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2015年7月9日木曜日

書評 『こんにちは、ユダヤ人です』(ロジャー・パルバース/四方田犬彦、河出ブックス、2015)-ユダヤ人について知ることは日本人の多様性についての認識を豊かにしてくれる


『こんにちは、ユダヤ人です』という、なんだかえらく軽いノリのタイトルだが、ひじょうに中身の濃い一冊だ。読み応えのある一冊である。

ロジャー・パルバース氏は、ニューヨーク生まれで、オーストラリア国籍を取得した「ユダヤ人」である。対談相手の四方田犬彦氏は、大量の著書をもつ博覧強記の人。世界中を旅して滞在して、現地感覚も豊富に持ち合わせている人。その滞在先の一つがイスラエルである。この二人は知り合ってから34年の友人だという。

日本人向けの英語関連本を大量に執筆しているパルバース氏だが、この対談では最初から最後まで日本語で行っている。日本で暮らし、日本語も堪能な小説家のリービ英雄、プロデューサーのデイブ・スペクター、ロック評論家のピーター・バラカンや数学者で大道芸人のピーター・フランクルなど日本で活躍するユダヤ人は多数いるが、みずからユダヤ人と名乗っていない人も多い。

パルバース氏は、みずからのルーツについて、東欧からアメリカに移住した家族の歴史をナラティブ(=語り)として語っている。だからこそ、この本は面白い。「自分史」として両親の家族の歴史を語ることは、民族全体について語ることにもつながるからだ。

パルバース氏が、単数形の「アイデンティティ」ではなく、複数形の「アイデンティティーズ」にこだわっているのは、ステレオタイプな見方をされたくないためだろう。じっさい、どんな人間も単一のアイデンティティで成立していることなどありはしない。小説家の平野啓一郎氏が、 『私とは何か-「個人」から「分人」へ-』(平野啓一郎、講談社現代新書、2012)で展開している「分人」という概念も、人格は複数の要素によって構成されていることを主張しているのであり、複数形の「アイデンティティーズ」と共通するものがあるといっていいだろう。

この本が面白いのは、パルバース氏の語りだけでなく、対談相手の四方田氏もまた博覧強記の人であることもある。とくに映画や芸能関係の話題は豊富というよりも膨大であり、ユダヤ人を広いパースペクティブとコンテクストのなかに位置づけることに貢献している。この本に登場するユダヤ人の名前をすべて知っている人は、よほどのユダヤ通でもない限り、まずいないだろう。

とはいえ、話題の領域が膨大であるがゆえに、四方田氏の発言には、やや雑な発言が目につくのは仕方がない。初めて目にする固有名詞については、読者がネット検索して確認すればよい。この対談本は教科書ではないので、多様なものの見方の一つくらいに受け取っておくべきだろう。

本書のメッセージで重要なものに、「イスラエル人=ユダヤ人ではない」、というものがある。パルバース氏自身の立ち位置でもある。ユダヤ系米国人のスピルバーグ監督もまた、イスラエル建国に肯定的な『シンドラーのリスト』と、イスラエルのモサドの情報活動に批判的な『ミュンヘン』のあいだで揺れ動いている。

国家成立後のイスラエル人は、その他の地域に生きるディスポーラ(=離散)のユダヤ人とは異なる存在になっている。イスラエル以外のユダヤ人はマイノリティとして存在するので「見えにくい存在」であるのに対して、イスラエルにおいてはユダヤ人はマジョリティである。この違いは大きい。「イスラエル建国は、ユダヤ史の曲がり角」という認識はただしい。

「日本人はイスラエルについては知っているが、ユダヤ人全般についての知識は増えていない」というパルバース氏の問題意識には耳を傾ける必要があるだろう。多様な言説があふれながらも、具体的なユダヤ人との接触がない日本人は、少なくとも知識レベルを増やす必要はある。

対談のなかで、これぞユダヤ的だとパルバース氏が引き合いに出している「センメルヴェイスの手」のエピソードにも注目したい。偉い人のいうことを鵜呑みにするのではなく、身近なことにらの疑問をもち、あらたな発見をする。これは「自分のなかに歴史を読む」(阿部謹也)の発想と同じである。

アメリカ出身にせよ、ロシア出身にせよ、世俗的なユダヤ人は世俗的な日本人によく似ているという印象を受けるのはわたしだけではないと思う。伝統文化を完全に否定するわけではないが、伝統の重圧からは脱出している存在。

ユダヤ性というエスニシティに徹底的にこだわって生きるか、ユダヤ性というエスニシティを出さずに同化する生き方を選ぶか、それは個々人の生き方にかんする戦略の問題だ。これはユダヤ人に限らず、普遍的なものといっていいだろう。

