本日(2022年2月26日)は、「二・二六事件」(1936年)から86年になる。 もう、はるか彼方の歴史上の出来事になってしまった「二・二六事件」だが、それでもこのことについて記憶から想起しつづけることは重要だと考えている。
買ったまま読まずに忘れていた『昭和維新の朝(あした)-二・二六事件と軍師・斎藤瀏』(工藤美代子、日本経済出版社、2008)を「再発見」したのは昨年のことだが、あえて2月26日というこの日に読むことにした。 評論家で歌人でもあった村上一郎氏が、その娘で歌人であった斎藤史の熱烈な支持者であることを読んで思いだしたのだ。
斎藤瀏(さいとう・りゅう 1879~1953)は、陸軍軍人で歌人だった人。その一人娘が歌人の斎藤史(さいとう・ふみ 1909~2002)。そして、その史の幼なじみが「226事件」の首謀者の一人で、事件後に銃殺刑になった栗原安秀中尉(1908~1936)であった。 斎藤史と栗原安秀は、お互いを「クリコ」と「フミ公」と呼び合うような仲だった。
(栗原安秀 Wikipediaより)
政治外交と現地での治安維持のはざまで精神的苦労を強いられた「済南事件」(1928年)を機に予備役に回された陸軍少将の斎藤瀏は、上層部への激しい批判を行う栗原安秀を中心とする青年将校たちにとってはメンターであり、「226事件」を物心両面で支えていた軍師ともいうべき存在であった。「済南事件」が「226事件」へのレールを敷いたのである。
斎藤瀏もまた事件後に拘束され投獄、いっさいの名誉剥奪のうえ、最終的に禁固5年の刑を宣告されたが、戦時中に仮出所となる。高名な歌人として、釈迢空(=折口信夫)などとともに『愛国百人一首』(1942年)の選者にもなった。
そんな斎藤瀏とその娘の史の人生をを中心に、逆賊とされた青年将校たちとの知られざる関係を「和歌」という切り口で描いたノンフィクション作品であった。
蹶起した青年将校たちを最終的に裏切った真崎甚三郎のような上官がいた一方、最後までその側に立ち続けたたうえ、かれらの思いを記録に残す役割をはたした斎藤瀏のような元将官もいたのである。 この事実は、日本人として知っておくべきことだ。安曇野出身の斎藤瀏は、少年時代から郷里の佐久間象山や、陽明学の大塩平八郎の話を聞かされて育った人であった。
この本を読んだことで、あらためて天皇と日本人、そして和歌のもつ鎮魂と和解のチカラと意味について深く感じさせられた。プロローグに描かれた92歳の斎藤史と天皇との「和解」(1997年)は、感動的なシーンである。
青年将校たちが処刑されてから60年の月日のち、宮中歌会始の召人として呼ばれ、 明仁天皇に「お父上は瀏さん、でしたね」とお言葉をかけられたのである。これで青年将校たちも、やっと成仏できたのだ、と。
<関連サイト>
「二・二六事件」の資金提供者は、マレー半島で財を築いた石原広一郎という実業家
・・「石原広一郎(いしはら・ひろいちろう、1890年(明治23年)~1970年)は、日本の実業家で石原産業の創業者。 京都府京都市生まれ。1913年立命館大学法科専門部卒業。1916年にマレー半島に渡航し鉄鉱山の発見・開発に成功。東南アジア各地や日本国内での鉱山開発や、海運業へ事業を拡大した。1931年の満州事変勃発後、南進論提唱の好機が到来したとして日本に帰国し政治活動を展開、国家主義的団体神武会・明倫会を創立して世論を喚起し、1936年の二・二六事件では、明倫会の斎藤瀏を介して首謀者の1人である栗原安秀中尉を資金面で援助、逮捕された。戦後、A級戦犯容疑で巣鴨に拘禁されるも不起訴となり釈放された」。(Wikipediaの文章を編集)
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