先週から時代小説ばかり連続して読んでいた。(*ここでいう「先週」は、アップ時点からみて1ヶ月まえのこと)。
まずは、暦(カレンダー)に関心があったので『天地明察 上下』(冲方丁、角川文庫、2012)を読んでみた。あまりにも面白いので最後まで飽きずに読んでしまった。
時代背景は17世紀後半、徳川幕府の4代将軍家綱の頃に実行された日本独自の暦をつくるプロジェクトと、その中心となった碁打ちで暦法家の渋川春海の話。背景もじつによく調べ尽くされており、小説ではあるが大いに楽しませてもらった。日本独自の展開をとげた和算小説でもある。天才和算家の関孝和も登場する。
『天地明察』は、映画化されているが、映画版は見ていないのでなんとも言えないが・・・。
『天地明察』の絡みで『算法少女』(遠藤寛子、ちくま学芸文庫、2006)を読んだ。これは和算好きの町医者の娘を主人公とした子ども向けの時代小説。
和算好きに育った千葉あきという実在の人物が、父親との共著で出版した『算法少女』(1775年)という和算書をめぐる物語。『天地明察』が17世紀後半の話であったが、こちらは18世紀後半の話。子ども向けとはいえ、面白い内容の本。
町医者の娘は、あくまでも市井の人として、町の子に九九や和算を教える道を生涯の仕事に選んだ。九九を知らない子どもが当時にはいたのである。
なお、『算法少女』の原本は国会図書館に収蔵されており、デジタルコレクションとしてネット上に公開されている。
そのつぎに、『葛の葉抄-只野真葛ものがたり-』(永井路子、文春文庫、2016)を読んだ。
只野真葛(・・本名は工藤あや子)も医者の娘であったが、父親は『赤蝦夷風説考』の著者・工藤平助で、伊達藩の藩医だった。 『算法少女』の千葉あきと同様、只野真葛もまた「父の娘」であった。時代的には、千葉あきの次の世代くらいか。
ままならぬ人生を生きた一人の女性が、『ひとりかんがえ』という著書で時代の制約を超えた自由な考えを表現するにいたる。しかし、内容の過激さゆえに出版されることなく終わった。
この小説は、中世を中心に描いてきた永井路子氏の最後の歴史小説だという。なぜこの人物を取り上げたのか、その意味も考えながら味わってみたい小説だ。
ふだんは小説はあまり読まないのだが、17世紀後半から19世紀前半までの日本人を主人公にした時代小説を読んでみて、江戸時代についていろいろ考えてみるのは、楽しい読書体験であった。
(追記) その後、天文学者・麻田剛立(あさだ・ごうりゅう)を主人公にした小説も読んだ。『月に名前を残した男-江戸の天文学者 麻田剛立』(鹿毛敏夫、角川ソフィア文庫、2012)。
麻田剛立(1734~1799)は、独学で天文学を修得し、大坂を拠点に天体観測と弟子の指導を行った天文学者だ。学問への想い止みがたく豊後国杵築藩を脱藩している。独創的な思想家であった三浦梅園とは同郷で後輩にあたる存在で、終生交流を続け互いに影響を与えつづけたことは、この本を読んではじめて知った知った。
『天地明察 』(冲方丁)の主人公・渋川春海が生きたのは17世紀後半、麻田剛立が生きたのは18世紀後半。この1世紀の違いはきわめて大きい。両者をあわせて読むと、さらに江戸時代の科学についての理解が深まるだけでなく、イメージもまた膨らむことであろう。
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