2022年2月25日金曜日

プーチンの「東洋的専制国家ロシア」による隣国ウクライナへの軍事侵攻を「中長期の視点」で考える(2022年2月25日)

 
 外交官出身の政治家であった吉田茂の長男で、英国への留学経験もある作家の吉田健一は『ヨオロッパの人間』(新潮社、1973)で以下のように書いている。 

戦争は近親のものに別れて戦場に赴くとか原子爆弾で何十萬もの人間が一時に、或は漸次に死ぬとかいふことではない。それは宣戦布告が行はれればいつ敵が自分の門前に現れるか解らず、又そのことを当然のこととして自分の国とその文明が亡びることもその覚悟のうちに含まれることになる(P.220 引用は単行本から)  

陸続きの大陸国家における戦争の本質について、これほど的確に表現した文章はほかに知らない。

だが、「2022年2月24日」に突然開始された、ロシアによる主権国家ウクライナ侵攻には「宣戦布告」すらなかった。 

ウクライナ東部のロシア系住民の多い「未承認国家」の2つの共和国の「独立」をロシア議会をつうじて承認させ、ロシア国民向けの演説を行っただけだ。国際法上の正統性はない。

(「2022年ロシアのウクライナ侵攻」Wikipediaより)

13世紀のモンゴル軍は、ハンガリーまで侵攻した。以後、3世紀の長きにわたってロシアはモンゴル統治下に置かれるキプチャク・ハーン国である。ロシアが独立を確保するのは16世紀になってからだ。ロシアが世界史に登場するのは17世紀以降のことである。

 「ロシア人の皮をはぐとタタールがでてくる」という格言は、そのことを意味している。ロシアは、中国と同様に「東洋的専制国家」なのである。モンゴル統治下で、ロシアの骨格が形成されたのである。ただし、正確にいうと、この格言にでてくるタタールは、トルコ民族も含んだアジア系のテュルク族であって、モンゴル系ではない。 

第二次大戦後も、1956年の「ハンガリー革命」にソ連軍の戦車隊が突入し、首都ブダペストをはじめ各地でハンガリー国民と激しい市街戦となった。

1968年の「プラハの春」が言及されることが多いが、「ハンガリー革命」鎮圧におけるソ連軍についてもっと知っておくべきだ。現在でもブダペスト市内の建築物には当時の弾痕が残っている。このとき、西側諸国は「スエズ問題」で身動きがとれなかった。 

そして、1979年末に始まった「アフガン侵攻」が、最終的にソ連の命取りになったことは、現代史の「常識」である。 

今回のウクライナへの軍事侵攻もまた、ソ連時代とおなじロジックで遂行されていることを知るべきだろう。 あえて、ロシア帝国時代にさかのぼる必要もない。

おそらくウクライナの首都キエフの陥落は時間の問題であり、ロシアは傀儡政権樹立にむけて動くはずだ。だが、はたしてウクライナ国民による抵抗がそれで終わるかどうかは不透明である。 

ウクライナへの軍事侵攻は、戦術家プーチンによる「ハイブリッド戦争」として緻密に練られたものであった。 まさにヒトラーのドイツによる「電撃作戦」(Blitzkrieg)という表現を想起させるものがあった。

だが、「戦術」的成功は、「戦略」的成功とイコールではない。「戦闘で勝って戦争で負ける」というフレーズがあるように、ウクライナ制圧の成功によって「短期的」にはロシア国内で喝采を受けようとも、「中長期的」にみれば、国際社会からの非難と経済制裁によってロシア国民の不満が高まり、プーチンのロシアが衰退への道を進むことは容易に想像できることだ。 

おそらく、ウクライナ国外から「義勇兵」が入国してくるだろう。アフガンへの「ムジャヒディーン(ムスリム義勇兵)」と同様にウクライナの場合は、極右の白人義勇兵である。

後世の歴史家は、「プーチンによるウクライナへの軍事侵攻」は、最終的にプーチン体制の命取りになったと書くことになるかもしれない。1979年の「アフガン侵攻」をリアルタイムで知っている世代の人間としては、どうしてもそう見てしまうのだ。 英語でいう His days are numbered. という表現を想起せざるを得ない。

いま現在進行中の事件も、短期的視点と中長期の視点の両方で見ることが重要だ。 「ユーラシア大陸内部の大激動」は、政治経済のすべての分野で全世界にシステミックに波及する。これが歴史の示すところだ。 

そして地政学的にいえば、ウクライナ問題が玉突き現象のように周囲に波及していく。バルト三国の危険度も急速に上昇しているだけではなく、宿命のライバルであるトルコがどう動くか注視する必要があろう。 

2014年にロシアが一方的にウクライナから奪って併合したクリミア半島だが、18世紀末女帝エカチェリーナの時代にロシア帝国に併合されるまで、15世紀以来オスマン帝国の影響圏にあったクリミア・ハーンが支配する国であったことを想起すべきなのだ。 

国際情勢、とくにユーラシア大陸内部の激変にかんしては、けっして近視眼であってはならない。




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