先々週のことだが、念願かなって五浦海岸の「六角堂」にはじめて行くことができた。岡倉天心が晩年に過ごした邸の近くに建てられた瞑想スペースのことである。
だが依然として謎が残っている。
なぜ「六角堂」なのか? 「六角形」の建築物で瞑想することにいかなる意味があるのか?
なぜ「六角堂」なのかについては、専門家が書いた論文を読むと、中国の道教思想にもとづくものであることがわかる。
たとえば、『道教と日本文化』(福永光司、人文書院、1982)所収の「岡倉天心と道教」には、本名の岡倉覚三の「三」が「天地人」の「三」に由来すると書かれてある。「六」は「三」の倍数である。
「六」については、この論考も参照している「六角堂の系譜と天心」(熊田由美子)という論文が『岡倉天心と五浦』(森田義之/小泉晋弥、中央公論美術出版、1998)に収録されており、この論文がほぼ定説となっている。
この論文によれば、浄土真宗と結びつきの深い「聖徳太子の六角形の参籠堂」が天心の視野に入っていたようだ。
(「聖徳太子絵伝」より「六角堂」 Wikipediaより)
浄土真宗の開祖である親鸞聖人は、京都は頂法寺の「六角堂」で100日参籠し、95日目に有名な「夢告」を受けたという有名な話がある。愛欲に苦しんだ親鸞が受けたこの「夢告」は、浄土真宗だけが教義によって妻帯が許されている根拠とされているものだ。浄土真宗の家以外の日本仏教の宗派は、明治時代になってからなし崩し的に妻帯が行われるようになった。
(頂法寺の本堂は六角堂 親鸞聖人を訪ねて より)
天台宗で菩薩戒を受け、『茶の本』では禅と茶について語っている天心だが、浄土真宗の家に生まれて葬儀も真宗で行われている。法名は釋天心だ。したがって、親鸞ゆかりの六角堂が念頭にあったであろうことに納得がいく。
ちなみに、頂法寺は、京都市中京区「六角通」東洞院西入堂之前町にある。「六角通」にあるから「六角堂」なのか、「六角堂」に面しているから「六角通」となったもか定かではないようだ。「ニワトリが先かタマゴが先か」という議論である。
六角堂は仏教だけでなく、道教も意識してつくられている。中国風の亭(ちん)でもあり、仙境で遊ぶという境地を実現したかったようだ。老荘思想の「タオ」(道)の形象化である。以上が、論文から読み取れることである。
とはいえ、話は人文科学に限らないが、専門研究者というのは概して視野が狭いものだ。いや、「専門」にがんじがらめになっていて、「専門外」の事象にかんしては極度に禁欲的であることを強いられるアカデミズム特有の問題というべきか。
専門分野を逸脱した考察は、研究者の狭い「世間」において「専門家」として失格の烙印を招きやすい。だから、どうしても「専門家」は慎重になりすぎる傾向がある。
というわけで、六角堂がなにに由来するのかその典拠がわかっても、「六角形」の建築物で瞑想することにいかなる意味があるのか? この根源的な問いに対する回答は得られない。
■六角形は構造上もっとも安定している
六角形(hexagon ヘクサゴン)が、構造上もっとも安定していることは、「ハニカム構造」のことを考えれば明かなことだ。六角形を組み会わせた構造体のことだ。ハニカム(honey comb)とは、ミツバチの巣のことである。
(セイヨウミツバチの巣 Wikipediaより)
ワールドカップ開催中のいま、映像として目にすることも多いサッカーのゴールネットもまたハニカム構造である。 サッカーボールもまた基本的にハニカム構造であるが、球体にするため五角形が必要になる。
(サッカーゴールのネットはハニカム構造 Youtube動画をスクショ)
ハニカム構造は、日本の「亀甲模様」と同様である。
六角形についてはベンゼン構造がそうであることから化学の専門家が書いたものは多々あるが、なにか一般向けのいい本でもないかと探していたら『六角形の超パワー 宇宙・遺伝子・新素材をつくる』(南條優、徳間書店、1995)という本があることがわかった。30年前のものだが、類書がほとんどないので貴重な存在だ。
コンピュータ技術者が書いた、なにやらキワモノめいたタイトルの本だが、こういう本は意外と面白くて役に立つ。
六角形を組み合わせた立体構造の「フラーレン」の発明者たちにノーベル化学賞が授与されたのは本書出版の1年後の1996年のことだ。
森羅万象のそこかしこに存在する「六角形」を分子レベルから宇宙構造にいたるまで網羅的に扱っている本だが、「目次」は以下のようになっている。
第1章 宇宙は六角形で構成されている第2章 六角形にはさまざまなパワーがある第3章 昔から人類は六のパワーを知っていた第4章 六角形パワーの活用法
内容については省略するが、同書に書かれていることで、仏教では「六」で始まる要語が多いこと、たとえば六波羅蜜や六道輪廻などがそうであるが、これは注目する必要があろう。
ユダヤ教のダビデの星は「六芒星」とよばれる。六芒星とは、正三角形を上下を逆にして組み合わせたデザインであり、きわめて単純なものだ。日本の籠目(カゴメ)も「六芒星」だが、それぞれ独立して誕生した意匠であろう。この両者に影響関係があると考えるのは無理がある。
(六芒星 籠目でありダビデの星でもある)
まことに残念なことであるが、岡倉天心の「六角堂」については『六角形の超パワー』にはまったく言及がなかった。だが、天理教の「甘露台」(かんろだい)が六角形の柱であるこという情報を得ることができた。神さまは六角形の柱を降りてきて鎮座されたのである。
(天理教の「甘露台」 天理教のウェブサイトより)
ということであれば、「六角堂」での瞑想になんらかの効果があったことは間違いないといって問題ないだろう。
天心の「六角堂」の中心に設置されている「炉」もまた六角形であることに注目しておきたい。茶室でもあるわけだ。六角堂じたい、一片六尺、広さ三坪である。天心のこだわりを感じる。
(六角堂の内部の「六角形」の「炉」 筆者撮影)
先にも見たように、聖徳太子の参籠堂が「六角堂」であったことに意味があったのだ。六角形が構造的に安定していることは、瞑想の場として意味があるのだろう。もちろん、実験によって実証する必要があるだろうが、誰か実験した人はいるのだろうか?
■あらゆるところに「6」が偏在している
六角形そして「6」という数字のもつ意味。
道教においても仏教においても、ピュタゴラス教団の「数秘学」においても、数字の「6」はきわめて重要な意味をもつ。ウイルスのマクロファージ、遺伝子から宇宙まで、偏在する「6」という数字に注目する必要がある。
そういえば、自分の机上にある杉材のエンピツ立ても六角形であり、エンピツじたいが六角形ではないか! 六角形はじつに身近な存在である。
ちなみに、わたしの誕生日は12月6日。「12」は「6」の倍数であり、12+6=18 は、「6」の3倍。なるほど、これは縁起がいいわけだな(^^)
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