2012年2月29日水曜日

4年に一度の「オリンピック・イヤー」に雪が降る-76年前のこの日クーデターは鎮圧された(2012年2月29日)



2月29日。この日にブログを書くのは、4年に一度しかできない。
閏年である。オリンピックイヤーである。夏にはロンドンでオリンピックがある。

とくにテーマがあるわけではないのだが、こういう機会を利用しない手はあるまい。なんせ、次回この日に書けるのは4年後である。これから何歳まで生きるのか、またいつまでブログを書くのかわからないが、きょうこの日を逃したら、もうつぎは4年後になってしまう。

けさは未明から雪。関東南部も雪だ。東京だけでなく、千葉県北西部も昼まで降り続けるという。

今年の2012年2月26日は雪ではなかったが、きょうのこの日が雪。

と書いてみて、ふと思うことがあって、1936年(昭和11年)を調べてみたら、なんとその年も閏年だった

そうか、76年前の1936年2月26日、雪の降る東京で始まった二・二六事件は、4日目の2月29日に青年将校たちは自決するか投降してクーデターは鎮圧された。あまり考えてなかったが、二・二六事件は、2月26日に始まり、2月29日に終わったのだ。

そうか、あのときも閏年だったのだ。1936年は、ヒトラーのもとでベルリン・オリンピックが開催された年だったのだ。オリンピックイヤーだったのだ。

この日に雪が降らなければ、思い出して検索してみることもなかっただろう。76は4の倍数。すぐに連想しなかったのがうかつだったのか、それとも二・二六事件を忘れるな!という冥界からのメッセージか??

不思議なことだ。シンクロニシティだろうか。

「格差社会」がふたたび進展する現在の日本。

戦前はいまよりもっと荒々しい資本主義の時代だったから、現在よりも、はるかに貧富の差は大きかった。社会矛盾に怒りを覚え、解決を目指して立ち上がった青年将校たちの気持は忘れてはならない。

1936年もまた、東北の農村は疲弊しきっていたのだ。1929年の世界大恐慌の影響と大飢饉のため、東北では、娘が身売りされるなど悲惨な状況になっていたのだ。

士官学校をでて隊付き将校として着任した尉官たちが「現場」で実感したのは、兵士たちのふるさとである東北の農村の疲弊状況だったのだ。感受性豊かな20歳代前半の青年であれば、何も感じない、ものを考えないというはずがありえない。

基本的にエンジニアである陸軍軍人たちは社会科学の素養を欠いており、その情勢分析はかならずしもただしくなかったし、クーデターに訴えるというやり方も好ましいものではけっしてない。しかもクーデター後の見取り図もないままというきわめて稚拙なものであった。

だが、青年将校たちの熱い思いは忘れてはならないのだ。






<関連サイト>

「昭和維新の歌」(YouTube)・・映画『2・26』(1989年)の映像とともに


<ブログ内検索>

二・二六事件から 75年 (2011年2月26日)

「精神の空洞化」をすでに予言していた三島由紀夫について、つれづれなる私の個人的な感想





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2012年2月26日日曜日

Pen (ペン) 2012年 3/1号(阪急コミュニケーションズ)の「特集:エルサレム」は、日本人のための最新のイスラエル入門ガイドになっている


雑誌『Pen (ペン)』(阪急コミュニケーションズ)最新号の特集は、「ユダヤ・キリスト・イスラム 三宗教の聖地へ。エルサレム」である。 

雑誌の特集だが、内容豊富で一冊の単行本にも匹敵する内容になっている。内容は、ユダヤ教とは何か、ユダヤ人とは誰か?、それにイスラエル最新案内をつけ加えたものだ。

まずは目次を紹介しておこう。

目 次
       
【特集】ユダヤ・キリスト・イスラム 3宗教の聖地へ。エルサレム        

唯一絶対の神と結ばれた、聖地の変遷。
3つの宗教から見た、聖なるエルサレム
イエス生誕の地、ベツレヘムのミサに与る。
民族の誇りの象徴、壮大なマサダを望む。
重厚な歴史が凝縮する、巨大博物館へ。
ユダヤ教とは何か? ユダヤ人とは誰か?
神による啓示、聖典トーラーを学ぶ意味。
世紀の発見、最古の聖書を含む 死海文書。
ユダヤ教の視点で、聖書を読み解く。
シャガールが描いた、ユダヤのためのステンドグラス。
遡ること4000年、ユダヤの歴史を知る。
地域住民を牽引する、ラビの1日に密着。
シナゴーグとは、こんな役目を果たす場所です。
生涯を鮮やかに彩る、さまざまな祭りや儀式。
ユダヤ宗教学校では、何を学んでいるのか。
ユダヤ人が、エルサレムに住む意味とは?
超正統派の人々が暮らす、未知のエリアへ。
つながるために活動する、ふたつの組織。
各界で才能を発揮する、ユダヤ系著名人。

【とじ込み付録】イスラエル最新案内

この雑誌の特集については、イスラエル大使館文化部からの情報で知った。現地での取材を含めて全面的に協力しているようだ。ふつうは入れないような施設の内部も取材している。

エルサレムで現地取材した記事と、なによりも大判の雑誌であるだけに、収録された美しい写真の数々がすばらしい。保存版として一冊買っておく価値はある。

日本ではあまり知られていない、ユダヤ教の観点からのエルサレムとイスラエルの特集である。いわば、日本人の一般読者のためのビジュアル版のジュダイカ(=ユダヤ文化総覧)になっている。

聖書は大きくわけて、旧約聖書と新約聖書でなりたっているというのが教科書的な常識となっている日本人にとっては、ユダヤ教による聖書解釈など、日本人読者の多くにとっては新鮮に映るものであろう。

一般に「ユダヤ・キリスト教」という表現で語られるユダヤ教であるが、キリスト教発生以後に発展したユダヤ教が視野に入っていない、誤解を生みやすい表現であることは、あらためて強調しておきたい。その意味では、きわめて意欲的な特集であるといえる。

【とじ込み付録】イスラエル最新案内は、とくにアートやデザイン関係の最新情報がありがたい。

わたしは、イスラエルには1992年に戦争の合間をぬってはじめて訪れて以来、かれこれもう20年もご無沙汰している。ぜひ、そう遠くない将来に再訪したいものだ。

「男のためのハイクオリティ・マガジン」をコンセプトにしている『Pen (ペン)』であるが、イスラエル入門のガイドになっているこの特集は、男女の関係なく買う価値のあるものだと言っておこう。

