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2010年6月24日木曜日

シビリアン・コントロールということ-オバマ大統領が政権批判したアフガン駐留の現地司令官を解任


           
 オバマ大統領が6月23日に、公然と政権批判を行ったマクリスタル米陸軍大将をアフガン駐留司令官から解任した。これはいわゆるシビリアン・コントロール原則からいって、正しい行為であるといってよい。

 ではシビリアン・コントロールとは何か?

 シビリアン・コントロール(Civilian Control)とは、日本語では「文民統制」と訳しているが、文民(シビリアン)の政治家が、軍隊を統制するという基本方針であり、原則的に政治が軍事に優先することを意味している。

 米国ではこれは建国以来の基本原則であり、かつて朝鮮戦争において原爆使用を主張したマッカーサー元帥を解任したトルーマン大統領が歴史的に有名である。彼は The Buck Stops Here. という表現を座右の銘としていた。日本語でいえば、「最終責任はここにある」という意味だが、つい先日オバマ大統領自身も The Buck Stops with me. という発言を、メキシコ湾の海底原油流出問題で発言していた。

 今回のオバマ大統領によるマクリスタル将軍のアフガン駐留司令官解任については、さまざまなコメントもなされているが、基本的にはメディアを使用しての大統領批判は座視できなかったということだろう。このケースにおいては、任命権をもつ大統領がシビリアン・コントロール原則に基づいて人事権を行使したわけであり、けっして間違った行為ではない。しかし、任命権者としての信頼性がゆらぐことも否定はできないだろう。


 日本の内地にいるとシビリアンというコトバの語感は必ずしも明確なものではないが、沖縄ではシビリアンというコトバが日常に使用されているので驚いた経験がある。

 いまから20数年前の経験であるが、東京で「沖縄の二世経営者セミナー」のスタッフとして手伝ったことがあり、セミナーだけでなく視察旅行まで同行した経験があるのだが、その際に沖縄の経営者の方から「われわれシビリアンは・・・」という表現がでてきたのには少々驚いたものであった。ミリタリー(軍人)に対してのシビリアン(民間人)という意味である。

 ちょうど、豊田商事事件が発生したときで、テレビで殺人のナマ中継をしていたのであった。


 日本も戦前は基本的にシビリアン・コントロールであったはずだが、例の「統帥権干犯問題」が発生し、現役の陸海軍の軍人が大臣になるという形で原則が崩れてズルズルとなり、最終的には政治が軍事をコントロールできなくなってしまうという苦い経験を体験している。

 明治の元勲の時代は、軍人出身者が政治家としても大きな力量をもち、大局的な見地から国家利益の追求を行ったのであったが・・・


 また、先年には防衛庁(当時)の某次官がシビリアンコントロールの名のもとに専横をふるっていたことも記憶に新しいが、シビリアンコントロールの意味をはき違えた、とんでもない官僚であった。

 シビリアンコントロールとは、先にも書いたように、あくまでも政治が軍事に優先するという原則のことであって、官僚機構内部で文民官僚(文官)が軍事官僚(武官:いわゆる制服組)に優先するという意味ではない


 米国によるアフガン出兵の是非はさておき、シビリアンコントロールの意味はいまいちど正確に理解しておきたいものである。

 これとともに、現場の状況を熟知した現地部隊のコントロールも、実に難しいものがあることを語っている。机上の作戦計画と、現場の指揮官の行動には、どうしても齟齬(そご)が生じがちである。

 ついでだが、資格としての陸軍大将と、役職としてのアフガン駐留現地司令官は別に捉えなければならない。今回の解任とは、役職の解任であって、陸軍大将としての資格には変更はない。とはいえ、おそらく今回の件によって退役となることだろう。

 最終責任者であるトップの役割とは何か、考えるためのケーススタディとしたいものである。



P.S. (追記 2010年7月2日、7月14日)

 マクリスタル大将更迭の真相については、下記の記事を参照。

 極めて異例 クビになった「暴走司令官」マクリスタル駐アフガン米司令官解任の真相(菅原 出) http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100628/215169/?P=1
 不用意な発言をメディアに掲載されてしまった、フリージャーナリストに対する「脇の甘さ」が裏目にでたようだが、政権批判発言が許容されるはずのないことはいうまでもない。

 田中宇の「アフガン撤退に向かうNATO」に、マクリスタル将軍のプロファイリングがなされているので参照。政治的交渉を嫌うカウボーイ型軍人像が浮かび上がっている。http://tanakanews.com/100712afghan.htm (2010年7月14日 付記)






<関連サイト>

Stanley McChrystal: The military case for sharing knowledge TED2014 · 6:44 · Filmed Mar 2014
・・マクリスタル退役陸軍大将によるTEDトーク。軍事情報にかんする「文化」を、秘密主義から情報共有へと変化させたのはアフガニスタンでの非正規戦の経験からであった。だが、それがスノーデンによる秘密漏洩事件を招くことになるのだが・・・。軍人らしいストイックで率直な物言いが好感をもてるトーク。
When General Stanley McChrystal started fighting al Qaeda in 2003, information and secrets were the lifeblood of his operations. But as the unconventional battle waged on, he began to think that the culture of keeping important information classified was misguided and actually counterproductive. In a short but powerful talk McChrystal makes the case for actively sharing knowledge.


<ブログ内関連記事>

書評 『グローバル・ジハード』(松本光弘、講談社、2008)-対テロリズム実務参考書であり、「ネットワーク組織論」としても読み応えあり
・・ネットワーク組織としてのアルカーイダ

映画 『ローン・サバイバー』(2013年、アメリカ)を初日にみてきた(2014年3月21日)-戦争映画の歴史に、またあらたな名作が加わった
・・アフガニスタンにおける非正規戦

「沖縄復帰」から40年-『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』(佐野眞一、集英社、2008)を読むべし!






(2012年7月3日発売の拙著です)






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