現在のアメリカを理解するための必読書だといっていいだろう。じつに読みやすい良書である。ベストセラーになっているのも大いにうなづける。
現在では、アメリカのキリスト教の多数派になっている「福音派」(エヴァンジェリカル:Evangelicals)の伸張を軸にして、1920年代から2020年代の現在にいたるまでのアメリカ現代社会を、とくに宗教と政治とのかかわりに重点をおいて通観したものである。
現在のアメリカは「分断」しているとさかんにいわれるようになっているが、その「分断」の原因のひとつが福音派の伸張にあるのは、宗教が政治に大きく食い込む状況になっているからだ。福音派を支えているのは、人口比に対して相対的に小さくなりつつあり、追い込まれ感と被害者意識が強い白人層である。
「福音派」が全面にでてきたのは、1976年のジミー・カーターが大統領になった頃である。南部のジョージア州出身で南部バブティスト信者で信仰心の厚いカーター大統領は、「ボーン・アゲイン」(生まれ変わり:born again)を公言し、頻繁に聖書のフレーズを引用することで有名だった。
個人的な話であるが、わたしの自分史においては、英語を勉強し始めて2年目の中学2年生のときだ。いまから50年前、ちょうど「アメリカ建国200年」の年であった。
ということは、わたしは非キリスト教徒であるものの、「福音派」の伸張を対岸から見てきたことになる。1976年の「建国200年」の50年後である2026年は「建国250年」となる。ある意味では不思議な巡り合わせかもしれない。
カーター以降は、「反共」を全面に打ち出していたレーガン時代を経て、ブッシュ(シニア)時代を経て、またしても「ボーン・アゲイン」を公言し、回心したブッシュ(ジュニア)時代を経て現在のトランプ時代にいたるわけだ。
自分にとっては、本書によって自分なりの観察と考察が、思想史と宗教学を専門とする著者の記述によって、体系的に整理される機会を得たことになった。もちろん、若い世代の読者にとっては、本書の内容は新鮮な印象を受けるかもしれない。
本書に登場するキー概念はいくつかあるが、「福音派」は本書全体で説明されるからよいとして、簡単に触れられている「ディスペンセーション」(dispensation)については、コラムで詳しく解説したほうが良かったのではないかと思う。
日本人の多数派の非キリスト教徒にとっては、きわめて違和感の強い概念であるが、「福音派」の人たちがイスラエルを熱烈に支持しているのか、その理由を知るためには、かならず理解しておくことが必要である。
「福音派」が伸張してアメリカ社会全体に大きく影響するようになった現在だが、一方では「ノンズ」(Nons)という脱教会の流れも定着しているという。後者はすでに全人口の3割になっている。 まさに「分断」は、この面でも拡大中なのである。
著者のことばを借りれば、「宗教と政治の境界線が曖昧に」なっているのが第2次トランプ政権をめぐる状況である。
「福音派」と「MAGA派」の関係がどうなっているのか、本書の記述からはわからない(・・おそらく重なりあっているのだろうが、イスラエルの位置づけには違いもある)、この動きはこのまま続いていくのかどうか。
現時点では確定的なことはいえないが、「福音派」が現在アメリカの「分断」の原因のひとつとなっていることを理解しておく必要がある。だからこそ、本書はアメリカ理解のための必読書なのである。
(画像をクリック!)
目 次序章 起源としての原理主義第1章 「福音派の年」という転換点 ― 1950年代から70年代第2章 目覚めた人々とレーガンの保守革命 ― 1980年代第3章 キリスト教連合と郊外への影響 ― 1990年代第4章 福音派の指導者としてのブッシュ ― 2000年代第5章 オバマ・ケア vs. ティーパーティー ― 2010年代前半第6章 トランプとキリスト教ナショナリズム ― 2010年代後半から終章 アメリカ社会と福音派のゆくえあとがき主要参考文献/略年表/主要人名索引
著者プロフィール加藤喜之(かとう・よしゆき)立教大学文学部教授。1979年愛知県生まれ。2013年、プリンストン神学大学院博士課程修了(Ph.D取得)。東京基督教大学准教授、ケンブリッジ大学クレア・ホールやロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでの客員フェローなどを経て、現職。専門は思想史、宗教学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<ブログ内関連記事>
レビュー 『これを見ればドラッカーが60分で分かるDVD』(アップリンク、2010) ー ドラッカー自身の肉声による思想と全体像・・晩年は非営利組織としての「メガチャーチ」を重視していたドラッカー
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!)
end













