2012年4月30日月曜日

「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(千葉市美術館)にいってきた(2012年4月28日)


千葉市立美術館開催されている 「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 にいってきた。一昨日(4月28日)のことである。


江戸時代中期の18世紀、曾我蕭白(そが・しょうはく)を中心に、京都で活躍した画家たちの企画展覧である。墨絵をベースに展示。復古と新奇のせめぎあい、奇想画が面白い。

千葉市立美術館の公式サイトによれば、今回の美術展の概要は以下のとおり。 http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2012/0410/0410.html

会場: 千葉市立美術館
会期  2012年4月10日(火)~ 5月20日(日)
主催: 千葉市美術館 読売新聞社 美術館連絡協議会
協賛: ライオン、清水建設、大日本印刷、損保ジャパン 日本テレビ放送

18世紀の京都を彩った個性的な画家たち 蕭白、応挙、若冲、大雅、蕪村……江戸時代中期、西洋や中国の文化を取り入れる動きが美術にも波及し、特に京都では個性的な画家が多く活躍しました。曾我蕭白(1730~1781)もその一人です。蕭白は京都の商家に生まれ、父を早くに亡くして画業で身を立てました。室町時代の画家曾我蛇足に私淑して曾我姓を名乗ります。盛んに出版されるようになった版本の画譜を活用し、室町水墨画に学んだ復古的な作品を多く残しました。巧みな技術に裏付けられた独特の作品世界は現代人をも魅了します。

蕭白が伊勢地方(現在の三重県)で制作した作品は今も三重県内に多く伝わっています。今回の展覧会では修復を終えた、斎宮の旧家永島家伝来の障壁画(全44面、重要文化財、三重県立美術館所蔵)を中心に蕭白の画業を振り返ります。
また、蕭白前史として、蕭白が師事したと思われる高田敬輔や、京都で活躍した大西酔月ら復古的な画風の画家を紹介します。円山応挙、伊藤若冲、池大雅、与謝蕪村らの作品も展示し、蕭白のいた江戸時代中期の京都画壇の豊かさを併せてご覧いただきます。首都圏では1998年以来久々の蕭白展となります。
※会期中に大幅な展示替えがあります。
※全ての作品をご覧いただく場合、4/10~4/30と5/8~5/20の両期間に1回ずつご来場ください。

曾我蕭白(そが・しょうはく)というと、異端、奇才、エキセントリックという形容詞がただちに浮かんでくるが、今回の展示では必ずしもそういう門切り型の形容詞ではひとくくりにできない蕭白を知ることができるというべきだろうか。



じつは、曾我蕭白の作品をまとめて見るのは今回が初めてなのだが、正直なところ、かなり地味だな、というのがその感想だ。なぜならベースが墨絵なので、モノトーンの絵画の展示が、えんえんとつづくわけである。

『無頼の画家 曾我蕭白(とんぼの本)』(狩野博幸/横尾忠則、新潮社、2009)という極彩色のカラーページのビジュアル本をすでに眺めていたので、今回の展示作品を見て、これが蕭白(?)という意外な印象を受けた。

蕭白を紹介した本では、細部を拡大して強調しているので、そのイメージが焼き付いているのだが、実際は墨絵のなかでは一部に過ぎないことも多く、かならずしもつよい違和感を感じる作品ではない。ただし、近づいてよく見ると、やはりエキセントリックな描き方がされていることがわかるといった感じだ。現代マンガの源流に位置づけてもいいのだろう。

寒山拾得(かんざん・じっとく)をテーマにした絵が何点も展示されている。森鴎外の口語体小説にも取り上げられている寒山拾得だが、この隠者二人組はむかしから禅画のテーマとして取り上げられてきた。蕭白もまた、手を変え品を変え、何度も何度も繰り返し描いている。それだけ需要があったということだろう。見るからにむさ苦しい描き方は蕭白ならではだろうか。

今回の展示には、洋犬を描いた一点があった。18世紀にすでに上方に洋犬が伝来していたのである。デフォルメによってエキセントリックな画風をなしていた蕭白だが、洋犬はデフォルメしなくても素材自体が異色なイメージをかもし出す。

ミュージアムショップで、『奇想の系譜-又兵衛~国芳-』 『奇想の図譜-からくり・若冲・かざり-』の二冊の文庫を買う。ともに、美術史家・辻惟雄によるもので、ちくま学芸文庫である。とくに、『奇想の系譜』は、伊藤若冲や曾我蕭白ブームをつくりだすキッカケとなった本で、1970年に初版がでたものである。



『奇想の系譜』の文庫版の表紙は、ボストン美術館所蔵の曾我蕭白筆「雲龍図襖」。ほとんどマンガのようなタッチである。曾我蕭白が在世当時から明治時代のはじめまで人気があったらしいのもなるほどと思われる。

岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳という、近世絵画史において長く傍系とされてきた画家たちを扱ったこの本によって、かれらが現代において日の当たる存在となった名著とのことだ。

今回はじめて読んでみて、これらの画家たちを個別にしか考えていなかったわたしのアタマのなかに、ようやく「奇想の系譜」というものができあがった思いがしている。機会があれば、ぜひ一読をおすすめしたい。





この美術展は巡回展である。千葉のあとは、蕭白ゆかりの地である三重県立美術館(津市)で開催される。


「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(千葉市美術館)
会期 2012年4月10日(火)~ 5月20日(日)

「開館30周年記念 蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」
2012年6月2日(土)―7月8日(日)






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「没後150年 歌川国芳展」(六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリー)にいってきた-KUNIYOSHI はほんとうにスゴイ!

特別展 「五百羅漢-増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師・狩野一信」 にいってきた

書評 『若冲になったアメリカ人-ジョー・D・プライス物語-』(ジョー・D・プライス、 山下裕二=インタビュアー、小学館、2007)

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・・千葉市美術館は館長に美術史家の小林忠氏がいるので、じつによい企画が多い。これもその一つ

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・・百貨店でよく取り上げられる田中一村だが、きちんと美術館で正当な評価を行ったことはすばらしい


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2012年4月29日日曜日

書評『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)ー 近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③


傭兵の歴史から21世紀の現状を考える

『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)は、ヨーロッパ史を中心に、コンパクトにまとめられた、読んでなるほどと納得させられる傭兵の歴史である。

この本を読むと、古代ギリシアや古代ローマ以来、「武装市民 ⇒ 傭兵 ⇒ 国民皆兵 ⇒ 再び傭兵への部分依存」という歴史の流れを知ることができる。

近代国民国家の成立は、国民が徴兵あるいは志願によって、人的な意味での軍の供給源になるということが前提になることが、傭兵の歴史を見ることによって逆照射されるわけだ。

この本が面白いのは、つねに同時代の日本が対比されていることだ。著者自身はあまり関心を払っていないようだが、じつはユーラシア大陸の両端で、ほぼ同時代的にに同様の現象が生じていることについては、わたしはなんどもこのブログに書いてきた。

ヨーロッパにおいては、安定していた中世社会が崩壊して近世に社会に入る。まさに時代の転換期で激動の時代に、騎士が没落し、傭兵が存分に活躍する状況が生まれたのであった。これは日本でも戦国時代と同じである。

その中心となったのが、ランツクネヒト(Landsknecht)という南ドイツに起源をもつ傭兵集団である。傭兵が忠誠の対象とするのはヒトではなくカネ。雇用主のカネ払い悪いと、傭兵集団は略奪集団に変貌する。かの「ローマ強奪」(サッコ・ディ・ローマ)はこうして行われたのであった。

本書の読みどころはここにある。

その傭兵も、雇用主にとっては諸刃の剣であり、いつ自分に刃向かってくるかわからない存在であることから、暴力装置を自分のもとに集中管理したいという欲望は君主は抱くようになるのは当然の流れだ。

1648年のドイツ三十年戦争の終結によって、絶対君主制のもと正規軍として再編されていくさまが本書にはよく書かれている。いちはやく戦国時代を終わらせて徳川時代に入っていた日本よりは遅れたが、同じ17世紀の出来事であった。

三十年戦争終結に至るまでに、ヨーロッパでは、ハプスブルク家支配からの独立戦争を戦っていたオランダでの軍政改革、グスタフ=アドルフによるスウェーデンの軍政改革が行われ、財政の裏づけのもとに常備軍が整備され、傭兵は大幅に後退していく。

ルイ14世のフランスの絶対王朝を経て、フランス革命による国民軍の成立により、はじめて「祖国にために死ぬ」というナショナリズムが軍事的な意味で成立することとなった。フリードリヒ大王によるプロイセン陸軍整備もまた、なぜプロイセン王国がドイツ統一の中心になったかを理解するためのカギである。

傭兵集団といえば、フランス外人部隊が名高いが、「傭兵の二千年史」と題しながら、英国陸軍のグルカ兵について触れられていないのは残念だ。第10章では、アイルランドの若者たちの悲史である「ワイルドギース」についても触れられている。また、第11章では、領主によってアメリカに売られたドイツのヘッセンの傭兵についても触れられている。ヨーロッパの人身売買についての知られざる歴史である。

PMC(Private Military Company)は、21世紀になってから急成長したビジネスであり、2002年に出版されたこの本にはその現状は南アフリカのエグゼクティブ・アウトカム社が言及される程度である。