この特集は2012年12月に阪急コミュニケーションズから再編集のうえ書籍化された。





<関連サイト>

特集「ユダヤ・キリスト・イスラム 三宗教の聖地へ。エルサレム」(Pen)

Ofra Haza - Yerushalaim Shel Zahav (「黄金のエルサレム」 YouTube)
・・いまは亡きイスラエルの歌姫オフラ・ハザの熱唱。オフラ・ハザはイエメン系ユダヤ人。1980年代後半に、東京で開催されたコンサートにいったことがなつかしい。


<ブログ内関連記事>

『イスラエル』(臼杵 陽、岩波新書、2009)を中心に、現代イスラエルを解読するための三部作を紹介

映画 『戦場でワルツを』(2008年、イスラエル)をみた

イスラエル産スウィーティーの季節

『ユダヤ教の本質』(レオ・ベック、南満州鉄道株式会社調査部特別調査班、大連、1943)-25年前に卒論を書いた際に発見した本から・・・

書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む・・「ユダヤ・キリスト教」という一括した表現は誤解を生む元である。

書評 『緑の資本論』(中沢新一、ちくま学芸文庫、2009)
・・ユダヤ教、キリスト教、イスラームの3つの一神教を経済を軸に比較する


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2012年2月24日金曜日

語源を活用してボキャブラリーを増やせ!ー『ヰタ・セクスアリス』 (Vita Sexualis)に学ぶ医学博士・森林太郎の外国語学習法



今年2012年は、鴎外・森林太郎(1862~1922年)の生誕150年にあたる年である。2月17日の生誕日はすでに過ぎたが、先日も鴎外ゆかりのベルリンで生誕150年を祝う会がもたれたとの報道があった。

昨年のことだが、『舞姫』の主人公の相手のドイツ女性の身元がほぼ判明したというニュースをみた。「舞姫」には「姫」という単語が入っているが、「歌姫」と同様、日本語の姫にはかならずしもプリンセスの意味はない。舞姫というのは女性ダンサーといった程度の意味だ。

このブログに「メメント・モリ」という文章を書いたことがある。ダジャレ的な連想ではあるが、森鴎外のことを思い出したので、たまには鴎外の話題を書いてみたいと思う。


語源を活用してボキャブラリーを増やせ!

「メメント・モリ」(Memento Mori)はラテン語で「死ぬという事を忘れるな」という意味である。こうしたラテン語の表現は、森鴎外の作品にはよく出てくる。たとえば nil admirari(無関心、無感動)などの表現。vita sexualis など、小説のタイトルそのものにも使用されている。

森鴎外=明治の文豪=ドイツと思い込んでいると盲点かもしれない。鴎外は文学者として名を残した人であったが、本職は陸軍軍医であり、医学博士でもあったことを忘れるべきではない。最近の表現をつかえば「文理融合」のモデルといってもいいだろう。しかも、陸軍軍医としてのキャリアをまっとうし、最終的には軍医としてトップまで上り詰めている。

鴎外が軍医になったのは、東京帝国大学医学部を二番で卒業したからである。首席ではなかったため帝大教授への道は断念し、陸軍軍医としてのキャリアを開始することになった。

近代日本では最新の科学知識はみな西洋から学んだが、医学については当時の最先端であったドイツから学んでいる。陸軍じたいはモデルを当初のフランスからドイツに転換しているが、医学にかんしては最初からドイツであった。

鴎外は、石見(いわみ)の国・津和野藩の藩医の家に生まれた長男であったから、当然のことながら医者を継ぐことが嘱望されていた。少年時代からドイツ語を学んでおり、しかも堪能であった。早熟な秀才というべきだろう。

医学においては現在もそうであるが、学名はすべてラテン語である。鴎外がラテン語も使っているのは、学名を覚える必要から学んだのであろう。当然、ドイツ留学中もドイツ語で講義を受けながら、学名はラテン語をつかっているはずだ。

明治42年に「昴」(すばる)に発表された半自伝的小説、『ヰタ・セクシュアリス』にはこんな一節がある。小説の主人公が15歳のときの回想となっている。当時だから数えで15歳だろう。知的にもずいぶん早熟な少年だったようだ。出典は、『ヰタ・セクスアリス』(森鴎外) 著作権の切れた文学作品をネットで公開している「青空文庫」。 http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/695_22806.html

寄宿舎では、その日の講義のうちにあった術語だけを、希臘拉甸(ギリシャラテン)の語原を調べて、赤インキでペエジの縁(ふち)に注して置く。教場の外での為事(しごと)は殆(ほとん)どそれ切(きり)である。人が術語が覚えにくくて困るというと、僕は可笑(おか)しくてたまらない。何故(なぜ)語原を調べずに、器械的に覚えようとするのだと云いたくなる。

「何故(なぜ)語原を調べずに、器械的に覚えようとするのだと云いたくなる」・・これは鴎外が、現代風にいえば「語源で覚える単語」をすでに実践していたエピソードを自慢したものと受け取ってもいいだろう。わたしはこの一節を読んだとき、「まさにそのとおり!」と思ったものだ。

鴎外の「語源で覚える単語」(・・英単語以外でもいい)は、トロイの遺跡を発掘したシュリーマンの全文丸暗記外国語学習法とならんで、外国語習得のコツとして顧みるべきメソッドである。


「専門知識」(仕事)×「雑学」(遊び)=「引き出し」

『ヰタ・セクスアリス』という半自伝的小説は、「鴎外に学ぶ学習法」として読むといいとわたしは考えている。

この小説は、鴎外と思われる主人公の「学び=遊び」という姿勢が読み取れるのが興味深い。こういう知性のありかたは日本人ではあるが、ユダヤ的な印象も受ける。専門の勉強以外に、心の赴くままに、自分が好きなことをするという姿勢だ。

「専門知識」を得るための勉学のかたわら、有職故実について記された『貞丈雑記(ていじょう・ざっき)などを読みあさっていた鴎外は、豊富な「雑学」をそのようにして身につけたようだ。鴎外の「引き出し」がきわめて大きかったのは、「専門知識」と「雑学」とのシナジーでもあるのだろう。先の引用のあとに、こんなやりとりがある。