だが、まだまだ日本人にはダイバーシティ(=多様性)が欠けているのではないだろうか? 日本人の認識に欠けているものを補ってくれるのが、ユダヤ人という存在ではないだろうか。「ユダヤ人がいることで世界は豊かになる」のである。

話題のテーマが文化面に片寄りすぎている点にやや不満があるが、ぜひ膨大な固有名詞の海のなかで溺れながら、ユダヤ的思考法のエッセンスをつかみ取ってほしいと思う。





目 次 

1 私はユダヤ人としてどう育ったか
2 イスラエルはユダヤ人を代表できるか
3 ユダヤ人はアメリカにどう受け入れられたか
4 言語でも、信仰でも、国籍でもなく、ユダヤ人
あとがき
 「遠くにある敷居」-四方田犬彦の世界(ロジャー・パルバース)
 30年目の対談(四方田犬彦)


著者プロフィール

ロジャー・パルバース(Roger Pulvers)
1944年ニューヨーク生まれ。ベトナム戦争への批判からアメリカを離れ、1976年、オーストラリア国籍を取得。オーストラリア国立大学、東京工業大学などで教える。小説・エッセイの執筆、宮沢賢治、井上ひさしなどの英訳、劇作・演出など多様に活動。野間文芸翻訳賞を受賞 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

四方田犬彦(よもた・いぬひこ)
1953年大阪生まれ。建国大学(ソウル)、コロンビア大学、ボローニャ大学、明治学院大学、テルアヴィヴ大学などで教える。サントリー学芸賞、伊藤整文学賞、桑原武夫学芸賞、芸術選奨などを受賞。著書は130冊を越える(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<参考> 本書に登場する話題のいくつかについて

●森鷗外の『舞姫』

四方田氏は「仕立屋」とあればわかるだろうと発言している。
舞姫のテキストをチェックしてみると、舞姫エリスの父親の名前はエルンスト・ワイゲルトとある。おそらく Ernst Weigert というつづりだろう。この名字はユダヤ人のものだ。つまりドイツ系ユダヤ人ということになる。
鷗外が翻訳したアンデルセンの『即興詩人』の主人公のアヌンツィアータ(=受胎告知)という名前をもちながら「猶太をとめ」となっていたことを想起する

ジューイッシュ・アクセント(Jewish accent)

ジューイッシュ・アクセントは、日本語でいえば大阪弁のようなものか。イディッシュなまりの英語だと、社会的タブーを無視した批判的トークも受け入れられやすいというアメリカ社会の土壌。タブーなきユダヤ系コメディアンの一人にスタンダップ・コメディアンのサラ・シルバーマン(Sarah Silverman)がいる。アメリカを理解するために、これは知って損はない情報。

●ローレン・バコールがユダヤ系であることは知っていたが、ヘディ・ラマールという女優も、ウィーン出身のユダヤ系であることも知らなかった



<ブログ内関連記事>

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える

書評 『諜報の天才 杉原千畝』(白石仁章、新潮選書、2011)-インテリジェンス・オフィサーとしての杉原千畝は同盟国ドイツからも危険視されていた!

『イスラエル』(臼杵 陽、岩波新書、2009)を中心に、現代イスラエルを解読するための三部作を紹介
・・イスラエルに批判的なスタンスだが、読みではある

書評 『イスラエルとユダヤ人に関するノート』(佐藤優、ミルトス、2015)-プロテスタント神学 × インテリジェンスという独自のポジションから読み解く
・・「聖書の大地であるイスラエルへの特別の思いを語るプロテスタント神学者であるという立ち位置」からくるバイアスは考慮に入れて読む必要がある。イスラエル熱愛派というべきか

書評 『ロシア革命で活躍したユダヤ人たち-帝政転覆の主役を演じた背景を探る-』(中澤孝之、角川学芸出版、2011)-ユダヤ人と社会変革は古くて新しいテーマである
・・ロシア系ユダヤ人について知る

『ユダヤ教の本質』(レオ・ベック、南満州鉄道株式会社調査部特別調査班、大連、1943)-25年前に卒論を書いた際に発見した本から・・・

書評 『ユダヤ人が語った親バカ教育のレシピ』(アンドリュー&ユキコ・サター、インデックス・コミュニケーションズ、2006 改題して 講談社+α文庫 2010)

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)
・・この本の著者も、日本語に堪能な日本在住ユダヤ人

書評 『怪奇映画天国アジア』(四方田犬彦、白水社、2009)-タイのあれこれ 番外編-
・・博覧強記の四方田氏は映画史が専門




(2012年7月3日発売の拙著です)










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