近所のスーパーでスペイン産のニンニクを売っていたので購入した。闘牛のイラストがなんだか妙に説得力があるね。パワー全開!(笑)
日本国内で流通している格安ニンニクは中国産が多いが、スペイン産はめずらしい。基本的に国内産愛用の立場から、いつもは青森産を買っているのだが、珍しさもあってスペイン産を試してみることにした。日本国内で流通している塩漬けタネ抜きオリーブは大半がスペイン産だが、ニンニクにもスペイン産があるわけだ。
ニンニクを包んだ網についているタグには San Isidoro Ajo Santo とある。スペイン語なので、「サン・イシドロ アホ・サント」と読む。
ニンニクはスペイン語でアホ(ajo)。「j」はスペイン語では「x」音。完全に一致ではないが、日本語のハ行の音で代用可能。英語だとガーリック(garlic)なので、ずいぶんと違う印象を受ける。
さらにいえば、雌牛はスペイン語でバカ(vaca)。スペイン語の「v」音は「b」音に同じなので、めずらしく日本人にも発音しやすい。雌牛の群れはバカだ(vacada)というのも、日本語人としては笑ってしまう。
奇しくもこの「スペイン産ニンニク」のタグにはアホとバカが共存している。もちろん、このイラストは雌牛ではなく雄牛っぽいので、バカ(vaca)ではなくトロ(toro)というべきだろうが・・・。
「サン・イシドロ アホ・サント」は、スペインのニンニク生産農家の協同組合のものらしい。
サン・イシドロ(San Isidoro)は、正確には San Isidoro de Sevilla とあるように、スペインのセビーリャの聖イシドールスのことだ。5世紀から6世紀にかけて活躍した「後期ラテン教父」なかで最も重要な神学者の一人。 30年以上セビーリャ大司教を務めた人で、カトリックでは「インターネット利用者およびプログラマー」の守護聖人となっている。
だが、この聖イシドールスとニンニクには直接の関係はなさそうだ。関係があるのは、サン・イシドロという地名だけである。
カトリックの聖者でニンニクと関係があるのは、11世紀から12世紀にかけてのドイツの聖女ヒルデガルド・フォン・ビンゲン(Hildegard von Bingen)である。
(聖ヒルデガルド・フォン・ビンゲン wikipediaより)
『ニンニクと健康』(フルダー/ブラックウッド、寺西のぶ子訳、晶文社、1995)という本には、鉱物学や医学や薬草学など、さまざまな実用的な学問に通じていた神秘家の聖ヒルデガルドによるニンニクの効用が引用されているので、ここに孫引きしておこう。
ニンニクは、健やかな人にも病める人にも健康を与えてくれる。ニンニクは生で食べる方がよい。調理すると効き目が弱くなるからだ。ニンニクを食べても目が痛くなったり、目の周辺の血管が強い刺激を受けたりはしない。むしろ、ニンニクによって目はすっきりする。
身体の血液が暖まりすぎるといけないので、ニンニクは適度に摂るのが望ましい。実際のところ、もしニンニクを食べることを禁止されたら、人の健康と力は失われていく。だが、食品と混ぜて適当な量だけ食べれば、力をとりもどせる。
日本の禅寺には、「不許葷酒入山門」(=葷酒、山門に入るを許さず)と彫られた石柱が立っていることが多い。ニンニクなどの刺激物は摂取が禁じられていたのは、男子出家僧中心の僧坊が女人禁制であったことと関係がある。刺激物は修行の妨げとなるからだ。ベネディクト会系の女子修道院長であった聖ヒルデガルドの発言とは真逆なのが興味深い。しかもナマで食べる方が良い、だとは。
ニンニクといえは吸血鬼ドラキュラという連想があるが、ドラキュラはバルカン半島のルーマニア地方の伝説である。ニンニクはドラキュラの天敵だが、じつは栽培にあたっては、コンパニオン・プランツ(companion plants)として、どんな植物とも相性がいいようだ。
もともと和食ではネギ以外の薬味はあまり使用されず、ニンニクを食べる習慣はなかった。中国人や韓国人との大きな違いである。肉食民族と魚食民族の違いというべきか。いまでは中華料理や韓国料理の普及、食の洋風化、とくにイタリア料理の普及にともなって、家庭でもニンニクは常用されるようになっている。
いまでも匂いがきつい、口臭が心配だという日本人が多いが、ニンニクを食べないのはもったいない。「もしニンニクを食べることを禁止されたら、人の健康と力は失われていく」という聖ヒルデガルドの発言を想起したいものだ。へんなサプリなんかより、はるかに効くはずだ。
<関連サイト>
天才レシピ「バカのアホ炒め」
・・料理研究家・平野レミ氏のレシピ 「スペイン語でバカは牛。アホはニンニク。バカみたいに簡単にできるのに、アホみたいに美味しい、天才的なレシピです。ごはんにのっけてもよし。パスタにのっけてもよし。平野レミの大ヒット・レシピのひとつです。」
(2015年7月15日 項目新設)
<ブログ内関連記事>
「スペイン料理」 の料理本を 3冊紹介
猛暑の季節こそ「とうがらし」!
「生命と食」という切り口から、ルドルフ・シュタイナーについて考えてみる
・・Man is what he eats. (人間は、食べるところのものである)は、やさしくいいかえれば You're what you eat.
書評 『食べてはいけない!(地球のカタチ)』(森枝卓士、白水社、2007)-「食文化」の観点からみた「食べてはいけない!」
邱永漢のグルメ本は戦後日本の古典である-追悼・邱永漢
『檀流クッキング』(檀一雄、中公文庫、1975 単行本初版 1970 現在は文庫が改版で 2002) もまた明確な思想のある料理本だ
・・「この全篇をつらぬく主張が、「あるものは何でも使い」「ないものはないですませるに限る」調理思想だという、そのことの重大さが、次に問題にされなければならない。 檀氏は、少なくとも「食」に関して、われわれに身近な民族でいえば、中国人にこそ最も近い人物であるだろう。・・(中略)・・本書を通じて、味の引き出し方の基本が、ニンニクとショウガ、そしてしばしばネギでおこなわれるのも檀氏の「中国」的ホンネをほうふつさせるが、「ない材料(もの)はなくて済ませるに限る」たくましい思想を根強く生ませたのかもしれない、とかんがえることは大事だと思う。」(荻政弘氏による解説より)
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