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2016年11月9日水曜日

米国大統領選でドナルド・トランプ氏が劇的な逆転勝利(2016年11月9日)-米国はきょうこの日、ついに「ルビコン」を渡った

(NHKの報道番組より 勝利宣言するトランプ氏)

「ありえないこと」が起こる時代だ。いや、「ありえないこと」が何度もつづけて起こる一年だというべきだろうか。

英国が国民投票で、ありえないはずのEU離脱を選択したのはことし2016年の6月24日のことだった。そして、米国で、ありえないはずのトランプ大統領が誕生することになったのは、本日(2016年11月9日)のことだ。接戦の末の、まさかの逆転勝利であった。

全米の選挙人の獲得数は、ヒラリー・クリントン氏が218であるのに対し、ドナルド・トランプ氏は276と、過半数を超えての勝利である。米国の選挙制度では、国民投票と州ごとの選挙人獲得という二段構えなっているので、単純に総得票数だけで勝敗が決まるわけではない。州ごとに割り当てられた選挙人で勝敗が決まるのだが、州単位での勝利によってその州の選挙人が「総取り」できるという制度になっているのだ。だが、基本的に国民投票だといって差し支えない。

ことし2016年の2月、ある出版社の編集者との雑談で、大統領候補に名乗り出たドナルド・トランプのことが話題になったことがあった。編集者は「専門家はありえないと言っている」と語ったのに対し、私は「専門家は想定外の事象にかんしては、おうおうにして間違えるものだ。可能性がゼロとはいえない。なぜなら、浮き沈みは激しいがトランプ氏の知名度はすくなくとも米国では抜群だからだ」と答えたのであった。

そう答えたわたしでさえ、最終的にトランプ氏は勝てないだろうと踏んでいた最後の最後でアメリカの有権者は、さすがに良識的でバランスのとれた判断を下すだろうと推察していたからだ。

だが、アメリカの有権者は、トランプ氏を選んだこれは「民意」である。たとえポピュリズム(=大衆迎合政治)と誹謗されようが、それが「民意」であることに違いはない。それほどポリティカル・コレクトネスや、ヒラリー・クリントン氏が体現していた、平気でウソをつくワシントンの政治エリートやエスタブリッシュメントに、多くの有権者はウンザリしていたのだろう。

現時点では、投票行動そのものの詳細はわからないが、民主党のオバマ政権の8年にアメリカの有権者が NO をつきつけたことは間違いない。共和党と民主党という二大政党以外の「第3党」に投票した有権者も少なくなかったようだ。アメリカの有権者は、国際関係よりも国内問題としてトランプ氏を選択したのであろうが、それにしても日本国民としては複雑な気持ちをもつのも不思議ではない。

今回の米国大統領選のトランプ氏の「ありえない」劇的な逆転勝利、アメリカの有権者の過半数以上はトランプ氏に「賽を投げ」、トランプ氏とともに「ルビコンを渡って」しまったのだ。

 「賽(さい)は投げられた」というのは、古代の共和制ローマの軍人政治家カエサルの名言である。 「ルビコンを渡った」というフレーズも、同じくカエサルのものだ。意を決して、あらたなステージに踏み込んだときの決意を語ったものだ。

本日この日をもって、アメリカも世界も「ポイント・オブ・ノーリターン」を超えてしまったのだ。はたして、今後アメリカはどうなるのか、世界情勢はどうなるのか、いやアメリカの影響をもろにかぶる日本はどうなるのか・・・・?

 「ありえない」とはいえ、起きてしまったことは起きてしまったのだ。事実は事実であり、選挙結果がひっくり返ることこそ「ありえない」以上、選挙結果に過度の落胆や過剰な期待も抱かず、「事実」を「事実」として受け取ることが必要だ。

16年前に共和党のジョージ・ブッシュ氏が、最有力候補の民主党のアル・ゴア氏に競り勝った際のように、選挙不正が介在する余地のないほどの勝利である。トランプ氏が勝利宣言をする前に、ヒラリー・クリントン氏から敗北を認める電話が入ったことを披露していた。

「事実」を冷静に受け止めること、これがまず第一にしなくてはならない課題ではないか? 正直いって「まさか」の結果であったことは否定しないが、確率的にはゼロではなかったのであるから。

衰えつつあるとはいえ、いまだ超大国のアメリカである。その影響範囲は想像以上に広く大きい。もちろん、同盟関係にある日本は言うまでもない。ダイレクトに影響を被ることになる。しかしながら、日本国民にはアメリカ大統領選の投票権はない。だから、コントロール不能要因で撹乱されることになるのが、日本国民に不安感を引き起こすのだ。

とはいえ、2017年1月の就任までまだ2ヶ月の猶予時間があるし、就任してから3か月は一般にハネムーン期間であり、さすがにめちゃくちゃなことはしないだろうという期待もないわけではない。

