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2022年6月30日木曜日

高温多湿の日本の夏をしのぐには「竹夫人」が有効だ!-東南アジア発の「抱き枕」を導入しよう!

  
2022年の関東の梅雨明けは、なんと6月27日! 例年より3週間以上も早かった。

梅雨入りが早かったから、梅雨明けも早いというわけだが、6月末からすでに真夏日というのは想定外だったな。

というわけで、さっそく真夏をやり過ごす必須アイテムの「竹夫人」を引っ張り出してきた。

「竹夫人」と書いて「ちくふじん」と読む。かつてエアコンが存在しなかった時代の東南アジアでは当たり前に使われていたという「抱き枕」のことだ。

昨年(2021年)の夏も暑かったので、思い切って京都産の「竹夫人」を購入することにしたのだ。京都産の竹を編んでついくったメイド・イン・ジャパン製品である。




約2万円弱と高価ではあったが、すべて職人による手作りのハンドメイドなので、ある意味では当然といえよう。

製造販売しているのは、京都嵐山いしかわ竹乃店。製造販売元自身による商品説明を紹介しておこう。

サイズ:直径約17cm、長さ約85cm※手作り品です。サイズは目安としてお考え下さい。 
夏用の涼しい抱き枕です。竹を抱きやすい大きさに円筒形に編んでいます。ほどよくしなり、丈夫です。 竹の抱き枕は、体と布団の間に隙間ができるため、熱がこもらないという利点が! さらに、中が空洞になっているため、かいた汗も素早く蒸発して、涼しい夜を過ごすことができます♪ 暑苦しい夜には是非抱っこしてお眠り下さい。布団が必要以上に体に密着して暑苦しくならならない、冷房にたよらない先人の知恵。エコロジーですね。 [国産] 京都の竹を使用し、京都で作業しております。


冷房にたよらない先人の知恵。エコロジー」である、と。まさにこの説明内容の通りであることは、実際にわたし自身が確認済みだ。その意味では、この買い物は成功であった。

実際、かなりの重量をかけても、竹がしなって壊れない。ただし、どこまで耐久性があるのかはわからない。ちなみに、わたしの体重は60kg+α(時期によって変動があるので)くらいだ。


■「ダッチワイフ」とは「竹夫人」のこと

さて、ここまで「竹夫人」について書いてきたが、「竹夫人」とは「ダッチワイフ」のことである!

高校時代には、父親から譲り受けた『岩波英和辞典 新版』(島村盛助/土居光知/田中菊雄編、岩波書店、1958)をつかっていたが、この辞書で Dutch wife を引くと、「竹夫人」という訳語がでてくる。

「ダッチワイフ」の説明があると思っていたら、はぐらかされたわけだ(笑) 

だが、そのおかげで「竹夫人」の存在を知った。「雑学知識」が増えたのである。高校生が使用する英和辞典には、Dutch wife はふつう掲載されていない。

Dutch で始まる成語は、17世紀の英蘭ライバル時代の名残りである。Dutch ではじまることばは、イングランド人の悪意に満ちたネガティブ表現である。

おなじく高校時代に go Dutch という慣用表現があることを知ったが、これは「割り勘」という意味だ。

(『岩波英和辞典 新版』(田中菊雄他、岩波書店、1958 に記載された Dutch wife)


割り勘が好きな日本人は、合理的な17世紀のオランダ人と似ているのかもしれない。ちなみに、アジアでも中国人や韓国人は割り勘をしないので、日本人はけちくさく奇異に見えるようだ。

さて、「竹夫人」の Dutch wife についてだが、オランダ植民地時代のインドネシア(=東インド)から来ているようだ。竹製品は、東南アジアでは一般的である。写真は、ラオスのルアンプラバーンにて撮影したよろずやの店頭風景である。




なぜ「竹夫人」が「ダッチワイフ」と表現されるようになったか、その理由は定かではないが、インドネシアを舞台に競争関係にあった17世紀のイングランド人がそう命名した可能性はある。

「アンボイナ事件」(1623年)でイングランドが敗退するまで、この海域では熾烈な競争が行われていた。オランダ側が起こしたこの事件では、日本人傭兵が巻き込まれてイングランド人とともに処刑されている。

「ダッチワイフ」を「セックスドール」を意味するとしているのは、どうやら日本だけのようだ。『南極一号伝説』(高月靖、バジリコ、2008)には、そんな話が書いてある。ちなみに「南極一号」というのは、日本の南極越冬隊が持参したとされているが・・。

