40年以上にわたって英語でインタビューを行い、近年は経済学者のポール・クルーグマンやダロン・アセモグルなど「超一流の知識人たち」に単独インタビューを敢行し、その内容を日本語で書籍化してきた国際ジャーナリストの大野和基氏。
その手の内というか手法について、あますことなく開示してくれる著書2冊をつづけて読んだ。
『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』(祥伝社、2026)と、『懐に入る英語』(集英社、2026)の2冊である。前者は一般向け、後者は英語中級者以上向けの仕事術のビジネス書だ。
ジャーナリズムであろうが、ビジネスであろうが、もちろんそれ以外の世界であろうと、仕事をするうえでもっとも重要なのは「質問力」である。これには異議はあるまい。
いや、それはけっして仕事に限定されるものではない。 的確な相手に対して、的確なタイミングで、的確な質問を投げかけること。良い質問は、良い回答を導きだすのである。誘導するといっても言い過ぎではないだろう。あくまでも主導権はこちら側にあるからだ。
生成AI相手のプロンプトならともかく、こと人間が相手の場合は、人間心理にかんする理解を踏まえた質問であることが前提になる。
ディベートではないのである。相手を論破するなど論外である。いかに気持ちよく心を開いてもらうかがカギなのだ。 日本語だけでなく、英語でもまったくおなじである。
『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』で著者は、絶対に避けなくてはならないこととして、質問の「イソコ化」と「タハラ化」の2つをあげている。絶妙なネーミングというべきだろう。 言い得て妙としか言いようがない。
「イソコ」というのは、自分の意見を長々と述べる活動家とおぼしき新聞記者のことだ。「タハラ」というのは、相手の話を最後まで聞かずにさえぎって、自分の考えを押しつける長老ジャーナリストのことだ。わたし自身、ずいぶん前から、この2人に対してはウンザリする思いを抱いてきたので、大いにうなづきながら納得した。
『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』の「目次」は、以下のようになっている。
はじめに1 日本人がついやってしまう質問の「悪いクセ」2 効率のよい準備が「望む答え」への最短コースとなる3 主導権を握りながら相手に気持ちよく話させるコツ4 ピンチをチャンスに変える「変化球」の投げ方5 人生の基盤となる「質問力」のマジック
(【国際ジャーナリスト】世界的VIPの本音を引き出す極意 / 「サピエンス全史」著者の自宅へ / AI時代に「英語力」が必須な理由|ゲスト: 大野和基 Podcast Studio Chronicle Podcast Studio Chronicle)
■英語上級者向きだが、志の高い高校生も読んだらいい
さて、えらくシンプルなタイトルの本である『懐に入る英語』(集英社、2026)の方に話を進めよう。
知的レベルの高い、英語上級者向けの「世界基準の質問力」である。もちろん、最初から意識を高くもち、これからの人生を切り開いていきたいと思っている高校生なら読むべき内容だ。
「質問力」にかんしては、1冊目の『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』とダブっているのは当然であるが、『懐に入る英語』のほうは、「英語での質問力」に絞り込んで、徹底的に解説してくれる。具体的な英語表現がじつに役に立つ。
日本の大学では英文科を卒業し、アメリカに留学して化学と基礎医学を学んだのち、フリーのジャーナリストとして生きてきた人ならではのサバイバルスキルが満載である。組織の名刺もバックアップもない、あくまでも個人としての世渡りである。
『懐に入る英語』の「目次」を紹介しておこう。
はじめに第1章 文化的背景を知る第2章 情報収集する第3章 ボキャブラリーを増やす第4章 アポイントメントを取る第5章 会う、雑談から始める第6章 知的な会話をする第7章 いい印象を残して終わるおわりに
豊富な体験から生み出された具体的な事例をもとに、読みやすく実戦的で説得力のある話がつぎからつぎへと展開される。英語ができるだけでなく、日本語で書くチカラがあるからこそ可能なワザなのである。
英語関連本を読むのはひさびさのことだが、この本にかんしては、時間をかけて、文字通り隅から隅まで舐めるようにして読んだ。読みながら、そして読み終えたあとも、なんども読み返す必要を感じている。知識のレベルを越えて、知恵のレベルまで書かれているからだ。
「日本人が特に苦手な would、could について」は、わたし自身も従来から気をつけてきたことだが、表現をやわらかくするために必要な英語表現である。仮定法であるが、実際につかわれる際には if が省略される。
著者がなんどもくりかえし注意喚起しているように、日本語とくらべたら英語はストレートだという固定観念は捨てることだ。 英語はボキャブラリーが膨大なだけでなく、細かい感情のニュアンスまで表現することが可能な言語なのである。知的レベルが上がればあがるほど婉曲な表現を好む傾向があるのは、日本社会とおなじなのだ。
すでに70歳を迎えている著者であるが、まさに精進の日々を送っているのは「現役」をつづけるためであり、なによりも旺盛な好奇心があるからだろう。その姿勢も学ぶべきである。
■背伸びしてでも『懐に入る英語』も読むべき
この2冊は30歳台で出会いたかった。自分もバリバリの30歳台にはこの手の本を、それこそむさぼるように読んだからだ。当たって砕けろ精神に充ち満ちていた頃である。
とはいえ、何歳になっても前進、また前進である。撃ちてしやまん。向上心を失ったら、人間はおしまいだ。
『日本人だけが知らない 世界基準の質問力』だけでも読むことを薦めたいが、自分自身のステージをさらに上げるためには、背伸びしてでも『懐に入る英語』も読むべきだろう。
著者プロフィール大野和基(おおの・かずもと)国際ジャーナリスト。1955年生まれ、兵庫県西宮市出身。東京外国語大学英米学科卒業後、1979年に渡米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。『コロナ後の世界』(ジャレド・ダイアモンドほか、文春新書)などの訳書、『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』 (NHK出版新書)などインタビュー・編著多数。
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