つまり、2002年以降の歴史は、ふたたび近代国家における国民皆兵の原理が崩れ、経済原則によって傭兵化の道がレールとして敷かれつつあると考えるべきかもしれない。いまはまだ正規軍の補助的な位置づけのPMCだが、経済原則が優先されるにつれて、正規軍の領域が現在以上に浸食されていくような気がするのである。

近世史・近代史を軍事の観点からみた興味深い一般歴史書である『傭兵の二千年史』とあわせ読むことで、PMCについての理解を深めたいものである。



<初出情報>

ブログへの書き下ろしです。





目 次
はじめに
第1章 クセノフォンの遁走劇
第2章 パックス・ロマーナの終焉
第3章 騎士の時代
第4章 イタリア・ルネッサンスの華、傭兵隊長
第5章 血の輸出
第6章 ランツクネヒトの登場
第7章 果てしなく続く邪悪な戦争
第8章 ランツクネヒト崩壊の足音
第9章 国家権力の走狗となる傭兵
第10章 太陽王の傭兵たち
第11章 傭兵哀史
第12章 生き残る傭兵
あとがき
参考文献


著者プロフィール


菊池良生(きくち・よしお)

1948年、茨城県に生まれる。早稲田大学大学院博士課程に学ぶ。現在、明治大学教授。専攻はオーストリア文学。ハプスブルク関係の一般向け歴史書多数。




<近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える>

P.S. 長すぎる文章となってしまったので、もともとのブログ投稿文章を三分割することとし、本編もタイトルを変更した。それぞれ以下のとおりである。

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ① 

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきたた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③・・・本編




<関連記事>

「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)

『ルート・アイリッシュ』公式サイト

Route Irish Trailer (映画 『ルート・アイリッシュ』トレーラー)

ヤバい仕事は俺たちに任せろ!-英軍の3倍を誇る民間軍事会社の実態 (GQ JAPAN、2014年12月8日)
・・「デンマークの警備会社から出発した民間軍事会社G4Sは、刑務所の運営代行から空港の警備、グルカ族の武装警備隊の編成に至るまで、世界中にサービスを拡大している。その勢いは、”日の沈まない帝国”にたとえることすらできそうだ・・(中略)・・民間軍事会社とは要するに、施設警備や現金輸送といった警備会社の延長線上の業務を武装が必要な危険地帯で行いつつも、傭兵のような本格的な戦闘員とは一線を画す後方要員の集合体と呼んでよさそうだ。」

(2015年6月10日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争・・2010年度アカデミー賞作品

書評 『封建制の文明史観-近代化をもたらした歴史の遺産-』(今谷明、PHP新書、2008)-「封建制」があったからこそ日本は近代化した!

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)
・・三十年戦争のなか、荒廃したドイツをたくましく生きぬく主人公

修道院から始まった「近代化」-ココ・シャネルの「ファッション革命」の原点はシトー会修道院にあった
・「規律による自律」の集団生活。修道院の生活は超早寝早起き。

書評 『国家と音楽-伊澤修二がめざした日本近代-』(奥中康人、春秋社、2008)-近代国家の「国民」をつくるため西洋音楽が全面的に導入されたという事実
・・日本人を近代産業に適した近代的身体に改造することが明治時代初期の課題であった。幕末の鉄砲隊はリズムに合わせて発砲するためのドラマー(=鼓手)を必要とした

(2014年9月21日 情報追加)



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映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②

映画 『ルート・アイリッシュ』を見てきた。場所は、銀座テアトルシネマである。

映画 『ルート・アイリッシュ』をは、『民間軍事会社の内幕』の著者・菅原出氏が、イラク戦争について深く知るためには恰好の映画として推奨しているものだ。くわしくは、「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)を参照。




映画にコメントする前に、映画の概要について書いておこう。


監督: ケン・ローチ
出演者: マーク・ウォーマック、アンドレア・ロウ、ジョン・ビショップ、ジェフ・ベル、タリブ・ラスール
製作年: 2010年
製作国: イギリス フランス ベルギー イタリア スペイン


英国を中心にした欧州各国の資金で製作されているが、米国のカネは入ってない。、

日本の配給会社による紹介は以下のようなものである。『ルート・アイリッシュ』公式サイト参照。 

アメリカが引き起こした“恐るべき犯罪行為”イラク戦争に対し英国を代表する社会派の巨匠、ケン・ローチ監督が、痛烈な批判を込め描いた問題作、ついに日本公開!
真のイラク戦争終結は、すべての戦争請負業者たちが、あの地から去ってはじめてなされると我々は信じている(ケン・ローチ、2011年12月14日のオバマ大統領による<イラク戦争終結宣言>を受けて)

