昨日(2016年10月20日)、ラグビーの平尾誠二氏が53歳の若さで亡くなったことを知った。衝撃的なニュースだった。ショックだ。同世代としては他人事ではない。いや、学校は違うが同学年なのだ。
ひさびさに平尾誠二氏の著書を引っ張り出してきて、パラパラとめくってみた。『イメージとマネージ-リーダーシップとゲームメイクの戦略的指針-』(集英社、1996)。いまからちょうど20年前に出版された本だ。 編集工学の松岡正剛氏との二人の京都人による対話を読むと、平尾誠二氏が選手として優秀だっただけでなく、いかに知的な人であったかがわかる。
この本から平尾氏の発言を中心に抜き書きをしておこう。
平尾 そう、合理的です。流れに従っている。われわれはつい彼らの爆発力に目を奪われますが、実は理屈にあっている。無理がない。流れが正確につかまえられているんです。(P.78)
平尾 イメージがものすごく鮮明だから断定的に物事が言える。(P.121)
平尾 リーダーとして求められることは、物事の本質を見抜けるか、見抜けないかということですね。いろんなものがあるなかで何がいちばん大事なのか、それをある程度はずさないで言えるかが大事だと思います。
(・・中略・・)
松岡 構想力と判断力と理解力でしょうね。もうひとつ大事なことはプロセスを説明できるということ。これからの時代はとくにプロセスを共有することが求められるでしょう。(P.122)
松岡 ところで、バイブレーションを伝える意味で関西弁というのも大きな役割をはたしているんじゃないですか。
平尾 たしかに関西弁というのは、標準語とくらべると、入り込み方が違いますね。ぼくの感じとしてですが、言葉の浸透度が違う。
(・・中略・・)
やっぱりスピード感が違いますね。標準語は理屈っぽいというか、説明をしようとしても、「そんなことはハナからわかってるこっちゃ」というのが、われわれ関西人みんなの感想なんですよ(笑)
(・・中略・・)
ぼくら試合前のしゃべりは瞬発力でしょう。これで一気にテンションを上げていくという世界ですから、これで間延びするとよくないんですよ。関西弁で「ほな、行くでえ」でいいわけです。この言葉に全部凝縮されている感じがある。(P.134~137)
平尾 ぼくは臆病なんでしょうね。何をするにも注意深くて慎重だったしね。でも「怖がり」というのは、けっして悪いことじゃないと思うんです。というのは、何か怖いことが先にあると予測できるからそう思うんですよ。
松岡 その指摘はこの対話中の白眉です。
平尾 だから、怖いと思わないのは無神経というか、思慮深くないことにつながってくると思うんですよ。
松岡 そうそう。大賛成。 (P.149)
平尾 結論からいうと、体でおぼえなきゃダメだと思っているんです。体で覚えるというのは、頭を使わないことじゃないんですよ。体でおぼえるのは無意識的な反応だと思うんです。そこまでもっていかないとダメだということですね。
(・・中略・・)
ぼくが最近思ってきたのは、体で反応していくということで、これはある種の「超人的な速さ」でないとダメだと思うのです。 (P.162~163)
松岡 (ラグビーが)ぼくがもうひとつ編集的だと思うのは、楕円形のボールによって生まれるイレギュラーなバウンドによってノンリニア(非線形的)な思考が生まれやすいではないかということです。 (P.191)
平尾 すごい戦術とか戦略とか考えついたとします。でも、それだけではまだやるべきことの20パーセントにしか過ぎない。それを仲間にどう説明して、自分のイメージどうりに実現できるか、そこが大事なんだよと。 (P.213)
平尾 ラグビーもそうですが、近代スポーツ、ようするに輸入してきたスポーツは、基本的には日本に適さないところがあるかもしれない。そこをどう考えるか。
世界と日本のラグビーの違いは、闘争心なんです。それがチームとしてのもつ闘争心ではなくて、個人がもつ闘争心に圧倒的な違いがあります。そこをどうするかというのは、すごく難しい。
(・・中略・・)
問題はチームプレーのなかにおける個人なんです。どうしてもチームがからむと甘いものが出てくる。 (P.223)
とくに印象的なのは、チームと個人の関係だろう。チームスポーツとチームワークの意味について深く考えさせられるのは、つねに試合という実践の場において考える人であったからだ。
わたし自身はラガーはないし、とくにラグビーファンというわけではないが、ラグビーといえば平尾誠二という連想があっただけに残念でならない。
53歳という短い人生を走り抜いた平尾氏のご冥福を祈ります。合掌。
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(2016年10月27日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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