2026年2月2日月曜日

書評『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』(鴻巣友希子、ハヤカワ新書、2025)― 「村上春樹一強時代」はすでに過去のものとなり、いまや日本の女性作家が英語圏のなかでもとくに英国で席巻しているその理由とは?

 


内容はタイトルどうりで、読者の疑問に理路整然と説明してくれる。読んでいて知的満足感を得るだけでなく、どんどん読みすすめたくなる本だった。 

この本を読むと、海外での「村上春樹の一強時代」はすでに過去のものとなり、いまや日本の女性作家が英米、とくに英国で席巻していることが手に取るようにわかる。 



■「ミドルカルチャー」としての日本の小説

海外での日本のアニメとマンガ人気については、あえて指摘するまでもないことだろう。

最近は中国勢や韓国勢が伸びてきて日本の地位が脅かされているという指摘もあるくらいだが、依然としてアニメといえば日本という認識は確立して久しい。 

アニメやマンガがサブカル、すなわち戦後日本が生み出した「サブカルチャー」だとすれば、伝統によって培われてきた座禅や茶道は「ハイカルチャー」である。 

ではその中間をあらわすことばはなにか? あえてここではあえて「ミドルカルチャー」としておこう。

そのカテゴリーに入るのは、アニメやマンガのように手軽ではないが、座禅や茶道ほど敷居が高くないもの、たとえば映画作品や小説など活字媒体の文学作品がそれに該当するのではないだろうか?

世界中で読まれている日本の作家といえばハルキ・ムラカミ、すなわち村上春樹、というのが、これまた日本での常識であろう。村上春樹以前にはノーベル文学賞を受賞した川端康成、候補となった三島由紀夫や谷崎潤一郎といった、いわゆる男性の「文豪」も外国語で翻訳が行われてきた。 

ところが、「村上春樹の一強時代」はすでに終わり、ここ数年は日本の女性作家たちの注目がめざましいものがあるというのだ。 

そんな記事を目にしたには数ヶ月まえのことであり、つい最近はYouTubeの番組でも取り上げられていた。 





番組のなかで知ったのが、ゲストとしてインタビューされていた翻訳家・鴻巣友希子氏の新著『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』(ハヤカワ新書、2025)であった。 

そこでさっそくネットで注文して取り寄せ読んでみたら、これがまあ面白い。なるほど、なるほどとうなづく連続であった。 

上記のYouTube番組で鴻巣氏がしゃべっているが、いま英米圏では「ポスト村上を探せ」ではなく、「ポスト村田を探せ」と変化しているらしい。 

ここでいう村田とは、芥川賞を受賞した『コンビニ人間』で一気にブレイクした村田沙耶香のことである。ふだん小説を読まないわたしも、この作品を皮切りに村田氏のディストピア作品をいくつも読んで、その想像力のあり方に大いに驚かされている。




最近の話題といえば、王谷晶の『ババガヤの夜』柚木麻子の『BUTTER』などが英米圏、とくに英国で大ヒットしているという。村田沙耶香とは違って、かいずれも日本での受賞歴のない作家たちだ。 




本書では、英米文学の日本語訳を本業としている著者が、『BUTTER』の日本語原文の一部とその箇所の英訳を対照して示している。

読んで比較してみると、なるほど英語表現の巧みさと、日本語で読む以上に英語訳の方が感性的で官能的であると実感する。しかも、その英語はかなり忠実に日本語を英語に訳しているのだ。 




表意文字である漢字に頼ることのない英語だからこそ、ダイレクトに読む人に伝わってくるのではないかという感想をもったが、英語訳を実現した翻訳者たちは、もはや縁の下の力持ちではなく、作者と並んで表記されるべき存在になっているのだという。 

そんな優秀な翻訳者たちが輩出される状況についてだけでなく、日本文学の英訳を支えている独立系の中小出版社の状況、さらには需要サイドである若年層の動向についても、本書で詳しく語られている。

