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2022年2月27日日曜日

書評『昭和維新の朝(あした)ー 二・二六事件と軍師・斎藤瀏』(工藤美代子、日本経済出版社、2008)ー 天皇と日本人、そして和歌のもつ鎮魂と和解のチカラと意味について深く感じさせられる

 
本日(2022年2月26日)は、「二・二六事件」(1936年)から86年になる。 もう、はるか彼方の歴史上の出来事になってしまった「二・二六事件」だが、それでもこのことについて記憶から想起しつづけることは重要だと考えている。 


斎藤瀏(さいとう・りゅう 1879~1953)は、陸軍軍人で歌人だった人。その一人娘が歌人の斎藤史(さいとう・ふみ 1909~2002)。そして、その史の幼なじみが「226事件」の首謀者の一人で、事件後に銃殺刑になった栗原安秀中尉(1908~1936)であった。 斎藤史と栗原安秀は、お互いを「クリコ」と「フミ公」と呼び合うような仲だった。

(栗原安秀 Wikipediaより)

政治外交と現地での治安維持のはざまで精神的苦労を強いられた「済南事件」(1928年)を機に予備役に回された陸軍少将の斎藤瀏は、上層部への激しい批判を行う栗原安秀を中心とする青年将校たちにとってはメンターであり、「226事件」を物心両面で支えていた軍師ともいうべき存在であった。「済南事件」が「226事件」へのレールを敷いたのである。

斎藤瀏もまた事件後に拘束され投獄、いっさいの名誉剥奪のうえ、最終的に禁固5年の刑を宣告されたが、戦時中に仮出所となる。高名な歌人として、釈迢空(=折口信夫)などとともに『愛国百人一首』(1942年)の選者にもなった。

そんな斎藤瀏とその娘の史の人生をを中心に、逆賊とされた青年将校たちとの知られざる関係を「和歌」という切り口で描いたノンフィクション作品であった。 

蹶起した青年将校たちを最終的に裏切った真崎甚三郎のような上官がいた一方、最後までその側に立ち続けたたうえ、かれらの思いを記録に残す役割をはたした斎藤瀏のような元将官もいたのである。 この事実は、日本人として知っておくべきことだ。安曇野出身の斎藤瀏は、少年時代から郷里の佐久間象山や、陽明学の大塩平八郎の話を聞かされて育った人であった。

この本を読んだことで、あらためて天皇と日本人、そして和歌のもつ鎮魂と和解のチカラと意味について深く感じさせられた。プロローグに描かれた92歳の斎藤史と天皇との「和解」(1997年)は、感動的なシーンである。

青年将校たちが処刑されてから60年の月日のち、宮中歌会始の召人として呼ばれ、 明仁天皇に「お父上は瀏さん、でしたね」とお言葉をかけられたのである。これで青年将校たちも、やっと成仏できたのだ、と。





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「二・二六事件」の資金提供者は、マレー半島で財を築いた石原広一郎という実業家
・・「石原広一郎(いしはら・ひろいちろう、1890年(明治23年)~1970年)は、日本の実業家で石原産業の創業者。 京都府京都市生まれ。1913年立命館大学法科専門部卒業。1916年にマレー半島に渡航し鉄鉱山の発見・開発に成功。東南アジア各地や日本国内での鉱山開発や、海運業へ事業を拡大した。1931年の満州事変勃発後、南進論提唱の好機が到来したとして日本に帰国し政治活動を展開、国家主義的団体神武会・明倫会を創立して世論を喚起し、1936年の二・二六事件では、明倫会の斎藤瀏を介して首謀者の1人である栗原安秀中尉を資金面で援助、逮捕された。戦後、A級戦犯容疑で巣鴨に拘禁されるも不起訴となり釈放された」。(Wikipediaの文章を編集)


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2022年2月26日土曜日

『超訳自省録 よりよく生きる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018)が2022年2月18日に「オーディオブック」になりました! 

