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2009年12月18日金曜日

『イスラエル』(臼杵 陽、岩波新書、2009)を中心に、現代イスラエルを解読するための三部作を紹介

                            
 イスラエルにかんする本は、1948年の建国以来、日本語でも無数に出版されているが、今年(2009年)出版された、パレスチナ問題の研究者・臼杵陽氏による『イスラエル』(岩波新書、2009)は新書版だが、最近の吹けば飛ぶような中身の薄い新書本にはない、長年の研究成果がふんだんに盛り込まれた、濃厚な舌触りのスープのような本である。

 その心は、エッセンスが詰まっている、ということだ。

 このブログにも記したが、先日アニメーション映画の『戦場でワルツを』をみてから、再びイスラエルへの関心が自分のなかに甦ってきた。

 再びというのは、20歳代のとき、私はユダヤ教徒でも、キリスト教徒でもないのにかかわらず、イスラエルに多大な関心を抱いて、日本イスラエル親善協会の会員になって「月刊イスラエル」なんて購読していたし(・・現在は会員ではない)、1992年には実際にイスラエルの地を踏んでいるからだ。

 エルサレムもテル・アヴィヴも、マサダ(・・古代ローマ時代エルサレム陥落後ユダヤ熱心党がこの要塞で玉砕)も、死海も、ガリラヤ湖も、サフェド(・・ユダヤ神秘主義カッバーラーの中心地)も、いまだに地雷の埋まっているゴラン高原も訪れ、社会主義に基づいた集団農場であるキブツには一泊もした。狭い国だから短時間で見て回れる。紅海のリゾート地エイラートにいってないのは残念だが。

 サッダーム・フセイン大統領時代、イラクがイスラエルにスカッド・ミサイルを打ち込み、あわや全面戦争かという危機状況がイスラエル側の自制によって沈静化してから、さほど時間のたっていない時期の訪問である。その後、その当時イスラエル国民全員に配布されたガスマスクを入手したが、日本では使用する機会がないのは幸いである。

 その後もスピルバーグ監督の『ミュンヘン』も見ているし(・・1972年のイスラエル選手団殺害事件はリアルタイムで知っており記憶のなかにある)、イスラエルの秘密諜報機関モサッドものは昔たくさん読んでいる。
 日本の新聞はそもそもエルサレムやテルアヴィヴに支局を置いてなかったので(・・日経新聞はカイロから取材しているのは論外)、私は中東情勢は英語情報でフォローしてきたが(・・もちろん英語情報は量は多いがバイアスがかかっている)、情報を追っているだけでは見えてこないものがある。

 やはりなんといっても、バックグラウンドとなる基本書籍を読まないと、情報の意味もきちんと把握することはできないものだ。

 しかしこの『イスラエル』は、200ページ強という短いページ数に詰め込んでいるので、キチンと読むには骨が折れるし、また読み飛ばしてしまうには惜しい内容の本になっている。より深く現代のイスラエルについて知るためには、この本の前提となる先行する二冊をも読んだ方がよいと思うので、一緒に紹介することとした次第である。

 もちろん著者の臼杵陽氏はもともと、イスラーム研究者の板垣雄三・東大名誉教授の弟子であり、パレスチナ研究からイスラエル研究に入った人であるので、当然のことながら、ある種のバイアスは存在するだろう。しかしこのバックグラウンドゆえに見えてくるものも多い。その最たるものがイスラエルにおける"ミズラヒーム"の存在である。

 ミズラヒームとは、中東イスラーム世界出身のユダヤ人のこと。

 いまオフラ・ハザ(Ofra Haza)の曲をCDでかけながらこれを書いているが、80年代のワールド・ミュージックブームのなか世界的にヒットしたイスラエルの歌姫オフラ・ハザもイエメン系ユダヤ人、すなわちミズラヒームであった。

 イスラエルのミュージック・シーンにはミズラヒームが多いことを前振りにして、さっそく本の紹介に入ってゆきたいと思う。


現代イスラエルを解読するための"三部作"

