映画『LORO 欲望のイタリア』(2018年、イタリア)という映画を amazon prime video で視聴。Loro とはイタリア語で「かれら」を意味する。ベルルスコーニとその取り巻きたちのことを指しているのだろう。
冷戦構造崩壊後の1995年から2000年代にかけて、断続的だがイタリアで4期合計6年間にわたって首相をつとめたシルヴィオ・ベルルスコーニを描いた作品だ。第1部と第2部の2部構成で156分。
amazon prime video 掲載の概要は以下のとおりである。
政治とカネ、女性問題や失言など数々のスキャンダルで世間を騒がせたイタリアの元首相シルヴィオ・ベルルスコーニ。政敵に敗れて失脚するも、一度はトップに登りつめた怪物的な手腕で、 政権への返り咲きを虎視眈々と狙っていた。セクシー美女を招き、贅の限りを尽くしたパーティーで生気を養い、持ち前のセールストークを武器に足場を固めていくのだが、政治家生命を揺るがす大スキャンダルが勃発するのだった…。
映画では、9ヶ月と短命に終わった政権が崩壊したあと、野党経験を経て2回にわたって連立政権を率いているが、ふたたび2006年に野に下っていたベルルスコーニが2008年に復活するまでを描いている。政権復活後にはラクイアで大地震が発生している。イタリアは地震国なのだ。
ベルルスコーニは実業家から政治家に転じた人物で、その出発点が不動産開発ビジネスだった点はトランプと共通している。その後はメディア王となった新興成金だが、蓄財の過程では脱税やマフィアとの関係などがり、何本も裁判を抱えていた人物でもある。
日本では、人を食ったようなおふざけ発言や、カネやセックス関連のスキャンダルばかりが取り上げられ、なぜイタリアではこんなトリックスターのような人物が首相なのかという見方をされてきた。 だが、イタリアでは熱烈な支持者とアンチが賛否相半ばする人物だったようだ。その点でも、トランプ大統領に先行する人物だったといえるかもしれない。
プロサッカーチームのACミランのオーナーであり、もともと学生時代にはプロの歌手として活動していたこともあり、実業家と政治家以外にも多彩な顔を持ち合わせていた怪物的人物であった。
すでに目を通していた『ベルルスコーニの時代 ー 崩れゆくイタリア政治』(村上信一郎、岩波新書、2018)の他に、ベルルスコーニ関連で何かないかと amazon で検索していたら、『LORO 欲望のイタリア』という映画があることをはじめて知った。昨夜のことだ。
ちょっと見てみるか、といった軽い気持ちで視聴し始めたら、これがなかなか面白い映画だった。カリカチュアライズされているコメディタッチの作品だが、イタリア人は「ベルルスコーニとその時代」はこういう描き方をするのだな、と。
日本のバブル期のような欲望全開、美女と美食あふれる世界。古代ローマの「サチュリコン」というべきか?
ただし、日本や米国とは違ってゴルフをプレイするシーンはない。もっぱらプレジャーボートやウォーターバイクなどのマリンスポーツが中心なのは、地中海ならではといえようか。ベルルスコーニの別荘のひとつがあったサルデーニャ島とその海の映像が美しい。
ベルルスコーニの世界は、新興成金の大金持ちのセレブ限定ではあるが、一般人はかならずしも、こんな世界は嫌いではない。ある意味、イタリア人男性の夢を実現した存在と見なされていたのであろう。日本ならスポーツ紙、英国ならタブロイド紙の世界である。
「ほんと、どうしようもね~なベルルスコーニは」感が全面にあふれていながら、かならずしもネガティブな描き方はされていない。とはいえ、植毛手術に入れ歯など、寄る年波を乗り越えるべくアンチエイジングにいそしむ姿には、なんだか哀愁ただよう空気がなくもない。
とにかく面白かった。日本流にいえば清濁併せのむ政治家。自己顕示欲とエゴの塊。それでいて憎めないキャラクター。まさに怪物というべきであろう。日本でいえば、おなじく実業家出身の田中角栄のような存在だったといえようか。
視聴を終えてネット検索してみたら、日本でも2019年に公開されていたらしい。まったく知らなかった。知ってたら見に行ってたのに・・
ベルルスコーニは、一昨年の2023年に亡くなっているが、イタリアでは国葬されている。 日本と同様、ころころと首相が代わるイタリアでは、例外的に連立政権で長期政権を担ったからだろうか。いい意味でも悪い意味でも、ベルルスコーニがイタリアの顔となっていたことは確かなことだ。
ベルルスコーニの「第1次政権」は、1994年5月11日から1995年1月17日までの9ヶ月であったが、6年後に復帰した「第2次政権」は「第3次政権」までつづいて、2001年6月11日から2006年5月17日まで。
映画で描かれたのは「第4次政権」での二度目の復活であるが、それは2008年5月8日から2011年11月12日までのことであった。
その点では、安倍晋三元首相と似ていなくもない。中道(右派)の連立政権で、1期目の失敗経験から学び、返り咲いた2期目で長期政権を確立した点もまたそうだ。
ベルルスコーニは、没年の翌年2024年にはイタリアでは切手になっているのだ! この点は台湾で銅像が建ったものの、日本ではまったくその動きのない安倍晋三氏とは違う。 安倍晋三氏が日本の切手になることは、ちょっと想像しにくい(・・外国ならその可能性はあるが)。
いやはや、イタリアという国は、ほんと不思議な国である。まあ、外国人からみたら日本も同様なのかもしれないが・・・
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