 

プレスリリースより引用しておこう。  

株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン(本社:東京都千代田区、取締役社長:谷口奈緒美)と世界最大級のオーディオブック及び音声コンテンツ制作・配信サービスであるAmazonオーディブル(以下、オーディブル)は、2022年2月に『超訳 自省録 よりよく生きる』他6点のオーディオブックを、オーディブルにて発売します。 


月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』のおかげかな? ドラマにも原作のマンガでも引用されている『自省録』の名文句はすべて収録されてますよ。 

「耳で聴く読書」は、視覚障害者だけでなく、多忙な現代人にとって有益なツール。ぜひお試しあれ! 




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2022年2月25日金曜日

プーチンの「東洋的専制国家ロシア」による隣国ウクライナへの軍事侵攻を「中長期の視点」で考える(2022年2月25日)

 
 外交官出身の政治家であった吉田茂の長男で、英国への留学経験もある作家の吉田健一は『ヨオロッパの人間』(新潮社、1973)で以下のように書いている。 

戦争は近親のものに別れて戦場に赴くとか原子爆弾で何十萬もの人間が一時に、或は漸次に死ぬとかいふことではない。それは宣戦布告が行はれればいつ敵が自分の門前に現れるか解らず、又そのことを当然のこととして自分の国とその文明が亡びることもその覚悟のうちに含まれることになる(P.220 引用は単行本から)  

陸続きの大陸国家における戦争の本質について、これほど的確に表現した文章はほかに知らない。

だが、「2022年2月24日」に突然開始された、ロシアによる主権国家ウクライナ侵攻には「宣戦布告」すらなかった。 

ウクライナ東部のロシア系住民の多い「未承認国家」の2つの共和国の「独立」をロシア議会をつうじて承認させ、ロシア国民向けの演説を行っただけだ。国際法上の正統性はない。

(「2022年ロシアのウクライナ侵攻」Wikipediaより)

13世紀のモンゴル軍は、ハンガリーまで侵攻した。以後、3世紀の長きにわたってロシアはモンゴル統治下に置かれるキプチャク・ハーン国である。ロシアが独立を確保するのは16世紀になってからだ。ロシアが世界史に登場するのは17世紀以降のことである。

 「ロシア人の皮をはぐとタタールがでてくる」という格言は、そのことを意味している。ロシアは、中国と同様に「東洋的専制国家」なのである。モンゴル統治下で、ロシアの骨格が形成されたのである。ただし、正確にいうと、この格言にでてくるタタールは、トルコ民族も含んだアジア系のテュルク族であって、モンゴル系ではない。 

第二次大戦後も、1956年の「ハンガリー革命」にソ連軍の戦車隊が突入し、首都ブダペストをはじめ各地でハンガリー国民と激しい市街戦となった。

1968年の「プラハの春」が言及されることが多いが、「ハンガリー革命」鎮圧におけるソ連軍についてもっと知っておくべきだ。現在でもブダペスト市内の建築物には当時の弾痕が残っている。このとき、西側諸国は「スエズ問題」で身動きがとれなかった。 

そして、1979年末に始まった「アフガン侵攻」が、最終的にソ連の命取りになったことは、現代史の「常識」である。 

今回のウクライナへの軍事侵攻もまた、ソ連時代とおなじロジックで遂行されていることを知るべきだろう。 あえて、ロシア帝国時代にさかのぼる必要もない。

おそらくウクライナの首都キエフの陥落は時間の問題であり、ロシアは傀儡政権樹立にむけて動くはずだ。だが、はたしてウクライナ国民による抵抗がそれで終わるかどうかは不透明である。 

ウクライナへの軍事侵攻は、戦術家プーチンによる「ハイブリッド戦争」として緻密に練られたものであった。 まさにヒトラーのドイツによる「電撃作戦」(Blitzkrieg)という表現を想起させるものがあった。