『麦の穂を揺らす風』や『この自由な世界で』などの作品で知られるイギリス映画界が誇る巨匠、ケン・ローチ監督。いつも新作の動向が注目される彼の最新作は男同士の友情を描いた感動作で、イラク戦争の闇に踏み込んだショッキングな内容が2010年カンヌ映画祭でも大きな話題を呼んだ。

ある電話へのメッセージを最後に、イラクの戦場にいたフランキーは帰らぬ人となる。リヴァプールの町でフランキーと兄弟同様に育ったファーガスは、友の死に深く心を痛める。
フランキーには美しい妻、レイチェルがいて、彼女もその突然の死に衝撃を受ける。
フランキーが命を落としたのは<ルート・アイリッシュ>と呼ばれるイラクのバグダッド空港と市内の米軍管轄区域グリーンゾーンを結ぶ12キロに及ぶ道路のことで、03年の米軍によるイラク侵攻以降、テロ攻撃の第1目標とされる“世界一危険な道路”として知られるエリアだった。
かつてフランキーと共にイラクの英国特殊部隊の一員だったファーガスは、親友の死に不信感を抱き、レイチェルの協力も得ながら死の真相を調べ始める。
やがて彼は生前のフランキーが映ったショッキングな戦場での映像を入手するが、そこには恐るべき真実が隠されていた……。

舞台は英国の港町リバプール主人公は、英国陸軍の特殊部隊 SAS の元隊員である。SAS(Special Air Service)は、突撃部隊であり、とくに対テロの専門部隊でもある。

主人公は、おそらくワークング・クラス(労働者階級)であろう。セリフにやたら fucking というコトバが入るのは米国人の真似かと思ったが、そうではないようだ。労働者階級のしゃべるイギリス英語は、クイーンズ・イングリッシュとはほど遠い。

"They vs Us" の対立構造がセリフから読み取ることができる。字幕では「西洋の・・」としていたが、これは「やつら」とすべきところだ。「やつら 対 俺たち」の対立構造は、英国はもとより米国にも存在するが、階級社会の英国では、より鮮明に現れている。

この映画でいう「やつら」(They)とは、PMCビジネスで荒稼ぎするスーツ組のこと。「俺たち」(Us)とは、カネがないのでPMCに雇用されてイラクやアフガニスタンで危険な仕事に従事する労働者階級のことだ。

この対立構造は、主人公の親友がイラクで死んだあと、故郷リバプールの教会で行われた葬儀でのシーンで鮮明になる。形式的なお悔やみのコトバを述べるスーツ姿のPMC幹部と死者の友人たちとの階級差。


この映画の主人公は、米国映画でアカデミー賞を受賞した『ハートロッカー』のような地雷除去のスペシャリストであるプロの陸軍軍人ではない。武装はしているが、あくまでも「私服を着た民間人」という扱いである。

法的にいって戦闘員ではない民間人(シビリアン)。この法的なあいまいさについて知ることができるのは、この映画の啓蒙的な一面だ。

映画そのものは、エンターテイメント作品としては、ちょっとイマイチというのが、わたしの正直な感想だ。イラクのシーンがほとんど出てこないので、『ハートロッカー』のようなイラク戦争ものとは、かなり異なる映画である。戦争映画ではない

英国の当時の首相ブレアが、米国の尻馬に乗って、証拠をでっち上げてまでイラク戦争に参戦したそのつけが回ってきたのは、結局のところ、オックスフォード大学に進学するような支配階級ではなく、労働者階級の男たちである。そして女たちだ。

そういう現実を見据えることが、この映画を見る際に必要なことだ。しかも、正規軍の兵士ではないから、死亡しても国家からの叙勲も年金支給もないという現実。

PMCのビジネスを、戦場の最前線という現場に立つ人間からみる視点がこの映画にはある。





<近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える>

P.S. 長すぎる文章となってしまったので、もともとのブログ投稿文章を三分割することとし、本編もタイトルを変更した。それぞれ以下のとおりである。

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ① 

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきたた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②・・本編

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③



<関連記事>

「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)

『ルート・アイリッシュ』公式サイト

Route Irish Trailer (映画 『ルート・アイリッシュ』トレーラー)

ヤバい仕事は俺たちに任せろ!-英軍の3倍を誇る民間軍事会社の実態 (GQ JAPAN、2014年12月8日)
・・「デンマークの警備会社から出発した民間軍事会社G4Sは、刑務所の運営代行から空港の警備、グルカ族の武装警備隊の編成に至るまで、世界中にサービスを拡大している。その勢いは、”日の沈まない帝国”にたとえることすらできそうだ・・(中略)・・民間軍事会社とは要するに、施設警備や現金輸送といった警備会社の延長線上の業務を武装が必要な危険地帯で行いつつも、傭兵のような本格的な戦闘員とは一線を画す後方要員の集合体と呼んでよさそうだ。」

(2015年6月10日 情報追加)



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書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争・・2010年度アカデミー賞作品

書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」

書評 『封建制の文明史観-近代化をもたらした歴史の遺産-』(今谷明、PHP新書、2008)-「封建制」があったからこそ日本は近代化した!

