「5月9日」はロシアの77回目の「対独戦勝記念日」ということで、メディアでは大いに関心が高まっていた。プーチンが演説でなにを言うのか、と。「戦果」についての報告があるのか、あるいは「特別軍事作戦」から「戦争状態」への切り替えが宣言されるのか、と。
専門家ではないとはいえ、わたしも大いに関心があるので、ネットでTBSによるモスクワの「赤の広場」からの「LIVE中継」を最初から最後まで視聴した。日本時間16時(モスクワ時間10時)に始まった式典は、約1時間半にわたって中継された。
結論としては、戦果についての報告も、戦争状態の宣言もなかった。しかも、予想されていた「航空ショー」もなかった。というわけで、モスクワからのLIVE中継は、なんだか尻切れトンボみたいな感じで終わってしまった。
視覚効果を狙ってナチスドイツが様式美として完成させたものだが、おそらくロシア国民は、さぞかし愛国心をかき立てられたことだろう。 さまざまなカメラアングルで撮影された映像は、主役はあくまでも将兵であるという演出である。自走式のカメラによる下からのアングルもある。
演説内容については、同時通訳ではザックリとしかわからなかったが、プーチンの「世界観」がよくわかるものであった。
内部の求心力を高めるため設定された邪悪な「外敵」の設定。ナチとネオナチ。これですべてを説明するロジック。これまた、戦勝記念日の演説としては、多くのロシア国民にとって納得のいくものだったろう。
コメンテーターが後付けで説明しているように、内向きといえばその通りである。だが、7年前の70周年とは違って、今回は外国からの賓客はいない完全な国内イベントなので、当然といえば当然だ。
■「無名戦士の墓」と「英雄都市のモニュメント」での献花
LIVE中継を見ていると、軍事パレード終了後にプーチン一行は「赤の広場」の外に出て「無名戦士の墓」に移動し、献花を行って黙礼を行った。献花は、厳粛なシーンである。
ニュースバリューがないと見なされて、ロシア国外のニュースでは取り上げられないのだろうが、「戦勝記念日」のイベントにおいては重要な位置づけがされているようだ。むしろ、軍事パレードよりも、こちらのほうがはるかに意味のある行為なのだろう。
「対独戦」では、なんせソ連全体で 2600万人(!)も死んでいるのである。日本人的には想像を絶する死者数であり、戦没者に礼を尽くすのは当然の行為だろう。
(無名戦士の墓に献花し一礼 LIVE中継映像よりキャプチャ)
「無名戦士の墓」での赤いカーネーションによる献花のあとは、「英雄都市のモニュメント」での献花が行われていた。「英雄都市」とは、wikipediaの記述によれば、以下のようなものだ。
1941年から1945年にかけての「大祖国戦争」(第二次世界大戦の独ソ戦)において、ドイツ軍などの侵略に対して激しく抵抗し、傑出した英雄的行為を見せたソビエト連邦の都市に対して贈られた名誉称号である。合計で12箇所の都市に対して贈られ、加えてブレスト要塞に対しては英雄都市と同格の「英雄要塞」の名誉称号が与えられた。都市にとってのこの称号は、個人にとってのソ連邦英雄の称号と等しい重みを持つ。
「赤の広場」には、いまから20年前に訪れたことがあるが、「無名戦士の墓」や「英雄都市のモニュメント」については、訪れたことはない。今回はじめて知った。
注目したいのは「英雄都市」が並んでいる順番である。それは献花の順番でもある。
まずは、レニングラード(現在のサンクトペテルブルク。プーチンの出身地でもある)、つぎの右となりはキエフであり、スターリングラード(現在はヴォルゴグラード)、セバストーポリ、オデッサ・・とつづく。
(左がレニングラード、右がキエフ 中継映像よりキャプチャ)
(スターリングラード。現在のヴォルゴグラード 同上)
(セヴァストーポリ クリミアの軍港である 同上)
(オデッサ=オデーサ 同上)
いずれも独ソ戦の激戦地である。しかも、現在のウクライナの都市が3つもある。 プーチンの「世界観」において、キエフ(=キーウ)やセバストーポリ(クリミア内)、オデッサ(=オデーサ)は、切り離せない存在なのであろう、と。なぜ、そこまでキエフにこだわっているのかが、垣間見られるような気がした。
おそらく、毎年5月9日には、おなじ行為を行っているのだろう。であればこそ、それはプーチンのなかでは信念に近いものとなっているのではないか? ある種の「刷り込み」である。
だが、もしかすると、プーチンにとっては、これが最後の「戦勝記念日」となるかもしれない。その可能性はゼロではない・・・
ほかにも、いろいろ感想はあるが、「無名戦士の墓」への献花に絞って書いてみた。
<関連サイト>
・・「赤の広場」で行われた対独戦勝記念パレード1945年。レーニンとスターリン
(2022年5月21日 情報追加)
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