先週の2012年10月25日から11月3日まで、「西日本縦断ツアー」と銘打って、拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(こう書房、2012)のプロモーションを兼ねて、鹿児島から京都まで高速バスをつかった長旅を行った。
鹿児島から広島、そして瀬戸内海をフェリーで渡って松山、そのあとは陸路で瀬戸大橋をわたって岡山に入ったのだが、岡山からはすぐ近くにある倉敷にも立ち寄ってみることにした。
倉敷にいくのはこれが三回目だと記憶しているが、今回もまた目的は大原美術館を訪ねてエル・グレコの「受胎告知」を見ることにあった。
はじめて訪れたのはかなり以前のことであり、前回訪れたのもだいぶ前だと思うのだが、いつきても倉敷という町は情緒があってすばらしい。しかも、その情緒ある町のなかにある大原美術館もまたすばらしい。
エル・グレコの「受胎告知」であるが、前回訪れたときとは違って内装と展示方式が大幅に変わったようだ。
そのための特別展示コーナーが設けられて、すこし離れた場所には腰掛けも設置されており、心ゆくまでエルグレコの「受胎告知」を観賞できるようになっていた。もちろん、今回もまたゆっくりと観賞させていただいたことは言うまでもない。
倉敷といえば大原美術館、大原美術館といえばエル・グレコという連想が、わたしのアタマの引き出しのなかには確固として存在するのは、むかし堀辰雄の随筆のなかで読んだ記憶が鮮明だからだろう。
結核療養所である高原のサナトリウムを舞台にした作品 『風立ちぬ』で有名な堀辰雄というと、軽井沢や信濃路、そして大和路という連想もつよいが、エル・グレコの「受胎告知」を見るために倉敷まででかけて感激したことをつづったエッセイがある。
いつでも海外の美術館に行こうと思えば行けるような現在とは違って、日本でエル・グレコの作品を見ることができるなんてことは、戦前の昭和時代にはまったくの贅沢だったわけなのだ。しかも、堀辰雄は病弱な作家であった。
その感激を記した文章の記憶が、わたしを何度も倉敷に足を運ばせている理由なのである。
大原美術館の隣に「カフェ エル・グレコ」というカフェがあることに、今回はじめて気がついた。スペイン語で Cafe El Greco と書かれた文字を目にすると、またマドリードのプラド美術館やエル・グレコゆかりのトレレドまで行きたくなってくる。
El Greco は英語でいえば 定冠詞のついた The Greek、つまり ザ・ギリシア人である。16世紀当時ヴェネツィア共和国統治下にあったクレタ島生まれのギリシア人で、本名はドメニコス・テオトコプーロスといういかにもギリシア的なものだ。
ギリシア正教徒ではなくカトリックだったから、カトリック大国であるスペインで活躍したのである。地中海人エル・グレコの作品が、日本の地中海である瀬戸内海の倉敷にあるのは、その意味ではベストフィットなのである。
ことしはひさびさに「エル・グレコ展」が日本で開催されているのは朗報だ。
大阪では国立国際美術館 で 2012年10月16日から12月24日まで、東京では東京都美術館で 2013年1月19日から4月7日まで。これは絶対に見逃せない美術展である。
タイミング的に東京で見ることになるだろうが、今回は没後400年を記念しての大回顧展ということで、楽しみにしている。
<関連サイト>
大原美術館のエル・グレコ「受胎告知」の解説
エルグレコ展 http://www.el-greco.jp/
-大阪展: 2012 年10月16日(火)~12月24日(月・休) 国立国際美術館
-東京展: 013年1月19日(土)~4月7日(日) 東京都美術館
(情緒あふれる水の町 倉敷)
(倉敷の古民家の町並み)
<ブログ内関連記事>
・・受胎告知は英語で Announcement であり、これは理解しやすいカトリック要語。ちなみに、森鴎外訳で有名なアンデルセンの『即興詩人』の主人公アヌンツィアータは受胎告知の意味。
書評 『物語 近現代ギリシャの歴史-独立戦争からユーロ危機まで-』(村田奈々子、中公新書、2012)-日本人による日本人のための近現代ギリシア史という「物語」=「歴史」・・クレタ島の歴史についても解説あり
書評 『惜櫟荘だより』(佐伯泰英、岩波書店、2012)-現在と過去、熱海とスペインと、時空を飛び交い思い起こされる回想の数々・・若き日にスペインで青春を燃焼させた時代小説作家の回想
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