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2011年12月24日土曜日

書評 『黒船の世紀 上下-あの頃、アメリカは仮想敵国だった-』 (猪瀬直樹、中公文庫、2011 単行本初版 1993)-日露戦争を制した日本を待っていたのはバラ色の未来ではなかった・・・


『坂の上の雲』後に激変した国際環境で、時代の「空気」はいかに形成されていったか?

本書は、同じ著者による『昭和16年夏の敗戦』の10年後の1993年に初版が出版された歴史ノンフィクションの力作である。

日露戦争終結直後から、太平洋をはさんだ日本と米国のあいだに勃発した「太平洋戦争」に至るまでの約40年の歴史を、現在では忘れられた「日米未来戦記」の数々とその作者たちをを取り上げて、戦争という「空気」がいかに形成されていったかを描き切っている。

司馬遼太郎原作のNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』は、三年越しの放送も今年2011年の年末で完結することとなったが、日本海海戦でロシア帝国を制した日本人たちを待っていたのは、バラ色の未来でも何でもなかったさらなる脅威は日本海の向こうからではなく、太平洋を越えて米国からやってくることになったのだ。

日露戦争における日本の勝利で太平洋の戦力バランスが一挙に崩れたとき、米国は日本を「仮想敵国」として設定した。そして日米双方でさかんに出版されたのが「日米未来戦記」であった。これら「日米未来戦記」は太平洋の両岸で、戦争に向けての「空気」をつくりだすことになっていく。

太平の夢を醒まされ、力づくに開国を迫られたうえに弱肉強食の近代世界に放り込まれた日本。そして、「黒船」コンプレックスという被害者意識の恐怖を精神の深層にわだかまらせてきた日本人。その日本人の意識と無意識のなかに徐々に形成され、一般国民に対米開戦を積極的に支持させるに至った「空気」は、結果として日米開戦を積極的に後押しし、支持する原動力になる。

海軍軍人にとっては「日米未来戦記」はあくまでもシミュレーション小説であったのに対し、一般国民にとっては、脅威が強調されることで敵愾心と戦意をあおる効果を発揮することになったのだ。

本書は読み物としてじつに面白い。

「1945年(昭和20年)の「第一の敗戦」にいたる約40年の歴史を、日米双方で大量に書かれた日米戦争ものという「未来予測小説」の作者たちとその作品を軸に、同時代史として復元しながら語ったものだが、読んでいて同時代に立ち会っているかのような臨場感がある。

1907年の 「白船」騒動など、日本人の記憶から消えて歴史の教科書にもまったく登場しない事実を掘り起こした著者の問題意識もすばらしい。

本書はまた、近代世界における新しいプレイヤーであった「海洋国家・米国」と、遅れて否応なく近代世界に乗り出した「海洋国家・日本」の、太平洋の制海権をめぐる確執の物語として読むこともできる。

日本が本格参戦しなかった第一次世界大戦では、航空機の時代が急速に発展し、勝敗を決するファクターが「制海権」から「制空権」へと移行していく。そして迎えたのが太平洋戦争と日本の敗戦であった。

1941年(昭和16年)の日米開戦から70年目にあたる2011年であるが、この年の3月11日を境に「戦後」が終わり、すでに「3-11後」になったといわれる。「第三の敗戦」とさえいわれる「3-11」後の日本であるが、これからの時代を切り開くために不可欠なのは歴史的想像力を鍛えることだろう。

まずは虚心坦懐に、太平洋をめぐる日本人の「想像力の歴史」である本書を読んで、同時代史として感じることから始めて見てはいかがだろうか。

日米戦争は1941年(昭和16年)にいきなり始まったのではない。そしてまた「3-11」で歴史が一新されたわけではない。歴史は断絶したように見えながらも、じつは連続しているのだ。


<初出情報>


■bk1書評「『坂の上の雲』後に激変した国際環境のなか、時代の「空気」はいかに形成されていったのか?」投稿掲載(2011年12月22日)
■amazon書評「『坂の上の雲』後に激変した国際環境で、時代の「空気」はいかに形成されていったか?」投稿掲載(2011年12月22日)







目 次

上巻

プロローグ

第Ⅰ部 太平洋へ向かうベクトル
第1章 外圧と薄幸の異端児
第2章 『次の一戦』の結末
第3章 "リー将軍" の冒険
第4章 忍びよる黄色い影法師
第5章 平和は美しいか醜いか

