(「ロイヤル・ドッグ」のトンデーン物語)
ハリウッド映画『HACHI』(オリジナル・タイトルは HACHIKO: A Dog's Tale)、日本の松竹映画『ハチ公物語』のリメイクである。
設定はアメリカの地方都市に変えたが、主人公の大学教授という設定は同じで、熱心なチベット仏教信者のリチャード・ギアが演じる。
でも本当の主役は HACHI である。「週刊文春」の阿川佐和子との対談で、シナリオを読んで自らプロデューサーも買って出たというリチャード・ギアは、共演した犬たちのことを、仏教のヨギ(=修行者)のようだといっているのは面白い。犬は余計な雑念がないからだ、と。とても犬の境地には到達できない、とも。
予告編みてるだけでもジ~ンとして目頭が熱くなってくるので、映画館で見るのはやめておきたい。絶対泣いてしまうから。
やはり本当の物語には、洋の東西を越えて人間の心に訴えかけてくるものがあるのだろう。米国版の trailer とくらべてみるのも面白い、というより、また泣かされる。
駅で迷子になった子犬(・・この子犬は秋田犬ではなく柴犬をつかったそうだ)の首輪についたdog tag には、漢字の八(はち)の字・・芸が細かいねー。ちなみに、英語の dog tag はミリタリー・スラングでは認識票のことをさす。戦場で斃れてクチがきけなくなっても認識票をみればわかるということ。dog fight とは、戦闘機による空中戦のことだ。
そうそう、オリジナルの日本版『ハチ公物語』予告編も参考までに。日本人だからハチ公の話はある程度知っているが、やはり舞台設定は現代ににしたほうが、より親近感がますというのは否定できない、と思う。もちろんオリジナル版のハチ公も、仲代達也や八千草薫といった名優以上にすばらしい。
またハリウッドのリメイクかよ、という人もいるが、日本出身の秋田犬は、すでに世界の AKITA なんだからいいではないか!、と私は思う。
ハチ公も、世界の Hachiko になったのだから。世界中で愛される物語となるだろう。
絵本として読まれてきた米国だけでなく、世界中の人が映画をつうじて、ハチ公(HACHIKO)の物語を知ることになるのだから。
『ニッポンの犬』(岩合光昭・写真、岩合日出子・文、平凡社、1998年)という写真集がある。やはり犬はなんといっても日本犬である。以前、こういう文書を書いている。
犬は日本犬に限る! by 土佐犬 (bk1書評 2001/03/28 投稿掲載)私は犬だ。もちろん、猫に対して犬が好きだ、という意味だが。犬は日本犬に限る。表紙に「カワイイ、りりしい、たのもしい」という宣伝シールが貼ってあるが、まさにそのとおり。この本に登場する犬の顔が実にいい。思わずほおずりしたくな るような犬、ほれぼれとするような表情をした犬、犬、犬・・・。何度眺めてもうれしい本。
■タイの「ロイヤル・ドッグ」
さて、話はタイのロイヤル・ドッグのことである。 こちらのロイヤルは、loyal なだけではない、Rで始まるロイヤル、すなわち Royal でしかも Loyal な犬 の話である。
タイのプーミポン国王ラーマ9世の愛犬トンデーンの話。この犬の話はタイでは知らない人はいない。しかもなんとマンガにもなっているのだ。
このマンガによれば、あやうく保健所につれていかれて処分される寸前だった犬が助けられて、その子犬のうち一匹が国王にもらわれることとなった、犬のシンデレラ・ストーリーのような物語で実話である。
この犬は実に賢い犬らしく、国王陛下が国民に道徳を説く際には、トンデーンの話を引き合いに出すという。
日本語訳が世界でさきがけて出版されている。『奇跡の名犬物語-世界一賢いロイヤル・ドッグ トーンデーン-』(プーミポン国王陛下、世界文化社、2006)。
プーミポン国王の特別の許可をえて、タイ政治学の重鎮である赤木攻・前大阪外国語大学学長が翻訳されている。犬好きならすでによく知っている話かもしれない。日本版は絵本として出版されているが、私としてはタイ語版のマンガのほうが面白く感じている。タイ語版には英語訳がついているので問題はない。