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)
・・三十年戦争のなか、荒廃したドイツをたくましく生きぬく主人公






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2012年4月27日金曜日

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ①

いまや国際紛争解決になくてはならないPMC(民間軍事会社)は「傭兵」ビジネスそのものではない

この本を読むまで、わたしはPMC(=Private Military Company:民間軍事会社)は傭兵ビジネスなのだと思い込んでいた。

どうも『戦争の犬たち』や『ワイルドギース』の印象がつよすぎて、同じようなものだろうと思い込んでいたのだ。

思い込みほど怖いものはないと痛感している。実際は、正規軍では対応できない要人警護やロジスティックスなどの業務を請け負うアウトソーシングに近いようだ。

とはいっても、活動場所は戦場の最前線だ。半端な業務ではない。広い意味での「傭兵」といってもいいのかもしれない。ただし、戦闘行為には関与しない。

民間軍事会社は、冷戦崩壊後の環境変化によって国際紛争の内容が変質した状況に対応して急速に発展したあたらしいビジネスだ。本書によれば米国と英国、そしてフランスという世界の軍事先進国の退役軍人たちがたちあげたビジネスである。

PMCが一気にブレークしたのは、2003年にはじまったイラク戦争である。

ブッシュ政権のもと戦争に突入したアメリカは、戦争の大義があやふやなままの状態であったため、犠牲者数をミニマムにするためには限られた数の兵員で戦うことを余儀なくされた。その結果、正規軍の補助としてPMCを積極的に使用することになったのである。つまり、需要と供給がそこに見られるのであり、21世紀に入ってから、きわめて短期間で急成長したビジネスでもある。

どんなビジネスもそうだが、ひとつの産業が誕生してからしばらくは、有象無象(うぞうむぞう)が参入してきて混戦状態となるものだ。しばらくすると、正常化のために企業同士でコミュニケーションがとられるようになり、悪質な業者が淘汰されていく。つまり一つの産業として確立し、認知されていくのだが、PMCもまた同じプロセスをきわめて短期間のうちにたどったことを本書で確認することができる。

発展途上国の安い労働力を利用することで成立しているPMC。先進国と発展途上国のあいだに存在する経済格差、人件費格差が、PMCビジネスを成立させていることも指摘されている。つまり、きわめて資本主義原則に則ったビジネスであるわけだ。

武装しながらも軍人ではないPMC社員はシビリアンである。この法的にはきわめてあいまいな存在が、ときに大きな軋轢(あつれき)を生み出すのであるが、著者によればいまやPMCの存在抜きに国際紛争解決は不可能であることが納得させられる。

自衛隊による国際平和維持活動の中心は施設部隊によるインフラ建設が中心だが、このような業務もまた民間の建設業者のほうが効率的といえば効率的だ。そう考えると、日本の国際支援のカタチも将来的には変化していくと考えてもいいのかもしれない。

マスコミ報道されながらも実態のよくわからないPMCについて、読者の蒙を啓いてくれる良質なレポートである。


<初出情報>

■bk1書評「いまや国際紛争解決になくてはならないPMC(民間軍事会社)は「傭兵」ビジネスではない」投稿掲載(2011年4月22日)
■amazon書評「いまや国際紛争解決になくてはならないPMC(民間軍事会社)は「傭兵」ビジネスではない」投稿掲載(2011年4月22日)





目 次

プロローグ
第1章 襲撃された日本人
第2章 戦場の仕事人たち
第3章 イラク戦争を支えたシステム
第4章 働く側の本音
第5章 暗躍する企業戦士たち
第6章 テロと戦う影の同盟者
第7章 対テロ・セキュリティ訓練
第8章 ブラックウォーター・スキャンダル
エピローグ
あとがき
主な民間軍事会社(PMC)一覧
参考資料および取材・インタビュー先

著者プロフィール

菅原 出(すがわら・いずる)

1969年、東京生まれ。中央大学卒業後、1993年から98年までオランダに留学し、アムステルダム大学に学ぶ。在蘭日系企業勤務、東京財団リサーチ・フェローなどを経て、現在は国際政治アナリスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