第Ⅱ部 日米未来戦記の流行
第6章 欧州の荒野に立ちて
第7章 戦争は最大の冒険なり
第8章 あるスパイの回想
参考文献

下巻
第Ⅱ部 日米未来戦記の流行(承前)
第9章 英国人の『太平洋大戦争』
第10章 強い日本を求める空気
第Ⅲ部 物語と現実の交錯

第11章 東京大空襲を予知して
第12章 戦争を知らない作家の登場
第13章 ニューヨークで聞いた "怪談"
第14章 なぜ真珠湾なのか
第15章 オレンジ色の作戦

エピローグ

単行本へのあとがき
参考文献
*巻末特別対談*
東日本大震災は「21世紀の黒船」か(vs. 御厨貴)



 著者プロフィール
猪瀬直樹(いのせ・なおき)
作家。1946年、長野県生まれ。『ミカドの肖像』(1986年)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『日本国の研究』(1997年。文藝春秋読者賞受賞)は、政界の利権、腐敗、官僚支配の問題を鋭く突き、小泉純一郎首相から行革断行評議会委員、道路公団民営化推進委員に任命される契機ともなった。東京工業大学特任教授など幅広い領域で活躍。2007年6月、東京都副知事に就任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<書評への付記>

文庫版の上下にわけて収録されている「参考文献」を眺めてみよう。

著者によって内外の古書店や国会図書館でじつに丹念に掘り起こした収集された「日米戦争予測小説」の関連書籍のリストを眺めているだけで、よくもこれだけ多くの日米戦争ものが出版されて読まれていたのかと驚きを禁じ得ない。

文庫本の上下で600ページもある力作だが、きわめて面白い読み物なのでぜひ一度は読んでみてほしいと思うのだが、いくつか「書評」には書いてない点をトピックとして取り上げておきたいと思う。


日米関係がもっとも険悪化していた時代に書かれた本

初版の単行本は1993年に出版された。その際の副題は 「ガイアツと日米未来戦記」であった。

ガイアツとは外圧のこと。この当時のことは、「フォーリン・アフェアーズ・アンソロジー vol.32 フォーリン・アフェアーズで日本を考える-制度改革か、それとも日本システムからの退出か 1986-2010」(2010年9月)を読んで、この25年間の日米関係について考えてみる と題した記事をこのブログに書いてあるので参照していただきたい。

「黒船来航」以来の日米関係の歴史は、1941年から1945年ににかけての「太平洋戦争」以前と以後にわけて考えるのが一般だが、現代につらなる問題点を考えるには、「日露戦争」以前と以後で考えると問題点が明確になる。

日露戦争における日本の勝利で太平洋の戦力バランスが一挙に崩れたとき、米国は日本を「仮想敵国」として想定することになる。

端的にいえば、米国の植民地であったフィリピンの安全保障と、中国大陸における経済利権の問題である。そして、米国に移民として渡った日系人をめぐる問題でもあった。

「日露戦争」以後の日米関係史は、日本の完膚無きまでの敗北によって、日本が米国の従属国となり、太平洋をめぐる覇権が米国の一方的な勝利になった時点で完成したはずであった。だが、歴史はつねに流動的な存在である。

中国大陸の覇権を握ったのが米国の息のかかった国民党ではなく、米国とはイデオロギー的な対立関係にある共産党となった時点で、日本の位置づけが大幅に変わることになる。

詳細は省略するが、米国の庇護のもと強大化した日本はついに米国の虎の尾を踏み、1980年代には激しい「経済戦争」を戦う状態になる。この点については、前掲のブログ記事と、書評 『田中角栄 封じられた資源戦略-石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(山岡淳一郎、草思社、2009) をご覧いただければ幸いである。

1990年代に入ってからは、米国の強い圧力のもと、日本が米国の都合のいいように国家改造を強いられて今日にいたっていることは、あえて書くまでもない。


日米関係史は、米中関係史でもある

日本が海洋国家であることは、日本が大陸から切り放された島国であるから理解しやすいが、米国もまた海洋国家であることはついつい忘れられがちである。

ユーラシア大陸とは大西洋と太平洋という二つの大海を挟んで孤立した大陸っであるアメリカ大陸は、大きくわければ北米と中米と南米になる。そのうちアメリカ合州国が位置するのが北米だ。

米国は近代国家そのものであるが、欧州に比べれば遅れて近代世界に参入した海洋国家である。日本もまた遅れて近代世界に参入した海洋国家である。

日本が安全保障と経済的利益確保の観点から朝鮮半島と中国大陸に進出したのは、欧州の列強と比べたら遅かったのと同様、米国もまた中国大陸に進出するのは欧州には遅れをとった。米国は、米西戦争の勝利の結果フィリピンを植民地としたが、中国では植民地を確保しなかったがゆえに、「門戸開放」を主張したのである。

