2010年に「知の巨人」であった梅棹忠夫が90歳で亡くなってからすでに2年、この間に古巣である大阪・千里の国立民族学博物館では「ウメサオ・タダオ展」が開催され、関連する書籍も多数出版された。
また、この展覧会は東京では科学未来館で開催された。後者の会場も、つねに知のフロンティアを探検しつづけた梅棹忠夫にはふさわしい会場であった。
書評 『梅棹忠夫-「知の探検家」の思想と生涯-』(山本紀夫、中公新書、2012)は、梅棹忠夫から「最後の弟子」といわれた、アンデスをフィールドとする民族学者による梅棹忠夫入門である。
「二番せんじは、くそくらえ、だ!」と言い放ち、登山家として、探検家として、民族学者として、つねにみずからが開拓者(パイオニア)であり続けただけでなく、アジテーターとして後進の若者たちを焚きつけつづけた「知の巨人」。
本書は、梅棹自身による文章と、関係者の証言をうまくつかいながら、しかも身近で接触していた期間のみずからの経験もまじえた文章は読みやすい。
著者自身、京大では農学部に籍を置きながらも、梅棹の「私塾」に通ううちにアジテーションに乗せられて民族学の道を歩んだという。アジテートされた側の人なのである。学生時代に山登りに熱中し、理系から民族学に転じた学者という点は梅棹忠夫と共通しており、その意味で適任かもしれない。
とくに面白いのは、著者が国立民族学博物館に就職して以降の経験談だ。「耳どおし」による編集と校正作業など、目が見えなくなって以降の著作集編集のプロセスにかんする述懐はひじょうに興味深い証言である。
梅棹忠夫というとロングセラー『知的生産の技術』(岩波新書、1967)しか知らないという人にとっては、ぜひ『梅棹忠夫 語る』(聞き手 小山修一、日経プレミアムシリーズ、2011)とあわせて読んでほしい入門書である。
学問だけでなく、強靭な精神力によって大きな影響を与え続けて続けた梅棹忠夫は、まだまだ過去の人になったとはいいにくい。これからも影響を与え続けることであろう。
目 次
はじめに
第1章 昆虫少年から探検家へ
第2章 モンゴルの草原にて
第3章 ふたたびフィールドへ
第4章 東南アジアからアフリカへ
第5章 アジテーター
第6章 研究経営者
終章 未知の領域に挑んで
あとがき
著者プロフィール
山本紀夫(やまもと・のりお)
1943年、大阪府生まれ。京都大学農学部農林生物学科卒業、同大学大学院博士課程修了。1976年、国立民族学博物館助手、助教授、教授を経て、国立民族学博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。農学博士。専攻・民族学、民族植物学、環境人類学、第19回大同生命地域研究奨励賞、第13回松下幸之助花の万博記念奨励賞、第8回秩父宮記念山岳賞受賞。著書は『ジャガイモとインカ帝国』(東京大学出版局、2004)他多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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書評 『梅棹忠夫 語る』(小山修三 聞き手、日経プレミアシリーズ、2010)
・・最晩年の放談集。日本人に勇気を与える元気のでるコトバの数々
企画展「ウメサオタダオ展-未来を探検する知の道具-」(東京会場)にいってきた-日本科学未来館で 「地球時代の知の巨人」を身近に感じてみよう!
書評 『梅棹忠夫-未知への限りない情熱-』(藍野裕之、山と渓谷社、2011) -登山と探検という軸で描ききった「知の巨人」梅棹忠夫の評伝
書評 『梅棹忠夫のことば wisdom for the future』(小長谷有紀=編、河出書房新社、2011)
書評 『梅棹忠夫-地球時代の知の巨人-(KAWADE夢ムック 文藝別冊)』(河出書房新社、2011)
書評 『梅棹忠夫-知的先覚者の軌跡-』(特別展「ウメサオタダオ展」実行委員会=編集、小長谷有紀=責任編集、千里文化財団、2011)
梅棹忠夫の『文明の生態史観』は日本人必読の現代の古典である!
梅棹忠夫の幻の名著 『世界の歴史 25 人類の未来』 (河出書房、未刊) の目次をみながら考える
『東南アジア紀行 上下』(梅棹忠夫、中公文庫、1979 単行本初版 1964) は、"移動図書館" 実行の成果!-梅棹式 "アタマの引き出し" の作り方の実践でもある
書評 『回想のモンゴル』(梅棹忠夫、中公文庫、2011 初版 1991)-ウメサオタダオの原点はモンゴルにあった!
梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (1) -くもん選書からでた「日本語論三部作」(1987~88)は、『知的生産の技術』(1969)第7章とあわせて読んでみよう!
梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (2) - 『日本語の将来-ローマ字表記で国際化を-』(NHKブックス、2004)
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