスティンだが、2023年時点では71歳である。2018年から合計39年間の刑期があるので、そのまま収監されたまま生涯を終える可能性も高い。それだけ重い刑罰であり、してきたことは重罪以外のなにものでもないのである。

ジャニー喜多川氏は、すでに2019年に87歳で天寿を全うしている。つまり逃げ切ったわけだ。もちろん、ハーヴィー・ワインスティンの事件もその後についても知らなかったはずがない。日系米人で英語が堪能な人物だったからだ。

「死者はむち打たない」というのは日本人の美徳だとはいえ、ジャニー喜多川氏の犯罪行為について封印したままでいいわけがない。死者は捜査対象ではないとしても、真相が明らかにされなくてはならない。

男性による少年たちに対する「性加害」にかんしては、カトリック教会の聖職者たちによる「性加害」問題は世界中で告発がつづいている、すでに死亡している司祭たちもいるが、事件そのものの真相解明はつづいている。再発防止のためには不可欠なことだからだ。

「性加害」問題は根が深い問題だ。おそらく世界中で、いまなお発覚することなく「性加害」がつづけられているのだろう。「性加害」を発生させないためにすべきことは多い。

この映画を視聴して、さらにそう思わざるをえないのである。





<関連サイト>

Harvey Weinstein allegedly sexually harassed and abused dozens of women, and the elaborate ways he tried to silence his accusers

・・被害者として名乗りを上げた人物の名前が列挙されている



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