過去の大統領も、例えばビル・クリントン大統領も就任後はリベラル色の強すぎる政策を打ち出して物議を醸したが、大統領職に慣れる従って「学習」していった。トランプ氏も、もともとアタマのいい人間であるから、「学習」能力も十分にある。最初は、ある種の試行錯誤は避けられないだろうが、ある程度まで進めば常識的な線に落ち着いてゆく可能性もなきにしもあらず。

もちろん、トランプ氏に投票した有権者は、そう簡単にワシントンの色に染まってもらいたくはないだろう。でなければ、オバマ大統領とは違う意味の「チェンジ」を求めてトランプ氏に投票した意味がない。トランプ氏が公約を実行するか「監視」が行われることになる。政治は妥協であるから、すべての公約が実行されることはない。しかも、自分の関心のない事項にかんしては、丸投げしてしまうのではないか?

いずれにせよ、アメリカ国民によって「賽は投げられた」のである。アメリカは「ルビコンを渡った」のである。「ポイント・オブ・ノーリターン」を超えたのである。2016年に明確になったあらたな潮流は、今回の大統領選の結果で確かな流れとして確認されることとなった。それはアメリカだけでなく、英国も含めた世界的な潮流である。潮目が変わったのである。

日本国民であるわれわれも、この「事実」を出発点に、「現実的」に行動をしていくことが求められるのである。

まずは落ち着いて、冷静に分析することから始めなくてはならない。トランプ氏は、日本でもすでに有名人なのであるから、次期大統領の虚像と実像を見極めることが課題となろう。わたしも含めて、ほとんどの人はトランプ氏の実像については知らないのである。イメージだけで議論をすることは、もうやめにするべきだ。







<関連サイト>

米大統領選 トランプ氏が勝利 「驚くべき番狂わせ」 (NHK, 2016年11月9日 17時34分)

なぜ「女性蔑視発言」をしてもトランプは支持されるのか (横江公美、プレジデント ウーマン、2016年5月号)

金、酒、女……ビジネスマン・トランプの素顔 (投資銀行家 山口正洋、プレジデント、)
・・トランプ氏はまったく飲まない。三度目の結婚であり二回の離婚経験があるが不倫の形跡はない。緻密なビジネスマン。

「トランプ氏はスシを食べず酒も飲まない」次期大統領の素顔知るヒロ・ニシダ氏の証言 (日経ビジネスオンライン、2016年11月16日)
「・・トランプ氏は、なにしろ仕事好きで、努力家で、すごく真面目で、いつも没頭していました。とにかく、マーケティング能力が非常に高い。どうやって、周囲の人とコミュニケーションを深め、引きつけるか。その能力にたけていると思います。ビジネスの交渉を通して感じたことは、トランプ氏は、過去のしきたりなど一切気にしないということです。アンフェアなことには、はっきりとノーと言う。逆に言えば、フェアで、お互いにウィン-ウィンの関係を築けるのなら、ドラスティックな変化を厭わない。」

貴族だったトランプがアジテーターに転向した理由 (町山智浩、ウェッジ、2016年11月10日)

今さらだけど、なぜトランプが勝利したか、しっかり検証していく(冷泉彰彦、Mag2News、2016年11月11日)。

Exit America’s Old Elite Insiders will be swept away unless they submit or change their games. (BloombergBusinessWeek, November 10, 2016)
・・Not since Andrew Jackson in 1828 has there been a president-elect who harnessed the public’s anger toward the Establishment the way Donald Trump has.(=エリートに対する大衆の怒りを結集したドナルド・トランプ大統領当選者は、1828年のアンドリュー・ジャクソン以来いない)。いわゆる「ジャクソニアン・デモクラシー」を振り返る必要があろう

日本人が知らない「トランプ支持者」の正体 米国人が「実業家大統領」に希望を託した理由 (脇坂 あゆみ :翻訳家、東洋経済オンライン、2016年11月11日)
・・「トランプがこだわるのは性別や人種、宗教ではなく、個人の能力と勝負への執念であり、『アプレンティス』ではむしろ性別、学歴といった一般常識にもあえて切り込み、最高の人材を発掘するという設定だった。」 起業家のピーター・ティールがトランプに巨額献金した理由もそこになるのか?