①『イスラエル』(臼杵 陽、岩波新書、2009)
②『原理主義』(臼杵 陽、岩波書店、1999)
③『見えざるユダヤ人-イスラエルの<東洋>-』(臼杵 陽、平凡社選書、1998)



①『イスラエル』(臼杵 陽、岩波新書、2009)

 ■ミズラヒーム(=中東イスラーム世界出身のユダヤ人)という視点からみたイスラエル現代史


政治史を中心に新書版一冊にまとめた、1948年の建国以前から建国60年を過ぎた現在にいたるイスラエル現代史。

 イスラエルにかんする本は無数に出版されているが、本書における著者の最大の功績は、イスラエル社会の現在の実態に即し、従来から日本でも知られている枠組みである、アシュケナジーム(=中東欧系ユダヤ人)スファルディーム(=1492年のスペイン追放後、地中海沿岸地方と欧州各地に離散したユダヤ人)の違いよりも、アシュケナジームとミズラヒーム(=中東イスラーム世界出身のユダヤ人)の違いという視点からイスラエルを考察していることであろう。

 ミズラヒームは、モロッコ、イラク、トルコ、イエメンなどから、イスラエル建国後移民してきたユダヤ教徒である。彼らは、シオニズムという世俗国家の理念とも西欧流のライフスタイルとも関係なく、現在にいたるまでイスラエル社会の下層としての生活を余儀なくされてきた存在だ。

 本書は、一言でいってしまえば、ミズラヒームとパレスチナ人を含めたアラブ系イスラエル人という視点からみたイスラエル史である。

 イスラエル現代史とは、主流派であったアシュケナジーム中心の世俗国家から、多文化社会への変容によって、きわめて宗教色の濃い国家に変貌させてきた歴史である。

 これは、『見えざるユダヤ人』(平凡社、1998)で、ミズラヒームの存在を日本語でははじめて読める形として読者に提示した著者ならではの特色である。移民国家で、多文化社会であるイスラエルは、どのカテゴリーに焦点をあてるかで、まったく異なる像が描かれることになるからだ。

 イスラエル建国の中心となった、アシュケナジーム系のシオニストが主流派であった労働党が凋落し、ミズラヒームに加え、エチオピアやソ連崩壊後のロシア系移民も含めた出身地と、宗教的姿勢から複雑にカテゴライズされている現在のイスラエル社会は、著者がいうように、多文化主義性格をもつがゆえに、その反動として逆説的にナショナリズム的な行動をとらざるをえない傾向が強まっている。そうでないと国民がバラバラになってしまうという懸念につきまとわれているためだ。

 イスラエルという国家のアイデンティティはいったい何なのか。周囲を外敵に囲まれているという意識から、安全保障以外に国民の共通利害がないのか。
 また、還暦をすぎたイスラエルという国家は、今後どういう方向に進もうとしているのか。
 多様性と、ユダヤ性強化というナショナリズムとのあいだに存在するジレンマに引き裂かれる状況、これはイスラエルだけでなく、中国も含め、戦後独立した新国家にみな共通する難題であろう。

 本書は、一冊の新書本に情報を詰め込んでいるので、ちょっと読みにくいのは否定できないが、じっくり腰をすえて読めば、必ずや得るところは大きいはずだ。読む価値のある労作である。


<目次>
 第1章 統合と分裂のイスラエル社会
 第2章 シオニズムの遺産
 第3章 ユダヤ国家の誕生
 第4章 建国の光と影
 第5章 占領と変容
 第6章 和平への道
 第7章 テロと和平のはざまで
 終章 イスラエルはどこに向かうのか


 ■bk1書評「ミズラヒーム(=中東イスラーム世界出身のユダヤ人)という視点からみたイスラエル現代史」投稿掲載(2009年12月6日)





②『原理主義(思考のフロンティア)』(臼杵 陽、岩波書店、1999)
 
