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『不思議の国のアリス』(Alice's Adventures in Wonderland、1865年)には、ジャケットを着て、懐中時計を見るウサギが登場する。
これは白ウサギ(White Rabbit)というキャラクターだ(・・左のイラスト)。
『アリス』にはもう一匹ウサギが出てくる。三月ウサギ(March Hare)である(・・右下のイラスト)。
このウサギは「三月ウサギのように狂った」という表現で登場する。原文では as mad as a March hare、ラビット(rabbit)ではなくヘア(hare)。
ヘアとは野ウサギのことなのだ。三月になって交尾期になると狂気じみて乱暴になるということから上記の英語表現が生まれたらしい。
作者である英国の数学者ルイス・キャロルは、英語の慣用表現から、そのまま擬人化して登場人物を作り出したようだ。
同様に登場する帽子屋(hatter)も as mad as a hatter という表現をもじったもの。むかしの帽子作りは水銀を使用するのでカラダに障害が出る人が少なくなかったという話から。
ウサギはラビットという常識をここで捨てておこう。
英語では、ラビット(rabbit)、ヘア(hare)、のほかバニー(bunny)ともいう。
バニーとは幼児語で日本語でいえばうさちゃん。子犬はパピー(puppy)、子ネコはキティー(kitty)、子ブタはピギー(piggy)。
ワーナーブラザーズの人気キャラクターにバッグス・バニー(Bugs Bunny)がある。人気アニメ「ルーニー・チューンズ」(Looney Tunes)に登場する、ゲッシ類特有の前歯二本が飛び出た憎めないキャラクターである。
バニーといえば、米国のプレイボーイクラブが発祥のバニーガールがあるが、大人子ども向けの夜の世界のお話。ちなみに中文では兔女郎という。
バニーはさておき、英語ではラビット(rabbit)とヘア(hare)を厳密に分けている。日本語人的にはそこらへんの感覚がよくわからないのだが、野生のウサギと家畜化されたウサギは、別個のカテゴリーとして厳密に区分されているのだ。
人間の手が入って改良されたウサギとは別物とする。ウサギの毛皮やウサギ肉はみなラビットのもの。
英語の辞書を見ると、ヘア(hare)という単語はだいたい900年頃までさかのぼれるのに対し、ラビット(rabbit)は14世紀後期から15世紀前期までさかのぼれるという。
ラビットはヘアよりも小型で穴居性がある。
経済摩擦が加熱していた1980年代後半、「日本人の住居はウサギ小屋」といってののしった大臣がフランスにいた。ウサギ小屋(rabbit hutch)とは、野ウサギの巣ではなくて、ラビットの小屋のようだ。
さすがにこんな失礼なことを言われなくなったのは、欧州人の品格が向上したためではなく、日本の勢いがなくなって久しいからだろうか。
なお、米国では飼いウサギ・野ウサギの区別なく rabbit とよぶのが一般的だそうなので、日本語人としては、安心してウサギのことはラビットとしておいても、とくに問題なさそうだ。
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