<近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える>

P.S. 長すぎる文章となってしまったので、もともとのブログ投稿文章を三分割することとし、本編もタイトルを変更した。それぞれ以下のとおりである。

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ① ・・・本事

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③


<関連記事>

「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)

『ルート・アイリッシュ』公式サイト

Route Irish Trailer (映画 『ルート・アイリッシュ』トレーラー)

ヤバい仕事は俺たちに任せろ!-英軍の3倍を誇る民間軍事会社の実態 (GQ JAPAN、2014年12月8日)
・・「デンマークの警備会社から出発した民間軍事会社G4Sは、刑務所の運営代行から空港の警備、グルカ族の武装警備隊の編成に至るまで、世界中にサービスを拡大している。その勢いは、”日の沈まない帝国”にたとえることすらできそうだ・・(中略)・・民間軍事会社とは要するに、施設警備や現金輸送といった警備会社の延長線上の業務を武装が必要な危険地帯で行いつつも、傭兵のような本格的な戦闘員とは一線を画す後方要員の集合体と呼んでよさそうだ。」

(2015年6月10日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争・・2010年度アカデミー賞作品

書評 『封建制の文明史観-近代化をもたらした歴史の遺産-』(今谷明、PHP新書、2008)-「封建制」があったからこそ日本は近代化した!

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)
・・三十年戦争のなか、荒廃したドイツをたくましく生きぬく主人公





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芥子坊主(けし・ぼうず)-ヒナゲシは合法です(笑)



もう芥子坊主ができてます。

けし・ぼうず。ケシの花が散って実となったもの。

ケシはケシですが、でもこの実からアヘン(阿片)はとれません。ヒナゲシですから合法です(笑)。うちの周辺に自生しています。

最初は誰かが植えていたものかもしれません。
しかし、なんせ繁殖力が強い。生命力が強い。

人の手がほとんど加わっていない天然のガーデニング状態。下の写真はつぼみです。





ヒナゲシも、タンポポも、カラスノエンドウも、みな勝手にやってきては、それぞれの場所を占有しています。

花を咲かせるときだけは人の目にもふれますが、花が散って実ができたあとは、もう誰の関心も引かなくなります。だから、こんなにヒナゲシが拡散していたとは、この時期にならないと気がつくことすらないわけですね。

まあ、そんなものかな。べつに植物は、人に見てみらいたくて花を咲かせるわけではないのだし・・・






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片隅で可憐に咲くちいさなすみれ



すみれの花が目に入りました。

山路来て 何やらゆかし すみれ草 (芭蕉)

これは山路ではなく、街中の道路の片隅。
砂利まじりのアスファルトとコンクリートの壁のはざまのわずかな空間。

片隅に可憐に咲く、ちいさな「すみれ」。
けなげに、しかし力強く生きてます。

この時期に目に入るのは、真っ黄色に咲くたんぽぽと、オレンジ色のひなげし。
しかし、足許をみたらほら、すみれの花が!

まさに「一隅を照らす」という表現にぴったりのすみれ。
すみれの花ことば、「謙虚・誠実・慎み深さ」。

そんな「すみれ」に惹かれます。



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(2014年8月25日 項目新設)



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八重桜は華やかで美しい




関東では八重桜の季節になっています。

ほぼ一斉に開花して、パッと散っていくソメイヨシノ(染井吉野)も悪くはないですが、八重桜のほうが華やかでいいような気もします。華やかというかゴージャスというか。

八重桜もいろんなバリエーションがあります。

冒頭に掲げたのは、やや白みがかったピンク。八重桜のつぼみは、バラのつぼみによく似てますよね。サクラもまたバラ科です。梅・桃・桜、みんなバラ科です。なんとなく「バラの包みの高島屋」の包装紙に似ているような気も。

桜は全部開花していないほうがいい。これは個人的な感想ですが。

もちろん、すべて開花している八重桜もステキです。淡いピンクの八重桜が爽やかでいいですね。





いにしへの ならのみやこの やえざくらけふ ここのへに にほひぬるかな

百人一首にも再録された伊勢大輔(いせのたいふ)の歌。平安時代中期の女流歌人です。九重(ここのえ)とは宮中の意味。

ソメイヨシノ(染井吉野)だけが桜ではないのです。生物多様性の議論をするわけではありませんが、桜の楽しみ方にもバリエーションがあって当然。ひとそれぞれに楽しみたいものです。


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(2014年2月24日 情報追加)


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2012年4月26日木曜日

タンポポの花をよく見たことがありますか?-春の自然観察




タンポポの花をよく見たことがありますか?