英語の 「Dutch wife」 は「抱き枕」のことである。和製英語というわけではないが、おなじ英語表現でも日本独自の異なる意味が発生したのである。

「竹夫人」は、写真をみるとわかるとおり、セクシャルな要素は希薄である。





PS. 『岩波英和辞典 新版』(田中菊雄他、岩波書店、1958) に記載された Dutch wife のページのコピー画像をあらたに添付した。(2022年9月12日 記す)


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・・『西欧の植民地喪失と日本-オランダ領東インドの消滅と日本軍抑留所-』の2年後に日本で翻訳出版された。ともに健忘症の日本人への警鐘と受け取りたい。重要なことはバランスのとれた「ものの見方」。夜郎自大にならず、卑屈にも自虐的にもならず



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2022年6月29日水曜日

「トラジャコーヒー」がうまい!-インドネシアのスラウェシ産のコーヒーをドリップバックで楽しむ


東南アジアでコーヒーといえば、知る人ぞ知るベトナムコーヒーが有名だ。

フランスパンもそうだが、植民地時代のフランスの影響もあるのだろう。ベトナム北部のハノイでは、オープンテラスのカフェでコーヒーが飲まれている。ベトナムのコーヒーも、コーヒー豆の種類でいろいろあるが、日本では業務用のコーヒーとして使用されることが多いようだ。

意外と知られていないが、タイでもラオスでもコーヒーは栽培されている。基本的に亜熱帯の気候帯だが、高地にいけば気温の寒暖差もありコーヒー栽培に適しているからだ。タイでは、ロイヤルプロジェクトとして、麻薬の代替作物としてコーヒー栽培が奨励された。

だが、なんといっても、歴史があるのはインドネシアのトラジャ(Toraja)だろう。

インドネシア中部のスラウェシ島で栽培されるコーヒーだ。スラウェシ島のトラジャ地方だけで栽培されていることが由来とのこと。スラウェシはセレベスともいう。

味はコクがあって、しかも苦みと酸味がうまいバランスで、じつに美味い。

朝は濃い目のコーヒーが目覚ましのためにいいが、夕食後はトラジャコーヒーがいい。最近は、すっかりドリップ方式のトラジャにはまっている。

メーカーによる説明文を引用しておこう。

18世紀、「セレベス(スラウェシ)の名品」と謳われた幻のコーヒーがあった。 インドネシア・スラウェシ島にのみ産するトラジャコーヒー。 大戦の混乱の中、市場から姿を消した そのコーヒーを復活させたのは多くの日本人の情熱だった。 産地に至る道を造り、荒れ果てた農園を再生。 キーコーヒーは約40年にわたりその品質を極め、 厳しいコーヒー好きにも愛されてきた。 トアルコ トラジャ。 それは日本と日本人がインドネシアとともにつくりあげた、 世界に誇れる一杯。

(スラウェシ島 Wikipediaより)

おお、そんな歴史があったのか! 

オランダの植民地時代に開発されたコーヒー農園。復活させたのは日本人。歴史を踏まえると、さらに味わいが濃くなる気もしてくる。

「猫じゃ、猫じゃ」というフレーズが漱石の『吾輩は猫である』にでてきたと記憶しているが、ドリップ式でコーヒーを淹れる際には「虎じゃ、虎じゃ」とつぶやいてみたりもする(笑)

どうしても、日本語人的には「トラジャ」の「トラ」は動物の「虎」であって、インドネシアなら「トラ」といえば「スマトラ」という連想が生まれがちである。スマトラ島には「スマトラトラ」という虎がいるので、ややこしい。

繰り返すが、ただしくは「スラウェシ」だが、スラウェシ島の形は尻尾を立てた虎のようでもある(上記の地図)。

ややこしいのは仕方ないが、スマトラとスラウェシはぜんぜん違うので、アタマに刻みつけておかないとね。





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2022年6月26日日曜日

映画『バリー・シール/アメリカをはめた男』(2017年、米国)-レーガン政権時代の「イラン・コントラ事件」の知られざる秘話。この映画はめちゃくちゃ面白い!


