『シベリア最深紀行-知られざる大地の七つの紀行-』(中村逸郎、岩波書店、2016)という本を読んだ。
シベリアが、これほど多様性に富んだ、奥行きの深い、懐の大きな世界であるとは。想像を絶するとしかいいようがない、というのが感想だ。
著者の中村氏は筑波大学の人文科学系院教授。ロシア関連のコメンテーターとして情報番組によく出演している、ちょっとエクセントリックな印象のある人。ロシア人のナマの声を拾い上げる「現場主義」の研究スタイルの政治学者だ。その中村氏が、シベリア各地を回ってディープな世界をレポートしてくれる。
いかに知られざるディープな世界を巡っているかは、目次を見れば一目瞭然だろう。
序章 「神のやどる地」の伝説
第1章 「神の村」へ-アバラーク村の奇跡
第2章 イスラム教徒の村を訪ねて-シベリア・タタール人とイスラム過激派
第3章 極北の遊牧民を訪ねて-ネネツ人を呑みこむ大国ロシア
第4章 辺境の村を訪ねて-トゥヴァー人の幸福
第5章 閉ざされた山岳地帯の村を訪ねて-ロシア人旧教徒の伝統生活
第6章 密林地帯の流浪民を訪ねて-ゴレーンドル人の充足
終章 「第二のエルサレム」へ-コスモポリタニズムと多様性のシベリア
シベリアは、ウラル山脈の東側の地域で、北アジアに分類される地域である。中国との国境に近いチタあたりが、「狭義のシベリア」と「極東」(=ダーリニー・ヴォストーク)の境界になる。河川に注目すれば南北(・・ここでは、まさに南の水源から北極海に川は流れる)に幅広く、南の高山帯から極北の北極まで拡がっている。
私は、ウラジオストクやハバロフスク、コムソモリスク・ナ・アムーレに行ったことがあるが、そこは極東であってシベリアではない。この本で扱われているのは「狭義のシベリア」だ。
しかも、本書の舞台となっている「狭義のシベリア」で私が訪問したのはイルクーツクとバイカル湖くらい、あとはシベリア鉄道で通過しただけなので、シベリアがこれほど多様性のある世界だとはまったく知らなかった。困難を苦にせず奥地へ奥地へと分け入っていく著者の行動力には、まったくもって脱帽である。
電気もなく、電話もつながらないような道なき奥地に、あえて暮らしているドイツ系移民の末裔がいる。
ソ連時代も含めて、何百年ものあいだ外界との接触を断って奥地で生きている「古儀式派」(=分離派)の正教徒もいる。
テュルク系が暮らすトゥヴァのようにチベット仏教とシャマニズムが支配的でロシア語がほとんど通じない世界もある。
モスクワやサンクトペテルブルクのようなヨーロッパの大都市だけがロシアなのではない。ロシア政府も、かれらの存在は正確に把握できていないようだ。
アメリカにも、ドイツやスイスから脱出して移民してきたアーミッシュのように近代文明を拒否して生きる人たちが暮らしているが、ロシア国内にとどまりながら、そんな生き方をしている人たちがシベリアには少なくないのである。ほんと驚きの世界である。
日本では、ロシアやシベリアには、あまりいいイメージをもっていない人が少なくないと思うが、興味のある人は読んでみるといいと思う。読めばシベリアにかんするイメージが変わるのではないだろうか。いや、ますますロシアがわからなくなるかもしれないが・・・。
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日本では、ロシアやシベリアには、あまりいいイメージをもっていない人が少なくないと思うが、興味のある人は読んでみるといいと思う。読めばシベリアにかんするイメージが変わるのではないだろうか。いや、ますますロシアがわからなくなるかもしれないが・・・。
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著者プロフィール
中村逸郎(なかむら・いつろう)
1956年生れ。学習院大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。1983~1985年モスクワ大学留学。1988~1990年ソ連科学アカデミー留学。島根県立大学助教授を経て、筑波大学人文社会系教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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