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2011年2月21日月曜日

『何かのために-sengoku38 の告白-』(一色正春、朝日新聞出版、2011) を読む-「尖閣事件」を風化させないために!


sengoku38 が「尖閣ビデオ」を YouTube にアップした理由-「尖閣事件」を風化させないために!

 ハンドルネーム sengoku38 が YouTube に投稿した「尖閣ビデオ」

 私がこの存在をツイッターで知ったのは翌朝のことだったが、即座にツイッター上の「拡散要請」に協力してリツイートした。日本政府がかたくなにビデオ公開を拒否し続けたことに強い違和感を感じていたからだ。「国民の知る権利」を蹂躙(じゅうりん)し続ける政府の姿勢には怒りさえ感じていた。

 このビデオは、公開を待ちに待っていたのだ。その後の展開は、まさにダムの決壊に等しいものであった。

 「尖閣ビデオ」とは「尖閣事件」の映像資料だ。日本の固有領土である尖閣諸島において、違法操業の中国漁船(・・実は工作船か?)と海上保安庁の巡視船の衝突シーンを鮮明に写しだした映像である。YouTube では見ていなくても、地上波のテレビが何度も何度も繰り返し流したので、鮮明に記憶に残っていることだろう。

 そして投稿者の sengoku38 とは、現役の海上保安官であることが数日後に判明する。現在では元海上保安官となった一色正春(いっしき・まさはる)氏である。43歳の働き盛り、妻子ある一人の日本男子である。

 巨大な国家権力の末端の一構成員にしかすぎない国家公務員が、なぜその職を賭してまでビデオ公開を決意し、実行するまでにいたったか? 本書は、この一連の流れをモノローグ(独白)という形で、みずからが語った手記である。

 2011年2月14日に、一色正春氏が「日本外国特派員協会」で記者会見で質疑応答を行っていることを、取材中のジャーナリスト上杉隆氏のツイートでたまたま知って、Ustream にいる中継をリアルタイムで見ることができた。「日本外国特派員協会」の公式サイトの Masaharu Isshiki, Former Japan Coast Guard Official(Time: 2011 Feb 14 12:00 - 14:00) を参照。

 質疑応答の内容も、しゃべっている本人も、私が思っていたとおり、きわめてまっとうであった。2010年11月の時点で私が書いた「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂」(吉田松陰)のとおりである。

 sengoku38 こと一色氏の著書が出版されることも、ツイッターの書き込みで知った。さっそく amazon で予約して取り寄せ、目を通してみた。

 著書もまた、きわめてまっとうな内容であった。

 著者は、「自分がやらねば誰がやるのか」という、義侠心というか正義感が強い人である。最終的に YouTube に投稿することとなった経緯にかんする、著者のモノローグを聞いていると、著者も漏らしているように、ハムレットの To be or not to be. ではないが、逡巡(しゅんじゅん)に逡巡を重ね、迷いに迷い、しかし最後は腹をくくったことがわかる。

 そして、賽(さい)は投げられたのである。ルビコンを渡ったのである。

 大胆な決断を下して実行した人であるが、きわめて緻密に考え、慎重な性格であることもよくわかる。緻密な計算はしたといえ、けっして打算的ではない。
 朝日新聞出版から本書を出版したというのも、著者のバランス感覚のなせるわざであろう。『右であれ左であれ、我が祖国』という日本語訳タイトルのエッセイ集を晩年に出版した英国の小説家ジョージ・オーウェルを思わせる。(・・なお、この日本語訳タイトルは鶴見俊輔によるもので、原題は England Your England、英語原文はここで読むことができる)。

 こういう人こそ、コトバの本来の意味で公僕(=パブリック・サーバント)というべきなのである。私益のためではなく、公益のために奉仕するのが公僕というものである。公益のために、あえて捨て石になる覚悟を決めることのできる人間。もちろん、すべての人がそうではないが、心構えとしては期待したいものである。

 前近代社会であれば、主君に対する諫言(かんげん)を行ってた結果、詰め腹を切らされた武士のようなものだろうか。武士も江戸時代においては公僕であった。
 近代社会であれば、組織における個人のあり方として、公僕としての行動が最善であったかどうかは、著者もその一人であったように、そうかんたんに結論がつけられるものではない。

