「武士道」に対して「商人道」というものがあるとすれば、その道を切り開いたのは石田梅岩だといっていいだろう。
17世紀後半に京都近郊の農村で生まれたが、貧しかったため商家で丁稚奉公に出る。京都の呉服商に20年勤め上げ、最後は番頭として切り盛りした人だ。だが「のれんわけ」で独立する道を選ばず、45歳で思想家に転身した人物である。
無料で開講していた講座は京都と大坂を中心に人気となり、59歳で亡くなった後も、その熱心な弟子たち(・・富裕な商人も多かったという)の力によって日本全国に普及した。 石田梅岩の思想は「石門心学」とよばれた。ただ単に「心学」ということもある。
身分制社会のなかで生きた商人たちに、商人として生きることには意味があり、正々堂々と恥じることなく職務に専念するための指針を示したことに大いなる意義があった。いわば「商人道」である。
しかも、身分の上下や、貧富の差に関係なく、男女の別なく広く開かれたものであった。日本に限定されていたとはいえ、大きな影響があったといえよう。
そんな石田梅岩の思想を現代人の観点から、わかりやすく読み解いたのが『なぜ名経営者は石田梅岩に学ぶのか?』(森田健司、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015)である。
タイトルは内容を正確に現しているわけではないが、石田梅岩とその思想がどんなものであったか、簡単に知ることのできる本として推奨したい。引用はすべて現代語訳されている。
「持続的成長」が求められている現在、この本が出版された2015年よりも、さらに必要性は高まっている。リユースやリサイクルが当たり前で、サステイナブルな長を実現していた江戸時代の思想に学ぶ必要があるのは、日本人としては当然のことだろう。
この本でも、ケニア出身の環境保護活動家マータイさんがとりあげて国際語になった「モッタイナイ」についても、石田梅岩の思想の根幹にあることが説明されている。モノの本質を把握して、ムダなくそのモノを使い切れ、というのがそれだ。
このように「持続的成長」は、江戸時代の日本人がすでに体験し、実践していたものであり、そのなかから出てきた思想をあらためて学ぶべきなのである。
最近やたら「SDGs」 なる略語がマスコミで連呼されているが、日本人ならそんな輸入語をありがたがるのはバカげたことではないか。 SDGsに代表されるような流行語に違和感を感じている人は、石田梅岩に目を向けるべきだ。
目 次はじめに第1章 日本人を勤勉にした男第2章 道徳なしに市場なし―石田梅岩とアダム・スミス第3章 商業は正直から始まる第4章 倹約は自分のためだけではない第5章 仕事 “ワーク” と人生 “ライフ” を結びつける第6章 現代に生きる心学の精神第7章 江戸時代のドラッカーおわりに 参考文献
著者プロフィール森田健司(もりた・けんじ)1974年、神戸市生まれ。京都大学経済学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間・環境学)。専門は社会思想史。特に、江戸時代における庶民の思想や、石門心学の研究に注力している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
(米国の宗教社会学者ロバート・ベラーは「近代化」を促進した要素の一つとして石田梅岩の石門心学の普及をあげている)
<付記>
石田梅岩について、はじめて知ったのは大学3年のときであった。
日本民衆思想史の安丸良夫教授の授業で(といっても1回しか授業に出てないので、安丸ゼミにいたヤツからプリントのコピーをもらって、それを読んで)知った。
授業には最初の1回だけ出席して、それから最後までぜんぜん出てなかった。期末テストで「石田梅岩と植芝盛平」というテーマで小論文書いたら、たいへんありがたいことに「A」をもらった。意外なことに、心学の石田梅岩も、合気道の植芝盛平も、ともに神秘体験によって開眼するという体験をしているのである。
そのことを書いたから「A]をくれたのだろうと、勝手に思っている。いまは亡き安丸先生のご冥福を祈る。
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