古賀はにやりにやり笑って僕のする事を見ていたが、貞丈雑記を机の下に忍ばせるのを見て、こう云った。
「それは何の本だ」
「貞丈雑記だ」
「何が書いてある」
「この辺には装束の事が書いてある」
「そんな物を読んで何にする」
「何にもするのではない」
「それではつまらんじゃないか」
「そんなら、僕なんぞがこんな学校に這入って学問をするのもつまらんじゃないか。官員になる為めとか、教師になる為めとかいうわけでもあるまい」
「君は卒業しても、官員や教師にはならんのかい」
「そりゃあ、なるかも知れない。しかしそれになる為めに学問をするのではない」
「それでは物を知る為めに学問をする、つまり学問をする為めに学問をするというのだな」
「うむ。まあ、そうだ」
「ふむ。君は面白い小僧だ」

なにかのために「雑学」を増やしているのではない。好きだから好奇心のおもむくままに雑学が増えていくのはきわめてナチュラルな姿勢だ

おそらく、日本でのこうした経験が、ドイツ留学中の綿密な社会風俗観察の基礎となっていたのだろう。専門の医学でつちかわれた緻密な観察眼豊富な雑学に支えられた「引き出し」は、翻訳者にとっては絶対に不可欠である。

『ヰタ・セクシュアリス』の末尾はこうなっている。

さて読んでしまった処で、これが世間に出されようかと思った。それはむつかしい。人の皆行うことで人の皆言わないことがある。Prudery に支配せられている教育界に、自分も籍を置いているからは、それはむつかしい。そんなら何気なしに我子に読ませることが出来ようか。それは読ませて読ませられないこともあるまい。しかしこれを読んだ子の心に現われる効果は、予(あらかじ)め測り知ることが出来ない。若しこれを読んだ子が父のようになったら、どうであろう。それが幸か不幸か。それも分らない。Dehmel が詩の句に、「彼に服従するな、彼に服従するな」というのがある。我子にも読ませたくはない。
金井君は筆を取って、表紙に拉甸(ラテン)語で
VITA SEXUALIS
と大書した。そして文庫の中へばたりと投げ込んでしまった。

VITA SEXUALIS・・・このラテン語じたいがわからないと、読んでも正確に理解できないだろう。

『ヰタ・セクシュアリス』はラテン語の Vita Sexualis(ヴィータ・セクスアリス) をカタカナで日本語表記したものだ。このラテン語の意味は英語でいえば Sex Life となる。直訳すれば性的生活。現代的な語感なら、ずばりセックス・ライフといったところか。


外国文学紹介者としての鴎外

鴎外の業績はあまりにも膨大なので、研究者でもなければまず全集を全部読むなんてことはないだろう。岩波書店から刊行された『鴎外全集』はなんと全38巻、軍医という多忙な官僚生活を続けながら、よくもそれだけ書きに書いたものだ。しかも、日清戦争と日露戦争には軍医として出征もしている。

まさに近代日本の知的生産の先駆者である。

わたしは、高校在学中の1978年からはじまった、小説家でアンドレ・ジードの翻訳家でもあった石川淳が選んだ『鴎外選集』(岩波書店)の第一巻小説を廉価なので購入して読んでいた。石川淳の選択は、『即興詩人』以外の翻訳小説を中心においているのは、まさに炯眼というか、見識を感じさせる。

鴎外というと、アンデルセンの『即興詩人』の擬古文による雅俗体の名訳が有名だが、なぜ石川淳が『鴎外選集』からはずしたのかはわからない。あまりにも通俗的とみなしたのか。

世紀末ウィーンの文学者アルトゥーア・シュニッツラーの小説『みれん』の鴎外による翻訳はかつて角川文庫に入っていた。訳文は口語体で、現在でもそれほど違和感を感じずに読むことができる。ちなみにシュニッツラーもまた医者でかつ文学者であった点は鴎外と共通点がある。シュニッツラーはユダヤ系であった。

海外文学紹介者としての鴎外こそ、もっと知られるべきであろう。

その基礎は、漢文も含めたバツグンの語学力に支えられた「文理融合」の人であったことにある。世の中には漱石のファンは多いが、鴎外こそ見直すべきである。



PS 森鴎外訳の『みれん』

森鴎外訳の『みれん』は、世紀末ウィーンの作家シュニッツラーのもの。アンデルセンの『即興詩人』以外に鴎外は膨大な量の文学作品を翻訳して日本に紹介していることも知るべきだ。

『臓単-ギリシャ語・ラテン語 語源から覚える解剖学英単語集【内臓編】-』(原島広至、河合良訓=監修、エヌティーエス、2005)という本があることをはじめて知った。シリーズででている。

(2014年12月30日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

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veni vidi vici -ユーリウス・カエサル(Julius Caesar)

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「三日・三月・三年」(みっか・みつき・さんねん)

Two in One, Three in One ・・・ All in One ! -英語本は耳で聴くのが一石二鳥の勉強法

書評 『ラテン語宗教音楽 キーワード事典』(志田英泉子、春秋社、2013)-カトリック教会で使用されてきたラテン語で西欧を知的に把握する

「人間の本質は学びにある」-モンテッソーリ教育について考えてみる

書評 『ユダヤ人が語った親バカ教育のレシピ』(アンドリュー&ユキコ・サター、インデックス・コミュニケーションズ、2006 改題して 講談社+α文庫 2010)

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2012年2月22日水曜日

書評 『受験脳の作り方-脳科学で考える効率的学習法-』(池谷裕二、新潮文庫、2011)記憶のメカニズムを知れば社会人にも十分に応用可能だ!

記憶のメカニズムを知れば、大学受験だけでなく社会人にも十分に応用可能だ

脳科学に関心のある人は、その大半が記憶がその関心の中心になるのではないか?

