史上最大の「市街戦」といえば、いうまでもなく「スターリングラード攻防戦」だろう。絶滅戦争となった「独ソ戦」の最大の山場の1つである。
「スターリングラード攻防戦」は、ヴォルガ川下流域の都市スターリングラード(・・ロシア国内。ソ連崩壊後はヴォルゴグラードに改称)の奪い合いとなった「市街戦」だ。1942年8月から翌年2月にかけての激戦で、最終的にドイツ軍がソ連軍に包囲されて全滅した。
その「世界最大の市街戦」を体感して追体験するために映画を見る。しかも、ドイツ側からではなく、ロシア側で製作された映画で。ハリウッド映画ではなく、ソ連崩壊後のロシア映画で。 それがこの『スターリングラード 史上最大の市街戦』(2013年、ロシア)だ。
この映画を見るのは初めてだが、いきなり日本語(!)の音声が流れてきたのに驚かされた。
一瞬、設定を間違えたか(?)と思ったがそうではなく、じきにロシア語に変わって日本語の字幕が登場。 プロローグは、なんと映画公開の2年前の「3・11」(2011年)の東北から始まるのだ。
津波で崩壊した街、瓦礫の下に生き埋めになったドイツ人の救助にあたるロシアから派遣されてきた救援隊員。この設定にも意味がある。「独ソ戦」では全面衝突した両国の国民だが、「恩讐を越えて」という人道的テーマの現れである。
地震と津波という自然災害と、戦争という人為的な災害には違いはあるが、一般市民が巻き込まれて犠牲になるという点では共通している。このプロローグが、この映画において重要な意味をもっており、エピローグでもふたたびそのシーンとなる。 日本、ドイツ、ソ連(ロシア)という因縁の関係。
映画は、そのロシア人の救援隊員の母がスターリングラード攻防戦で生き抜いた一人だという設定になって、紅一点の若き日の母と、最後まで戦い抜いて戦死していったソ連軍将兵たちが主人公たちとなる。
3D映像でCG使いすぎ、スローモーション多過ぎなので、ややマンガちっくだなという違和感があるものの、ロシア側(・・というよりも時代背景としてはソ連側)か描いたエンタテインメント作品として興味深い。 どうも現実のロシア人は、ロシア民謡に代表される、日本人が長年抱いていた固定観念とは違って、こういう派手なものが好きなようだ。
おそらく、ソ連軍にはロシア人だけでなく、ウクライナ人もモンゴル人も将兵として参加していただろうが(・・しかも映画でもセリフにでてくるが「ノモンハン」体験者も含まれる)、ロシア映画としてはロシア人を主人公にするのは不自然なことではない。
また、敵のドイツ人も人間として公平に描いており、この映画の制作年である2013年が、西側との関係悪化が始まった「クリミア併合」(2014年)以前のものであったことを想起するする必要があろう。
おそらく、ロシア人は「スターリングラード攻防戦」をロシアの国難として見なしているだろうし、「独ソ戦」の「戦勝記念日」(5月9日)を大々的に政治活用してきたプーチン政権もまたそれを強調してきた。
だが、そういった歴史的背景や政治的位置づけは別にして、「世界最大の市街戦」がどのようなものであったかを想像するためには、この映画を見る価値はあるだろう。
もちろん、ロシア映画史上最大のヒット作となったというこの映画は、あくまでもエンタテインメント作品として受け止めるべきだが。配給はソニーピクチャーズ。
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