トランプが成し遂げた米国版ブレグジット 国民心理も選挙の展開も瓜二つ、相違点は波紋の大きさ (Financial Times、2016年11月15日)
・・意外なことに(?)英米は歩調を合わせて、あらたな潮流の先頭に立つことになった

「トランプ氏は真実を語っていた」 フランスの人類学者の分析とは(ハフィントンポスト、2016年11月17日)
・・「歴史家として見るなら、起きたのは当然のことです。ここ15年間、米国人の生活水準が下がり、白人の45歳から54歳の層の死亡率が上がりました。で、白人は有権者の4分の3です。 自由貿易と移民が、世界中の働き手を競争に放り込み、不平等と停滞をもたらした、と人々は理解し、その二つを問題にする候補を選んだ。有権者は理にかなったふるまいをしたのです。 奇妙なのはみんなが驚いていること。本当の疑問は「上流階級やメディア、大学人には、なぜ現実が見えていなかったのか」です。(エマニュエル・トッド)

「トランプ王国」を行く(朝日新聞)
・・ニューヨーク駐在記者による全米取材記録

A Message from President-Elect Donald J. Trump (YouTube、2016年11月21日)
・・大統領就任後の「100日プラン」についてトランプ次期大統領本人がベデオメッセージで表明。70歳だが新時代のツールをよく追加こなしている

(2016年11月11日・15日・17日・28日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

不動産王ドナルド・トランプがついに共和党の大統領候補に指名(2016年7月21日)-75分間の「指名受諾演説」をリアルタイムで視聴して思ったこと

veni vidi vici -ユーリウス・カエサル(Julius Caesar)

起業家が政治家になる、ということ

書評 『国力とは何か-経済ナショナリズムの理論と政策-』(中野剛史、講談社現代新書、2011)-理路整然と「経済ナショナリズム」と「国家資本主義」の違いを説いた経済思想書


1989年のベルリンの壁崩壊も11月9日

ベルリンの壁崩壊から20年-ドイツにとってこの20年は何であったのか?(2009年11月9日)


マインドセットのあり方

「希望的観測」-「希望」 より 「勇気」 が重要な理由
・・「希望的観測」(wishful thinking)とは、「そうあってほしい」とか「そうだったらいいな」という「希望」に基づいて判断を行うこと。ヒラリー・クリントン勝利の観測が強かったのは「願望」の投影。まさに「希望的観測」の最たるものであったことを戒めとしなくてはならない

「是々非々」(ぜぜひひ)という態度は是(ぜ)か非(ひ)か?-「それとこれとは別問題だ」という冷静な態度をもつ「勇気」が必要だ
・・「「是々非々というのは正しい大人の態度ではない。選挙であれば政策単位で投票するのではなく、一人の候補者に投票するのだから「是々非々」なんてありえないのだ」、と主張する人もいる。「一人の候補者に投票する」というのはただしい。だが、「政策単位で投票」行動を考えるべきである。属人的な意思決定ではなく、あくまでも「期待される成果」を選択基準とするべきではないか?」


■アメリカの政治と社会

書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち
・・米国の政治思想地図が参考になる

書評 『反知性主義-アメリカが生んだ「熱病」の正体-』(森本あんり、新潮選書、2015)-アメリカを健全たらしめている精神の根幹に「反知性主義」がある
・・米国の「反知性主義」は「知性」そのものへのアンチではなく、「知性」が「権力」と結びつくことへの異議申し立てであることに注意!

米国は「熱気」の支配する国か?-「熱気」にかんして一読者の質問をきっかえに考えてみる
・・「オバマケア」をめぐる論争について2009年に考えたこと

映画 『アメリカン・スナイパー』(アメリカ、2014年)を見てきた-「遠い国」で行われた「つい最近の過去」の戦争にアメリカの「いま」を見る

アンクル・サムはニューヨーク州トロイの人であった-トロイよいとこ一度はおいで!・・「アンクル・サム伝説が生まれたのは、1812年の米英戦争(・・第二独立戦争ともいう)がキッカケ」

映画 『正義のゆくえ-I.C.E.特別捜査官-』(アメリカ、2009年)を見てきた
・・不法移民関連の内容

書評 『沈まぬアメリカ-拡散するソフト・パワーとその真価-』(渡辺靖、新潮社、2015)-アメリカの「ソフトパワー」は世界に拡散して浸透、そしてアメリカに逆流する
・・トランプの主張は、アメリカ全体を「ゲーテッド・シティ」に変えるという発想か?


日米関係

日米関係がいまでは考えられないほど熱い愛憎関係にあった頃・・・(続編)-『マンガ 日本経済入門』の英語版 JAPAN INC.が米国でも出版されていた
・・レーガン大統領時代の日米関係

「フォーリン・アフェアーズ・アンソロジー vol.32 フォーリン・アフェアーズで日本を考える-制度改革か、それとも日本システムからの退出か 1986-2010」(2010年9月)を読んで、この25年間の日米関係について考えてみる

『愛と暴力の戦後とその後』 (赤坂真理、講談社現代新書、2014)を読んで、歴史の「断絶」と「連続」について考えてみる

(2016年11月19日・23日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)







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