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2022年11月2日水曜日

書評『なぜ名経営者は石田梅岩に学ぶのか?』(森田健司、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015)ー 「武士道」に対して「商人道」というものがあるとすれば、その道を切り開いたのは石田梅岩だといっていい


 「武士道」に対して「商人道」というものがあるとすれば、その道を切り開いたのは石田梅岩だといっていいだろう。 

17世紀後半に京都近郊の農村で生まれたが、貧しかったため商家で丁稚奉公に出る。京都の呉服商に20年勤め上げ、最後は番頭として切り盛りした人だ。だが「のれんわけ」で独立する道を選ばず、45歳で思想家に転身した人物である。 

無料で開講していた講座は京都と大坂を中心に人気となり、59歳で亡くなった後も、その熱心な弟子たち(・・富裕な商人も多かったという)の力によって日本全国に普及した。 石田梅岩の思想は「石門心学」とよばれた。ただ単に「心学」ということもある。 

身分制社会のなかで生きた商人たちに、商人として生きることには意味があり、正々堂々と恥じることなく職務に専念するための指針を示したことに大いなる意義があった。いわば「商人道」である。 

しかも、身分の上下や、貧富の差に関係なく、男女の別なく広く開かれたものであった。日本に限定されていたとはいえ、大きな影響があったといえよう。 

そんな石田梅岩の思想を現代人の観点から、わかりやすく読み解いたのが『なぜ名経営者は石田梅岩に学ぶのか?』(森田健司、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015)である。  

タイトルは内容を正確に現しているわけではないが、石田梅岩とその思想がどんなものであったか、簡単に知ることのできる本として推奨したい。引用はすべて現代語訳されている。 

「持続的成長」が求められている現在、この本が出版された2015年よりも、さらに必要性は高まっている。リユースやリサイクルが当たり前で、サステイナブルな長を実現していた江戸時代の思想に学ぶ必要があるのは、日本人としては当然のことだろう。 

この本でも、ケニア出身の環境保護活動家マータイさんがとりあげて国際語になった「モッタイナイ」についても、石田梅岩の思想の根幹にあることが説明されている。モノの本質を把握して、ムダなくそのモノを使い切れ、というのがそれだ。 

このように「持続的成長」は、江戸時代の日本人がすでに体験し、実践していたものであり、そのなかから出てきた思想をあらためて学ぶべきなのである。 

最近やたら「SDGs」 なる略語がマスコミで連呼されているが、日本人ならそんな輸入語をありがたがるのはバカげたことではないか。 SDGsに代表されるような流行語に違和感を感じている人は、石田梅岩に目を向けるべきだ。 

 

目 次
はじめに 
第1章 日本人を勤勉にした男 
第2章 道徳なしに市場なし―石田梅岩とアダム・スミス 
第3章 商業は正直から始まる 
第4章 倹約は自分のためだけではない 
第5章 仕事 “ワーク” と人生 “ライフ” を結びつける 
第6章 現代に生きる心学の精神 
第7章 江戸時代のドラッカー 
おわりに 参考文献

著者プロフィール
森田健司(もりた・けんじ)
1974年、神戸市生まれ。京都大学経済学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間・環境学)。専門は社会思想史。特に、江戸時代における庶民の思想や、石門心学の研究に注力している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

(米国の宗教社会学者ロバート・ベラーは「近代化」を促進した要素の一つとして石田梅岩の石門心学の普及をあげている)

<付記>

石田梅岩について、はじめて知ったのは大学3年のときであった。

日本民衆思想史の安丸良夫教授の授業で(といっても1回しか授業に出てないので、安丸ゼミにいたヤツからプリントのコピーをもらって、それを読んで)知った。

授業には最初の1回だけ出席して、それから最後までぜんぜん出てなかった。期末テストで「石田梅岩と植芝盛平」というテーマで小論文書いたら、たいへんありがたいことに「A」をもらった。意外なことに、心学の石田梅岩も、合気道の植芝盛平も、ともに神秘体験によって開眼するという体験をしているのである。

そのことを書いたから「A]をくれたのだろうと、勝手に思っている。いまは亡き安丸先生のご冥福を祈る。


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2022年10月31日月曜日

書評『「日本人」といううそ ― 武士道精神は日本を復活させるか』(山岸俊男、ちくま文庫、2015)― 武士道ではない。商人道こそ重要だ!

