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2017年5月14日日曜日

書評 『服従』(ミシェル・ウエルベック、河出文庫、2017 単行本初版 2015)-「自発的隷従」をテーマにしたこの近未来小説は面白すぎる!


5年ぶりに出版される新著の執筆生活から「解放」されたので、今年の五月の連休には、仕事に関係のない本を片っ端から読んだ。そのなかでも、『服従』(ミシェル・ウェルベック、河出文庫、2017)が、あまりにも面白いので「一気読み」してしまった。

2015年パリの「シャルリ・エブド事件」の際に、ほぼ同時期に出版されて大きな話題になったフランスの小説だが、つい最近になって文庫化された。2017年5月のフランス大統領選をビジネスチャンスと捉えたからだろう。だが、この小説のテーマはテロ事件ではない。「西欧社会のイスラーム化」がテーマである。

この小説は、2022年のフランス大統領選を舞台にした「近未来小説」フランスにイスラーム政党代表の大統領が連立によって誕生するという設定だが、細部にわたってじつによく構築された構成であり、しかもディテールまで、あまりにもリアルに描かれているので、話の展開にまったく無理がない

(『服従』(Soumission)のフランス語パーパーバック版カバー)

主人公はパリ在住の大学教授で、フランス文学の研究者。専門は、19世紀フランスの自然主義作家 J.K.ユイスマンス。この設定がまた、この小説の醍醐味でもある。

澁澤龍彦訳の『さかしま』をはじめ、そのほか『彼方』『出発』といった作品がユイスマンスの代表作だ。ユイスマンス作品の多くは日本語に翻訳されており、じつはわたしも大好きでむかしよく読んだ作家なのだが、日本での知名度としてはあまり高くないかもしれない。澁澤龍彦のファンなら当然しっているだろう。耽美派の描く世界に限りなく近いのだが、耽美派ではない。エミール・ゾラとおなじく自然主義の作風である。

オカルティズムや神秘世界を自然主義の手法で描いた作品は、独特の世界を構築している。トラピスト修道会での「リトリート」(=瞑想目的の短期間の滞在)体験を描いた『出発』は、大著であるがすばらしい作品だ。映画化できないものかと、映画監督でもないのに、かつて夢想していたこともある。


フランスでは、「フランス革命」において「反カトリック」を極限まで進めたこともあり、フランス革命後にはカトリック教会の衰退が始まっているが、それでも精神的な飢餓感を感じる人には、19世紀でも修道院での瞑想体験の扉は開かれていた。ユイスマンスもそのひとりであった。もちろん、現在でも修道院での瞑想のためのリトリートは可能だ。

ユイスマンスの作品世界を知っていたら、この小説はより深く楽しむことができる。19世紀のフランスと、21世紀のフランスの違いを否が応でも知ることになるからだ。現在では、ユイスマンスが滞在した修道院の近くにはフランス国鉄が誇る高速鉄道TGVが走り、修道院から静寂さは失われている。ユイスマンスの描いた世界は、すでに過去のものとなっている。そんな現代の風景が、残酷なまでに描き出されている。主人公もまた、そんな状況に失望を覚えることになる。

ユイスマンス当時のフランスとは異なり、21世紀現在のフランスは、すでにカトリックはほぼ衰退し、歴史人類学者のエマニュエル・トッドが『シャルリとは誰か?-人種差別と没落する西欧-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2016)で指摘しているように、「ゾンビ・カトリシズム」(!)の世界なのである。宗教的に比較的熱心なのは、旧植民地からの移民がその大半を占めるイスラーム教徒や、ユダヤ系フランス人くらいなものなのだ。ちなみに、主人公の恋人はユダヤ系フランス人に設定されているが、この設定もなかなか意味のあるものだ。


イスラームとユダヤ教という、この二つの宗教がそれぞれ結びつけている人間関係が、この小説を読んでいるとひじょうに健全で、健康的にさえ見えてくる。「家族」という価値観が21世紀の現在でも強固に生きているからだ。それは、フランスの行き過ぎた「個人主義」とは対極にある価値観である。フランス的個人主義においては、たとえ家族といえども成人後は「個人」意外の何者でもない。「個」は「孤」そのものですらある。

