■「中東激変」の背景にある、「多子若齢化」社会の構造変化を政治経済状況と同時に知るために■
実はこの本は2008年の出版直後に読み始めのだが、途中でそのままになっていた。
地中海沿岸の北アフリカ、チュニジアに始まった「民主化革命」がエジプトに飛び火してから、ふたたび本書を取り上げて読み始めたのだが、これが実に面白い。知的好奇心を十二分に満足させてくれる内容になっている。
2008年9月の出版から2011年2月までの約2年半のあいだに、リーマンショックが引き金となって、本書にも描かれているドバイの急速な発展などの旬のテーマは頓挫し、状況は変化している。その意味では、リーマンショクの前後でどう変化したのかを知りたいところだが、それは本書に期待してはいけない。
重要なことは、政治経済と社会構造の変化である。この意味では、「序章」に描かれた中東・北アフリカ地域の環境変化の章をじっくり読むことがきわめて重要だ。人口急増と若年失業の構造問題、情報通信革命と経済グローバル化の影響、石油市場の構造変化。こういったポイントを知ってから中東情勢を見るのとそうでないのとは大違いである。
とくに、見開き2ページに掲載された「人口ピラミッド」(P.8~9)をじっくりと読み込んでおきたい。日本と中東7カ国を見比べてみると、その違いは歴然だ。著者の表現を使えば、日本の「少子高齢化」社会の対極にあるのが、「多子若齢化」の中東社会。なんと、全人口の6~7割が25歳未満である。
世界中でもっとも若年失業者が高い中東・北アフリカ地域で、ついに「人口の時限爆弾」が爆発したのだ。2011年2月11日に実現したエジプトの「民主化革命」の最大の原因がここにあることが理解できる。ツイッターやフェイスブックなどのSNSは、あくまでもツールとして民衆デモを増幅する機能をもったにすぎない。
最初に書いたように、ドッグイヤーとまでは言わないが、中東における変化のスピードは日本の高度成長時代を上回るものがあるようだ。本書は、中東湾岸諸国を中心に、実に細かい事実情報を書き込んでいるので、その意味ではすでに時代遅れになっている内容も多々あろう。
しかし、構造変化を知るためには「序章」をじっくり読んだうえで、全体を流し読みするだけでも意味がある。著者による次作がでるまでのつなぎとして。
<初出情報>
■bk1書評「「中東激変」の背景にある、「多子若齢化」社会の構造変化を政治経済状況と同時に知るために」投稿掲載(2011年2月12日)
■amazon書評「「中東激変」の背景にある、「多子若齢化」社会の構造変化を政治経済状況と同時に知るために」投稿掲載(2011年2月12日)
目 次
序章 中東と石油市場の構造変化-人口増、情報革命、マネーが常識覆す
第1章 中東政治の重心が変わる-アメリカの影響力低下の中で
第2章 新たなブームに沸く中東-ドバイが成功のモデルに
第3章 好況の裏で広がる影-インフレと格差が深刻に
第4章 インフラが足りない-水、電力、輸送・物流基盤が焦点に
第5章 広がる教育改革の波-人間開発が将来のキーポイントに
第6章 オイルマネー新潮流-アジア重視、産業政策とも結びつく
第7章 中東との関係再構築-重層的な協力・交流が課題に
著者プロフィール
脇 祐三(わき・ゆうぞう)
日本経済新聞社論説副委員長。1952年山口県生まれ。1976年一橋大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。1980~1981年カイロ・アメリカン大学(エジプト)留学。1985~1988年バーレーン駐在(湾岸アラブ諸国担当)。1990~1993年ウィーン駐在(中欧・東欧担当)。この間、1990年8月~1991年4月、湾岸危機・湾岸戦争現地取材班キャップ。1993~1995年欧州総局編集委員(ロンドン駐在、欧州・中東担当)。1995~2002年東京本社編集委員兼論説委員(国際政治経済担当)。2002年東京本社編集局アジア部長。2003年東京本社編集局国際部長(2004年より編集局次長兼務)。2006年論説副主幹兼編集委員。2007年論説副委員長に呼称変更(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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本日(2011年2月11日)は「イラン・イスラム革命」(1979年)から32年。そしてまた中東・北アフリカでは再び大激動が始まった
エジプトの「民主化革命」(2011年2月11日)
書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)
書評 『地獄のドバイ-高級リゾート地で見た悪夢-』(峯山政宏、彩図社、2008)
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