コロナのせいで、美術館もなかなか正常稼働とはいかない状況だが、そんなときだからこそ、美術作品ではなく本を読む機会としたいものだ。
バロック時代の西洋美術、とくにカラヴァッジョを専門にしている著者による東西美術比較のエッセイ。同時代の西洋と日本を、先史時代から現代まで美術作品を比較しながら見ていくと、いろいろ発見があって面白い。
ユーラシア大陸の西端にある西洋で発達した美術、ユーラシア大陸の東端の島国・日本で発達した美術。とくに日本美術は、中国美術の圧倒的影響下にあって独自進化してきたものだけに、西洋と日本を比較するには、中国美術にも目を向けざるをえない。したがって、本書の内容は、西洋と東洋(日本と日本に影響を与えた中国)との比較となる。
16世紀から18世紀にかけての「近世」が、日本美術にとっては大きな意味をもつ。大航海時代にポルトガルを筆頭に西洋文明と接触した日本だが、キリスト教を禁教化したために、同時代の西洋のバロック美術の圧倒的影響を免れることになったことになる。
日本美の極地ともいうべき琳派の存在。こういう視点で見ると日本美術の意味も明確になってくる。
とくに興味深いのが18世紀の「二都物語」。京都とヴェネツィアの二都物語。18世紀の京都は伊藤若冲を筆頭に「日本美術の黄金時代」。衰退期にあったヴェネツィア共和国は、平和を享受するなかで文化の花が開いた。ともに世界的な観光都市となって現在に至る。
このほか、第2次世界大戦中の日本とドイツの「戦争画」を再評価すべきだとの見解など、なかなか面白い記述が多い。収録されているのが、すべてモノクロ写真であるのが残念だが、美術ファンなら、読めば得ること多い本だと思う。
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目 次
第1章 先史から古代-オリジナルの誕生
第2章 中世-相違するものと類似するもの
第3章 近世-並行する二つの歴史
第4章 近代から現代-共振する美術
結 西洋美術と日本美術
著者プロフィール
宮下規久朗(みやした・きくろう)
神戸大学大学院人文学研究科教授、美術史家。1963年名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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■西洋美術(・・同時代の近世日本美術が影響を受けなかったバロックを中心に)
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