「アタマの引き出し」は「雑学」ときわめて近い・・日本マクドナルド創業者・藤田田(ふじた・でん)に学ぶものとは?

◆「アタマの引き出し」つくりは "掛け算" だ : 「引き出し」 = Σ 「仕事」 × 「遊び」
◆酒は飲んでも飲まれるな! 本は読んでも読まれるな!◆ 
◆一に体験、二に読書、その体験を書いてみる、しゃべってみる!◆
◆「好きこそものの上手なれ!」◆

<旅先や出張先で本を読む。人を読む、モノを読む、自然を読む>
トについてのブログ
●「内向きバンザイ!」-「この国」日本こそ、もっとよく知ろう!●

■■ 「むかし富士山八号目の山小屋で働いていた」全5回 ■■
 総目次はここをクリック!
■■ 「成田山新勝寺 断食参籠(さんろう)修行(三泊四日)体験記 」全7回 ■■ 
 総目次はここをクリック!
■■ 「庄内平野と出羽三山への旅」 全12回+α - 「山伏修行体験塾」(二泊三日)を中心に ■■
 総目次はここをクリック!


「個」と「組織」のよい関係が元気をつくる!

「個」と「組織」のよい関係が元気をつくる!
ビジネス寄りでマネジメント関連の記事はこちら。その他の活動報告も。最新投稿は画像をクリック!



ご意見・ご感想・ご質問 ken@kensatoken.com にどうぞ。
お手数ですが、コピー&ペーストでお願いします。

© 2009~2024 禁無断転載!



2015年6月21日日曜日

書評『複合大噴火』(上前淳一郎、文春文庫、2013、単行本初版 1989)ー 地球規模で発生する自然災害は容易に国境を越える


『複合大噴火』(上前淳一郎、文春文庫、2013)は、単行本初版が 1989年に出版されているので、すでに出版から25年もたっている本だが、噴火と異常気象の関係を、地球レベルで考えるための必読書である。

この本が扱っているのは、1783年の日本とアイスランドの火山大噴火と、異常気象がもたらした大凶作と食糧危機の関係である。二世紀も前の話だが、日本全体で火山活動が活発してきているいまこそ読むべき本だというべきだろう。日本列島は、すでに本格的な地震・火山活動期に入っているのである。

日本とアイスランドというと、同じ島国であるという認識まではもっている人が多いだろう。さらによく知っている人であれば、ともに捕鯨国であり、国際捕鯨委員会非加盟のアイスランドから鯨肉が日本に輸入されていることも。

だが、日本もアイスランドの最大の共通点とは、世界有数の火山国であるという点である。日本についてはいうまでもないが、2010年にアイスランドの火山の噴火で欧州の航空路線に大きな影響が出ていることを思い出す必要がある。

北半球のある2つの火山国で、ほぼ同時期に火山の大噴火があったのである! 両者に直接の関係があったわけではないにせよ、ほぼ同時期である。ときは1783年。日本でいえば天明3年ヨーロッパではフランス革命が起こる6年前のことであった。

浅間山の大噴火にともなう異常気象については、日本史の教科書にも記されているほど有名な出来事である。だが、100万人も餓死者が出た(!)といわれる大飢饉の原因は浅間山の大噴火だけではなかったのだ! 浅間山の大噴火とアイスランドのラキ山の大噴火がほぼ同時期に重なっていたため、「複合大噴火」となったことが、その原因であったのだ。

アイスランドで火山が噴火し、桁違いに大量の火山灰と火山ガスが噴出されたのだ。アイスランドの歴史時代(=9世紀以降)で最大規模の溶岩流が流れ出たという。

膨大な量の火山灰と火山ガスは、アイスランドだけでなく、上空を吹く偏西風にのって北半球全体に拡散。大量の亜硫酸ガスが成層圏にまで達したあと、紫外線の影響によってエアロゾルに変化、そのため日照量が大幅に減少し、冷害という形で大凶作と飢饉という形になって現れたのである。一部が酸性雨となって被害をもたらしている。

日本では、天明の大飢饉が発生、高度経済成長路線の田沼時代から、質素倹約の松平定信への転換の原因となった。一方、欧州のフランスでは小麦の不作にともなう食糧不足が導火線となり、フランス革命(1989年)に発展していく。この東西それぞれ独立に存在する歴史叙述が、ノンフィクションとして本書の大きな部分を占めている。

天明の飢饉に際して、東北の津軽藩では、なんと人肉食(!)が横行するなど失政を招いたのに対し、同じく東北の白河藩では善政の結果、餓死者がでなかった。津軽藩では貧民救済のためにコメを放出せずに、カネに変えるために売却してしまっていたのである。

一方、フランスは財政赤字解消のため豊作になった小麦を国際市場で売却してしまっていた。このため危機が発生してから小麦を輸入しようとしたが、うまくいかなかったために、「パン屋襲撃」という食糧暴動となってしまったのである。

火山の大噴火そのものは自然災害であるが、被害を拡大したのはむしろ人災であったことが、18世紀末のこの2つのケースについてもあてはまるのである。ノーベル経済学賞のアマルティヤ・セン博士が指摘しているように、食糧危機はむしろ分配にかかわる経済学の問題なのである。

地球規模で発生する自然災害は、容易に国境を越えるという事実をあらためて確認するとともに、日本国内では浅間の大噴火による火砕流の大被害についても記憶にとどめておく必要がある。