『バリー・シール/アメリカをはめた男』(2017年、米国)という映画を amazon prime video で見たが、この映画はめちゃくちゃ面白かった。予想をはるかに超える面白さだ。114分  

レーガン政権時代の、いわゆる「イラン・コントラ事件」のうち、中米を舞台にした「コントラ」の実行を担った男の物語だ。「本当のウソにもとづく」(Based on a true lie)とある。「実際の人生にもとづく」(Based on a true life)のもじりだろうが、そんな男が実在していたとはまったく知らなかった。

 ストーリーはこんな感じだ。amazon prime video から引用しておこう。当方の判断で多少の加筆を行っている。 

天才的な操縦技術を誇り、大手民間航空会社TWAのパイロットとして何不自由ない暮しを送っていたバリー・シール(Barry Seal)の元に、ある日CIAのエージェントがスカウトに現れる。CIAの極秘作戦に、偵察機のパイロットとして加わる事となったバリーは、その過程で伝説的な麻薬王パブロ・エスコバルらと接触し、麻薬の運び屋としてもその才能を見せ始める・・・

主演はトム・クルーズ。なるほど、飛行機の操縦が大好きなかれらしい。まさにツボにはまった演技。先日ひさびさに『トップガン』を見たからだろう、amazonから推薦されたので見たというわけだ。




こんな面白い映画が日本公開されたことも知らなかったのは、まったくもってうかつだったな。 

いわゆる痛快なまでのピカレスク・ロマン系だが、爆笑につぐ爆笑中米とカリブ海は、米国の裏庭なのだなあと、あらためて実感。米国南部のアーカンソーやルイジアナが舞台。カリブ海に面したこれらの地域である。ある意味では、南部映画というべきか。


コントラへの武器、コロンビアのメディジン・カルテルの麻薬の運び屋となったバリー、まさにグリンゴ(gringo)そのもの。だが、その最期は、やがて哀しき・・。

原題のタイトルは "American Made" だが、これではなんの映画かまったくわかならないな。その意味では日本語版の『バリー・シール/アメリカをはめた男』はよくできている。


レーガン政権時代のことをリアルタイムで知っているわたしのような人間には、120%楽しめる内容。副大統領時代のブッシュ(パパ)とその後に大統領となった息子まで。それも皮肉たっぷりの紹介。

姿は見せないがアーカンソー知事時代のビル・クリントンも出てくる。そもそも、クリントン大統領が登場しなかったら、アーカンソーなんてどこにあるかまったく知らなかったわけだ。 Arkansas と書いて「アーカンソー」と読むことも。

レーガン大統領の実写フィルムも使用されているが、役者あがりと当時はバカにされていたかれも、いまでは「グレート・コミュケーター」として歴代大統領のなかでも評価が高い。 なるほど、ポーカーフェースで、ウソも真実だと言いくるめる能力にかんしては、超一流だったな、と。

批判されると、すぐにブチ切れてウソを隠し通せない日本の元首相(・・誰であるか言うまでもないだろう)と比較のしようもないな、と(笑) 人間の出来が違うのである。




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2022年6月25日土曜日

黄金色に輝くアンドリュー・カーネギー!-新刊『大富豪の知恵』の発売初日に上京して状況を確認(2022年6月24日)

 
 
さっそく、フィールドワークのため上京して状況を確認。というより、ひさびさに大学時代の友人と会うためだが、丸の内とから大手町、そして八重洲まで歩いた。 1万3千歩。

写真は、八重洲ブックセンター本店にて。 2Fのビジネス書のコーナーで発見! 


おお、コーナーに平積み!! しかも、パネルつきではないか!!! 

黄金に輝くアンドリュー・カーネギー金の延べ棒が平積みされているような壮観だ。まさに、ビジネス書のコーナーにふさわしいではないか!


3Fの理工系のフロアからエレベーターで降りてくると目に入ってきます。 

フィールドワークといっても、一部しか回れないので、ぜひ全国各地の状況を知りたいものだ。




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2022年6月24日金曜日

書評『サイロ・エフェクト ー 高度専門化社会の罠』(ジリアン・テット、土方奈美訳、文藝春秋、2016)ー「インサイダー兼アウトサイダー」の視点で「人類学的思考」を活用して「サイロ」を壊せ!

 
先日(2022年6月2日)のことだが、ソニーの元CEOだった出井氏がお亡くなりになった。享年84。ご冥福をお祈りします。合掌 

20世紀末の1995年、華々しい登場とマスコミが絶賛したソニー改革。ネット時代を見据えたハードとソフトの融合、「カンパニー制」の採用は、当時のビジネス界では流行というべきものになった。 

ところが、ウォークマンで一世を風靡したソニーだが、新製品開発で iPod を送り出したアップルに敗退。ソニーの原点である「ものづくり精神」の破壊だという非難の集中砲火を浴び、約10年後の苦渋に満ちた退陣。 