どうしたら記憶力を増強することができるのか、どうしたら記憶力の減退を防ぐことができるのか、なにかいい方法はないのか、と。

本書は、もともとは10年前に高校生向けに書かれた『高校生の勉強法』に、加筆修正した文庫版である。

脳科学の専門用語は必要最低限に押さえ込んでおり、たいへんわかりやすい文章であるが、押さえるべきところはすべて押さえてあるので、繰り返し読めば得るものはきわめて大きい。

本書の著者の池谷裕二博士は、記憶のメカニズムにおいて、きわめて重要な役目を果たしている海馬(かいば)についての研究で薬学博士号を取得した最前線の研究者である。しかも、一般人向けに記憶のメカニズムについてじつにわかりやすく説明してくれるサイエンスライターとしての才能をもつ人でもある。名著『記憶力を強くする』(講談社ブルーバックス、2001)がデビュー作だが、最新の研究成果を一般社会に還元してくれる、じつにありがたい存在だ。

基本的に大学受験を控えた高校生向けの本なのだが、脳科学のメカニズムに基づいた原理は共通しているので、勉強法としては高校生以外の一般社会人が読んでも、面白くてためになる好著になっているといえよう。

社会人の読者は、いままでの自分の勉強法がどこが正しいのか、どこが間違っているのか検証する読み方もいいかもしれない。中高校生には、正しい勉強法として推薦してあげたほしいとも思う。

しかし、「学問に王道なし」というように、「勉強法にも王道なし」と言っておかねばならないだろう。本書で解説されているのは「効率」的な勉強法とはいえ、「効果」が出てくるには時間がかかるのだ。なぜそうなのかも、ちゃんと解説されている。

巻末には、使用されている専門用語がすべて1ページに集約された索引がついているのもありがたい。その数、たったの27語

一般読者は、このリストにある専門用語すら覚える必要はないと思うが、よく読んでなぜそうなのかという脳科学のメカニズムだけは理解しておきたいものだ。現代人の必読書といえよう。







<初出情報>


■bk1書評「記憶のメカニズムを知れば、大学受験だけでなく社会人にも十分に応用可能だ 」することが必要だと気づかせてくれる好著」投稿掲載(2012年1月31日)
■amazon書評「記憶のメカニズムを知れば、大学受験だけでなく社会人にも十分に応用可能だ 」することが必要だと気づかせてくれる好著」投稿掲載(2012年1月31日)


書誌情報

『最新脳科学が教える 高校生の勉強法(東進ブックス)』(池谷裕二、ナガセ、2002)の改題増補、一部改稿

目 次                                  

第1章 記憶の正体を見る
第2章 脳のうまいダマし方
第3章 海馬と LTP(長期増強)
第4章 睡眠の不思議
第5章 ファジーな脳
第6章 天才を作る記憶のしくみ

著者プロフィール                                                
池谷裕二(いけがや・ゆうじ)                                         
1970(昭和45)年、静岡県藤枝市生れ。19988(平成10)年、東京大学・大学院薬学系研究科で薬学博士号取得。2002年から約2年半のコロンビア大学・客員研究員を経て、東京大学・大学院薬学系研究科・准教授。東京大学・大学院総合文化研究科・連携准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)







<ブログ内関連記事>

書評 『脳の可塑性と記憶』(塚原仲晃、岩波現代文庫、2010 単行本初版 1985)・・記憶研究を学問的水準を落とすことなく一般人向けに解説

脳科学を応用した健康維持法、とは

「知の風神・学の雷神 脳にいい人文学」(高山宏 『新人文感覚』全2巻完結記念トークイベント)に参加してきた

書評 『脳を知りたい!』(野村 進、講談社文庫、2010 単行本初版 2000)

書評 『脳と日本人』(茂木健一郎/ 松岡正剛、文春文庫、2010 単行本初版 2007)

書評 『ネット・バカ-インターネットがわたしたちの脳にしていること-』(ニコラス・カー、篠儀直子訳、青土社、2010)

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)

「三日・三月・三年」(みっか・みつき・さんねん)




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2012年2月19日日曜日

バンコクで創刊されたフリーマガジン「ArayZ」(アレイズ)の創刊第2号(2012年2月号)からわたしの連載が始まりました



今年2011年1月に、フリーマガジンの激戦区タイ王国の首都バンコクで、あらたなフリーマガジンが誕生しました。

その名は 「ArayZ」(アレイズ)コンセプトは「バンコクライフに光を照らすワンランク上のフリーマガジン」、アルファベットの A と Z にはさまれた ray は英語で光線を意味するコトバです。光あれ!、と。

「ArayZ」(アレイズ)の創刊二号(2012年2月号)から、わたしが書いた原稿が掲載されています。タイトルは「ArayZ ライブラリー 書をもって、世界へ出よう。」です。今月号は第一回の連載ですので、見開き2頁にわたって書評を二本掲載しています。

紹介した本は、『消費するアジア-新興国市場の可能性と不安-』(大泉啓一郎、中公新書、2011) と  『タイに渡った鑑識捜査官-妻がくれた第二の人生-』(戸島国雄、並木書房、2011)。前者は、経済学の視点でアジアを分析した本、後者はタイで第二の人生を燃焼させた日本の鑑識捜査官のメモワールです。

すでに、このブログで発表した書評を、タイで発行されるフリーマガジン向けに一部手を入れたものを掲載しています。「ArayZ ライブラリー 書をもって、世界へ出よう。」に掲載されたものよりもくわしい背景情報などを知りたい方は、リンク先を <ブログ内関連記事> に紹介しておきますのでご覧になってください。

バンコクに居住されている方はフジスーパーや紀伊國屋書店をはじめとして、いろんな場所で入手できますので、ぜひ一度お手にとっていただきたいと思います。たいへん美しい写真が満載の雑誌がなんとフリー(無料)でゲットできます。長く保存しておきたいような雑誌を目指しているとのことです。

バンコクに行かれる方は、ぜひ「ArayZ」をご覧になってみてください。この雑誌で紹介されているグルメ情報や旅の情報は、『地球の歩き方』やその他の日本国内で出版されているガイドブックには掲載されていない、知る人ぞ知る「ワンランク上のライフスタイル」ばかりです。

また来月号にも「書評」が掲載されますので、連載には乞うご期待!


<関連サイト>

 「ArayZ」の発行先であるグルタン(グルメ探検)のフェイスブックページ
http://www.facebook.com/GURUTAN


<ブログ内関連記事>

書評 『消費するアジア-新興国市場の可能性と不安-』(大泉啓一郎、中公新書、2011)-「新興国」を消費市場としてみる際には、国全体ではなく「メガ都市」と「メガリージョン」単位で見よ!