浅間山の大噴火では、秒速百メートルを越す速さ(!)に一村全体が呑み込まれ、一瞬のうちに数百人が犠牲となったのである。土石流の被害も大きいが、火砕流の被害もきわめて大きい。さらに溶岩流によって河川がせき止められ、氾濫を引き起こしたことも。本書に記されたなまなましい記録には、ほんとうに驚かされる。江戸にまで濁流が流れてきたのであった。

日本で出版されている良質な科学ノンフィクションの大半は英米の翻訳ものが多いが、本書は日本語で書かれたものとしてはめずらしい良書だ。気候学者でも歴史学者でもないノンフィクション作家の著者が、テーマを領域横断的に文理融合した成果だ。狭い分野の専門家ではできない仕事である。

「あとがき」に記された執筆の動機とともに、ぜひ読んでほしい本である。





目 次

不気味な暖冬-津軽
雨の日々-江戸
ラキ火を噴く-アイスランド
恐怖の山焼け-浅間
青い霧の下の騒擾-津軽
飢えた群れ-浅間・アイスランド
仁政録-白河
人相食む-津軽
殿中の刃傷-江戸
パンの値上がる-パリ
意次VS.定信-江戸
大打ちこわし-大坂・江戸
清き流れに魚住まず-江戸
バスチーユ攻撃-パリ
あとがき
参照引用文献
解説 三上岳彦

著者プロフィール

上前淳一郎(うえまえ・じゅんいちろう)
昭和9(1934)年、岐阜県生まれ。34年東京外国語大学英米語学科を卒業、同年朝日新聞社に入社。通信部、社会部記者を経て、41年に退社後は、評論家として活躍。52年「太平洋の生還者」で第8回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

『複合大噴火〈新装版〉』 (解説 三上 岳彦 帝京大学教授・首都大学東京名誉教授)
・・「本の話」WEBに転載(2013年9月27日)。歴史気候学者による解説。全文を読める


<ブログ内関連記事>

「不可抗力」について-アイスランドの火山噴火にともなう欧州各国の空港閉鎖について考える(2010年4月19日)

「天災は忘れた頃にやってくる」で有名な寺田寅彦が書いた随筆 「天災と国防」(1934年)を読んでみる
・・「寺田寅彦が言っていることは、以下のように要約できるだろう。 (要約) 「天災」は、日本という国にいる以上、避けて通ることはできない。文明が進めば進むほど、自然災害による被害は増大するだけでなく、たとえ一部の損害であっても、すべてがシステムのなかに組み込まれている以上、その被害はシステム全体に拡がる。しかも、国防という観点からみたら、天災が外敵以上に対応が難しいのは、「最後通牒」もなしに、いきなり襲いかかってくるからだ。

明治22年(1889年)にも十津川村は大規模な山津波に襲われていた-災害情報は「アタマの引き出し」に「記憶」としてもっていてこそ命を救うカギになる
・・「明治22年(1889年)奈良県十津川村を襲った山津波のことです。テレビの災害報道ではなぜか触れていませんが、いまから 112年前の1889年8月17日から4日間つづいた大雨で大規模な山崩れが発生し、168人が亡くなったそうです。その結果、2,500人の住民が集団離村して、北海道に新天地を求め、新十津川を切り開いた苦闘の歴史がある」

『崩れ』(幸田文、講談社文庫、1994 単行本初版 1991)-われわれは崩れやすい火山列島に住んでいる住民なのだ!
・・火山灰が堆積してできた日本の土地はもろくて崩れやすい!

地層は土地の歴史を「見える化」する-現在はつねに直近の過去の上にある
・・火山の噴火や河川の氾濫の痕跡が地層として残る

むかし富士山八号目の山小屋で働いていた <総目次>
⇒ とくに (5) 噴火口のなかに下りてみた

庄内平野と出羽三山への旅 (9) 月山八号目から月山山頂を経て湯殿山へ縦走する
・・出羽三山の湯殿山や熊野の湯の峯。「同じく蘇りの聖地である熊野の「湯の峰」もそうだが、地表すれすれにマグマが来ているところは、間違いなく聖地として祀られてきた。 通常は、火山の噴火ということでしかみることのできない大地の働き。これが、地表スレスレにあるというのは古代人でなくても新鮮な驚きと感動を感じるものだ。マグマがすぐそこまで来ているのだ」

大震災のあと余震がつづくいま 『方丈記』 を読むことの意味

「理科のリテラシー」はサバイバルツール-まずは高校の「地学」からはじめよう!

大飢饉はなぜ発生するのか?-「人間の安全保障」論を展開するアマルティヤ・セン博士はその理由を・・・
・・「セン博士によれば、深刻な飢饉が生じるのは、以下の理由によると明らかにしています。
・凶作の後には「社会不安」が高まる
・正しい「情報不足」が理由で、「買い占め」が引き起こされる
・その結果、市場において「価格高騰」を招き、「分配メカニズム」が混乱して貧困層に食糧が行き渡らなくなるする
 つまり一言でいって、「人災」の側面が強いのです。」

(2015年7月28日 情報追加)


(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!

(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!

 (2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!

(2020年5月28日発売の拙著です 画像をクリック!

(2019年4月27日発売の拙著です 画像をクリック!

(2017年5月19日発売の拙著です 画像をクリック!

(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!


 



ケン・マネジメントのウェブサイトは

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。

禁無断転載!








end