通常は大人800円の入場料が、たまたま「本日無料」であったというのもウレシイことだ。11月2日は「関西文化の日」だからだそうだ。
マンガもアニメは言うまでもなく日本文化であり、その意味では日本文化の原点である京都にマンガミュージアムがあるのは納得のいくことだ。manga も anime もすでに国際語である。
とはいえ、最初にその話を耳にしたとき、なぜ京都で?と思ったことは確かだ。
だが、実際に訪問してみて、展示内容の一つである設立の経緯を知るに及んで、腹の底から納得できた。
■廃校になった小学校をそのまま再活用
もともと、このミュージアムは京都市立龍池小学校だったのだそうだ。重厚な建築物でフローリング板張りの床はヨーロッパのミュージアムを思わせるものがある。
少子化にともなう小学校統合で歴史を閉じることになった龍池小学校をどう活用するかについて、熱心な話し合いが続けられた結果、最終的にマンガ・ミュージアムとして再活用することに決定されたという。
展示室にあった資料を読むと、龍池小学校は公立として設置されたのではなく、町衆のチカラでできた小学校だという。教育の重要性を理解し、子どもにはその当時の最高の学習環境をつくるという理想が反映されたものであったことは、なかを歩いてみれば十分に納得されるところだ。
しかも、地域の防災施設も兼ねて校庭をそのまま残したという発想もすばらしい。地域に根ざした施設という発想は、これからますます重要になるはずだ。
すでに、京都精華大学には日本初のマンガ学部も設置されていたことも大きいようだ。マンガ家の里中満智子が教授になったことは知る人は知っていることだと思う。
古き良きものと革新的なものを共存させるのが京都である。国際マンガミュージアムもその象徴的存在といっていいだろう。
■開架式の展示の図書館のような、マンガ喫茶のような...
マンガ・ミュージアムという名称だが、実質的には「コーヒーを飲む必要のないマンガ喫茶」のようなものだ。展示品の大半は開架式の図書館のようなものなので、イスに座って心ゆくまでマンガを読むことができる。
しかも、シリーズもののマンガが第一巻から欠番なしで揃っているのもウレシイことだ。
今回は2時間ぐらいしか時間がなかったので、展示品の一部をみたに過ぎないが、たまたま目についた『釣りバカ日誌』の第一巻を読んで、なぜ主人公のハマちゃんが釣りという趣味に目覚めたのかがわかったのは個人的には収穫であった。ハマちゃんの場合も「たまたま」である。
ただ、気になるのはどのシリーズものも第一巻は多くの人に読まれて手垢まみれになっていること。これは開架式図書館スタイルをとる以上は必然なのだが、破損に備えて第一巻から数巻は余分に在庫しておいてほしいものだと思う(・・すでに対応は取られているかもしれないが)。
少なくない外国人もミュージアムでは見かけたが、東京の秋葉原がアキバとしてマンガとアニメでは世界的な聖地になっているのと好対照になっているのかもしれない。
東京のアキバが生きた聖地であるとすれば、京都の烏丸通御池上る(からすまおいけ・あがる)がアーカイブという機能分担になっているのであれば意義のあることだ。
■ 「ガイナックス流アニメ作法」という特別展示が面白い
今回の特別展示は、「ガイナックス流アニメ作法」というもので、これはぜひ閲覧してほしいと思う。
基本的に「マンガミュージアム」をうたっているので、アニメという映像資料の展示はやや淋しいが、このような特別展示で補うのは意味のあることだ。
概要を京都国際マンガミュージアムのウェブサイトから引用しておこう。
『ガイナックス流アニメ作法 ~人の群れがアニメを創る!』「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」「新世紀エヴァンゲリオン」等、数々の名作を生み出してきたガイナックスが築き上げてきたコンテンツビジネスのスキームを公開する特別展。
現代のアニメビジネスの潮流を生み出したと言っても過言ではないガイナックスが魅せるアニメ製作のダイナミズムを、企画が生まれる瞬間から、壮絶な制作の現場、そして、発表から巨大マーケットへ変貌を遂げるまでのコンテンツの成長過程を、実際の資料とデータで余す所なく展示。
ビジネス書や教科書には決して描かれることのないリアルなアニメの現場を再現する。
入場料のほかに別途200円の特別料金がかかるが、これは見ておいたほうがいい内容の展示だ。
アニメ製作と制作はプロジェクト・マネジメントそのものだということがわかるのは大きな収穫だろう。
アニメは生身の人間と違ってリスキーな存在ではないからラクだなどという見解を耳にすることもあるが、基本的にTVドラマの製作と同じく、いやそれ以上に分業体制とプロジェクト・マネジメントが徹底している世界であることがわかる。
「ガイナックス流アニメ作法」は、2012年9月22日から12月24日までの開催。
一度は訪れてみたいと思っていた京都国際マンガミュージアムの訪問記。次回がいつになるかわからないが、時間をたっぷりとって読んでいないマンガを第一巻から最終巻まで読んでみたいと思う。そんな気にさせられるアーカイブであり、ミュージアムであった。
<関連サイト>
■京都国際マンガミュージアム http://kyotomm.jp
■住所: 京都市中京区烏丸通御池上る
■交通: 京都市営地下鉄烏丸線・地下鉄東西線「烏丸御池駅」 2番出口すぐ
京都市バス(15・51・65系統)、京都バス(61・62・63系統)いずれも「烏丸御池」停留所下車すぐ
■駐車場 なし
■休館日: 毎週水曜日(休祝日の場合翌日)
■マンガを読む
働くということは人生にとってどういう意味を もつのか?-『働きマン』 ①~④(安野モヨコ、講談社、2004~2007)
『きのう何食べた?』(よしなが ふみ、講談社、2007~)
マンガ 『沈黙の艦隊』(かわぐちかいじ、講談社漫画文庫、1998) 全16巻 を一気読み
マンガ 『20世紀少年』(浦沢直樹、小学館、2000~2007) 全22巻を一気読み
『取締役 島耕作』 全8巻を一気読み
水木しげるの「戦記物マンガ」を読む(2010年8月15日)
『うずまき』(伊藤潤二、小学館、1998-1999)-猛暑で寝苦しい夜にはホラー漫画でもいかが?
書評 『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(遠藤 誉、日経BP社、2008)
タイのあれこれ (6) 日本のマンガ・・『うる★やつら』タイ語版を紹介
書評 『ノモンハン戦争-モンゴルと満洲国-』(田中克彦、岩波新書、2009)・・歴史大作 『虹色のトロツキー』(安彦良和)を紹介
『新世紀 エヴァンゲリオン Neon Genesis Evangelion』を14年目にして、はじめて26話すべて通しで視聴した
■京都関連
京都土産は紅葉で-禅寺の東福寺の紅葉が美しい(2012年11月5日)
「出版記念イベント」 として 「公開セミナー」の「西日本縦断ツアー」(鹿児島から京都まで)を実行します(2012年10月27日~11月2日)
書評 『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(堀場 厚、講談社、2011)-堀場製作所の社長が語る「京都企業」の秘密
梅棹忠夫の『文明の生態史観』は日本人必読の現代の古典である!
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