書評 『タイに渡った鑑識捜査官-妻がくれた第二の人生-』(戸島国雄、並木書房、2011)

「ビジネスマンが語るタイ王国のいま」というタイトルで「麹町ワールドスタジオ 原麻里子のグローバルビレッジ」で話をしました(2012年2月15日生放送) ・・この番組のなかで 「ArayZ」(アレイズ)について紹介しました







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2012年2月16日木曜日

第3回 【アタマの引き出し】のつくりかたワークショップを開催いたします (2012年3月8日)





【アタマの引き出し】のつくりかたワークショップを開催いたします。前回2011年12月8日に続いて第3回目の開催となります。

もともとは、「営業パーソン」のために開発した「研修メソッド」を、一般向けに公開するワークショップです。

対面コミュニケーションでモノを言うのが「アタマの引き出し」。仕事も人生も豊にするための「アタマの引き出し」を増やし方と活用の仕方をみなさんと一緒に考える機会にしたいと考えています。

内容は、ほぼ 8割がワークでレクチャーは2割のワークショップ形式ですので、眠ってしまう心配がないだけでなく、参加人数も20人と比較的少人数ですので、ワークショップをつうじて密接な交流も可能になります。

わたしがファシリテーターとして進行役をつとめます。


■日時: 2012年3月8日(木)
■場所: 「コンファレンス銀座」
 東京都中央区銀座 6-5-13 JDB銀座ビル5F コンファレンスC 
 地下鉄銀座駅から徒歩2分、JR有楽町駅徒歩5分
■募集人数: 20人




次に該当する方々にご参加いただけると幸いです。

「アタマの引き出し」の増やし方を身につけたい人
豊富な話題で営業に不可欠な 「人間力」 を高めたい人
部下の育成のお悩みの人
「会話力」を越えた「対話力」を身につけたい人
ファシリテーションの実際を体験したい人
ワークショップ最中の密接な交流が楽しみな人
-ワークショップ終了後の交流会が楽しみの人


ご興味のあるかたは、詳しくは facebookページのイベント紹介(☚ ここをクリック!)をご覧ください。

ご質問、お問い合わせ、申し込みは ken@kensatoken.com まで

今回は、前回より広めの会場を確保しましたので余裕があります。まだ席の余裕がありますので、ぜひご参加ご検討くださいますよう、よろしく申し上げます。

また、法人など組織向けにカスタムメイドの研修も実施しておりますので、詳しくは ケン・マネジメントのウェブサイト http://kensatoken.com をご覧ください。



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第2回 【アタマの引き出し】のつくりかたワークショップを開催いたします (2011年12月8日)

【アタマの引き出し】のつくりかたワークショップ (2011年7月5日 19時 東京八重洲) を開催しました

【アタマの引き出し】のつくりかたワークショップ を開催します (2011年7月5日 19時 東京八重洲)

ダイアローグ(=対話)を重視した「ソクラテス・メソッド」の本質は、一対一の対話経験を集団のなかで学びを共有するファシリテーションにある




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2012年2月14日火曜日

麹町ワールドスタジオ 「原麻里子のグローバルビレッジ」(Ustream 生放送) に出演します(2012年2月15日 21時から放送)





明日の夜、Ustream(ユーストリーム) の生番組に出演します。

2012年2月15日(水)、夜9時(=21時)から、麹町ワールドスタジオ 「原麻里子のグローバルビレッジ」に出演します。

テーマは、「ビジネスマンが語るタイ王国のいま」について、わたしが約20分間、話をします。

政治経済にかんするやや堅い話をのあとは、食事や観光地など気楽な話題となる予定です。

もう一人のゲストの方のテーマは、「プロが伝授する紅茶の世界」。わたしも自分のテーマについて話したあとも、番組終了まで同席しています。番組終了は、21時45分です。

番組の URL は http://www.ustream.tv/channel/kwstudio です。夜9時になったら、放送が開始されます。もちろん視聴は無料(フリー)です。

なお、録画は後日ネットにアップされる予定ですので、当日の生放送をご覧になれない方は、ぜひそちらで視聴していただけると幸いです。録画の情報については、わかり次第アップいたします。


<録画はこちらから>

当日の生放送は、http://www.ustream.tv/recorded/20460164 から録画を視聴できます。「ビジネスマンが語るタイ王国のいま」は約25分ほどの内容です。 (2012年2月16日)


<関連サイト>

番組のホスト役・原 麻里子さんは、テレビ朝日でアナウンサー経験をもつ社会人類学者で、出向によって勤務体験もある BBC(英国放送協会)を研究するかたわら、ユーストリームによるインターネット放送の実践も行っている英国通です。著書に、『公共放送 BBCの研究』(原 麻里子/柴山哲也、 ミネルヴァ書房、2011)があります。

原麻里子氏プロフィール(局アナnet会員プロフィール)
http://kyokuana.net/profile/1221875722.html









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2012年2月12日日曜日

「アラブの春」を引き起こした「ソーシャル・ネットワーク革命」の原型はルターによる「宗教改革」であった!?



2月11日は、日本にとっては「建国記念日」であり、イランでは「イラン・イスラム革命」が始まった日であり、昨年2011年はエジプトで「民主化革命」が始まった日でもある。いずれも起源となる記念日である。

地中海のチュニジアから始まった動きは、地域大国のエジプトにも波及し、のちに「アラブの春」と総称されるようになったが、そのキッカケはフェイスブック(facebook)やツイッター(twitter)などのSNS(=ソーシャル・ネットワーク・サービス)であったという説も根強い。

フェイスブック上の投稿が感想やコメントという書き込みを誘発し、さらにシェアという機能で容易に文字情報や画像情報、映像情報を共有することを可能とし、その結果、情報が急速に拡散していく。これをさしてバイラル(viral)と呼んでいるが、チュニジアやエジプトで起こったのは、まさにこのバイラルであったという解説である。バイラルとは日本語でいえばクチコミに近い。