出井氏にかんしては、まだまだ評価の定まらないところもあるが、同時代に生きたビジネスパーソンとして、いろいろ思うことは多い。 


日本人ビジネスパーソンにとって「サイロ」とは未知のことばと概念だった

2005年に出井氏が抜擢した後継者は、英国生まれで放送業界出身のストリンガー氏だった。日産のカルロス・ゴーン氏など、外国人経営者が脚光を浴びていた時代だ。 

そのストリンガー氏が就任時にマスコミ会見で語った のが、「サイロを壊せ」というフレーズだった。 

「サイロ」ってなに? リアルタイムでそのフレーズを耳にしたとき、正直いってその意味がわからなかった。北海道の牧場で飼料の穀物を貯蔵している金属製のタワーのこと??? 1992年まで米国にいたが、その時点では「サイロ」ということばを耳にしたことがなかったからだ。 

その後、「サイロ」(silo)というのは、悪しき専門分化のことで、日本語でいえば「タコツボ」のようなものだとわかったが、いまひとつ「サイロ」ということばのもつニュアンスがよく理解できなかった。 英語のビジネス雑誌で silo ということばを目にするようになったものの、日本語人にはいまひとつピンとこないのは仕方あるまい。

その後、『サイロ・エフェクト-高度専門化社会の罠』(文藝春秋、2016)という本が出版されていいることを知った。ストリンガー発言から10年後のことだが、ずいぶん時間がたってからだが、日本人ビジネスパーソンは、ふたたび「サイロ」ということばに出会ったわけだ。  

しかも、著者は金融ジャーナリストのジリアン・テット氏。長銀破綻を描いたノンフィクション『セイビング・ザ・サン』の著者の新著がそれであった。 



■『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)』とあわせて読むべき本

つい先頃、ジリアン・テット氏の最新刊の『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)-人類学的思考で視るビジネスと社会』(日本経済新聞出版社、2022)を読んだが、積ん読のまま気にはなっていた『サイロ・エフェクト』も読むことにした。読む順番としては逆になるのだが、まあそれは仕方ない。 

だが、『サイロ・エフェクト』を読み出して思ったのは、『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)』とセットで読むべき本であって、べつに読む順番はどっちが先でもかまわないというものだった。 

というのは、最新刊の『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)』は、著者のバックグラウンドである社会人類学をどうつかってビジネスと世界を解読するかという、いわば「応用人類学」ともいうべき内容の本で、さまざまな事例を取り上げながら応用可能な概念の解説も行っている。 

『サイロ・エフェクト』では、人類学的思考を用いて「サイロ」がもたらす問題とその解決の方向性に絞り込んで考察している。 つまり、『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)』では、『サイロ・エフェクト』で行った人類学的思考の有効性を踏まえたうえで、さまざまな事象の分析に人類学的思考が有用だとする内容になっているので、両者をあわせ読むことで、より理解が深まるわけなのだ。 


■「専門分化」のメリットとデメリット

専門分化は、現代社会において必要不可欠のものである。

しかしながら、組織内で部門が固定化することによって、部門どうしのコミュニケーションが阻害され、イノベーションの機会が失われてしまう。 これは、きわめて大きな弊害だ。

その最たる事例が、さきにみた出井氏時代のソニーであった。これは「第2章 ソニーのたこつぼ」で詳しく描かれている。退任後のストリンガー氏へのインタビューにもとづいた記述は、かれが就任時に発言した「サイロを壊せ」の真意がどこにあったのかを理解することを可能にしている。 

「サイロ」に起因する問題が失敗を招いたのはソニーだけではない。多かれ少なかれ、組織が大きくなるにつれて発生する問題だ。

組織は大きくなればなるほど、専門分化が進み、専門分化されたユニットどうしのコミュニケーションが阻害されていくようになる。 

自分が属している「サイロ」こそ世界となり、それ以外の「サイロ」が別世界となってしまう。おなじ組織に属していても、そうなってしまうのが怖いところである。いや、そのこと自体に気がつかなくなり、自覚症状がなくなることこそが恐ろしいのである。

「第3章 UBSはなぜ危機を理解できなかったのか?」で取り上げられた UBS はスイスの金融機関だが、長銀破綻の間際に提携先の長銀を食い散らかしたUBSもまた「盛者必衰」だったことを改めて見つめることは、わたしにとってはなかなか感慨深い。 

UBSのケースにおいて「サイロ」にこもった専門家たちには、「リーマンショック」の本質が見えていなかったのだ。 


ブルデューを社会学者ではなく人類学者として捉える斬新な視点

 『サイロ・エフェクト』を貫いているのは、フランスの「人類学者」ピエール・ブルデューの分析枠組みである。

「第1章 人類学はサイロをあぶりだす」でやや詳しく解説されている。 著者はこの章は飛ばしても問題ないとしているが、わたしにはこの章こそが重要だと思う。繰り返し読んだほうがいい。 

