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2010年2月3日水曜日

「恵方巻き」なんて、関西出身なのにウチではやったことがない!-「創られた伝統」についての考察-


                       
 「恵方巻き」(えほうまき)なんて、関西出身なのにウチではやったことがない!

 ここ数年、何年前からか正確かわからないが、やたら「恵方巻き」というのが宣伝されるようになって、コンビニがこぞって販売促進している。

 関西の風習で、節分には太巻き寿司を、縁起のいい方角にむけてかぶりつく風習(?)とさかんにいっているが、両親がともに関西出身(・・大阪ではない)で私自身も関西生まれ(・・大阪ではない)のに、私が子供の頃は見たことも聞いたこともまったくなかった。

 節分といえば豆まき、これは子供時代からの私の「固定観念」となってきた。

 しかし、関西出身の30歳台以下の人たちに聞くと、「恵方巻き」はやっているという。う~んおかしいなー、ウチではやったことないなあ・・・なんでやねん?

 思い立ったら調べてみるに限る。おかげさまで、ここ数年の疑問がやっと溶けました。

 Wikipedia で「恵方巻き」を調べてみると、次のように書いてある。(*以下、引用文は2010年2月3日現在のもの。太字強調は引用者によるもの)

恵方巻き(えほうまき)は、節分に食べると縁起が良いとされる巻き寿司またはそれを食べる栃木県と近畿地方を中心とした風習である。「恵方寿司」とも呼ばれる。節分の夜にその年の恵方に向かって目を閉じて一言も喋らず、願い事を思い浮かべながら太巻きを丸かじり(丸かぶり)するのが習わしとされている]が、恵方巻きブームのきっかけは関係業界の販売促進である。

 なるほど。しかしよく読んでみると、近畿地方の前に栃木県がでてくるぞ。
 もう少し先を読んでみよう。

恵方巻の起源はいくつもの説があり定かではない。その一つに、栃木県都賀郡壬生町の磐裂根裂神社の節分祭が起源であるというものが有力で、同神社では、節分祭の参列者に振る舞われる「夢福巻き寿司」という太巻きがあり、宮司が神事を執り行った後、拝殿内で太さ約5cm、長さ約20cmの太巻きを配り、太鼓の合図とともに、全員が今年の恵方を向いてその太巻きずし丸かぶりする。太巻きを鬼の金棒に見立てて「邪気を祓う」という意味があり、さらに、切らずに長いまま太巻きを食べることで「縁を切らない」、「福を巻く」という意味も含まれ、祓鬼来福の祈念を行うものとされ、境内には「恵方巻き寿司発祥の地」の石碑がある。

 磐裂根裂神社と書いて「いわさくねさく・じんじゃ」と読むようだ。はあ。神社のウェブサイトがあるので覗いてみる。年中行事の項目をみると、「2月節分 節分厄除祈祷祭(恵方ずし)」という項目があって、写真とキャプションがアップされている。 しかし、「恵方巻き寿司発祥の地」の石碑の写真はないな。わざわざ栃木県まで調べに行くまでの情熱はないし・・・

 ではなぜ関西なのか? 引用を続ける。

恵方巻の習慣は、昭和初期の大阪の商人の間で行われていたようで、節分の「丸かぶりずし」の広告チラシも作成された。・・(中略)・・戦後に一旦廃れたが、1973年から大阪海苔問屋協同組合が作製したポスターを寿司屋が共同で店頭に貼り出し、海苔を使用する巻き寿司販促キャンペーンとして広められた。翌1974年には大阪市で海苔店経営者らがオイルショック後の海苔の需要拡大を狙いとして節分のイベントで海苔巻きの早食い競争をはじめたこと、1977年に大阪海苔問屋協同組合が道頓堀で行った海苔の販売促進行事などが契機となって、復活することとなった。