昨年(2011年)12月のことだが、先日、ひじょうに面白い記事が The Economist に掲載されていたので紹介しておきたい。「Social media in the 16th Century - How Luther went viral  Five centuries before Facebook and the Arab spring, social media helped bring about the Reformation」(16世紀のソーシャルメディア。 ルターはいかにバイラル化したのか-フェイスブックとアラブの春の500年前にソーシャルメディアが「宗教改革」をもたらした)というタイトルの記事である。Dec 17th 2011 付けの記事である。リンク先は以下のとおりだ。 http://www.economist.com/node/21541719?fsrc=nlw%7Cnewe%7C12-26-2011%7Cnew_on_the_economist ビデオも掲載されているので、文字を読むのが面倒な人は音声(英語、字幕なし)を聞くのもいいだろう。

やや長い記事だが、趣旨を簡単に要約しておけば、「アラブの春」を引き起こしたソーシャル・ネットワークは、別にいまはじまったことではなくて、すでに500年前のルターの「宗教改革」の際にみられた現象と同じだ、というものである。

500年前の「宗教改革」は、ルターという一人のカトリック司祭が、教会内部から起こした改革運動であるが、もちろん一人の改革者がプロテスト(抵抗)の思想表明をしたからといって、運動が進展することはない。

ルターの思想は、通俗的な形で、パンフレットやビラという印刷物の文字情報、風刺画といった印刷媒体の画像情報、そして唄(バラッド)という五感をつうじて感じる娯楽といった、複数のメディアを融合した、文字通りのマルチメディアによって、急速に「拡散」したのであった。

基本的にこの認識は正しいといってよい。このビラのことをドイツ語で Flugblatt  というのだということは、大学学部時代にドイツ中世史の阿部謹也先生から聞いた記憶がある。

だが、この記事を読むに当たっては、21世紀と16世紀とでは根本的な違いがあることに留意しておきたいことがるので何点か書いておこう。


21世紀のSNSは「文字情報」を抜きに語れないが・・・

まずは、16世紀当時の識字率の低さである。マルチメディアが効果を発揮したのは、文字を読める人間が少なかったからなのだ。これは「反宗教改革」(カウンター・レフォーメーション)の旗手イエズス会が、イメージ(図像)をフルに活用して海外布教をおこなった戦略にも影響しているように、ヨーロッパ自体の識字率はまだかなり低かったのである。

初等教育が普及していなかった当時、文字が読めるのは知識人を中心とした一部に限定されていた。ルターはそもそもがカトリックの聖職者であったから、当然のことながらラテン語の読み書きができたのである。というよりも、カトリック教会では、第二次大戦後にバチカン第二公会議で決議されるまでラテン語が使用されていたのである。これは日本も例外ではなかったことを知っておく必要がある。

だが、ルターが先駆者としての役割を果たしたのは、教会内の典礼に使用されるラテン語ではなく、一般民衆がつかうドイツ語に聖書を翻訳したことだ。ルター訳聖書が近代ドイツ語の基礎となったというのはそのことを指している。ドイツ語の読み書きが定着していったのは、それ以降のことであることに留意しておいたい。

基本的に、活動家が居酒屋でビラを読み上げるのを、一般民衆が耳を傾けて聞くのである。居酒屋の演説というと、わかき日のヒトラーがミュンヘンのビアホールでぶった演説を思い出すが、一般民衆というものは文字よりも、耳から聞いた情報で扇動されやすいということは、洋の東西を問わず共通しているといっていいだろう。

ルターの宗教改革によってプロテスタント化したのは、じつは個人単位ではなく、領国単位であったことにも注意しておきたい。個人が自主的に選択した結果ではなく、領主がプロテスタントになったあとに、プロテスタンティズムは個人に内面化していったということだ。順番は逆ではない。

たとえばドイツ例にとった場合、南北で宗教地図が塗り分けられているのは、その結果なのである。ドイツ南部がカトリック地帯であるのに対し、ドイツ北部はプロテスタント地帯である。冷戦時代は東西でドイツは分割されていたが、宗教という観点にたつと南北差が大きいのである。

これは、日本でも戦国時代末期にキリシタンが九州各地に拡がったのと、ひじょうによく似た現象だ。キリシタン大名という表現があるとおり、改宗はまず領主単位で始まった。なぜなら、布教というものは、領主という地上の権力者の保護がなければ、既存の勢力とのコンフリクトの解消が有効に行われないからである。

だから、キリスト教という天上の権力と領主という地上の権力が合体することによるパワー増大がコントロール不能状態になることを、時の最高権力者であった秀吉や家康が懸念を抱いたのは不思議でもなんでもないのである。


「宗教改革」のその後と「アラブの春」にアナロジーは適用可能か?

話をルターの「宗教改革」に戻すが、カトリックとは違ってプロテスタンティズムにおいては、個人が神と一対一で対面することが要求される教義が個人に内面化されるようになってくると、さまざまなひずみももたらすようになってくる。果たして自分は救われるのかどうかという不安である。

この不安をしずめるために、ひたすら禁欲的に勤勉に職務に遂行する者が、世俗でも成功者への道を歩むことになる。これはとくにカルヴァン派について言及したマックス・ウェーバーの有名な『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』のテーマであるが、一方では不安に押しつぶされて精神を病む者もでてくる。後者が、この厳しい精神状況に堪えられず、逃避の方向を選択するに至ったのもけっして不思議ではない。

この点に考察を加えたのが、精神分析学者エーリヒ・フロムの名著『自由からの逃走』(Escape from Freedom)である。社会心理学の古典とされているこの本の話をすると、ナチスドイツに逃避した一般民衆の話を思い出す人が多いようだが、わたしはフロムによる「宗教改革」の事例の説明がつよく記憶に残っている。

「アラブの春」に「宗教改革」のはじまりを重ね合わせて考えてみるのは面白い。しかし、「宗教改革」のその後の進展を考えると、はたしてこのアナロジーがどこまで有効なのか、考えてみる必要はあるだろう。すくなくとも、「思想の拡散」というフェーズまではアナロジーが有効であるのは確かではあるが。




<ブログ内関連記事>
 
「宗教改革」の時代

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)

本の紹介 『阿呆船』(ゼバスチャン・ブラント、尾崎盛景訳、現代思潮社、新装版 2002年 原版 1968)

「免罪符」は、ほんとうは「免罪符」じゃない!?