 著者の一色氏のことが英雄であるかどうかは、あくまでもまわりの人間の評価であり、本人とは関係のないことだ。この点については、マスコミ報道の問題点が当事者のクチから強い違和感として語られている。しかし、そのマスコミについても、著者は組織と個人の関係について考察を行っていることは強調しておこう。組織と個人の葛藤は、公務員には限らない問題だからだ。

 日本の海を守ること、これが海上保安官の任務である。この任務の遂行に粛々と取り組むのが、公僕としての海上保安官の任務である。海上保安官が本来の任務に専念できるような環境をつくることがトップの責任であり、政治の責任である。海上保安官である著者は、本来はこんなことをする必要はなかったのである。

 そうでなくても、著者も懸念しているように、すでに尖閣事件が風化し始めている。熱しやすく冷めやすい、忘れやすいのは日本人の長所であり短所であるが、あらためてあの事件の本質が何であったのか、国民のひとりひとりが自分のアタマで考えるべきことだ。右であれ、左であれ、そのどちらでもない立場であれ、一日本国民として、自分の問題として是々非々の判断を下すべきことだ。
 
 本書の出版もまた、世論喚起の一手段としての行為であろう。ぜひ応援したいという思いから、このブログに取り上げることとした次第である。

 ちなみに、本書でも、最後の最後まで著者は sengoku38 の意味は明かしていない。武士の情け、だろうか。これ以上、無用な混乱を起こして、ほんとうの問題である「尖閣事件」そのものから目をそらしてほしくないという気持ちからだと私は解釈している。



<初出情報>

 「このブログのために」緊急執筆した。




目 次

はじめに

これ、わしがやったんや
中途採用で海上保安官になった
そもそも尖閣諸島とは
事件の始まりの事件
中国人船長逮捕
東シナ海ガス田の濁った海面
私が尖閣ビデオを目にした日
世界に対して面子を失った日本
侵略を開始した中国
なぜビデオが国家機密なのか
私がやらねば
ビデオ公開前夜
11月4日、実行
ビデオ公開翌日
私が行った罪証隠滅行為
私がやりました
取り調べは続く
海上保安庁から脱出
考えるということ
ハンドルネームの意味は・・・
海上保安官人生が終わった
公開の意味
終結

おわりに


著者プロフィール

一色正春(いっしき・まさはる)

1967年、京都市生まれ。国立富山商船専門高等専門学校卒業。民間の商船会社勤務中、オイルタンカーや LPGタンカーに乗船し、東南アジア、ペルシャ湾、北米、ヨーロッパ、アフリカ航路に従事する。その後、民間金融会社、広告業を経て、1998年より海上保安庁勤務。2004年韓国語語学研修終了。以降、国際捜査官とし勤務。2007年、放送大学校卒業。2010年12月退官。在任中に長官表彰3回、本部長表彰4回受彰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

 なお、海上保安官の中途採用者の研修は京都府の舞鶴ではなく、門司で受けるそうだ。その経験は本書にもやや詳しく書かれている。


<関連サイト>

Masaharu Isshiki, Former Japan Coast Guard Official(Time: 2011 Feb 14 12:00 - 14:00)
・・FCC(Foreign Correspondents' Club of Japan:特例社団法人日本外国特派員協会)の公式サイト(英語)

尖閣衝突ビデオ A ミンシンリョウ 5179 No.3 ミズキと衝突(YouTube にはこのほか膨大なコピーが流通)
・・YouTube に書かれているコメントについては、私はノーコメント。映像資料として虚心坦懐に見るべし。



<ブログ内関連記事>

「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂」(吉田松陰)・・sengoku38 による「尖閣ビデオ」投稿の件について、2010年11月11日時点の情報で書いたもの。その後、増補。

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂 聰、新潮社、2009) ・・海上保安庁巡視艇と北朝鮮不審船との激しい銃撃戦についても言及。海上保安官は命を張って国を守っている!

海上自衛隊・下総航空基地開設51周年記念行事にいってきた(2010年10月3日)・・航空母艦なき現在、陸上にある海軍航空基地は最前線である!

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)
・・海は日本の生命線!

書評 『エリートの条件-世界の学校・教育最新事情-』(河添恵子、学研新書、2009)・・ジョージ・オーウェルについても言及






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