だが、「戦術」的成功は、「戦略」的成功とイコールではない。「戦闘で勝って戦争で負ける」というフレーズがあるように、ウクライナ制圧の成功によって「短期的」にはロシア国内で喝采を受けようとも、「中長期的」にみれば、国際社会からの非難と経済制裁によってロシア国民の不満が高まり、プーチンのロシアが衰退への道を進むことは容易に想像できることだ。 

おそらく、ウクライナ国外から「義勇兵」が入国してくるだろう。アフガンへの「ムジャヒディーン(ムスリム義勇兵)」と同様にウクライナの場合は、極右の白人義勇兵である。

後世の歴史家は、「プーチンによるウクライナへの軍事侵攻」は、最終的にプーチン体制の命取りになったと書くことになるかもしれない。1979年の「アフガン侵攻」をリアルタイムで知っている世代の人間としては、どうしてもそう見てしまうのだ。 英語でいう His days are numbered. という表現を想起せざるを得ない。

いま現在進行中の事件も、短期的視点と中長期の視点の両方で見ることが重要だ。 「ユーラシア大陸内部の大激動」は、政治経済のすべての分野で全世界にシステミックに波及する。これが歴史の示すところだ。 

そして地政学的にいえば、ウクライナ問題が玉突き現象のように周囲に波及していく。バルト三国の危険度も急速に上昇しているだけではなく、宿命のライバルであるトルコがどう動くか注視する必要があろう。 

2014年にロシアが一方的にウクライナから奪って併合したクリミア半島だが、18世紀末女帝エカチェリーナの時代にロシア帝国に併合されるまで、15世紀以来オスマン帝国の影響圏にあったクリミア・ハーンが支配する国であったことを想起すべきなのだ。 

国際情勢、とくにユーラシア大陸内部の激変にかんしては、けっして近視眼であってはならない。




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2022年2月23日水曜日

映画『ディア・ハンター』(1978年、米国)-平凡な日常を断ち切ってしまう戦争のもつ意味について考えさせられる

 
いったい何十年ぶりになるのだろうか、映画『ディア・ハンター』(1978年、米国)をDVDで視聴。178分という3時間弱は、最近の映画にはない長さだ。2回にわけて視聴した。

かの有名なロシアン・ルーレットのシーンと、ロシア正教会のシーンだけが記憶に残っていたが、表層レベルのではなく、感情の深いレベルで心を打たれる。セリフは少なく、デ・ニーロやメリル・ストリープなど、俳優たちの表情で物語る映画。泣ける映画だと、あらためて思った。

最初からディテールに注意を払いながら視聴すると、いろいろなことが見えてくる。

(主人公たちが勤務を終えて工場から退出するシーン ビデオよりキャプチャ)

米国東部のペンシルバニア州の州都ピッツバーグ郊外の鉄鋼メーカーの企業城下町が舞台ロシア系移民のコミュニティに生きる若者たちの青春。鉄工所で働く若者を中心にした、ハンティング仲間6人と同世代の女性たち。保守的な母親たちと子ども世代のジェネレーションギャップ(*)

(*)米ソ対立の冷戦時代の話である。すでにそれとわかる、ロシア系の名字をもった主人公の一人に対する米国政府の対応に、ロシア系移民の置かれた状況が浮き彫りになっている。戦闘で負傷してサイゴンの病院に収容されている際のシーンである。

(コミュニティを象徴するのがロシア聖教寺院 ビデオよりキャプチャ)

時代背景は1968年、ベトナム戦争のまっただ中のことだ。徴兵されて出征する若者3人、徴兵されなかった若者3人(**)。そして、かれらのガールフレンドたち。

(**)当時は、「ソーシャル・セキュリティ・ナンバー」(SSN:社会保障ナンバー)で無作為抽出された者が徴兵されたらしい。本土復帰前の沖縄県人で、米国留学中に徴兵されてベトナム戦争にいかされた者がいたのはそのためだ。米国に居住経験のある人なら、これが何を意味するか容易に想像できることだろう。留学生にも「SSN」が割り振られるのである。