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む

イエズス会士ヴァリリャーノの布教戦略-異文化への「創造的適応」

「泥酔文化圏」日本!-ルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』で知る、昔から変わらぬ日本人


「2-11」関連-「アラブの春」

本日(2011年2月11日)は「イラン・イスラム革命」(1979年)から32年。そしてまた中東・北アフリカでは再び大激動が始まった

エジプトの「民主化革命」(2011年2月11日)

書評 『中東激変-石油とマネーが創る新世界地図-』(脇 祐三、日本経済新聞出版社、2008)

書評 『アラブ諸国の情報統制-インターネット・コントロールの政治学-』(山本達也、慶應義塾大学出版会、2008)


アラビア語復興運動とキリスト教聖書のアラビア語訳

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)
・・アラブ・ナショナリズムにつながるアラビア語復興運動は、聖書をアラビア語に翻訳する事業に携わったアラブ人キリスト教徒が指導的役割を果たした事実は、ルターによる聖書のドイツ語訳とのアナロジーを思わせるものがある



 
 (2020年12月18日発売の拙著です)


(2020年5月28日発売の拙著です)


 
(2019年4月27日発売の拙著です)



(2017年5月18日発売の拙著です)


   
(2012年7月3日発売の拙著です)

 





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2012年2月9日木曜日

「東洋文庫ミュージアム」(東京・本駒込)にいってきた ー 本好きにはたまらない!



「東洋文庫ミュージアム」にはじめていってきた。2011年10月に開設されたばかりのあたらしいミュージアムである。しかも図書館のミュージアムというのもめずらしい。近くまでいく用事があったので立ち寄ってみた。

東京都文京区駒込に「東洋文庫」という図書館と研究施設がある。ここに所蔵された100万冊をこえる貴重な書籍の存在は世界中に知られており、東京大空襲を実行した米軍も、この施設は空爆目標から意図的にハズしたという話を聞いたことがある。実際には被災しなかったことから、あながち都市伝説でもないようだ。

それはなによりも、東洋文庫の起源に関連しているのだろう。東洋文庫の核(コア)になったのは「モリソン文庫」という、中国を中心としたアジア関連の2万4千冊に及ぶ蔵書である。1911年の辛亥革命当時、北京にあったモリソンの蔵書は、革命の混乱のなか安全な場所に運び出されて焼失を免れたという。

ジョージ・アーネスト・.モリソン(1862~1920)は、英国のタイムズ紙で健筆をふるっていたジャーナリストで、辛亥革命後には大総統に就任した袁世凱の政治顧問をつとめたオーストラリア人である。20年に及ぶ北京在住中に収集した蔵書は、当時から質量ともに一級で、世界的に有名であったという。リタイアしてオーストラリアに戻ることを決意し、蔵書を手放すことにした際は、世界中から取得したいという引き合いがあったらしい。

ただし、西洋語も漢籍も読みこなせる研究者がいるという条件で、1917年(大正6年)日本が買い取ることになったのが経緯だということだ。カネを出したのは三菱財閥の当主であった岩崎久彌である。現在価値で70億円を即金で出したという。財閥解体後の現在でも、三菱グループの社会貢献の一環と位置づけられているようだ。



東洋学(オリエンタル・スタディーズ)とは、中国から中近東まで広く東洋(オリエント)を対象とした、西洋で始まった総合的な学問のことである。日本語でオリエントというと、どうしても古代エジプトやバビロンを連想してしまうが、ここでいうオリエンタル・スタディーズの幅は広い。極東の日本までふくめたアジア全体が視野に入る。

東洋文庫が、あえてこの東洋学という名称と概念を維持しているのは、歴史研究を基礎に置いていることを意味しており、けっして時代遅れではない。歴史研究を欠いた地域研究に価値はない

じつは、東洋文庫がある本駒込の近くに住んでいたこともあり、名前はしっていたが一度も訪れたことがなかったのは、わたしが専門の東洋研究者ではないからだが、ときおり都営地下鉄千石駅にむけて外国人が歩いている姿は何度も見ていた。おそらく東洋文庫に通う研究者たちなのだろう、と。

今回はじめて訪れたのは、先月のことだが、昨年2011年の10月に東洋文庫にミュージアムができたことを知ったからだ。なんと図書館に併設された博物館である。ライブラリー・ミュージアム!

東洋文庫ミュージアムの説明を引用しておこう。

東洋文庫(東京・駒込)は、広く一般の方々に東洋学について興味を持ってもらうことを目的として、東洋文庫ミュージアムを開設しました。1924年に設立された東洋文庫は、東洋全域の歴史と文化に関する様々な文献資料の収集・研究を行ってきました。これまでは研究図書館としての特性上、東洋学の研究者が主な利用者でした。より多くの方々に東洋学の面白さを知っていただくために、従来公開していなかった貴重書などを今後積極的に東洋文庫ミュージアムで展示していきます。

「このライブラリー・ミュージアムはすごい!」 もうこの一語に尽きる。英語で言えば Wow !!! である。展示スペースは、一階と二階のツーフロアしかないのだが、この贅沢さはスペースの大きさだけではかれるものではないのだ! 「現物」としての本が醸し出す雰囲気はデジタル書籍とはまったく違うのだ。

ミュージアムの一階には、研究員が厳選した書籍の現物がガラスケースのなかに陳列されているのだが、アジア各地のものだけでなく、ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』や、アダム・スミスの「『国富論』(The Wealth of Nations: 諸国民の富などの現物は、社会科学を大学で勉強した人間にもウレシイものがある。



アダム・スミスの有名な「見えざる手」の原文が an invisible hand と単数であることも知ることができた。「神の見えざる手」ではまったくないし、複数形でもないし、右腕か左腕かもこの英語原文からはわからない。


目玉はなんといっても二階に展示されている「モリソン文庫」。この文庫は閉架式なので手にとって見ることはできないのだが、天井までズラリと本棚に陳列された本はまさに圧巻。思わず見上げて見とれてしまう。ほんと興奮する! 本好きなら絶対にいくべきだ。

しかも写真撮影はフラッシュをたかなければOKというのもウレシイではないか。思わず何枚もsつえいしてしまった。

また、キリシタン関係、アジア近代史関係の書籍もウレシイ。とくに王妃マリー・アントワネットが愛蔵していたという『イエズス会士中国書簡集』の現物。ヴォルテールをはじめ、18世紀のヨーロッパ人にとって理想の地であり、憧れの地であった中国から 布教のため滞在していたイエズス会士たちによる報告書は当時の知識人ったいには絶大な影響を与えていたのである。

