高校時代の1980年に購入して読んで、大いに感心したのがこの『サーカスが来た! アメリカ大衆文化覚え書き』(亀井俊介、文春文庫、1980)という本だ。
「19世紀アメリカの大衆文化」について書かれた本だが、21世紀の現在も、アメリカがこの時代の延長線上にあることがわかる、すぐれた内容の名著である。
なんといっても北米大陸は広い。わたしも滞米中には東海岸から西海岸まで鉄道(=アムトラック)とバス(=グレイハウンド)をつかって陸路で「大陸横断」を2回行っているが、じつに広大なのである。
このような広大な大陸で、移動式のエンタメであるサーカスや、文字ではなく「しゃべり」の文化である巡回講演会が発展したのは北米ならではなのである。巡回講演会は現在でも各種のセミナーの原型である。巡回講演会の講師は、エマソンのようにキリスト教の牧師から転身した人も少なくない。
先日のことだが、ひさびさに必要があって引っ張り出してきて、44年ぶり(!・・それだけ持ち続ける価値のある本なのだ)、その一部を読んだ。
大筋はさておき、もちろん細かい内容などまったく記憶から消えていたが、事実関係の究明に徹した詳細な記述はじつに濃いものがあることが読んでいてわかった。人名などの固有名詞は、聞いたことのないようなものばかりである。忘れてしまって当然である。
「あとがき」によれば、もともと原本は1976年に東京大学出版会から出たものだそうだから、基本的に専門書なのである。だからこそ、濃い記述が一貫しているのであろう。
とはいえ、学術書でありながら、一般書として読めるものとなっているのは、文春文庫として再刊されたことからも、それは明らかだとわかる。
日本とは違って、歴史のきわめて短いアメリカではあるが、そうはいっても現在は過去の延長線上にあり、もちろん未来も現在の延長線上にある。
歴史を知ることは現在を知ることであり、未来を考えることでもある。19世紀の痕跡は建築物などのハードだけではなく、さまざまな制度やその他ソフト関連として、いまでもいたるところに発見できるはずだ。
この本をはじめて読んだ頃は、まずは大学に入ることが最優先事項であり、海外留学など考えたこともなかったが、実際に留学が実現してアメリカで暮らし、休暇中には旅をしていた頃、この本の知見は自分の「ものの見方」に大いに役だったのである。
著者の亀井俊介氏はアメリカ文化研究の泰斗ともいうべき人だが、90歳を越えたいまなお現役で著作を出し続けている。すごいことだなと感心するばかりだ。
PS その後、岩波同時代ライブラリーから復刊され、現在は2013年に復刊された平凡社ライブラリー版が流通している。
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目 次(文春文庫版)サーカスが来た! ― 世界の驚異を運ぶ機関オペラ・ハウスで今夜 ― 大衆演芸の世界さすらいの教師たち ― にぎやかな講演運動ガンファイターへの夢 ― ダイム・ノヴェルから西部劇へターザンの栄光と憂鬱 ― 二十世紀のヒーローハリウッド、ハリウッド ― 希望の星かがやく「聖林」ジープに乗って山こえて ― わがアメリカ大衆文化あとがき解説(鶴見俊輔)
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