この時期になると、あたり一面が真っ黄色になるほど咲くタンポポ。どうしても、たんぽぽは黄色い花と綿帽子しか目に入りませんが、たまには花の一輪そのものに注目してみましょう。

タンポポの花は、ギザギザがあるので「ライオンの歯」であるとフランス人は形容して dent de lion(ダン・デ・リオン) と名づけました。これが英語に入って dandelion(ダンデライオン)に。

タンポポの花はギザギザがあるので花びらがたくさんあるように見えますが、ほんとうは一輪の花です。wikipedia によれば、「舌状花と呼ばれる小さな花が円盤状に集まり、頭花を形成している。そのため、頭花が一つの花であるかのように見える(これは、キク科植物共通の特徴である)」、とあります。

これは、タンポポの花を拡大して撮影したものです。

よおく見て下さい。ゼンマイのような、あるいはハサミの取っ手のような形をしたものが見えますね。めしべです。このまわりにおしべがあって、受精すると、これが綿毛のついたタネとなるわけです。

タンポポの綿帽子は手にとって、息を吹きかけて散らしてみたことはあるでしょう。

たまには、咲いているタンポポの花に目を近づけて観察してみましょう。きっと、いろんな不思議なことが目に入ってくるはずですよ。いまのこの時期しかできないことですから。



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2012年4月25日水曜日

書評『官報複合体 ー 権力と一体化する新聞の大罪』(牧野洋、講談社、2012)ー「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのものだ!

「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのもの、つまり官僚情報の垂れ流しだ

日本経済新聞で20年にわたって経済記事を書いてきた元・編集委員が新聞社を「脱藩」してはじめて書くことのできたジャーナリズム論だ。

ウェブマガジン『現代ビジネス』(講談社)に連載された記事を再構成して加筆したものである。

すでに一部はウェブでも読んでいたが、あらためて通読すると日本の新聞メディアの構造的問題が浮かび上がってくるのを実感した。

いまから十数年前になるが、ある日系の石油会社のエグゼクティブから、「(とくに月曜日の)日本経済新聞の一面は政府の垂れ流し記事だから、まったく読む必要はない」という話を聴いたことがある。つまり日経の一面は「官報」となんら変わりがないということだ。

それ以来、わたしは新聞とは距離を置いて接するようにしてきたが、本書のタイトルを見て真っ先に思ったのはそのエピソードであった。

著者は、政「官」と「報」道(=マスコミ)報道の複合体のことをさして「官報複合体」というのだが、わたしは、読んで字の如く「官報」、すなわち官僚情報の垂れ流しと受け取っても問題ないと思う。日本の新聞は官報そのものなのだ。

ピューリッツァー以来の本来あるべきジャーナリズムの機能とは、権力を監視するウォッチドッグ(=番犬)にあるはずだ。だが、日本の新聞には市民の目線から権力をチェックする権力監視型報道は皆無である。

速報性においてはインターネットにはるかに劣るのにかかわらず、いまだに通信社機能が全面にでている日本の新聞社の姿勢。米国を過度に持ち上げる必要はないが、それにしても日本の新聞はひどすぎる。

これは、「3-11」の原発事故報道によって、多くの国民は痛感したことだろう。日本の新聞においては、ジャーナリズムにおいてもっとも重要なファクト・ファインディングが行われていないのだ。日本ではむしろ、日本の新聞社系列ではないため記者クラブから締め出されている雑誌記事のほうがより「調査報道」に近い

米国を代表する経済紙WSJ(=ウォール・ストリート・ジャーナル)と日本経済新聞の違いもまた、本書を読んでいてつよく印象づけられた。現在のWSJはメディア王マードックの傘下に入って変質してしまったようだが、記者クラブのない米国の新聞ジャーナリズムの基本線をつくったのがWSJであったというのは、ジャーナリズムの世界には詳しくないわたしには意外な話だった。

問題は、この期に及んでも、テレビと新聞以外の情報源をもたない国民が多数を占めることだ。帯の文句ではないが、「今すぐ新聞をやめなければあなたの財産と家族が危ない!」というのは、けっして誇張でもなんでもない。わたし自身、新聞購読をやめてから3年になるが、仕事でも生活でもまったく困っていない。

果たして日本の新聞社に自浄作用はあるのだろうか。それとも、根こそぎ崩壊してしまうのだろうか・・・。

<初出情報>

■bk1書評「「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのもの、つまり官僚情報の垂れ流しだ」投稿掲載(2011年4月4日)
■amazon書評「「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのもの、つまり官僚情報の垂れ流しだ」投稿掲載(2011年4月4日)





<書評への付記>

わたしはすでに新聞を読まなくなってだいぶたつ。だが、雑誌は読んでいる。新聞よりも、はるかに深い分析が行われているからだ。しかも、事実究明(ファクト・ファインディング)にかんしては、新聞よりもはるかに執拗に行っている。