また、日本で印刷出版されたキリシタン本の一冊である『ドチリーナ・キリシタン』の原本なども見ることができる。ローマ字表記された日本語で書かれた、初心者むけのカトリックの教義書である。



マルコポーロの『東方見聞録』のエディションを77種類(!)も所蔵しているというのもスゴイ。これまた現物が展示されている。



常設展示ではないが、いまの見物は辛亥革命100年ということもあって、その関連の一次資料である。なんといっても、若き日の毛澤東が宮崎滔天にあてた直筆の書簡をこの目でみたのは大きな収穫だった。ただし、これらの展示資料は借り物であるので写真撮影ができないのは残念だった。

東洋文庫は建て替えを機に、一般人に向けてのコミュニケーションの場としてミュージアム開設を決めたという。モリソン文庫購入を了解した岩崎久彌が愛した小岩井農場によるカフェが併設されている。今回は時間がないのでカフェでくつろぐことはしなかったが、外から見る限りなかなかステキなカフェである。

ミュージアムショップもなかなか趣味のいい品物やカタログなどが置いてある。『時空をこえる本の旅50選』(東洋文庫編、2010)というカタログを購入した。

本駒込には、アジア文化会館、東洋大学など、アジアを名前にもつ施設が集中している、落ち着いた高級住宅街でもある。ぜひこの東洋文庫ミュージアムを訪れるためだけでも東京に来る価値はあるといっておこう。


【所在地】〒113-0021 東京都文京区本駒込2-28-21
【アクセス】 JR・東京メトロ南北線「駒込駅」から徒歩8分、都営地下鉄三田線「千石駅」から徒歩7分、都営バス上58系統・茶51系統「上富士前」から徒歩1分
【休館日】 毎週火曜日(ただし、火曜日が祝日の場合は開館し、水曜日が休館)、年末年始、その他、臨時に開館・休館することがあります。
【URL】 www.toyo-bunko.or.jp/museum/【開館時間】 ミュージアム 10:00〜20:00(入館は19:30まで)
ショップ マルコ・ポーロ 10:00〜20:00
オリエント・カフェ 11:30〜21:30(ラストオーダーは20:30まで)





<関連サイト>

東洋文庫ミュージアム(公式サイト)

財団法人 東洋文庫(公式サイト)


<参考文献>

George Ernest Morrison (wikipedia 英語版)

『東京人 2011年12月号 特集:東洋文庫の世界』(都市出版、2011)


『アジア学の宝庫、東洋文庫-東洋学の史料と研究-』(東洋文庫編、勉誠出版、2015)が、東洋文庫90周年記念として、2015年5月に出版されている。(2015年7月5日 記す)




<ブログ内関連記事>

「東洋文庫」関連

「東インド会社とアジアの海賊」(東洋文庫ミュージアム)を見てきた-「東インド会社」と「海賊」は近代経済史のキーワードだ
・・英国とオランダの東インド会社

「マリーアントワネットと東洋の貴婦人-キリスト教文化をつうじた東西の出会い-」(東洋文庫ミュージアム)にいってきた-カトリック殉教劇における細川ガラシャ
・・マリー・アントワネットは『イエズス会士中国書簡集』を愛読していた熱心なカトリックであった


「本好き」のために

書籍管理の"3R"
・・本はすべてアタマのなかにいれてしまうというイスラーム学者の伝統

『随筆 本が崩れる』 の著者・草森紳一氏の蔵書のことなど
・・大学時代に、名誉教授の旧蔵書を買い上げた大学図書館に納入する作業をアルバイトでかかわった体験を書いておいた

書評 『沖縄本礼賛』(平山鉄太郎、ボーダーインク、2010)
・・一点集中型の蔵書コレクターの情熱。読むより集めるのがコレクター

World Book Night (ワールド・ブック・ナイト)という本が好きな人たちのためのイベントが今夜(2012年2月23日)英国で行われます

「移動図書館」-これもまたぜひ後世に遺したい戦後日本の「昭和遺産」だ!

『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻-読書術免許皆伝-』(松岡正剛、求龍堂、2007)で読む、本を読むことの意味と方法
・・ 毎夜一冊について書くことを千夜つづけた当代一の本読みの読書術

書評 『松丸本舗主義-奇蹟の本屋、3年間の挑戦。』(松岡正剛、青幻舎、2012)-3年間の活動を終えた「松丸本舗」を振り返る

「知の風神・学の雷神 脳にいい人文学」(高山宏 『新人文感覚』全2巻完結記念トークイベント)に参加してきた・・知の怪人タカヤマ・ヒロシ 見えないものを「つなげる」ためのアルス・コンビナトリア(結合術)

「生誕100年 人間・岡本太郎 展・前期」(川崎市岡本太郎美術館) にいってきた
・・岡本太郎が手元においていた「フランス語の蔵書400冊」の一部の展示を見た

書評 『ヒトラーの秘密図書館』(ティモシー・ライバック、赤根洋子訳、文藝春秋、2010)
・・独学者ヒトラーの「多読術」。蔵書によって知るヒトラーの精神形成と蔵書の運命

書評 『そのとき、本が生まれた』(アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ、清水由貴子訳、柏書房、2013)-出版ビジネスを軸にしたヴェネツィア共和国の歴史

書評 『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(ウンベルト・エーコ、ジャン=クロード・カリエール、工藤妙子訳、阪急コミュニケーションズ2010)-活版印刷発明以来、駄本は無数に出版されてきたのだ

書評 『「紙の本」はかく語りき』(古田博司、ちくま文庫、2013)-すでに「近代」が終わった時代に生きるわれわれは「近代」の遺産をどう活用するべきか

書評 『脳を創る読書-なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか-』(酒井邦嘉、実業之日本社、2011)-「紙の本」と「電子書籍」については、うまい使い分けを考えたい

スティーブ・ジョブズの「読書リスト」-ジョブズの「引き出し」の中身をのぞいてみよう!・・「蔵書をみれば、持ち主のアタマの中身がわかる」

「ヴァチカン教皇庁図書館展Ⅱ-書物がひらくルネサンス-」(印刷博物館)に行ってきた(2015年7月1日)-15世紀に設立された世界最古の図書館の蔵書を実物展示

(2014年6月7日、2015年7月7日 情報追加)


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