かならずしも反戦映画ではないのだが、徴兵期間の2年の月日をはさんだビフォア&アフター、その明暗のコントラストの違いに、徴兵されて戦争に行くということの意味を重く、深く、考えさせられる

(教会での葬儀のシーン ビデオよりキャプチャ)

この映画が製作され公開されたのが1978年サイゴン陥落によって米国が撤退したのは1973年、それからわずか5年後の作品だ。それだけに、当時の雰囲気がダイレクトに伝わってくる。時代を隔てた後世から、再解釈され再構成された時代劇ではないのだ。

1968年というと、世界中で「学生反乱」が起こった年であり、とくに米国では大学生たちのあいだで「ベトナム戦争反対運動」が高まっていた時期だ。

(企業城下町の夜 ビデオよりキャプチャ)

だが、この映画の舞台となった地方の企業城下町は、そんな都会の大学生などとはまったく縁のない世界であったのだ。いかにも典型的ともいうべき、米国の地方都市が舞台なのである。大学に進学することなどほとんどなく、ハイスクールを卒業したらコミュニティのなかで職に就く。

(いかにも米国の地方都市そのものというべきボーリング場 ビデオよりキャプチャ)

だからこそ余計に、平凡な日常を断ち切ってしまう戦争というもののもつ意味を考えざるを得ないのである。




<関連サイト>


・・実際はオハイオ州クリーブランドにあるこの教会で撮影が行われた



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・・アメリカではどんな地方都市でも平屋建てのボーリング場がある。もっともポピュラーな娯楽の一つだ



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2022年2月20日日曜日

書評『精神世界のゆくえ ー 宗教・近代・霊性(スピリチュアリティ)』(島薗進、秋山書店、2007)ー 1980年代以降の日本で「教養主義」にとって代わった「精神世界」とは

 

昨年のことだが、たまたまブックオフの店頭で見つけて購入した本。これはじつに良い本を発掘したものだと、読んでみてわかった。 

もともとこのテーマには強い関心があるから購入したわけだが、1948年生まれの宗教学者・島薗進氏の著作を読むのはこれが初めてとなる。1996年刊の初版の改訂版とのことだ。 

この本は、研究書でありながら一般書としても読める内容で、幅広い視点による目配りの効いた、よく整理された内容には、読んでいて大いに頷くものを感じる。 


■1980年代以降の日本で「教養主義」にとって代わった「精神世界」 

とくに膝を打ちたくなったのが、「第3部 精神世界と知の構造の変化」である。「第3部」を構成する3章のなかでも「第8章 教養から精神世界へー高学歴層の自己形成の変容」である。 

この流れが顕在化し始めたのが1979年前後であり、1980年代以降は主流になっていたことが跡づけられている。 

なるほど、1981年に大学に入学したわたしの世代の人間は、多かれ少なかれ、ほぼ完全にこの流れにどっぷり浸かってきたのだと、現在から振り返ってみて大いに納得させられたのだ。 

この点は、わたしより1つ年上のエッセイスト・岸本葉子氏も、『生と死をめぐる断想』(中公文庫、2020)で述べており、共感するものがある。  

1973年のオイルショックで高度成長が終焉し、ノストラダムスの大予言やコックリさんなど、小学生時代に体験している世代である。近代合理主義の破綻が顕在化してきた時代を生きてきたわけだ。 

だからこそ、「精神世界」への親和性が高いのは当然であり、「教養主義」など見向きもしなかったのも当然なわけだな、と。わたしの場合は、合気道とヨーロッパ中世史がそれを増幅したような気もする。 

もちろん、1995年の事件を招いたオウムに流れたのは、そのごく一部であるが、既存の宗教からの離脱が進み、スピリチュアルの方向に向っていたのは、時代の流れといっていい。 


