2025年2月11日火曜日

日米でほぼ同時代に「自己啓発」が前面に出てきたのは偶然か? ー 『言志四録』の佐藤一斎と『自己信頼』のエマソンは同時代人!


 
本日(2月11日)は「建国記念の日」。法律によって定められた国民の祝日となっている。西暦2025年の本年は皇紀2685年。正式には「神武天皇即位紀元」である。

「皇紀」は明治維新後に制定されたものであり、江戸時代までは存在すらしなかった。いわゆる「創られた伝統」(invented tradition)の一つである。

日本という国がいつ成立したかなど、じつのところ正確に定めることなどそもそも不可能である。とはいえ、長い歴史をもつ国であることは否定できない。『源氏物語』の時代でさえ、すでに千年前の話である。


■歴史の長さにかんしては真逆の日本と米国だが・・・
  
そんな日本と真逆にあるのが、米国ことアメリカ合州国である。米国の建国記念日は、1776年7月4日。まもなく建国250年を迎えることになる。
 
歴史の長さということでは根本的に異なる日本と米国であるが、18世紀末から19世紀にかけて社会が急速に変化を遂げつつあった点は共通している。
 
そんななか米国に登場したのが、『自己信頼』の著者ラルフ・ウォルドー・エマソン(1803~1882)だ。「アメリカの知的独立」を宣言し、思想面でのヨーロッパからの自立を推進した人物である。 
 
エマソンとほぼ同時代の日本に生きたのが、『言志四録』の著者で儒者であった佐藤一斎(1772~1859)である。彼が生きた時代は、江戸時代後期から幕末に至る激動期であった。
  
エマソンとは生没年に30年近いズレがあるので、「同世代」ではないが「同時代人」というべきであろう。だが、激動する社会のなかに生き、あるべき生き方を説いた点では共通している。


■同時代の日米に生きた佐藤一斎とエマソンが説く内容はよく似ている
 
「超訳シリーズ」の一巻として、佐藤一斎とエマソンに取り組み、その両者を読み込んで思ったのは、かなり似ている点が多いな、ということだ。
 
「自己は光」であるという認識や、自分をたのみにするという「自己信頼」という生き方知識は行動に移さなければ意味はないとする「知行合一」を主張していた点、、その他にも天文学から自然学全般に対する旺盛な好奇心も両者に共通している。
 
そこで、わたしとしては、ぜひ佐藤一斎とエマソンを読み比べてみてほしいと思っているのだ。相互に影響関係がないにもかかわらず、発言内容が似ているからだ。
 
そのひとつの理由に、東洋思想に対する関心があったことをあげることができるかもしれない。
  
儒者であった佐藤一斎は、いうまでもなく朱子学と陽明学という中国哲学の研究者であり、漢詩もつくり、嗜みとして和歌も詠んでいる。哲学者で詩人であったエマソンは、インド哲学にもっとも共感を感じていたとはいえ、朱子学を中心に中国哲学にも親しみを感じていた。
 
ここで出版にまつわる楽屋話をさせていただくと、じつは当初はエマソンを先にやるつもりだったのだ。佐藤一斎を先行させたのは、たんなる偶然である。
  
「超訳シリーズ」も、『自省録』から始まって、ガンディーという例外はあるものの、英語圏を中心に西洋人ばかり取り上げてきたので、「たまには日本人をやっておくか」という程度のノリで、佐藤一斎に取り組むことにしたのである。
 
とはいえ、怪我の功名というべきか、先に佐藤一斎にじっくり取り組んだのは正解だった。エマソンの読みが深くなったような気がするからだ。
  
それだけでなく、なぜ明治時代前期にエマソンが読まれたのか、その理由がわかるようになった。

そもそも朱子学じたい、人間のもつ向上意欲を重視した、性善説にたつ「自己啓発」の哲学だということが可能かもしれない。

佐藤一斎は禅仏教に対しては、ひたすら距離をとろうと務めていたが、その「静坐」のメソッドはきわめて「座禅」に似ている。座禅は言うまでもなく、インドに起源をもつ大乗仏教の瞑想法である。


■日米でほぼ同時代に「自己啓発」が前面に出てきたのは偶然か?
  
「自己啓発」というとアメリカ生まれで、日本は一貫してその影響を受けてきたという理解がされることが多い。

しかもそれだけではない、「自己啓発」が盛んなのは、アメリカ以外では日本が突出しているとされ言われる。この事実をどう理解すべきなのか?
  
たしかに、アメリカ発の「自己啓発」を喜んで受け入れる素地が日本にあるというのは、その答えのひとつである。とはいえ、むしろ共通のメンタリティーが日米の双方にあるというべきなのではないか?
 
そんな意味でも、佐藤一斎とエマソンは、ぜひ読み比べてみてほしいと思っている。ほぼ同時代に生きてきたというだけでなく、両者の共通性から浮かび上がってくる風景を感じ取ってほしいのだ。


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