(ピエール・ブルデュー 1930~2002 Wikipediaより)

ブルデューは、一般的には「社会学者」として知られている(・・といっても、専門家とその周辺を除いては、まだまだ日本での知名度は高くないだろうが)。

そのブルデューを「人類学者」として位置づけ、初期のアルジェリア時代とフランスの地方でのフィールドワークで発揮された「人類学的思考」に重点をおいて捉えているのが興味深い。 

「見えないものを見る、語られていないことを知る」という「インサイダー兼アウトサイダー」の視点である。地方の農村出身で、もともと哲学専攻だったブルデューが獲得した視点こそ、人類学的思考そのものであったのだ。 

著者は、一貫して「人類学者ブルデュー」としており、わたし自身も認識をあらためる必要ながあるなと思っているところだ。おそらく「ブルデュー社会学」の信奉者たちの視野には入ってこないだろうが。 


「人類学的思考」とは「インサイダー兼アウトサイダー」の視点

社会が高度化すればするほど、求められる専門知識も高度化し、それに対応するために専門分化がさらに進んで「サイロ」化が進行しやすい。 まずは、その事態に自覚的になることが必要だ。

「人類学」そのものを学問として学ぶ必要はないが、「人類学的思考」を身につけることは重要だ。 言い換えれば「インサイダー兼アウトサイダー」の視点をもつことである。

そのためには、いわゆる「コンフォート・ゾーン」を飛び出して、いままでとは違う世界に飛び込んでみるのが手っ取り早い。転勤(国内外)や転職(同業他社、あるいはまったくことなる仕事)、学び直しなど、ビジネスパーソンにできること、やるべきことは多い。

そこで得た「気づき」は、無意識のうちにあらたなフィールドで「人類学的思考」を行った結果なのだ。自分の経験のなかで、俯瞰的な視点から「比較」を行うのである。 

ジリアン・テット氏の著書2冊を読んでいて思い出したのは、そういえば、ちょうど10年前におなじような趣旨のことを自分の著書に書いていたな、ということだ。 

『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(こう書房、2012)がそれである。自分にとっては当たり前すぎて、かえって自覚してなかったということか。 

いずれにせよ、「インサイダーでありながらアウトサイダー的にものを見る」という思考のフレームワークは、きわめて重要だ。

ジリアン・テット氏もまた、本人が属している「フィナンシャル・タイムズ」とメディア業界についての考察を記している。 

「インサイダー兼アウトサイダー」であることは、「自分が属している組織」についてだけでなく、「組織に属している自分自身」をただしく認識するためのツールにもなるのである。 



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目 次
序章 ブルームバーグ市長の特命事項 
第1部 サイロ 
 第1章 人類学はサイロをあぶり出す
 第2章 ソニーのたこつぼ
 第3章 UBS はなぜ危機を理解できなかったのか?
 第4章 経済学者たちはなぜ間違えたのか?
第2部 サイロ・バスターズ
 第5章 殺人予報地図の作成(シカゴ市警の事例)
 第6章 フェイスブックがソニーにならなかった理由
 第7章 病院の専門を廃止する(クリーブランドクリニックの事例)
 第8章 サイロを利用して儲ける
結論
終章 点と点をつなげる 
謝辞 
ソースノート 


著者プロフィール
ジリアン・テット(Gillian Tett)
ケンブリッジ大学にてPh.D.取得(社会人類学専攻)。1993年から “フィナンシャル・タイムズ” 紙にて記者として活躍、ソ連崩壊時には中央アジア諸国を取材した。1997年から2003年まで同紙東京支局長。その後、英国に戻り同紙の名物コラム「LEXコラム」の副責任者。現在はFT紙アメリカ版の編集長であり、FT紙有数のコラムニストでもある。2007年には金融ジャーナリストの最高の栄誉「ウィンコット賞」を、2008年には「ブリティッシュ・ビジネス・ジャーナリスト・オブ・ジ・イヤー賞」を、また2009年には『愚者の黄金―大暴走を生んだ金融技術』で「フィナンシャル・ブック・オブ・ジ・イヤー賞」を、金融危機の報道でイギリス新聞協会の「ジャーナリスト・オブ・ジ・イヤー賞」を受賞している。そのほか、ベストセラーになった『サイロ・エフェクト』がある。(各種資料をもとに編集)。


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