■米国発のニューエイジとニューサイエンス、そして日本
 
著者は、米国のカウンターカルチャー(対抗文化)から生まれてきた「ニューエイジ」や「ニューサイエンス」を踏まえたうえで日本への影響を論じて、それぞれグローバルな状況のなかに位置づける。 

著者は、この流れを「新霊性運動」ないし「新霊性文化」と命名し、その内容と意味について幅広く、かつ深く考察している。 「集団レベルの救い」から「個人レベルの癒やし」へのシフトは、先進国では共通に見られる現象なのである。ただし、もともと既存の宗教が弱い日本の特殊事情についての指摘は重要だ。 

現代社会を理解するうえで、「精神世界」の動向に注意を向ける必要があるのは、この流れが経済やビジネスとも密接な関係をもっているからだ。島薗進氏のその他の著作を読んでみたいと思う。 


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目 次
はじめに 
第1部 グローバルな現象としての精神世界
 第1章 精神世界とは何か
 第2章 ニューエイジ運動とその周辺
 第3章 新霊性運動
第2部 新霊性運動の体験と生の形
 第4章 ニューエイジ運動の多中心性ーチャネリング流行の意味
 第5章 ニューエイジャーの癒やしと救いーS・マクレーンの「自己自身への旅」
 第6章 自己変容体験とその参与観察ーセミナーの倫理と愛
 第7章 ニューサイエンス理論のなかの心ー心=意識は何をなしとげうるか
第3部 精神世界と知の構造の変容
 第8章 教養から精神世界へ-高学歴層の自己形成の変容
 第9章 精神世界の主流文化への浸透ー霊性的知識人の台頭
 第10章 新霊性運動と代替知運動ーある農業運動の事例から
第4部 現代世界のなかの新霊性運動
 第11章 セラピー文化のゆくえ
 第12章 宗教を超えて?ー新霊性運動と「宗教」観の変容
 第13章 救済とルサンチマンを超えて?ー現代宗教における「悪」について
 第14章 救済宗教と新霊性運動ー軸の時代からポストモダンへ
あとがき
索引


著者プロフィール
島薗進(しまぞの・すすむ)
1948年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授、上智大学神学部特任教授・同大学院実践宗教学研究科教授、同グリーフケア研究所所長(2021年度まで)、大正大学客員教授。専門は宗教学、近代日本宗教史、死生学。著書多数。


PS 『精神世界のゆくえー宗教・近代・霊性(スピリチュアリティ)』は、宝蔵館から2022年11月に『精神世界のゆくえ: 宗教からスピリチュアリティへ』と改題されて文庫化された。

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■「自分史」と精神世界-合気道とヨーロッパ中世史




断食修行

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2022年2月17日木曜日

書評『ヘレン・ケラー 私の宗教 ー ヘレン・ケラー、スウェーデンボルグを語る <決定版>』(高橋和夫/鳥田恵訳、未来社、2013)ー 三重苦だからこそ「超感覚世界」を理解できたヘレン・ケラーをつうじてその血肉となったスウェーデンボルグ思想を知る

 
ここのところ、約10年ぶりに18世紀スウェーデンが生んだ知の巨人スウェーデンボルグについての本をちまちま読んでいる。 

日本でも禅仏教の世界的権威の鈴木大拙、無教会派キリスト者の内村鑑三、初代文部大臣を務めた森有礼など、そうそうたる人物たちがスウェーデンボルグの影響圏のなかにある。 

霊性(=スピリチュアリティ)に考える際には避けて通ることができないのがスウェーデンボルグの思想だ。とくに英語圏を中心に、大きな影響を与え続けてきたからだ。さきにあげた3人は、いずれも留学ないし仕事で米国に長期滞在した人たちである。 

「自己啓発」や「ポジティブシンキング」などをつうじて、現在にいたるまでスウェーデンボルグの思想は、深層潮流として流れ続けているにもかかわらず、日本では敬して遠ざけられているきらいがあるのは残念なことだ。 

