2025年5月5日月曜日

政治経済の「いま」を知るため、2025年5月のいま読んでおきたい新書の経済本4冊 ー 『世界秩序が変わるとき』・『ピークアウトする中国 』・『ほんとうの日本経済 』・『『日本経済の死角 』

 

 現在、世界的に大転換期にあることは、言うまでもない。日本もまた大転換期にある。 

なにがどう変化してきたのか、変化しようとしているのか。それを知るためには日本を取り巻く「外部環境」の変化と、日本国内の「内部環境」について、ある程度の見取り図をもっとく必要がある。 

米国のトランプ大統領再選以降、昨年末から今年かけて出版された経済書で、簡単に手にとりやすい新書本から、これはというものをあげておきたい。 

現在は米中という二大大国の「経済戦争」のまっただ中にある。この状況下では、経済は政治と切り離せない。前近代のように政治経済(ポリティカル・エコノミー)というフレームワークでものを考える必要がある。 

日本はメインプレイヤーではないが、同盟国の米国には安全保障と経済、価値観を異にする中国とは経済関係がある。米中のはざまにあって、難しい舵取りを求められているのが小国(?)の日本である。 


■『世界秩序が変わるとき ー 新自由主義からのゲームチェンジ』(齋藤ジン、文春新書、2024)

まずは、米国主導の政治経済を知るために、昨年末に出版された『世界秩序が変わるとき ー 新自由主義からのゲームチェンジ』(齋藤ジン、文春新書、2024)が必読だろう。  

詳しい経歴についてはわからないが、この本で語られている内容からすれば、わたしと世代的に近い人であることがわかる。つまりバブル期の日本の金融業界を経験しているということだ。

その後、同調圧力のつよい日本社会を脱出し、LGBTであることをカミングアウトして生きていける道を求めて米国の金融業界でキャリアを築いている。 

ヘッジファンドへのアドバイザリー業務を行うのが、この人の仕事だが、マイノリティの視点から見えてくる、「常識」を疑う思考法が成功をもたらしてきたわけである。 

基本的な主張は、金融というカジノの胴元である米国が主導する経済体制であった「新自由主義」は終わりつつある。つまりグローバリゼーションは終わり、米国が中国経済の未来。投資してきた時代は終わったということ。 だからこそ、周回遅れの日本にはチャンスがあるという論理展開である。

日本人が陥りがちなネガティブ思考ではなく、チャンスをものにするための積極思考を説いていることは評価に値する。 


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■『ピークアウトする中国 ー 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(梶谷懐/高口康太、文春新書、2025)

 では、米中二大大国の一方の側の中国はどうなっているのか。 『ピークアウトする中国 ー 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(梶谷懐/高口康太、文春新書、2025)が面白い。  

中国経済を専門とする経済学者とジャーナリストの共著で、中国経済の「いま」について、その背景を含めて知ることができる。 

副題にある「合理的バブル」によって形成された不動産バブル、有望だと見なされた分野に「殺到する経済」。 

不動産バブルの崩壊という側面を見たら、「ピークアウト」したとしか言いようにない中国経済である。だが一方では、EVなどの有望分やには殺到し、供給がつねに国内の総需要を上回っている。つまり消費は弱いが、生産力は強い。 

このため、つねに供給過剰となりがちで、その過剰生産が国外に出て行き、世界中で軋轢を生み出している状況である。デフレを輸出していると批判されるのは、そのためだ。

とはいえ、強みは弱みでもある。 金融立国の米国はモノづくり回帰を志向し、フルラインの生産力をもつモノつくり大国となった中国。これが米中二大大国の現状だ。 


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■ 『ほんとうの日本経済 ー データが示す「これから起こること」』(坂本貴志、講談社現代新書、2024)

さて、では日本の経済状況はいかなるものか。 『ほんとうの日本経済 ー データが示す「これから起こること」』(坂本貴志、講談社現代新書、2024)は、現状と対応策の両方を論じている点が実際的でかつ有用だ。  

「人口減少経済」の現状を「10の変化」という形でデータで跡づけし、「人手不足」を「機械化と自動化」によって対応している状況を、建設/運輸/販売/接客・調理/医療/介護の6分野で実地に検分している。 

誰でもそうだろうが、すべての分野を知ることはできないので、自分が熟知しているわけではない業界の現状を、具体的なイメージとして把握することができるのはありがたい。 その実地検分を踏まえたうえで、「人口減少経済」で起こることを、「である」と「であるべき」の両面から考察している。 

賃金上昇によるゆるやかなインフレ状況が期待されるなか、サービスレベルの低下を受け入れること、立ちゆかなくなった企業の市場から退出をどう行うかが論じられている。


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■『日本経済の死角 ー 収奪的システムを解き明かす』(河野龍太郎、ちくま新書、2025)

『日本経済の死角 ー 収奪的システムを解き明かす』(河野龍太郎、ちくま新書、2025)は、「働けど働けど我が暮らし楽にならざり・・」の真因がどこにあるのか、これほど明解に解き明かした経済書もなかなかないのではないか。  

生産性が向上しているのに、賃金が上がっていないのが日本経済である。生産性が向上していないという言説はウソなのだ。 では、なぜ賃金が上がらないかというと、大多数の勤労者は「収奪」されているからだ。著者はそう言い切っている。

「ベア」がなくても「定昇」(=定期昇給)が当たり前となっている、大企業で働くコア従業員には実感できないだろう。 ところが、外資系証券会社のエコノミストである著者が「収奪」というコトバをつかっているのである。驚きとしかいいようがない。よくぞ言っていただいた、そんな思いである。 

基本的に議論のベースは、経済データを分析したものであるが、著者をインスパイアしたものが、昨年2024年度のノ-ベル経済学賞受賞者のアセモグル教授の議論である。「収奪」的な経済においては、経済は衰退することを示した業績が受賞理由となった。 

現在ようやく賃金が上昇する気配がでてきたが、それでもインフレに対応できているとは言い難い。賃金上昇がインフレを吸収できる状態にもっていくにはどうしたらいいのか。 

かんで含めるような記述で繰り返しも多い内容だが、丁寧な議論が展開されている本書は、ぜひ読むことを薦めたい。 


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