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2015年9月12日土曜日

書評 『毒ガス開発の父ハーバー-愛国心を裏切られた科学者-』(宮田親平、朝日選書、2007)-平時には「窒素空中固定法」で、戦時には「毒ガス」開発で「祖国」ドイツに貢献したユダヤ系科学者の栄光と悲劇

(第一次大戦中、軍服姿の科学者ハーバー)

1914年に始まった第一次世界大戦は、じつに過酷で悲惨な戦争であった。その大半が塹壕での膠着戦であり、対峙する双方がさまざまな新兵器を導入して突破口を開こうと試みた。戦車や航空機、それに毒ガスである。その結果、人類史上で未曾有の戦死者がでたのである。

ドイツが全面的に導入したのが毒ガスである。最初に使用したのはフランスだといわれているが、全面的に導入したのはドイツである。ドイツは当時はすでに科学、とくに化学(ケミカル)の分野では世界最先端の技術と量産能力を有し、化学工業の分野では世界をリードしていた。

その毒ガス開発の指揮を軍内でとったのが、本書の主人公フリッツ・ハーバー(1868~1934)という化学者であった。大戦後の世界一周旅行の際、日本では「毒ガス博士」として紹介されたという。本人もその周囲も、毒ガス開発の責任者であったことは、なんら恥ずべきことではなかったというのが驚きだ。サリンがじっさいにテロとして使用されて以降の日本人には、想像しがたいことである。

しかも、「毒ガス博士」のハーバーはノーベル化学賞の受賞者(!)なのである。それも、大戦後の1918年のことである。大戦中の毒ガス使用の件もあり、ドイツは世界の科学界からは締め出されていたなかでのことである。敗戦国となって混乱していたドイツへの間接的支援の意図がノーベル財団にはあったらしい。

もちろん、受賞理由は毒ガスではなかった。大戦前に発見し技術として確立した「窒素空中固定法」がその対象である。ハーバー=ボッシュ法ともいわれるが、この技術の確立によって、ドイツのみならず、世界の食糧問題は根本的に解決されたといっても過言ではない。植物の生育に不可欠な窒素を、無限に存在する空気から取り出すことに成功したのである。もしこの技術がなかったら、現在のような人口爆発は支え切れなかったはずだ。

ハーバー・ボッシュ法と呼ばれているのは、理論と技術の発明者のハーバーと量産化を実現した化学メーカーBASFのボッシュの両者がかかわっているからだ。技術に重点がおかれた科学理論がノーベル賞受賞の対象となったことは興味深い。そもそもノーベル自身、ダイナマイトで財を成した企業家である。

ハーバーが実現した「窒素空中固定法」と「毒ガス」開発。まったく相反するかに見えるこの二つの開発は、化学という共通項だけではなく、「人道的」という共通項もある。すくなくとも開発当事者のハーバー自身にはその認識があった。毒ガスは、戦争を早期終結させるための「人道的な兵器」として開発されたからである。原爆開発を主導した米国と同じロジックである。だが、毒ガスは戦争の早期終結にはつながらなかった。

ちなみに、のちの独裁者ヒトラーは、この戦争に勇敢な一兵士として戦っていたが、最終段階で敵による毒ガス攻撃を受け負傷し、病院内でドイツの敗戦を知ることになった。


ユダヤ系ドイツ人としての生涯

「毒ガス博士」フリッツ・ハーバーはユダヤ系であった。近代ドイツにおいてユダヤ系市民として生きるということが意味したものを考えると、ハーバーの生涯には栄光と悲劇がともに存在することを知ることになる。

まずは個人的な面にかんしては、自身もユダヤ系で化学者であった妻クララは、夫の毒ガス開発に反対し、世界ではじめて実戦に使われた1915年に自殺している。おなじくユダヤ系の友人アインシュタインからは、「君は傑出した科学的才能を大量殺戮のために使っている」と言われていた。

傑出した業績を残し、化学王国ドイツに多大なる貢献をしたハーバーだが、その晩年はナチスのユダヤ人排除政策によって、名誉あるカイザー・ヴィルヘルム研究所の所長から追われることになる。第一次大戦では、毒ガス兵器開発によって軍人として国家に多大なる貢献をしたにもかかわらず・・・。

さらにいえば、没後のことであるが、みずから開発した農薬の殺虫剤チクロンBが、ナチスの絶滅収容所において同胞のユダヤ人の命を抹殺することに使用されるとは、よもや想像だにしなかったであろう。

豊かな人文的教養に支えられて話題も豊富、エネルギッシュで勤勉、しかも天才肌でありながら、組織化能力が高くリーダーシップを発揮した実務的な側面ももっていた科学者ハーバーは、近代ドイツの「同化ユダヤ人」の一典型でもあった。

19世紀になってから「解放」されたユダヤ人は、社会的な成功を求めて積極的にドイツ文化に同化を図り、なかには世俗的な成功をつかみとるためにキリスト教に改宗した「改宗ユダヤ人」もでている。革命家のカール・マルクスや、その同時代の詩人ハイネ、哲学者のフッサールやジンメルなど多数にのぼる。マルクスの場合は、弁護士であった父親がすでに改宗していた。

近代国家ドイツ、その中核にあったプロイセン王国は、フリードリヒ大王が亡命フランス人プロテスタントであったユグノーやユダヤ人などに寛容であったが、統一後のドイツ全体でみれば、ユダヤ人にはかならずしも完全に門戸が開かれていなかった。実力がものをいう科学界もまた例外ではなかった

