昨年(2018年)12月1日に中国のグローバルIT企業のファーウェイ(というよりも、発音としては「ホァーウェイ」が原音に近いと著者は強く主張している。英語表記では F ではなく H で始まる Huawei)のCFO(最高財務責任者)の孟晩舟氏が、カナダで逮捕された。
それ以来、Huawei社が米国の制裁対象とみなされていることがクローズアップされ、現在に至っている。孟晩舟氏は創業社長の娘であり、しかもカナダで逮捕された理由が対イラン経済制裁に違反して金融機関を不正操作した容疑によるものであり、「ファイブ・アイズ」の一員であるカナダ政府に逮捕を要請したのが米国政府だからだ。
すでに米中経済戦争は冷戦状態といってよい。そんな状態において、Huawei社のCFO逮捕は、ホットイシューであり続けている。
この問題にかんして、世間一般で受け止められているのとは異なる視点を提供してくれているのが、中国共産党にかんしては独自でかつ正確な認識をもっている、本書の著者・遠藤誉氏だ。
遠藤氏は、Yahoo! の連載コラム(Newsweek日本版にも転載されている)で、Huawei社は、むしろ中国共産党とは一線を画してきた存在であること、国営企業ではない民間企業として中国人、とくに若年層からは圧倒的な支持を受けてきたことを指摘している。米国にとって都合のよい情報だけを鵜呑みにしていては、中国共産党の本当の意図を読み違える結果になりかねないことに警鐘を鳴らしている。
そんななかで出版された最新刊が『「中国製造2025」の衝撃-習近平はいま何を目論んでいるのか-』(遠藤誉、PHP、2019)。最新刊の本書では、Huaweiに代表される中国の民間IT企業の実態と、現在に至る中国のハイテク分野の発展について、歴史的経緯を踏まえて解説されている。中国共産党の内在的論理を熟知し、物理学で博士号をもつ経歴が説得力ある議論を展開している。
いまの中国で注意を向けなくてはならないのは、「軍民融合」の観点から、とくに半導体と宇宙開発といったハイテク分野である。なぜなら、米中貿易戦争や米中ハイテク戦争の根幹には「中国製造2025」があるからだ。トランプ政権は、この「中国製造2025」こそを恐れているのである。
「中国製造2025」とは、2015年5月に発表された中国の国家戦略だ。2025年までに中国は、半導体などハイテク製品のキー・デバイスの70%を「メイド・イン・チャイナ」にして自給自足すると宣言している。
現在は、クアルコムなど米国製の半導体を使用しているが、米中経済戦争の影響が中国のハイテク分野にもろに影響を与える状況を打破したいのだ。Huawei社には100%子会社の半導体設計メーカーのハイシリコン(HiSilicon)社があるが、Huawei以外には半導体を供給しないと明言している(いつまで維持できるかわからないが)こともあり、ハイスペック半導体を輸入に依存せず、自国で内製化することは中国共産党にとっては必達の課題なのである。
「中国製造2025」では、宇宙開発においても自国による推進を盛り込んでいる。有人宇宙ステーションの建設や月面探査プロジェクトなどは、すでに実行フェーズにある。つい先日も、月の裏側に月面探査船の着陸を成功させたばかりだ。
しかも、「量子暗号」に力を注いでいる。2016年には、「量子暗号」でコントロールする世界初の 量子通信衛星「墨子」の打ち上げに成功している。中国は半導体と宇宙開発そして量子暗号によって実現させる世界は民間ビジネスだけではない。当然のことながら軍事利用が想定されているのは言うまでもない。米中覇権競争に打ち勝ち、世界制覇を目指しているといっても過言ではないのだ。
だからこそ、トランプ政権が中国の動きを怖れているのである。「中国製造2025」によって中国がテクノロジーの分野で米国を追い抜くことは、軍事的脅威に身をさらし、戦争になった際には敗北すらありえることを意味するからだ。
本書は、著者ならでは分析視角とは激しい危機感が背景にあってできあがった本だ。米国が流し、日本で流通しているニュースを鵜呑みにすることなく、中国が何を目指しているのか、そしてその実現可能性がどの程度あるかを知るために読むべき本なのである。
安全保障と経済とのあいだでねじれ現象が生じている現在、米中の狭間で股裂き状態になりつつある日本と日本企業は、はたしてどう動くべきか。悩みは深い。
目 次
まえがき-米中貿易戦争の根幹は「中国製造2025」
第1章 中国製造2025」国家戦略を読み解く
1. 〔2025〕が生まれた社会背景に反日デモ
2. 〔2025〕への準備作業-一党支配体制への危機感
3. 新常態(ニューノーマル)は〔2025〕から生まれた
4. 〔2025〕、平易な言葉に隠された意図
第2章 世界トップに躍り出た中国半導体メーカー
1. 半導体産業に軍の影がちらつく理由
2. 世界トップ10にランクインした清華大学の紫光集団
3. もう一つのトップ10、華為(ホァーウェイ)の頭脳ハイシリコン
4. 半導体製造装置の国産化を見落とすな
第3章 人材の坩堝に沸く中国
1. 1964年、中国核実験を成功させたのは誰か?
2. 1996年、地球を覆う中国人材市場
3. 2008年「千人計画」と2012年「万人計画」
4. ハイレベル人材の自給自足:ボーン・イン・チャイナへ
5. 清華大学の顧問委員会に数十名の米財界CEO
第4章 習近平の「宇宙支配」戦略
1. 世界初の量子通信衛星打ち上げに成功
2. 世界初の量子暗号通信に成功-量子暗号を制する者が世界を制する
3. 世界最大の量子コンピュータ建設
4. 中国独自の宇宙ステーション
5. 「一帯一路」で宇宙を支配
第5章 習近平、世界制覇へのロードマップ
1. 「BROCS+」27カ国で全人類の半分を掌握
2. 習近平、アフリカ53カ国をわが手に
3. トランプとの戦い、日本への接近
あとがき-「一帯一路一空一天」
著者プロフィール
遠藤誉(えんどう・ほまれ)
1941(昭和16)年中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した「長春包囲戦」を経験し、1953年に帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授(元物理工学系所属)、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。 著書に、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『チャイナ・セブン 〈紅い皇帝〉習近平』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(以上、朝日新聞出版)、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)、『習近平 vs. トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)など多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連情報>
アントン・ツァイリンガー(Anton Zeilinger, 1945年5月20日 - )はオーストリアの量子物理学者・ウィーン大学の物理学教授である。量子情報の先駆者であり、光子の量子テレポーテーションの実現で知られる。 2010年にアラン・アスペ、ジョン・クラウザーとともウルフ賞物理学部門を受賞し[1]、2022年に3人はノーベル物理学賞を受賞。 中国が打ち上げた世界初の量子通信衛星「墨子号(英語版)」にも協力。(Wikipediaより)
Quantum Experiments at Space Scale (QUESS; Chinese: 量子科学实验卫星; pinyin: Liàngzǐ kēxué shíyàn wèixīng; lit. 'Quantum Science Experiment Satellite'), is a Chinese research project in the field of quantum physics. (Wikipedia英語版より)・・こういう重要な実験にかんしてWikipedia日本語版がない、という悲しむべき事実(2022年12月21日現在)
(2021年5月7日 項目新設)
(2022年12月21日、2023年8月28日 情報追加)
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