この意味において、日米関係史は、米中関係史でもあると理解することに大きな意味があるのだ。これは、日米関係、日中関係、米中関係という二国間関係を日米中と三国をならべてみればすぐに理解できることだ。中国をめぐっての関係であったのだ。

本書に登場する "リー将軍" とは、李将軍ではなく、ホーマー・リー(Homer Lea)という米国人のことである。孫文とは交友関係にあり、革命軍の軍事顧問となったホーマー・リーは、映画 『1911』 にも、片足を引きながら歩く小柄な人物として登場するが、『無知の勇気』という「日米未来戦記」の走りともなる本を出版した人物でもある。

『無知の勇気』では、日本にフィリピンを奪われた末に米国が敗北するというストーリーだが、中国に肩入れしたこの "リー将軍" が、日本を仮想敵国とする本のパイオニアとなったことは、なかなか意味深なことでもある。

ただし本書は、中国問題は主軸には据えていない。あくまでも太平洋の両岸に位置する日本と米国の太平洋の覇権をめぐる物語である。


軍人と民間人のマインドセットの違い

米国にとってはもちろん、日本も戦争当事者となる戦争スペシャリストである軍人にとっては、日米の兵力差が明らかで、ほぼすべてが「想定内」であった。

軍人は日米の兵力差を冷静に数字で捉えていたが、感覚的にものを捉える一般国民はまったく違っていた。この後者が作り出した「空気」が、数字でものを考える軍人すら飲み込んで押し流していったことは、 『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(加藤陽子、朝日出版社、2009)に活写されているとおりである。

まさに日露戦争の講和後の日比谷焼き討ち事件に表れたように、強い日本を渇望する大衆はきわめて感情的に物事を捉え、振る舞っていたのである。それは徐々に形成されていった「空気」も大きく影響していたのである。

しかも制海権においても軍艦数で劣り、技術の進歩により航空兵力の発達で制空権も奪われかねない恐怖。この空襲恐怖が現実のものとなったことはあえて言うまでもない。制海権のみが問題であった時代、主戦場はフィリピンだと想定されていたが、山本五十六連合艦隊司令著感がパールハーバー攻撃を主張したのは、こうした変化が前提にあった。


■■『坂の上の雲』後の時代の「空気」こそ知るべき歴史的事実

中公文庫版の解説として行われた政治学者・御厨貴との対談のなかで指摘されているように、日本にとっての機会も脅威も、つねに海の向こうからやってくるものなのだ。

司馬遼太郎の原作でも、ドラマでも取り上げられなかった『坂の上の雲』以降の歴史こそ、現在に生きる日本人がもっともっと深く知らねばならないものであるのだ。



P.S. この記事で、2011年度は 250本目となった。




<ブログ内関連記事>

猪瀬直樹の「日米関係三部作」

書評 『昭和16年夏の敗戦』(猪瀬直樹、中公文庫、2010、単行本初版 1983)-いまから70年前の1941年8月16日、日本はすでに敗れていた!

書評 『東條英機 処刑の日-アメリカが天皇明仁に刻んだ「死の暗号」-』(猪瀬直樹、文春文庫、2011 単行本初版 2009)


海洋国家としての日本

書評 『日本は世界4位の海洋大国』(山田吉彦、講談社+α新書、2010)

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)

書評 『「海洋国家」日本の戦後史』(宮城大蔵、ちくま新書、2008)

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂 聰、新潮社、2009)

海上自衛隊・下総航空基地開設51周年記念行事にいってきた(2010年10月3日)

マンガ 『沈黙の艦隊』(かわぐちかいじ、講談社漫画文庫、1998) 全16巻 を一気読み


制空権を奪われた「海洋国家・日本」の無念

書評 『アメリカに問う大東亜戦争の責任』(長谷川 煕、朝日新書、2007)

書評 『新大東亜戦争肯定論』(富岡幸一郎、飛鳥新社、2006)

書評 『原爆を投下するまで日本を降伏させるな-トルーマンとバーンズの陰謀-』(鳥居民、草思社、2005 文庫版 2011)

書評 『原爆と検閲-アメリカ人記者たちが見た広島・長崎-』(繁沢敦子、中公新書、2010)







(2012年7月3日発売の拙著です)








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