ハーバーもまた、成功した商人父親の意思に反して「改宗ユダヤ人」となったが、それにもかかわらず、挫折につぐ挫折の20歳代を送っている。

そんな人生前半期の体験が、過剰なまでに愛国心を発揮し、「祖国」ドイツの運命にコミットさせたのであろう。その意味では、過剰適応は成功を生み出した反面、裏切られたときのショックはとてつもなく大きかったに違いない。


日本とのかかわりなど

日本との密接な関係についても本書には詳しく書かれている。

星製薬設立者の星一(ほし・はじめ)とのあいだに密接な協力関係が築かれたことである。日本側は星一、ドイツ側はハーバーが窓口となって、第一次大戦敗戦後の混乱するドイツの科学界再興に奔走している。成功した起業家であった星一は、資金面で全面的に協力していた。

資金調達もそのテーマのひとつであった世界一周旅行の途上で日本に立ち寄っており、星一を仲介して日本陸軍とも関係をもったらしい。毒ガス開発への協力がテーマではなかったかと著者は推測しているが、この点はもっと研究されてしかるべきテーマである。ちなみに通常兵器にかんしては、ドイツ国防軍は秘密裏にソ連と密接な関係を構築している。

基本的にハーバーの生涯を淡々と叙述しているが、近代ドイツを生きた天才科学者の生涯に、近代ドイツの運命とドイツ系ユダヤ人の運命を重ね合わせながら読むと、さまざまな感慨を感じることになるだろう。さらにいえば、日本とドイツ、日本とユダヤ人の関係についても。

米国による原爆開発にもユダヤ系科学者が多数かかわっているが、ドイツによる毒ガス開発もまたそうであった。科学者と愛国心いう大きなテーマは、ユダヤ人科学者にとっては実存そのものにかかわる問題であったことをアタマのなかに入れておきたい。





目 次

プロローグ
1. 生い立ち
2. 挫折と苦闘の日々
3. 陽の当たる場所へ
4. 空中窒素固定法の成功
5. 家庭崩壊の兆し
6. 毒ガス戦の先頭に立つ
7. 死の抗議と第二のロマンス
8. 敗戦と逃亡
9. ノーベル賞、星基金、チクロンB
10. 海水から金を採取せよ
11. 日本訪問
12. 報酬は国外追放
13. 最愛の国家に裏切られて
エピローグ
あとがき
参考・引用文献


著者プロフィール

宮田親平(みやた・しんぺい)
1931年東京生まれ。東京大学医学部薬学科卒業。文藝春秋入社。雑誌編集者などを経て、現在フリーの医・科学ジャーナリスト。著書に、 『「科学者の楽園」をつくった男-大河内正敏と理化学研究所-』(河出文庫)など多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)。



・・星一(ほし・はじめ)とアインシュタイン、ハーバーとの交友関係については、上掲書の第13章を参照


<ブログ内関連記事>

書評 『「科学者の楽園」をつくった男-大河内正敏と理化学研究所-』(宮田親平、河出文庫、2014)-理研はかつて「科学者の楽園」と呼ばれていたのだが・・

自動小銃AK47の発明者カラシニコフ死す-「ソ連史」そのもののような開発者の人生と「製品」、そしてその「拡散」がもたらした負の側面
・・カラシニコフもまた祖国の勝利のために開発に専心したのであったが、その結果は兵器の大量拡散となってしまった。正義感の行方とは

書評 『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く-』(青木冨貴子、新潮文庫、2008 単行本初版 2005)-米ソ両大国も絡まった "知られざる激しい情報戦" を解読するノンフィクション
・・ドイツだけでなく日本もまた


「窒素空中固定法」の革命的な意義

書評 『世界史の中の資本主義-エネルギー、食料、国家はどうなるか-』(水野和夫+川島博之=編著、東洋経済新報社、2013)-「常識」を疑い、異端とされている著者たちの発言に耳を傾けることが重要だ
・・「窒素空中固定法」の革命的な意義について


ノーベル賞

朗報! 2014年度のノーベル物理学賞は青色発光ダイオード開発の中村博士ほか日本人3人に決定!(2014年10月7日)

書評 『「大発見」の思考法-iPS細胞 vs. 素粒子-』(山中伸弥 / 益川敏英、文春新書、2011)-人生には何一つムダなことなどない!


ユダヤ系ドイツ人にとってのドイツ

書評 『対話の哲学-ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜-』(村岡晋一、講談社選書メチエ、2008)-生きることの意味を明らかにする、常識に基づく「対話の哲学」
・・「18世紀の啓蒙の時代に「解放」され、19世紀には西洋社会に「同化」したはずだと思っていたドイツのユダヤ人、しかし彼らは根強く社会に存在する「反ユダヤ主義」のなか、「同化」によるアイデンティティ喪失の道ではなく、自らの内なるユダヤ性探求の方向に向かい出す。」  ⇒ ハーバーとの違い

『蛇儀礼』 (アビ・ヴァールブルク、三島憲一訳、岩波文庫、2008)-北米大陸の原住民が伝える蛇儀礼に歴史の古層をさぐるヒントをつかむ
・・「西欧人でありながらユダヤ人であることに悩みつづけた著者は、ハンブルクの著名な銀行家ヴァールブルク家の長男に生まれながら家督相続を拒否し、さらにはユダヤ教からも遠ざかるのですが、いくら自分の意識のなかでユダヤ性を遠ざけても、自分を見る周囲の目にはユダヤ人でしかないという矛盾を感ぜずにはいられないのでした。こうした自己認識と他者認識のズレが繊細な精神をもつ著者を、最終的に精神の病に追い込んだ」 ⇒ ハーバーとの違い

(2015年9月20日、11月15日・18日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)










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