2012年1月4日水曜日

政治学者カール・シュミットが書いた 『陸と海と』 は日本の運命を考える上でも必読書だ!


政治学者カール・シュミットが書いた 『陸と海と』は日本の運命を考える上でも必読書だ!

「友-敵理論」や「ノモス論」で有名な政治学者カール・シュミット『陸と海と-世界史的一考察-』は、「海洋国家」である日本の運命を考える上でも必読書だ。

この本はいつ読んだのか正確な記録がないので思い出せないのだが、本にはさんであったレシートをみると、大学生協で購入したもののようだ。

大学学部時代の恩師である阿部謹也先生の著書に引用されているのでその存在を知ったのだと記憶している。

したがって、大学在学中に読んだのではないかと思う。克明なノートをとりながら読んでおり、作成したカードが本ににはさんであった。

カール・シュミットの本は、未来社からライトブルーの表紙のパーパーバックで何冊も翻訳が出版されており、たまたま大学で政治学を教えていた人が訳者の一人であったためであろう、大学生協には参考図書として大量に山積みされていたのであった。

未来社からは、『政治的ロマン主義』、『政治神学』などが翻訳出版されている。

『陸と海と』も含め、朱色の表紙のハードカバーは、未来社とは別に、違う訳者たちによって福村出版からでていた。このほか『政治神学再論』や『大地のノモス』などが出版されていた。

カール・シュミット(Carl Schmitt、1888~1985年)は、ドイツの法学者・政治学者。第二次大戦後はナチスの御用学者という烙印を押されたにもかかわらず、20世紀を代表する政治学者として評価が高い。

『陸と海と-世界史的一考察-』の内容は、世界史の教科書にはでてこないが、きわめて重要な視点でつづづった、西洋を中心とした近現代史の物語である。

要約してしまえば、人間の生存条件ではそのそも「陸」にあったため、どうしても「陸」の視点からものを見がちだが、「陸」から「海」へと行動範囲が拡大し、旧約聖書の『ヨブ記』の象徴的な表現を使えば、ビヒモス(=クマなどの陸の怪物)から「リヴァイアサン」(=クジラなどの海の怪物)へと中心がシフトしたのが、近現代史の特色である。

陸の国の海の国に対する戦い、海の国の陸の国に対する戦いが世界史である、というのがシュミットの基本的立場である。副題の「世界史的一考察」とは、ブルクハルトを意識したものだろうか。

しかも「陸」と「海」につづく第3のエレメントとしての「空」が人間の行動範囲のなかにはいってくる。いいかえれば制海権から制空権へのシフトである。二次元の平面から三次元の立体への視野の拡大である。

「陸」から「海」へ、そして「空」へと展開したのはシュミットのコトバをつかえば「空間革命」であった。

近代に限っても、ヴェネツィア共和国、オランダ、英国、米国と覇権国はシフトしてきた。日本もまた、これら「海洋国家」につらなる存在であるが、リヴァイアサンになるかにみえて、すでに衰退プロセスに入っているわけである。

このように要約してしまうと、なんだ当たり前じゃないかという感想が還ってきそうだし、またこういう歴史観は、日本でもすでに小説家の塩野七生など、専門の歴史研究者以外がとりあげて展開してきたものなので、2012年現在ではけっして目新しいものではない。

だが、わずか100ページ強の小冊子に過不足なく語り尽くしたこの本は、面白くて読んでためになる本なのだ。

海上交通や海上貿易だけでなく、捕鯨や海賊も本格的に取り上げ、英国の「海洋国家」への移行と、それにつづいて登場した米国についてもくわしく語られる。

この物語のなかで、国際法や思想史関連の話題が語られるのである。思想史家の生松敬三が取り上げたのも、なるほどという気もする。

「海洋国家」とは何かというポイントは、日本もまた「海洋国家」として生存することを宿命つけられている以上、人生の早いうちにこうしたものの見方は身につけておきたいものだ。

また、いまのような混迷する時代だからこそ、巨視的な視点による世界史で歴史観を養うことも重要である。世界の見方を身につける必要がある。

カール・シュミットの政治学関連の本は、なかなか難解で読みにくいが、この本は薄くていたって読みやすい。というのも、これは自分の娘のために書いた本だからだ。

しかし、内容はかなり濃いだけでなく、きわめて重要な指摘にみちみちているので必読書として推薦したいのである。

ざっと読んでみるのもいいし、歴史的事実を調べながら、また世界史地図帳でトレースしながら読んでみるのもいい。


現在でも出版社をかえて復刊されているので入手も容易である。ぜひ一読することを薦めたい本である。


 


PS 2018年に翻訳で定評のある哲学者によって「新訳」が刊行された

2018年8月23日に、『陸と海 世界史的な考察(日経BPクラシックス)』というタイトルで日経BP社から、哲学者の中山元氏による新訳が出版された。数々の哲学書の平明で明快な日本語訳の数々を出しているのが中山元氏。私は、中身はまだ見ていないが、問題なくおすすめできると思う。(2018年9月6日 記す)




<原本タイトル>

原本のタイトルは、Carl Schmitt: Land und Meer - Eine weltgeschichtliche Betrachtung, Reclam Verlag, Stuttgart 1954. 2008年にドイツで新版が出版されている。



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