現在の仕事とは直接関係ないのだが、コンテナ物流にかんしては、かつて徹底的に調査したことがある。
すでに30年以上も前のことになるが、海外での製造業事業化調査(FS)プロジェクトに従事したことが、その理由だ。資材と製品の輸出入の物流に大きな意味をもつのがコンテナぶつなのである。
わたしにとっては、はじめての海外出張であり、シンガポールの港湾会社 PSA も訪問している。 父親がかつて造船会社の営業マンであったこともあって、海運の世界には興味をもっていた。
大学では他学部の授業であるが、商学部の貿易英語の授業も受講している。各種のビジネス文書の作成も勉強しただけでなく、海上保険の約款の読み方も習っている。NYK や MOL がなんの略称か熟知していただけでなく、父子の会話で台湾の Evergreen もよく話題にしていた。
■ONEとボディに書かれたピンク色のコンテナはなに?
それ以来、港湾だけでなく、街中を走るコンテナを運ぶトレーラーにも関心をいだき続けて現在に到るわけだが、数年前からあざやかなピンク色に ONE と書かれたコンテナが目に付くようになってきた。
あれはなんだ? どこの国の会社? 新興のコンテナ会社かしらん?
その後、ONE は、Ocean Network Express の略称で、しかも日本郵船と商船三井、そして川崎汽船という日本を代表する海運会社のコンテナ事業がスピンオフされ、3社統合で新会社が設立され、しかもシンガポールに拠点をおいていることを知った。
そして、この2017年に設立されたコンテナ物流専業の新会社が成功ストーリーになったことを、『日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?』(幡野武彦/松田琢磨、日経BP、2023)という本で知った。しばらく積ん読になっていた本を、今週になってようやく通読した。
日本の大手製造業では、鉄鋼業や半導体関連がその代表だが、不採算の事業部門を切り出してスピンオフし、会社を超えて共同で新会社をつくるケースが増えている。とはいえ、かならずしも成功しているとは言い難い。人事面や組織風土といったソフト面が、新会社設立後のインテグレーションを困難にしているためだ。
その点、このONEの場合は、いずれも旧来型の日本の大企業を意味する「JTC」(=Japanese Traditional Company)が出身母体でありながら成功したのは、シンガポールという「出島」に本拠地を設定し、多国籍の若手社員が自由闊達に働ける環境が実現したことが大きいようだ。
本書の表現を借りれば、「世界第2位のコンテナ港を擁するシンガポールで、邦船3社の30代、40代が中心となって作り上げた19カ国のスタッフを抱える多国籍かつ世界標準のスタートアップ」の成功ストーリーなのである。
■「日の丸コンテナ会社」は、経済安全保障にとって超重要なインフラ
そもそも海運業界は、日本では総合商社とならんで国際化の進んでいる業界だが、日本に本社がある「JTC」以外のなにものでもない。その意味でも ONE という新会社の成功は読んでいて気持ちいいし、ケーススタディとしても興味深い。ちなみにピンク色のコンテナは、日本の象徴である桜なのだそうだ。
ビジネスパーソンであれば、『コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった』(マルク・レビンソン、村井章子訳、日経BP、2007 2019年に増補版)を読んだ人も少なくないと思う。日本企業に焦点を絞った本書は、『コンテナ物語』の最新事例編として読むと面白いのではないだろうか。
石油や天然ガスなどの資源の大半を海外からの輸入に依存しているだけでなく、サプライチェーンを海運に依存している「島国日本」を支えるきわめて重要なインフラが、コンテナ物流なのある。
経済安全保障の観点からも、「日の丸コンテナ会社」が市場で生き残ることが絶対に必要であり、そのためにもコンテナ物流の現状について知っておく必要があるのだ。
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目 次プロローグ 邦船社3社が赤字お荷物事業を統合してシンガポールに飛ばしたら、「出島組織」に奇跡が起きて2年連続で利益が2兆円!第1章 世界的不況とコンテナ市況の低迷第2章 業界大再編と淘汰の嵐第3章 背水の陣として発足したONE第4章 新天地とコロナ禍第5章 ONE「奇跡の成功」の舞台裏エピローグ 病床からのクリスマスカード
著者プロフィール幡野武彦(はたの・たけひこ)日本海事新聞編集局長。1969年生まれ、駒澤大学卒。2000年入社。コンテナ海運の第一線を取材し続け、業界の動向に深い知見を持つ。松田琢磨(まつだ・たくま)拓殖大学商学部教授。1973年東京生まれ。筑波大学卒、東工大大学院博士課程単位取得退学。日本海事センター主任研究員を経て現職。専門は海運経済学・物流。
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