タイ語のマンガ版が興味深いのは、タイ王国憲法では、「神聖にして絶対不可侵」の存在である国王陛下を(・・戦前の大日本帝国憲法と同じ)、いかにマンガに登場させるかという点にかんして作者が大いに悩んだという。その結果、国王陛下はすべて白塗りで、透明人間のような描き方となった(下の写真)。
(タイで出版されているカートゥーン版)
なんだか奇妙なかんじもするが、国王陛下のご真影がいたるところに存在するのが、タイ王国である。かしこくも国王陛下にあらせられましては・・・ってことであろう。苦肉の策といえば、そうとしかいいようがないが。
■タイの犬は放し飼い
バンコクの犬といえば、朝から暑いということもあるが、でっぷりと肥えたメタボで、朝からマグロのように舗道に転がって熟睡しているのが大半だが、すべて野良犬ではなく、飼い犬もまじっているようだ。首輪をしている犬がいる。バンコク中心部ビジネス街のシーロムで撮ったこの写真の犬は、首輪に Cool Dog なんて書いてあるが、どこが Cool だっちゅうの!?と突っ込みを入れたくなる。
タイでは犬は放し飼いなので、というより日本と違って鎖でつなぐ習慣がないので、野良と飼い犬が共生しているのである。
ただしバンコク以外では、犬は必ずしもマグロではない。
数年前、チェンマイの郊外にあるヘルス・リゾートで休暇をとっていたときのことである。
滞在して数日目、ヒマだったのでゲートの外にでてみた。ゲートの外は見渡す限りまったくの農村地帯で、少し散歩していくとタイ人の民間信仰の対象となっている巨樹があったので見に行ってみた。巨樹に近づいてゆくと、なぜか突然、犬が一匹吠えだした。
するとその声につられて何匹も犬が吠えだし、みるみるうちに数百メートル先から犬が突進してきたことに気がついたと思ったら、四方八方から何匹も犬が吠えながら猛スピードで突進してきたのである。何かスローモーションのフィルムをみているような気がしていたが、あっという間に犬たちが私の周りを囲んで吠えまくっている。
後ろを見せたら間違いなく噛まれると思ったので、たまたまその時手にしていた傘をひろげて犬が近寄れないようにしばし防戦していたが、もしかした駄目かもしれないという気持ちになったその瞬間、農家からおじいさんがでてきて、口笛で犬になにか合図した。そのとたん、犬は吠えかかってくるのをやめて散っていった。「悪い人ではないから吠えないように」と、おじいさんが犬に合図したようだ。思わずおじいさんには頭を下げて礼をしたものであった。
まことにもって、よそ者には警戒するという原則をたたきこまれた番犬として優秀なチェンマイ犬たちであった。まさに Loyal dogs である。
教訓: タイの犬だからといって、すべてバンコクを基準にして固定観念でもって類推するのは危険である。
舗道に転がっているマグロ犬だけではない。タイには王様の犬もいれば、バンコク市内ではセレブが飼うチワワもいる。もちろん主人に忠実な番犬もいる。もちろんマグロ犬も発情期は寝そべったりしていないので危険である。
犬の数だけ、"犬"生がある。もちろん犬だから、dog year を生きているのであるが。
P.S. さて今回は、本日8月28日に、タイのあれこれ(8)で、ハチ公(=Hachiko)をとりあげたが、これはシンクロではなく、種を明かせばインテンショナルなものである。たまにはこういう細工を組み込んだ設計も面白い。犬づくしの回であった。
* タイのあれこれ (9) につづく
PS 読みやすくするために改行を増やし、小見出しを入れ、写真を大判にして
キャプションを書きくわえた。本文には手を入れていない。 (2014年1月19日 記す)
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