 

本の整理をしていたら、読みかけのままほったらかしにしていた本が出てきた。 

『「日本人」といううそ-武士道精神は日本を復活させるか』(山岸俊男、ちくま文庫、2015)という本。カバーのイラストには笑ってしまうが、タイトルもなかなか刺激的だ。 

なぜ読みかけのままほったらかしになっていたのか不明だ。自宅のなかだが、立ち読みしてたら面白いので、7年後の今回は今度は最後まで読んでしまった。 

著者は社会心理学の研究者。この文庫本の初版は2008年に出版されているようだが、たしかにこの頃、わたしはこの著者の本を『信頼の構造ーこころと社会の進化ゲーム』(東京大学出版会、1998)という専門書も含めてかなり読んでいる。 

心理学の実験をつうじて、「信頼」と「安心」が根本的に違うことを示したのが、著者の最大の功績だろう。信頼をベースにした社会と、安心に依存した社会の違い。この違いはきわめて大きい。 

著者の主張は、2000年代に入った日本は「安心社会」が崩壊したにもかかわらず、いまだ「信頼社会」への移行が進んでいないというもの。いまだに企業の不祥事が絶えない理由もそこにあると見る。 

詳しくは、ぜひ読んでみてほしいと思うが、「お家大事」意識の消えないコミットメント型の日本企業で不祥事が絶えないのに、「武士道精神」の強化で対応可能などといううのは、まったくの勘違いであるどころか、かえって事態を悪化させかねない。 

意外に聞こえるかもしれないが、江戸時代に確立した「武士道精神」とは、あくまでも「お家大事」の精神構造であって、お家を守るためには、外部には平気でウソをつけるというものだ。

江戸時代の武士は「役人」であった。 この武士道精神の対極にあるのが商人道。石田梅岩の「石門心学」に代表される「商人道」は、いわば「市場の論理」を体現したものであり、「統治の論理」を体現した「武士道精神」とは真逆の存在なのだ。商人にとっては、なによりも「信用」が大事なのである。 

という風に書くと、ちょっとむずかしく聞こえるかもしれないが、日本人がこの激変する世界のなかで、個人として、集団として生きるためにはどうしたらいいのか、文庫版の出版から7年、初版から14年たたいまでも、読む価値は大いにあるといえるだろう。読みやすくて、ためになる内容だ。 

「いまの世の中はなっておらん。むかしの武士は・・」などと「武士道」など持ち出してくる人間がいたら、そういう話を聞き流すためのマインドセットをもつことが必要。そのためにも、ぜひこの著者の本はあらためて読むべきであると思う。 

わたしも武士の末裔であるが、ビジネスパーソンである。したがって、当然のことながら「商人道」に軍配をあげる。 とはいえ、渋沢栄一に始まり、出光佐三で有名になった「士魂商才」という概念をどう考えるかという課題は残るのではないか?


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目 次
まえがき
第1章 「心がけ」では何も変わらない! 
第2章 「日本人らしさ」という幻想 
第3章 日本人の正体は「個人主義者」だった!? 
第4章 日本人は正直者か? 
第5章 なぜ、日本の企業は嘘をつくのか 
第6章 信じる者はトクをする? 
第7章 なぜ若者たちは空気を読むのか 
第8章 「臨界質量」が、いじめを解決する 
第9章 信頼社会の作り方 
第10章 武士道精神が日本のモラルを破壊する
あとがき
文庫版あとがき 

著者プロフィール
山岸俊男(やまぎし・としお)
社会心理学者。1948年名古屋市生まれ。2018年没。一橋大学社会学部、同大学大学院を経て、1981年ワシントン大学社会学博士。北海道大学助教授、ワシントン大学助教授、北海道大学大学院文学研究科教授を経て、一橋大学国際経営戦略研究科特任教授。2004年紫綬褒章受勲、2011年北海道大学名誉教授、2013年文化功労者。心と社会の関係について、総合的に研究を進めている。著書に、『信頼の構造』(東京大学出版会、日経・経済図書文化賞受賞)等多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)


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