ところで、盲目の国学者で「群書類従」(全666巻)という日本の古典を収拾し活字化する一大プロジェクトを立ち上げ、41年かけてコンプリートさせた塙保己一(はなわ・ほきいち)についてコラムを書いた際に、ヘレン・ケラーについてもあらためて振り返ったことがある。  

その際に入手していながら、いままで読んでいなかった『ヘレン・ケラー 私の宗教ーヘレン・ケラー、スウェーデンボルグを語る<決定版>』(高橋和夫/鳥田恵訳、未来社、2013)を本日ようやく読んでみた。  

ヘレン・ケラーもまた、スウェーデンボルグ思想の強い影響圏のなかにかにいた人なのだ。 

2歳のときの発熱が原因で視覚と聴覚を失い、聴覚を失ったためにコトバも知らず、発話もできなかったヘレン・ケラーが、サリヴァン先生の献身的な努力のおかげで W-A-T-E-R というコトバを知り、実体としての水と結びついて認識できたときの感激はよく知られている。 

だが、その後ヘレン・ケラーが、いかにして抽象概念を理解し、自分の考えをアウトプットできるようになったか、そして生きる力を生み出し、彼女を内面から支えた思想はいかなるものだったかについては、あまり知られていない。 

『ヘレン・ケラー 私の宗教』を読むことで、それが手に取るように理解できるのだ。

感覚世界のうち視覚と聴覚を閉ざされていたヘレン・ケラーだからこそスウェーデンボルガが霊界という「超感覚世界」について語ることが理解できるということに大きな説得力があるのだ

原本は1927年の初版で、ヘレン・ケラーが47歳のときのものである。 スウェーデンボルグの著作を点字訳で読み、その内容に共鳴して、大いに感化され、その思想を自分を支えるものとして血肉化していったことがわかるだけでなく、ヘレン・ケラーをつうじてスウェーデンボルグの思想も理解できるのである。 

スウェーデンボルグは、18世紀前半当時では一頭地を抜く科学者で工学者であり、その冷静な観察眼をもって霊界について記述した人である。

ヘレン・ケラーは、フランシス・ベーコンの帰納法でもって霊界を観察し記述したと書いている。 ああ、そういう系譜でものを考えることもできるのだな、と。たしかに、ベーコンもまた中世と近世の狭間を生きた人で、大いに評価されたのは18世紀になってからであった。

スウェーデンボルグの思想についてはここでは省略するが、カルヴィニズムの予定説を否定し、現世においては、人のために役にたつことをし、「いま、ここ」で高みを目指して努力することの意義を説いている。 

これが「自己啓発」や「ポジティブシンキング」につながっていくわけだが、スウェーデンボルグ思想を完全に自分のものとし、障害を試練とみなす心構えを身につけたヘレンに、心の底から「生きていてよかった!」と言わしめているのである。読んでいて感動すら覚えるのだ。 

スウェーデンボルグは基本的にキリスト教だが、キリスト教の枠組みを超えて、仏教やその他のスピリチュアルな活動に影響を与えたのは、ある意味では当然だなとあらためて思わされた。 

『ヘレン・ケラー 私の宗教』は、ヘレン・ケラー自身について深く知るためにも、ヘレン・ケラーをつうじてスウェーデンボルグ思想を知るためにもぜひ読んでおきたい好著である。 


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■米国の宗教風土

・・表面的な物質文化だけを見ていてはわからない米国人の精神性。どんな人でもかならず神や魂について考えており、語ることができるのが米国人である

・・「自己啓発」の思想もこの潮流のなかにある




■霊界と霊性(=スピリチュアリティ)

・・スピリチュアル世界の牽引者の一人が美輪明宏

・・幽冥界について探求した平田篤胤。平田国学は当時の日本人に安心立命と生きる力を与えた



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