 なるほど、1973年以降に復活、というより再創造された風習なわけなのだ。

 1962年生まれの私は、1965年には父親の仕事の関係で、家族まるごと東京に移住したのだが、ウチの実家に「恵方巻き」の風習がそもそも存在しないのは、1973年以降は関西にいなかったからなのだ。どーりで、「恵方巻き」の「風習」などなくても当然なわけなのだな。

 関西ですら、「Since 1973 の風習」、ということなら十分に納得できる。


「創られた伝統」



 その意味では、「恵方巻き」は、まさに「創られた伝統」である。「創られた伝統」(invented tradition)とは、英国のマルクス主義の近代史家エリック・ホブズボームの編著書のタイトルである。

 The Invention of Tradition, edited by Eric Hobsbawm and Terence Ranger, Cambridge University Press, 1983 は、創られた伝統(文化人類学叢書)』(エリック・ホブズボウム編、前川啓治/梶原景昭訳、紀伊國屋書店、1992)として日本語訳されている。(・・Hobsbawm の発音はホブズボームであり、ホブズボウムとはおかしな表記である。検索の観点からも、こういうことはやめてほしいものだ)。

 この本は、19世紀後半から20世紀にかけての英国史を題材に、歴史学者と人類学者が寄稿した論文集で、歴史学と人類学の融合領域にかかわる本である。

 "Invented tradition" については、日本語訳はみたことないので、自分がもっている英語版から原文をそのまま引用しておく。ホブズボームによるイントロダクションの冒頭から。

Nothing appears more ancient, and linked to an immemorial past, than the pageantry which surrounds British monarchy in its public ceremonial manifestations. Yet, as a chapter in this book establishes, in its modern form it is the product of the late nineteenth and twentieth centuries.
"Traditions" which appear or claim to be old are often quite recent in origin and sometimes invented.
(私訳)
公式儀礼において示される、英国の君主制を取り巻く壮観なものほど、古式ゆかしく、はるか大昔に連なっているように見えるものは他にはない。とはいえ、本書のある一章で立証されているように、その現代的な様式は、たかだか19世紀後半から20世紀にかけての産物に過ぎないのである。
古くからあるように見え、またはそうだといわれる「伝統」は、その起源においては最近のものであることがよくあることで、また時には創られたものでもある。

 まさに、資本主義時代の文化創造の一つなのである。


バレンタイン・デーのチョコレート」もまた

 「恵方巻き」もまた、商業的に新たに創造された伝統であるといえる。「恵方巻き」がその最近例なら、バレンタイン・デーのチョコレートなど、内容は変化しながらも現在に至るまで衰えることなく続く風習の、最たるものだろう。バレンタイン・デーの2月14日まではまだ日があるが、ついでなので書いておく。

 バレンタインのチョコレートは、東京のメリー・チョコレート・カムパニー が始めたものであるということは、かつてのオーナー社長が雑誌インタビューで答えていたのを読んだ記憶がある。以下に、最新のウェブサイトに掲載されている文章を引用させていただく。

HISTORY St.Valentine's Day
昭和33年、メリーのバレンタイン誕生

 昭和33年(1958年)、メリーのバレンタインは始まりました。前社長が大学卒業後の年、父の会社である メリーチョコレートでアルバイトをしていました。その1月に、パリ在住の先輩の商社マンから1枚の 絵葉書を受け取ります。そこには「こちらパリでは2月14日はバレンタインデーといって、男女が花や カード、チョコレートを贈りあう習慣がある」と書かれていました。バレンタインとチョコレートとい うロマンティックな組み合わせに、アルバイトの身ながらこれはお客様にメリーのチョコレートをお買 い求めいただく良いきっかけになると思い立ち、創業社長の父親に相談。東京の百貨店で「バレンタイ ンセール」と銘打って板チョコを販売したのです。しかし準備不足もあって、3日間で50円の板チョコ 3枚、20円のメッセージカード1枚、売上は170円という惨憺たる結果に終わりました。それでも懲り ずに次の年もバレンタインセールを企画しました。
 翌年からはチョコレートにも工夫を凝らしました。ハート型のチョコレートの上に、贈る人と相手の 名前を彫るサービスをメインに打ち出し、『年に一度、女性から男性に愛の告白を』というキャッチコ ピーを考えついたのです。時代を先取りしたこのコピーは、やがて発刊したばかりの女性週刊誌などの 目に留まり、バレンタインの特集記事が組まれるようになりました。バレンタインデーの習慣は徐々に 知られていき、やがて日本中に浸透し、現在のような大規模なイベントに成長したのです。