英国においては「ヒーリング・フィクション」というカテゴリーが大きくなっているとのことで、そのブームを支えているのが日本の小説なのだとか。そこいで取り上げられるテーマは、ネコに喫茶店、図書館と書店などだそうだ。

コンテンツの多様化が英米を中心とした英語圏で求められているのだ。 真田広之が主演でプロデュースした『SHOGUN』が世界中で大ヒットしたのと、おなじ流れにあると考えられる。



■英語圏のヒットを起爆点にして日本文学が「世界文学」化していく

 本書は基本的に英米の英語圏、とくに英国の事情について詳しく紹介されているが、実質的に英語が支配言語になっている現状においては、英語圏の動向がその他の言語圏の動向に影響をあたえていくであろうことが容易に想像される。 

女性作家を中心とした日本文学が「世界文学」となり、アニメやマンガと並んで、日本文化を代表する存在に成長していくことを大いに期待したいと思う。 


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目 次
はじめに 日本文学になにが起きているのか? 
第1章 海外に進出する日本の作家たち  ―  村上春樹以後の新たな潮流 
第2章 女性作家の躍進と世界の文学潮流  ―  筆をもって闘うということ 
第3章 日本文学は英米読者にどう読まれているか  ―  村上春樹、村田沙耶香、柚木麻子の書評を読む 
第4章 日本文学をプレゼンする出版社と翻訳家たち  ―  世界に向けて「推し」を叫ぶ 
第5章 翻訳をとりまく世界文学の状況  ―  なぜ若者に支持されるのか? 
おわりに 翻訳という世界文学ネットワーク 
謝辞/本書に出てくる主要な文学賞/参考文献

著者プロフィール
鴻巣友季子(こうのす・ゆきこ)
1963年東京都生まれ。翻訳家、文芸評論家。英米圏の同時代作家の紹介と並んで古典名作の新訳にも力を注ぐ。日本文藝家協会常務理事。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



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・・「振り返ってみれば、村上春樹の初期3部作の掉尾を飾る『羊をめぐる冒険』(原著82年)のアルフレッド・バーンバウムによる英訳が出て国際的評価を得たのも、89年のことである。そして、当時の英訳者は、現代日本文学を英語圏文学市場にのせることを意識するあまり、英米文学の約束事に倣い、創造的改変を試みる傾向があった。
 バーンバウムが言うように「英語圏読者をして、いかにも翻訳を読んでいるという気にさせない」ことが最優先だったのである。まずは日本文学に「英語文学」としての市場価値を持たせねばならなかったのだ。(・・・中略・・・)
 しかし新世紀に入って、卓越した日本語能力を備えた英語圏翻訳者が幾何級数的に増大すると、事情は一変する。前掲『OUT』を翻訳したスティーブン・スナイダーのように、原作小説に忠実でありながら、その魅力を倍増させる技法が磨かれるようになったのである。
(・・・後略・・・)

ユミ:アングロサクソン系の人とマンガは、相性が悪いんでしょうか。
(・・・中略・・・)
マリ:アメリカでは、マンガはアタマをあまり使いたくない人が読むものである、活字を読みたくない怠け者用の出版物だ、というとらえ方が、まだまだ大勢を占めているような印象があります。英国も似たようなもので、大英博物館のマンガ展でも、「世界屈指の博物館でマンガ?」と、賛否が渦巻いて、ニコルはすごい批判にさらされたと聞いています。好意的に受け止めてくれる声が上がる一方で、オールドメディアなどには「マンガは読むものであって、展示するものではない」「マンガと芸術は違うものである」といった批評が載りました。英国をよく知るユミさんは、どう思いますか。
ユミ:英国では、食事文化をはじめとして、衣食住&娯楽全般を、あまり追求しないところがあって、享楽的な文化風土ではないですね。 (・・・後略・・・)



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