『イスラエル』(臼杵陽、岩波新書、2009)を読んで消化不良を感じた人、あるいはまた物足りないと感じた人はぜひ


「原理主義」(ファンダメンタリズム)という、ある種のレッテル貼りによって、実態を直視しないで思考の外に追い出してしまおうという態度は、日本だけでなく世界的に存在するようだ。

 本書が出版された1999年当時は、「原理主義」といえば、「イスラム原理主義」のことを指していた。その後2001年に発生した「9-11テロ」でこの見方がさらに進行したようにみえたが、最近ではより理性的な議論がされるようになってきてはいる。

 一般社会でも、「イスラム原理主義」よりも、「イスラーム過激派」、「イスラーム主義」ないしは「イスラーム政治運動」などが使用されるようになっている。

 1999年に出版された本書は、当然のことながら「9-11」以降の状況については触れていないが、1980年代以降、世界的に顕著になってきた、宗教に軸をおいた過激な政治運動をどう「名づけ」るかという、やや込み入った議論を第1章「原理主義とは何か」で行っている。

 その上で、第2章では具体的なケーススタディとして、イスラエル国内の「ユダヤ教原理主義」を取り上げ、徹底的な分析を行っている。とくにこの第2章が実に興味深い。

 著者の再近著である『イスラエル』(岩波新書、2009)では、世俗国家理念であるシオニズムの国家像に対して、エスニシティや宗教的姿勢にアイデンティティを置く国家像が全面にでてきたことが記述されている。

 この新書版で簡単に触れられている「ユダヤ教原理主義」の詳しい中身や、アメリカのエヴァンジェリカル(=キリスト教原理主義)に存在する「キリスト教シオニズム」との同床異夢の共犯関係が、本書『原理主義』第2章では詳述されている。

 「ユダヤ教原理主義」の潮流がイスラエルという国をどう変化させてきたのか、宗教思想的な観点から知ることができるのは、大きな収穫であるといえる。そしてまた、アメリカがなぜイスラエルに過剰な肩入れをしているのか、その根本的な理由も知ることができる。

 『イスラエル』を読んで消化不良を感じた人、あるいはまた物足りないと感じた人はぜひ、同じ著者による『見えざるユダヤ人』(平凡社、1998)だけでなく、本書『原理主義』とあわせて読むことをすすめたい。急がば回れ、である。

 本書を読むことで、イスラーム、キリスト教、ユダヤ教の原理主義運動の、一筋縄ではいかない、複雑で危険な三角関係についても知ることができる。これを知ることは、冷戦崩壊後の世界について考える上で、もはや不可欠の常識となっていいのではないだろうか。

 「原理主義」の思考パターンについて、イスラームでもキリスト教でもない、ユダヤ教の「原理主義」について知ることができる本書は、手軽だが内容の濃い一冊であるといえよう。

<目次>
 Ⅰ 原理主義とは何か
  第1章 現代日本の原理主義
  第2章 論争のなかの原理主義
  第3章 方法としての原理主義
 Ⅱ ユダヤ原理主義を考える
  第1章 ナショナリズムと原理主義のあいだ
  第2章 ユダヤ原理主義と暴力
  第3章 原理主義のゆくえ
 Ⅲ 基本文献案内

  
 ■bk1書評「『イスラエル』(臼杵陽、岩波新書、2009)を読んで消化不良を感じた人、あるいはまた物足りないと感じた人はぜひ」投稿掲載(2009年12月8日)






③『見えざるユダヤ人-イスラエルの<東洋>-』(平凡社選書、1998)