 だ、そうだ。この文章に書かれた内容が正しいのであれば、バレンタイン・デーに、女性が男性にチョコレートをあげる習慣は日本で、しかも一企業の販売促進戦略の一環として始まったのである。もっとも最近では、女性どうしや、自分用に買う女性も多いようだ。人にあげるのはもったいない、という気持ちはわかる。

 フランスのパリについては知らないが、少なくとも米国においては、女性が男性にチョコレートを贈る風習は存在しない。主に男性が女性に花を贈るだけである。


「創られた伝統」とマーケティング

 日本に限定してみても、近代天皇制(明治時代)、神前結婚式(大正時代以降)・・・など、多くの「風習」は実は近代になってから「作られた伝統」である。

 逆にいえば、伝統は創ることが可能だ、ということでもある。

 そのために必要なのは、過去にルーツをもつ「種子」(タネ)である。この種子のまわりに物語をまぶして、広告宣伝のキャンペーンでで弾みをつけて、あとはクチコミで話がどんどん膨らんでいくと・・・いつの間にか「伝統」として君臨することになっている、ということもあるわけなのだ。

 一般消費財にかかわるビジネス関係者なら、なんとしてでも「伝統」に創り上げたいと望むところだろう。「伝統」として年中行事に定着すれば、年度計画を立てるのがラクになるからねー。もちろん生産体制を準備する必要に迫られるが。

 とはいえ、個人的には、節分は豆まきだけで結構

 天の邪鬼(あまのじゃく)だからというより、年中行事として生活習慣化していないし、なんか違和感があるからなんですねえ。関西のスシはそもそもがハコ寿司か押し寿司だし、江戸前鮨もノリは巻物以外つかわないしね。

 そもそも、個人的には、おいなりさんや太巻き寿司はあまり好きじゃないから、食べる気にはならないんだなあ。しょう油と砂糖で甘辛く煮染めたかんぴょうや油揚げが好きじゃないのだ。

 まあそれはさておき、ではみんなで一緒に叫びましょう。

  「鬼は~そと、福は~うち」

 子供たちには歌ってもらいましょう。

  ♪鬼は外、福は内、
   パラッパラッパラッパラッ豆の音、
   鬼はこっそり逃げていく


 不景気鬼が一目散にいなくなってくれるといいんだけどねー
 
  「鬼は~そと、福は~うち」!!





PS 読みやすくするために改行を増やし、小見出しを加えた。 (2014年1月25日)

PS いわゆる「日本の伝統」なすものの多くは明治維新後のものに過ぎない

いわゆる「日本の伝統」の多くが明治維新後のものであることを一冊のまとめた本が出版されている。タイトルは、『「日本の伝統」の正体』(藤井青銅、柏書房、2017)「恵方巻」についても触れられているとのことだ。こういう本がぞくぞくと出てきたことは、たいへん心強い。(2018年1月7日 記す)





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書評 『ヤシガラ椀の外へ』(ベネディクト・アンダーセン、加藤剛訳、NTT出版、2009)-日本限定の自叙伝で名著 『想像の共同体』が生まれた背景を知る
・・アイルランド系英国人の比較政治学者。ホブズボームと同じく左派

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バレンタイン・デーに本の贈り物 『大正十五年のバレンタイン-日本でチョコレートをつくった V.F.モロゾフ物語-』(川又一英、PHP、1984)

(2014年1月25日、2014年2月3日、24日 追加)


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