2020年9月25日金曜日

書評『そのとき、西洋では ー 時代で比べる日本美術と西洋美術』(宮下規久朗、小学館、2019)ー 同時代の西洋と日本をで美術作品を比較しながら見ていくと、いろいろ発見があって面白い。


コロナのせいで、美術館もなかなか正常稼働とはいかない状況だが、そんなときだからこそ、美術作品ではなく本を読む機会としたいものだ。


バロック時代の西洋美術、とくにカラヴァッジョを専門にしている著者による東西美術比較のエッセイ。同時代の西洋と日本を、先史時代から現代まで美術作品を比較しながら見ていくと、いろいろ発見があって面白い

ユーラシア大陸の西端にある西洋で発達した美術、ユーラシア大陸の東端の島国・日本で発達した美術。とくに日本美術は、中国美術の圧倒的影響下にあって独自進化してきたものだけに、西洋と日本を比較するには、中国美術にも目を向けざるをえない。したがって、本書の内容は、西洋と東洋(日本と日本に影響を与えた中国)との比較となる。

16世紀から18世紀にかけての「近世」が、日本美術にとっては大きな意味をもつ。大航海時代にポルトガルを筆頭に西洋文明と接触した日本だが、キリスト教を禁教化したために、同時代の西洋のバロック美術の圧倒的影響を免れることになったことになる。

日本美の極地ともいうべき琳派の存在。こういう視点で見ると日本美術の意味も明確になってくる。

とくに興味深いのが18世紀の「二都物語」。京都とヴェネツィアの二都物語。18世紀の京都は伊藤若冲を筆頭に「日本美術の黄金時代」。衰退期にあったヴェネツィア共和国は、平和を享受するなかで文化の花が開いた。ともに世界的な観光都市となって現在に至る

このほか、第2次世界大戦中の日本とドイツの「戦争画」を再評価すべきだとの見解など、なかなか面白い記述が多い。収録されているのが、すべてモノクロ写真であるのが残念だが、美術ファンなら、読めば得ること多い本だと思う。


画像をクリック!


目 次
第1章 先史から古代-オリジナルの誕生
第2章 中世-相違するものと類似するもの
第3章 近世-並行する二つの歴史
第4章 近代から現代-共振する美術
結 西洋美術と日本美術 

著者プロフィール
宮下規久朗(みやした・きくろう)
神戸大学大学院人文学研究科教授、美術史家。1963年名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


 <ブログ内関連記事>

■日本美術(*独自の発展を遂げた近世日本美術を中心に)







■西洋美術(・・同時代の近世日本美術が影響を受けなかったバロックを中心に)


エル・グレコ展(東京都美術館)にいってきた(2013年2月26日)-これほどの規模の回顧展は日本ではしばらく開催されることはないだろう

「グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家」(国立西洋美術館)に行ってきた(2015年3月4日)-忘れられていた17世紀イタリアのバロック画家がいまここ日本でよみがえる!

「ルーベンス展-バロックの誕生-」(国立西洋美術館)に行ってきた(2019年1月3日)-南部ネーデルラントが生んだバロックの巨人をイタリア美術史に位置づける試み

『ウルトラバロック』(小野一郎、小学館、1995)で、18世紀メキシコで花開いた西欧のバロックと土着文化の融合を体感する

上野公園でフェルメールの「はしご」-東京都立美術館と国立西洋美術館で開催中の美術展の目玉は「真珠の「●」飾りの少女」二点


(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!

 (2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!

(2020年5月28日発売の拙著です 画像をクリック!

(2019年4月27日発売の拙著です 画像をクリック!

(2017年5月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!


 



ケン・マネジメントのウェブサイトは

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。

禁無断転載!








end