法務資料展示室 メッセージギャラリー(法務省)は、「法化社会」の実現が日本近代化の要(かなめ)であったことを実物資料をつうじて教えてくれるミュージアムだ。
まったく偶然なのだが、霞ヶ関の官庁街を新橋方面に抜けようと思って歩いていたら、まったく道を間違えて桜田門に至ってしまった。残暑のきつい先週の午後のことである。
桜田門といえば警視庁である。道路をはさんだはす向かいに立つ煉瓦造りの立派な建物が法務省である。司法の府と立法の府が桜田門につづく桜田通りをはさんで向かい合っているというわけだ。
じつは、煉瓦造りの立派な建物が法務省(旧本館)であることは知らなかった。まったく無知蒙昧なことであるが、東京で煉瓦造りの建築物というと東京駅舎くらいしか知らなかったのである。偶然の結果とはいえ、すこしは賢くなったものである。
そして、たまたま目に入ったのが、「法務資料展示室 メッセージギャラリー(法務省)」のプレート。なんと「入場無料」とある。次のアポイントメントまですこし時間があったので、せっかくの機会なので、ものは試しに入場してみることにした。
法務省の入り口は警戒は厳重だ。民間の警備会社が請け負っている。
「法務資料展示室」に行きたい旨を警備員に伝えると、まずは担当者に連絡、迎えの警備員がやってきて交替、建物の内部まで同行で引率されることに。建物のなかに入ったら、別の警備員に交替。三人目の警備員に引率されて二階にあがる。内部では執務中なので、気をつけるようにという指示を受けて「法務資料展示室」に入る。なかなか手続きが厳重である。
わたしが行ったときは、わたし以外は誰もいなかったので、心ゆくまで観覧できた(・・といっても、時間をつぶしたというわけではない)。
見学が終わったあと、受付の女性に聞いてみたら、団体客が一日50人から90人は入場者があるという。個人でくる人はあまりいないようだ。それはそうだろう。そもそも「法務資料展示室」の存在じたい知っている人は少ないのではないだろうか。
内部の撮影は禁止なので、写真でお伝えできないのが残念だが、明治維新後の日本が「近代化」すなわち「近代西欧化」を、法制度の近代化からはじめたことが、具体的な実物資料(・・複製もあるが)を見て実感できる展示内容となっている。
展示物については、「法務史料展示室・メッセージギャラリーへようこそ」(法務省のサイト)を参照していただきたい。
先にも書いたように、明治維新後の日本の課題とは、植民地化がすぐ目の前の中国にまで迫っていたという弱肉強食の国際社会のなかで生き残るため、先進地域である西欧から徹底的に学び尽くすという選択を行ったことにある。尊皇攘夷から攘夷を切り捨てて、尊皇のまま西欧近代化の道を突き進む決定を行ったのであった。
目に見えるインフラの近代化は工学方面で、目に見えない制度の近代化にかんしては法学方面で。まずは、近代化という大改革が開始されたのは、この二つの実用分野であった。東大が工学部と法学部の二学部が中核にあるのはこのためである。
企画展示として、ちょうど初代司法卿であった江藤新平の功績を顕彰したものがよかった。企画展示は、すでに14回目のようだ。
「佐賀の乱」で斬首になった江藤新平(1834~1874)であるが、これは西郷隆盛と同様、郷土の旧士族にかつがれたためであった。おそらく本人にとっても、心ならずもという展開であったことだろう。
江藤新平が、たった一年の在任期間とはいえ、初代司法卿として日本の「法化社会」実現の礎(いしずえ)をきずいた功績は、当時としてはあまりにも時代の先をいっていた発想とともに記憶してしかるべきである。
「法務資料展示室」は、京橋の「警察博物館」とあわせてみると、日本の近代化を立法と司法という側面から考えることができる。ただし、戦後は警察は司法ではなく、アメリカの影響を受けて法執行機関(law enforcement)となっていることには注意しておくことが必要だが。
明治維新のビフォアとアフターでは、日本はまったく異なる社会になったことを知ることは、明治維新後に生きているわれわれはしっかりと認識する必要がある。それに比べたら、敗戦後の変化といえども、しょせん明治維新後の大変化のなかの変化にすぎないことが理解されるのである。
そしてまた、近代化をまさに開始したミャンマーなどの発展途上国について考えるヒントにもなるであろう。日本の法務省は、法務総合研究所国際協力部をつうじてミャンマーやラオス、カンボジアなどの法律近代化に支援を行っている。
地味な展示内容だが、じつに貴重な資料の展示である。知られざる博物館であるが、ぜひ機会をつくって訪問してみてほしいと思う。
<関連サイト>
「法務史料展示室・メッセージギャラリーへようこそ」(法務省のサイト)
法務総合研究所国際協力部(法務省のサイト)
「警察博物館見学」(警視庁のサイト)
歴史に学ぶ 父と呼ばれた日本人-近代日本を創った801人】◆第8回「法曹界の父たち」(ダイヤモンドオンライン 2012年9月20日)・・まず言及されるのは江藤新平
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梅棹忠夫の『文明の生態史観』は日本人必読の現代の古典である!
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「幕末の探検家 松浦武四郎と一畳敷 展」(INAXギャラリー)に立ち寄ってきた・・「警察博物館」に立ち寄った記録を書いておいた
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