中東イスラーム世界出身のユダヤ人であるミズラヒームの存在について、日本語でよめる書籍としてはじめて焦点をあてた先駆的かつ貴重な本である。

 1998年に出版されてすぐに読んだので書評は書いていない。目次を紹介することでそれに替えたいと思う。


プロローグ イスラエルのなかのオリエント
第一部 ミズラヒームとは誰か
 第1章 イスラエルのエスニック文化-モロッコ系ユダヤ人の祭の復活
 第2章 見えざるユダヤ人-ミズラヒームとは誰か
 第3章 ミズラヒームと「文明化の使命」-離散と救済のはざま
 第4章 知られざるユダヤ人-イエメン系ユダヤ人のパレスチナ移民
 第5章 共存の終焉、対立の始まり-ミズラヒームとアラブ・イスラエル
第二部 エスニック・イスラエル?
 第6章 バイリンガル・ハイファ?-ヘブライ語 and/or アラビア語世界
 第7章 マイノリティと国家-民族国家 vs. 民主国家
 第8章 越境する知識人とオリエンタル的植民地-エドワード・サイードとエルサレムとエルサレム・カイロ
 第9章 記憶のなかのオリエント-<地中海>的メトロポリスへの回帰
プロローグ 「オリエント」からの銃弾-ラビン暗殺の衝撃


 『見えざるユダヤ人-イスラエルの<東洋>-』(平凡社選書、1998)は残念ながら現在は品切れ。図書館で借りるか、古本なら入手可能。






 さて以上で"三部作"の紹介を終えるが、現代イスラエルの状況をアシュケナジームとミズラヒームとの違いから図式的に整理すると、以下のようになるだろうか。

●労働シオニズム(あるいは社会主義シオニズム):近代的、西洋的、産業資本的、農村的、世俗的    
●修正主義シオニズム:いわゆる右派のリクード、である。現在の首相はビンヤミン・ネタニヤフ
●ミズラヒーム:地中海性(=レヴァント性):前近代的、地中海的、商業資本的(流通資本)、都市的、宗教的

 ミズラヒームは、モロッコやイラク、トルコ、イラン、イエメンからは主にイスラエルへ移住している。
 ただし、フランスの植民地であったアルジェリア出身のユダヤ人は、植民地の宗主国であったフランスに多く移住し、西欧人として活躍しているケースも多い。
 たとえば、経済学者で思想家、ミッテラン大統領の顧問、欧州復興銀行の初代総裁も歴任したマルチ・タレントの異才ジャック・アタリ、哲学者のジャック・デリダなどが著名である。いずれもフランスによる植民地化以前からのアルジェリア在住のユダヤ人ファミリー出身である。
 インターネット上にアップされている下記の論文はたいへん興味深い内容なので、興味があれば参照するといいだろう。

 ●臼杵陽 「スファラディーム・ミズラヒーム研究の最近の動向 -雑誌『ペアミーム』を中心にして-」の要旨は閲覧可能。
 ●田所光男「北アフリカからのユダヤ人- 思想家、歌手、お笑い芸人-」も興味深い。


 なお、ネット書店のbk1で週に一回更新の「書評の鉄人」コーナーで、私が書いた書評が以下のように紹介されていたので紹介しておこう(2009年12月11日更新)。12月18日現在すでに最新版が更新されて、ネットからは消去されているようなので、写真画像を添付しておく。

書評の鉄人

“サトケン”さんの書評をご紹介します

「多様性と、ユダヤ性強化というナショナリズムとのあいだに存在するジレンマに引き裂かれる状況、これはイスラエルだけでなく、中国も含め、戦後独立した新国家にみな共通する難題であろう」(『イスラエル』の書評)

「本書を読むことで、イスラーム、キリスト教、ユダヤ教の原理主義運動の、一筋縄ではいかない、複雑で危険な三角関係についても知ることができる。これを知ることは、冷戦崩壊後の世界について考える上で、もはや不可欠の常識となっていいのではないだろうか」(『原理主義』の書評)

2本ともこの上なく刺激的。国際情勢について想いをめぐらす際、これからもずっと参考にしたい本であり書評です。事象の根底にあるものを考えさせられます。

(オススメ:人文書担当者)


 本なんていうものはどう読もうと読者の勝手ではあるが、「ミズラヒーム」と「ユダヤ教原理主義」というキー・タームをアタマのなかにいれておくと、世界情勢の見方に厚みが増すことは間違いない。

 イスラエルのポピュラー音楽については、次回以降紹介する予定。

         




(2012年7月3日発売の拙著です)








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