主人公は完全に脱宗教化され、世俗化されたフランス人であり、その意味ではカトリックに対しても、イスラームに対しても、宗教的な関心が深いわけではない。そんな主人公がイスラーム化された近未来のフランスで、イスラームの世界に限りなく接近し、取り込まれてゆくのは、もっぱら大学の教授職をめぐる世俗的な利害関係に過ぎないのだが、それだけではないのかもしれない。
   
(映画『O嬢の物語』のDVD版)

男性読者であるわたしは、主人公とおなじ立場にあったなら、間違いなくおなじ行動をとるだろうと思う。小説のなかでは、映画化もされているポーリーヌ・レアージュの『O嬢の物語』(澁澤龍彦訳、河出文庫、1992)を引用する形で、「服従」(・・本書のタイトルでもある)のメカニズムについて説明されている。

「人間は習慣の奴隷」というフレーズもあるように、当初は違和感を感じる環境であっても、慣れてくるに従って人間は無意識の習慣として繰り返していき、疑問を感じなくなっていくのである。主人公は、けっして強制されてイスラームに接近していくのではない。「他律的」とはいえ、なかば「自発的」に受容していくのである。

これは、「自発的隷従」と言い換えてもいいだろう。17世紀フランス思想家ド・ラ・ポエシによる『自発的隷従論』(ちくま学芸文庫、2013)は、日本でも数年前にはじめて翻訳がでた著作だが、この小説のテーマである「服従」は、まさに「自発的隷従」とよぶのがふさわしい。


正直いって、この小説は評価は大きく分かれるだろう。イスラームの描き方についても、資産のあるオトコにとって有利なメリットばかりが強調されるからだ(・・あえてここには書かないが、何を意味しているかは想像していただくしかない)。

フランスやヨーロッパに関心があるならもちろん、そうでなくても読む価値ある本だ。「イスラーム政権誕生」のシミュレーションとして、アタマの体操になるはずだ。

知的エンターテインメント小説として、ぜひ読むことを薦めたい。





著者プロフィール

ミシェル・ウエルベック(Michelle Houellebecq)
1958年フランス生まれ。1998年長篇『素粒子』がベストセラーとなり、世界各国で翻訳、映画化される。現代社会における自由の幻想への痛烈な批判と、欲望と現実の間で引き裂かれる人間の矛盾を真正面から描きつづける現代ヨーロッパを代表する作家。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

翻訳者プロフィール
大塚桃(おおつか・もも)
現代フランス文学の翻訳家。訳書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)









PS この投稿で累計1,800本目の投稿となる(2017年5月20日 記す)


<関連サイト>

マクロン新大統領の茨の道-ルペン落選は欧州ポピュリズムの「終わりの始まり」か?(Newsweek日本版、2017年5月08日)

フランス大統領選挙-ルペンとマクロンの対決の構図を読み解く(Newsweek日本版、2017年4月29日)


Histoire d'O • trailer (by eic)
・・フランス映画『O嬢の物語』(1975年)トレーラー)







<ブログ内関連記事>

「13日の金曜日」にパリで発生した大虐殺(2015年11月13日)-「テロとの戦い」に重点を置いたフランス共和国の基本を知る
・・「シャルリ・エブド事件」のあとフランスでは無差別テロ事件が発生

「習慣の奴隷」(きょうのコトバ)-たとえ「よい習慣」であっても「目的」の再確認を!

書評 『アラブ革命はなぜ起きたか-デモグラフィーとデモクラシー-』(エマニュエル・トッド、石崎晴己訳、藤原書店、2011)-宗教でも文化でもなく「デモグラフィー(人口動態)で考えよ!

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る

『パリのモスク-ユダヤ人を助けたイスラム教徒-』(文と絵=ルエル+デセイ、池田真理訳、彩流社、2010)で、「ひとりの人間のいのちを救うならば、それは全人類を救ったのと同じ」という教えをかみしめよう

『移住・移民の世界地図』(ラッセル・キング、竹沢尚一郎・稲葉奈々子・高畑幸共訳、丸善出版、2011)で、グローバルな「人口移動」を空間的に把握する


フランスの女優イサベル・アジャーニが歌う「ボウイのように美しい」(Beau oui comme Bowie)-追悼デビッド・ボウイ(1947~2016)

「幻想耽美-現在進行形のジャパニーズエロチシズム-」(Bunkamura ギャラリー)に行ってきた(2015年6月18日)-現代日本の耽美派アーティストたちの作品を楽しむ

(2017年5月19日 情報追加)




(2017年5月18日発売の拙著です)



(2012年7月3日発売の拙著です)







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