また、シンクタンクやコンサルティング会社のレポートのほうが、バイアスが存在するとはいえ、徹底的な事実重視を基本姿勢としている点において「調査報道」に近いのではないかという気もする。

しかし、シンクタンクやコンサルティング会社といえども、株主や取引先の意向とはまったく独立に意見表明はできないものだ。

もちろん、完全に独立した言論というものは原理的にありえない。自分もふくめた、かならず何かの立場に基づいた見解であり、発言であるからだ。

しかし、ある特定の勢力に気兼ねして本当のことについて書かないばかりか、あきらかに偏向した見解を、あたかもそれがただしい見解であるかのように語る傾向のある日本の新聞マスコミに対する批判はますます根強いものとなる傾向にある。

これはテレビも同罪である。日本の地上波のテレビ局が、NHKを除けば、すべて新聞社系列であるから、これは当然といえば当然だ。

ただし、新聞社であれ、テレビ局であれ、個々の記者たちに問題意識がないというわけではない。「個」としての記者には良心もあれば、気概もあるはずだ。

だが、日本人は見えない「世間」という縛りのなかで生きているので、ついつい組織の意向に同調していまいがちだ。著者の牧野氏もまた、日本経済新聞社のなかにいるときは、言いたいことがいえない、書いた記事がそのまま掲載されないという悔しさを感じ続けていたようだ。

「世間」が支配する日本においては、新聞記者は組織の外に出ない限り、存分に活動することはできないのである。一人でも多くの新聞社社員が「脱藩」して、本来の意味のジャーナリストになってほしいものだ。

新聞社も読者離れがすすめば、ビジネスである以上、限られたパイ(=購読者=市場)をめぐる競争のなかで淘汰される会社もでてくるだろう。そのときこそ、ほんとうの競争が始まるのである。

ほんとうの競争がはじまって、新聞社が本来の役割を取り戻してほしい。会社なんだから、差別化を打ち出せばいいのだ。記事の中身で勝負すべきなのだ。


<関連情報>

牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」
・・本書のもとになったオンライン・マガジン連載の原稿


<ブログ内関連記事>

『報道災害【原発編】-事実を伝えないメディアの大罪-』 (上杉 隆/ 烏賀陽弘道、幻冬舎新書、2011)-「メディア幻想」は一日も早く捨てることだ!

『大本営参謀の情報戦記-情報なき国家の悲劇-』(堀 栄三、文藝春秋社、1989 文春文庫版 1996)で原爆投下「情報」について確認してみる

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)




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2012年4月23日月曜日

World Book Night (ワールド・ブック・ナイト)という本が好きな人たちのためのイベントが今夜(2012年2月23日)英国で行われます



新月の今夜(4月23日)、 World Book Night(ワールド・ブック・ナイト) という、読書好きのためのイベントが英国で開催されます。

合計100万冊(!)の本を、ボランティア2万人(!)が、ロンドンのトラファルガー広場などで無料で配るというイベントです。

手渡しで本を渡しながら、'This one's amazing, you have to read it.' (この本はすっごくいいから、ぜひ読んでね!)と声をかけるのです。 いいですね!

配布されるのは全部で25タイトル、各4万冊で合計100万冊。タイトルを選ぶのは、出版者や書店員、ジャーナリストや図書館員などからなるイベントの委員会です。

英国の独立系出版社 Canongate Books の Jamie Byng 氏の発案によるもので、出版社協会(Publishers Association)、書籍販売協会(Booksellers Association)、英国読書協会(Reading Agency with Libraries)や BBC などが協力しています。

日本とは時差があるので、日本より8時間遅れですが、まだ新月。くわしくは facebookページをご覧になってください。 http://www.facebook.com/worldbooknight (英語)

ロンドンにはいないのでこのイベントを目撃することができないのは残念ですが、読書離れ(?)のつづく日本、こういう思い切ったイベントで巻き込むことは大いに意味あることかもしれませんね。

このWorld Book Night(ワールド・ブック・ナイト) にあわせて、書店でもディスカウントセールを行ったりして、本好きが一人でも増えるように盛り上げているようです。わたしは、この情報は、英国の専門書店 Blackwell's のメールマガジンで知りました。

すでに同じ英語圏のアイルランドやアメリカにも拡がっているようです。  
http://www.facebook.com/worldbooknightusa (英語)

ドイツでも開催。すでに英語圏の外に飛び出しています。
http://welttag-des-buches.de/de/470211#cover-22 (ドイツ語)

英語圏からはじまったこのイベント、世界中に広まるといいなあ、と思います。



<関連サイト>

World Book Night 公式ウェブサイト

Blackwell's (英国の専門書店 公式サイト)




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