日本の製造業を支えているのは、誰もが名前の知っている大企業ではなくて、じつは中小企業である。これは産業界の「常識」なのだが、一般人は意外と知らない。これはたいへん残念なことだ。
とくに重要なのが部品メーカー。最終製品というのは、部品の組み合わせである。部品がユニットとなり、ユニットがモジュールとなり、モジュールの組み合わせが最終製品となる。部品の善し悪しが最終製品の品質を左右する。
「大組織の部品なんかなりたくない」といったフレーズがクチにされることがあるが、この表現ほど実体とかけはなれたものはない。むしろ「なくてはならない部品になれ!」というべきなのだ。こういうことは、部品屋さんではいつも語られているのだ。
『世界に冠たる中小企業』(黒崎誠、講談社現代新書、2015)は、そんな日本の中小の部品メーカーを中心とした「知られざるグローバルニッチトップ」24社を紹介したもの。いずれも日本では「無名」だが、世界シェアを占める部品や製品をつくっている中小企業である。
紹介されている企業の大半が B2B(=法人向け)の専門企業なので、関係する分野で働いていないと知ることもないだろう。わたしが名前を知っているのも、たった2社だけだった。
かつての全盛期にくらべると、日本の産業の裾野を支えてきた中小企業の地盤が崩れてきているのだが、そんななかでもサバイバルしてきた企業があることを知っておいたほうがいい。日本市場だけでなく、世界市場を相手に顧客を獲得してきた中小企業である。
そのエッセンスは、「目次」のタイトルに表現されている。
第1章 「伝統技術」を活かして世界を統べる
-「トヨタを目指すつもりはない」企業など5社
第2章 「専門分野に特化」が成功のカギ
-「値引きしてまで売らない」企業など5社
第3章 「超先端技術」を武器に世界に挑む
-「国内市場の嫌がらせにも屈しない」企業など4社
第4章 大手が参入できない「ニッチ市場」を制す
-「管理部門なんていらない」企業など6社
第5章 ノウハウを活かした「業態転換」で勝つ
-「心臓部は中国に移さない」企業など4社
著者は時事通信で長年にわたって経済畑を歩いてきた人。綿密な取材をもとに、もれなく簡潔な文章で記述されている。製造分野での専門用語が多発するが、文章のレベルが高いので読みやすい。
ただ惜しむらくは、『世界に冠たる中小企業』というタイトルがあまりにも堅すぎることだ。コンセプトとしては、ドイツ人の経営コンサルタントのヘルマン・ジモンによる「隠れたチャンピオン」(hidden champion)が該当するのだが、「知られざる世界企業」、「知られざる国際企業」、「知られざるグローバル企業」、「無名のリトルジャイアント」、「日本人は知らないが世界は知っている」などなども候補にあがってしかるべきだったと思う。
『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司、あさ書房)がベストセラーになったのは、なによりもタイトルのつけかたがうまかったからだ。せめてタイトルに「グローバルニッチ」といいう文言を入れた方がよかった思うのだが・・・・。
日本企業の生き残りのためのケーススタディとして読んでみたらいいと思う。世界最大のカニカマ工場がリトアニアにある!なんてことは、この本を読まなくては知ることはできませんよ。
著者プロフィール
黒崎 誠(くろさき・まこと)
1944年群馬県生まれ。時事通信社に入社後、一貫して経済畑を歩み、経団連、日銀、旧大蔵省などを担当したほか、リクルート事件など大型経済事件も報道してきた。宮崎支局長、福島支局長、編集委員、解説委員などを歴任。2004年に退社し、現在、帝京大学経済学部教授。著書に『世界を制した中小企業』(講談社現代新書)、『起業家の条件』(平凡社新書)など多数。 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
書評 『あっぱれ技術大国ドイツ』(熊谷徹=絵と文、新潮文庫、2011) -「技術大国」ドイツの秘密を解き明かす好著
・・「ドイツを特徴づけている、いわゆるミッテルシュタント(Mittelstand:中規模企業)だという。日本でいえば中堅中小企業がこれに該当するといっっていいだろう。 ドイツ人経営コンサルタントのヘルマン・ジモン(Hermann Simon)のいう「隠れたチャンピオン」(hidden champions)の一つと考えてよいのだろう。ニッチ市場に特化して、世界シェアを占める無名のミッテルシュタント(中規模企業)が活躍しているのがドイツなのである。 ポルシェやディーゼル、ツェッペリンなどの綺羅星のような発明家は本書でも取り上げられているが、世界的な知名度は高くなくても、現在でも多くの起業家を輩出している国がドイツなのである。たとえ、アメリカのソリコンバレーほどの派手さはないとしても。」
書評 『ねじとねじ回し-この千年で最高の発明をめぐる物語-』(ヴィトルト・リプチンスキ、春日井晶子訳、ハヤカワ文庫NF、2010 単行本初版 2003)-「たかがねじ、されどねじ」-ねじとねじ回しの博物誌
書評 『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)-アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明
・・ファブレス・メーカーであるアップルの強みとは何か?
(2015年6月18日 情報追加)
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